Rainbow 8
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目の前が真っ暗だ。
頭ん中がぐらぐらする。
足元なんて宙に浮いててどうにもこうにも落ち着かない。
手足をバタバタ動かしてみるものの、何も掴まえられない。
急に強烈な光が差し込んで来て、私は眩しさに目を閉じた。
―― ビビーー!!!――
「バカヤロウ!!死にてぇのか!!」
蹲る私の横をタイヤがすれすれで通り過ぎる。
訳がわからずハッと息を飲むと、覚醒した脳が状況を把握し心臓がばくばくと鳴りだした。
目に映ったのは黄色いライン…
ここは……
『中央車線じゃん!!』
慌てて立ち上がるとまた後ろからクラクションを鳴らされる。
通り過ぎた大型車に遅れて風圧が髪を散らした。
やばいマジで…
…………死ぬ!!
走り去ったのがトラックだと認め呆然とする。後ろを振り返ると後続車はまだ小さい。
…私は路肩へ向かって駆け出した。
――ガシャン――
落書きだらけのシャッターに手を付き息を乱す。
『………ハァ、ハァ…』
…ふざけてる、絶対あいつふざけてる。人の命を何だと思ってるんだ!
『……完全に、わざとだ…』
冗談も大概にしてくれ。全然笑えない。
息を整え汗を拭えば、目に入ったのは懐かしい看板。
『……ここ、いつものクラブだ…』
まだ二週間かそこらしか経ってないのに、やけに懐かしい。このワケの分からない落書きでさえ愛おしくなってくる。
『…ホントに帰ってきたんだ…』
我に返ると急に目に入る街の雑踏。服屋の兄ちゃんが出す客引きの声、地べたに座りたむろする学生、チリンチリンと鳴らしながら駆け抜ける自転車。
私は飽きる事無く街並みを眺めた。
「…………名無しさん?」
不意に呼ばれた聞き覚えのある声にハッとする。
振り返ると、シルバーの髪を綺麗にセットし、チャラチャラとアクセを付けた、全身ブランドの男が目に入った。
「……タクヤじゃん」
「…やっぱり名無しさん!お前、どこ行ってたんだよ。レナが連絡取れないって愚痴ってたぞ!」
レナが?あぁそうか、毎週一緒にクラブ行こうって約束してたから。
『………旅行してた』
「二週間も?」
『………そ』
タクヤは私を舐める様に見る。
「…何か名無しさん、雰囲気変わった?その服装似合わねーぜ」
『………そう?コレ、案外動き易くてイイよ』
ふーん、と興味なさそうに相槌をうつと、タクヤは私の腰に手を回した。
「てかさ…今から家来ねぇ?」
『…タクヤさぁ、仕事の準備しに来たんじゃないの?』
「そうだけど、名無しさんが今晩付き合ってくれるなら、他の奴に代わってもらうよ」
こちらを見つめるヘーゼルのカラコン。ギュッと腰に回した手が強くなる。
…つまりは、あんたの代わりはいくらでも居るって事ね。
急に目の前の男が薄っぺらに思えた。
向こうの人間は皆、真っ直ぐな瞳をしていたのに。
あの突き刺す様な視線を思い出す。心の奥底まで射抜かれそうな直線的な眼差しを。
『今日は止めとく、人を探してんの』
「…んだよ。こないだもお預け食ったのに」
『……ごめん、また電話する』
私はするりと腕を抜けると歩道を歩き出した。
街路樹にとまる蝉の声が頭に反響する。
頭のてっぺんを照り付ける太陽に額から汗が流れるが、不思議と暑さは感じなかった。
騒がしい蝉の声に交じって後ろで声が聞こえた。
「………もしもしレナ?俺今日仕事休むんだけど…今晩ヒマ?……」
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