Rainbow 4
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『まーだ飲みたいー!!』
「煩ェ、静かにしろ」
コイツを引っ張って歩くのは相当骨が折れる。あっちのドアにぶつかり、こっちの柱にしがみつき、中々前へ進まねェ。
埒が開かなくなり、俺は名無しさんを横抱きにした。
『離してよ変態!』
「最高の褒め言葉だな」
…さっきまでシャチにベタベタくっ付いていた癖に何言ってやがる。
部屋へ戻ると、そのまま名無しさんをソファに投げ落とした。
『……………ゥッ……』
小さく呻いて黙り込む名無しさん。
さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、その体勢のまま動かない。
…手荒過ぎたか
様子を見ようと名無しさんの顔を覗き込むと、伸びてきた腕が俺の首に回る。
「おい……」
このか細い腕でよくもこんなに力が出るなと内心驚きながら、首に回った腕を解こうとするが、しつこく絡み付き離れようとしない。
『ぎゅってして』
首に回した手を自分の方へ寄せようとする名無しさん。
昨日、誘われるままに手を出し、酷く拒絶された記憶が蘇って来る。
胸の奥が、ざわつく。
「……酔い過ぎだ」
『酔ってなーい』
「酔っ払いは大概そう言う」
『……お願い。抱きしめてよ』
上目使いで見てくる潤んだ瞳に、このまま覆い被さり全て奪ってやりたくなるが、ギリギリの所で理性を保たせる。
こいつは今、人恋しいだけだ。
「…お前、誰でもいいのか?」
ここに居るのがシャチでもペンギンでも、コイツは同じ事をするんじゃねェのか。
苛立つ気分を振り切るかの様に、回された腕を振り払った。
一瞬目を見開いた後、段々表情が崩れる名無しさん。綺麗な弧を描いた眉を下げ、口を歪めている。
『……そうじゃない…』
「………………」
『………ろー……』
「…………何だ」
『……置いてかないで』
ハッとして名無しさんを見ると、大きな目が苦しげに細められ、こちらを見つめる瞳が揺れている。
「お前……不安なのか?」
愚問だ。世界にただ一人落とされて、不安にならない人間などいない。
俺は名無しさんの頭に手をやると、その猫の様に細い髪の毛を梳いた。
「お前は、次の島で降りるんだ」
『………ン…』
「連れては行けねェ」
『…………』
お前が暢気に暮らせる程この船は安全じゃねェんだ。
「いいか、島からは一歩も出るな。分かったな?」
「………?…うん…」
左右対象に付けられた己のピアスをひとつ外した。
名無しさんの長い髪を掻き分け、それを耳に通す。
「目的を果たして気が向いたら……お前の島へ寄ってやる」
名無しさんの瞳から雫が一つ、こぼれ落ちた。
『…ちゃんと覚えててね』
「あァ…」
安心した様に静かに寝息を立て始めた名無しさんにそっと口付け、腕に抱くと、ベッドへ横たえた。
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