Rainbow 12
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赤とピンクを混ぜ合わせたキャンドルに、灯した炎がゆらゆら揺らめく。
宿の主人が持って来た季節外れの毛布を纏い、ぼんやりと朧げな光を見つめた。
「寝ねェのか」
タオルで頭を拭きながら、バスローブ姿のローはソファに腰掛ける。
板を打ち付けた窓からは、まだザァザァと激しい雨音が聞こえていた。
『………何で約束破って女抱きに行ったの』
何回同じ事聞くんだろう。絶対にしつこい奴だと思われてる。けどやっぱり気になる。
ローは小さく嘆息し、仕方なさそうに呟いた。
「……さっきも言ったが、抱いてねェ」
私は無反応でとろとろと溶ける蝋の行く先を見ていた。
「…女を前に、ヤる気が失せた」
頭から冷水を浴びせられたような気がして、咄嗟に顔を伏せた。
…して無くてもしようとしてたんだ…
毛布を掴むと頭から被る。
聞きたくない、でも聞きたい。
口が勝手に言葉を紡ぐ。
『…そんなに、やりたいの』
「……ッ……違ェ…」
苛立った声に一瞬ギクリとして、毛布の隙間からそろそろと顔を出せば、片膝を立てたローは俯き加減で何か言い淀んでいる様子だった。
ややあって、小さく舌打ちをした後、掠れた声を洩らした。
「…お前の身体に触れてから、近寄るだけで我慢できねェ…だから女を買って吐き出そうとした。そうすれば治まると思った」
その言葉にムカついて、勢い良く立ち上がると、見下す様にローを見た。
お前は歩く生殖器か。
『誰でもいいんだ!?』
ローはちらりと私を見上げ、睨んだ。
「…他の女なんざ抱きたく無いが仕方ねェ。お前の怯えた顔は見たくねェ」
固まったままローを見た。
きまり悪そうに視線を外したその顔色は、蝋燭の火が反射しているせいではないと思う。
……えっと、つまり…
私を抱きたくて我慢できなくて…
でも私が怖がるから?
だから他の女を抱こうとしたの…?
その思考回路を解こうと躍起になるが、難しい。
この男は、分かりにくい。
「…手荒な真似をして後悔した」
まるで許しを請うように私を見上げるローの、曇天色の瞳が苦しげに歪んだ。
「二度と、お前を傷付ける様な事はしたく無かった」
その顔を見ていられなくて、両手で自分の顔を覆った。
そうか、この人は、この男は、自分の性欲より何より私の傷を最優先させたのだ。
そこに私の気持ちを汲む余裕は無かっただろう。だって彼は私の想いなど気付かなかったから。
いや、自分自身でさえ気付かなかった。他の女を抱いたと知るまで、こんな身を切る様な痛みなんて分からなかった。
ギシリ、とソファのスプリングが鳴り、ゆっくりと気配が近付く。
「…もう、いいだろう」
片手が私の腰に回り、顔を塞ぐ手が静かに除けられた。
「お前は、俺の女だ」
恐る恐る見上げると、射抜くような眼差しとぶつかった。
薄い唇が、熱い吐息を漏らす。
「…お前の気持ちを、もう一度聞かせろ」
セクハラで野獣で性欲で、気分屋で俺様で傲慢…
…でも彼の想いは…
痛い位に、心に刺さる。
灰色の瞳を覗き込む。
揺るぎ無いその眼差しは、私の答えを確かめるまで外さない。
腰に回された腕に触れる。
強く感じるその力は、たぶん強張っている。
この手を離したく無い。離さない。
出来る事なら…
『…ずっと私だけを掴んでて』
張り詰めた糸が切れた様に、ふっと綻んだ口許がゆっくり近づく。私はそれに自ら口付けた。
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