Rainbow 8
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あれから3時間。
やっと出来上がったカレーと呼ぶにはおこがましい物体を前に、私は非常に困惑していた。
目の前の男はというと、いとも容易くスプーンを口へ運んでいる。
『…体大丈夫?』
「なんて事ねーよ」
…これ食事中の会話じゃないよね…。
黄色というより黒に近いルーに恐る恐るスプーンを突っ込み、震える手で口へ運ぶ。
………………!!
咄嗟に口を押さえ、流し台に走った
。
『辛!何入れたのコレ辛!』
水で濯いでもなおヒリヒリする口内に、口を開けて風を送り込む。
一体何入れたんだよ…………私!
『よく食べれるね…』
仕方なくビールだけ飲む。
食べる手を止めないエースが不思議でしょうがない。
「はっへおへのたへだほ?」
『飲み込むまで待つよ』
エースはグラスの水を一気に注ぎ込むとニカッと笑った。
「…だって俺の為に作ったんだろ?」
――ダン…!――
机を抱きしめ悶絶する。
打ち付けたデコの痛みが甘く切ない気分にさせる。
神様有難う。あの拷問の日々の後にこんなご褒美を用意してくれるなんて、憎い演出だね…。
「…名無しさん、やっぱりこの料理が体に堪えたのか?」
中々起き上がらない私に無礼を含んだ言葉が降ってくる。
『…いや、これは持病。気にしないで』
余韻に浸りながら起き上がると、真剣な眼差しに捕らえられた。
「……あのよ、昨日すぐには帰れねーって言ってただろ。その、怪しい男だっけか。薬貰わねぇと戻れねぇんだよな?」
手順を確かめるようにゆっくり紡がれる言葉に胸がチクリと痛む。
――エースは異世界に飛ばされたんだよ
――怪しい男の薬のせいで、私も世界を跨いでた
――ソイツは気まぐれに現れるんだ
昨日エースに説明した言葉に嘘なんて一つも無い。
ただ、補足が大きく欠落しているだけだ。
『………うん…』
「特徴を教えてくれねぇか?名無しさんがガッコウに行ってる間、俺が探してぇんだ」
『……え…?』
彼の表情に焦りと不安が垣間見える。
「早く…やらなきゃいけねぇ奴がいる」
ゾクリ、と背筋に冷たいものが走る。
こちらに向けたその瞳は今、何も映してはいない。
分かってしまった。
やるでは無く、殺る、だ。
その悪戯な笑顔を、
無邪気で子供のような表情を
一瞬で無機質に変えて
彼は、人を殺すのだ。
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