Rainbow 1
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…ふぅん…初めてか…
ジロジロと値踏みするように男を眺める。
目深に被った帽子のせいで顔は分からないけど、雰囲気からするとまだ若そうだ。それにしてもこの服装…所々シワが寄った黒いスーツに黒いハット…まるで仕事帰りにくたびれて一杯引っ掛けに来たサラリーマンみたいだ。もちろん周りの連中からはカナリ浮いている。だってここは路地裏の居酒屋じゃない。
…ま、時間潰しにいいかもね。最近絡んでるメンツにも飽きてきた頃だし…。
私は男の右隣に座り、擦り寄ると猫撫で声を出した。
『ねぇ、隣いい?少し話そうよ』
「いいよ。俺もあんまり時間がないから、君に決めようかな」
男はニコっと笑いながら、上機嫌に返事をした。
はぁ?時間ないから私に決める?
何言ってんの、男なら皆私を欲しがるのに。
不快感をあらわに言い放つ。
『アンタに決定権があると思ってんの?』
「まぁ、最終的に選ぶのは君だけどね。」
そう言うと、男はカウンターに小さな硝子ビンをコトンと置いた。
中には白い錠剤が数粒入っている。
私はワケが分からず、首を傾げた。
「コレね、跳べるよ?」
あぁ、この人、バイヤーか。
この噛み合わない会話は、もしかしたら自分でやっちゃってるのかもしれない。
薬はしない主義だが、そのものに抵抗は無かった。
『要らないよ。他あたりなよ』
「まぁそう言わずにさ。あげるから、持っとくだけでもいいじゃん」
…くれるなら誰かに高値で売り付けようか。
そう考えあぐねていると、男が突然席を立った。
「色々説明したかったんだけどね、ホントに時間無いんだ俺。また会った時に話すね“名無しさん”チャン」
驚いて顔を上げると、初めて男と目が合った。
やはり見た事の無い顔だ。
少し日本人離れした顔立ちはハーフなのか。澄んだ青い目はこちらを見ている様で、遠くを見ている様な不思議なモノ。
口元だけは無邪気に笑っていた。
『なん…で、名前』
「俺は何でも知ってるんだよ」
男はそう言うと、ひらり、踵を返して雑踏の中に消えて行った。
人ゴミに紛れながら男は一人呟く。
「何でも知ってるんだよ。名無しさんチャンがちゃんと飲んでくれる事も」
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