Rainbow 12
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宿に戻るとベッドに寝転び、買って貰った絵本を開く。彼曰く、対象年齢3~5歳だそうだ。
上機嫌でページをめくった。
『ろんぐろんぐアゴ』
ピノキオの顎バージョンだろうか。可愛いお姫様が描かれているのに。
『…あっ!』
突然延びて来た手が絵本を掴み、床へと放り投げる。
『ちょっと!』
ベッドに腰掛けたローを睨むと、逆に睨み返された。
「…で、お前は何が不満なんだ?」
『……………』
……それは、言えない。だって恋人らしく振る舞って欲しいだなんて、恥ずかし過ぎる…
「…お前の行動は全く予測できねェな。何を考えてるのかも分からねェ」
ローの手が伸びてきて、目に掛かり最近欝陶しくなった私の前髪を除ける。そのまま長い指は髪を腰までゆっくりと梳いていく。
「…教えろ」
ローはどこか困ったように顔を傾けると、そう呟く。
…分からない?ほんとに?
いつも先回りして待ってるし、私の行動や思考なんて、ローは手に取る様に分かると思ってた。
ローの顔をじっと見つめる。
…自己中のこの人が、私の事で…悩む?
「なんだ、何が言いたい」
『あんまり悩んだりしなさそうだよね』
「…あ?」
『…あっ…』
余計な事を口走った…あぁ、もう遅い。眉間の皺がいつもの五割増しだよ。溜息で私の前髪がそよいだじゃん。
「お前は俺を何だと…」
『…えっと…』
ローはまた溜息を吐く。
「…お前と出会ってから俺は混乱してばかりだ」
『え?何に…?』
「何にだと…自分の行動を顧みろ」
『…………』
思い当たる節が多すぎる。無茶ばかりしてるから…デスヨネ。
ローは苦々しそうな顔をして言った。
「…俺は、お前の事ばかり考えている気がする」
『…え……え!?…』
ローは不満そうな視線を寄越すと、不貞腐れたように呟く。
「…別に驚く事じゃねェ…」
驚くよ!何言ってるか分かってんの…?
私を見つめていたローは、ふいっと視線を逸らすと言った。
「………お前は?」
『私?』
「お前は、俺の事は考えねェのか」
考えてるよ!考えまくりの悩みまくりだよ!
不可解なアンタと付き合ってから余計に理解出来なくなったよ!
…でも、さ……
ふふっと笑いが漏れる。
ローが私を睨む。
…なんか、私一人で悩んでたの馬鹿みたいじゃん。お互いがお互いの事で頭悩ませてたんだね。
「…笑うところじゃねェだろ」
『笑うところなんだよ』
そうだ、話し合えばいいじゃん。今は二人でいるんだし、分かり合える距離なんだから。
『…考えてるよ。ローの事考えてるから、不安になるんだよ』
「…何が不安なんだ」
ローが少し嬉しそうに口角を上げて、また私の髪の毛を梳く。
私は目を閉じて、ひとつ呼吸をしてから口を開いた。
『……だって…証拠が無いから』
「証拠?」
拍子抜けする程、穏やかな顔で聞き返される。
『恋人の…証拠』
髪を梳く手がピタリと止まる。
『……何も無いから、不安になる…』
彼は少し思案するように視線を彷徨わせた後、目線を戻す。
「……何も、とは?」
ボケてんのかと思ったけど、この顔は真剣に分かっていない。何故だ、お前の得意分野だろうが。唯一の特技をどこに置いてきた。
『だから、体の!』
目の前の顔は固まり、驚いた様に瞳を見開く。
…なんで私がこんな事を言わなけりゃいけないんだろう。これじゃ欲求不満どころか痴女の烙印を押されてしまう。どうにかして目の前の男のペースを取り戻さなければ。どうにかして…
「…………………」
早く何か答えてくれ!
しばらく気まずい沈黙が続いた後、ローは戸惑いがちに口を開いた。
「……あぁ…。いや、もう焦る必要は無ぇと思っていたんだが…」
『……焦る…?』
「これからいくらでも時間は有る。もうお前は……俺の女なんだろう?」
髪から離れた手が、そうっと頬を撫でる。その仕種はどこか心許なく、何かを確認しているみたいだった。
…何がローを不安にさせてるんだろう?
その隙間を埋めたくて、ローの腕に手を伸ばし、柔らかく掴んだ。
『…そうだよ。だからローの女なんだって、安心させて欲しいんだよ』
「…お前が…落ち着いてから、と考えていたが…」
掴んだ腕にぎゅっと力を篭める。
もう大丈夫だよ。だって私、こんなにローに触れたいんだよ。
『…もっと近付きたいよ…』
目を細めたローは深く息を吐くと、顔の横に肘を付いて距離を縮める。
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