Rainbow 11
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名無しさんの去った方向を見遣り、長く重い溜息を吐いた。
--“アンタなんて大ッ嫌い”--
頭の中で何度も反芻する。
俺はこんな結果を望んだ訳じゃない。
持て余した感情で、彼女をこれ以上傷付けたく無かった。欲望をぶつける事だけはどうしても避けたかった。
…その結果が、これだ…
背後でキィと扉が開く音がした。
「船長~」
今の精神状態を逆なでする能天気な声に、衝動的に拳を握りしめる。
「………何だシャチ」
「今夜高潮が来るらしいっすね!外出は取り止めた方が…ってあれ、名無しさんは?」
「…出て行った」
「は?何で?」
「…チッ、何でもいいだろう。お前、早く追い掛けろ」
「えぇー……高潮なら街でも大騒ぎになってるみたいだし、さすがに名無しさんでも避難するって……」
「早く行け、見失うぞ」
「あーハイハイ!分かりましたよ!…全く名無しさんの奴、いくら楽しみにしてたからって拗ねなくてもいーのにな」
「………………おい」
船縁に向かうシャチを呼び止める。
「はい?」
「……楽しみにしてたのか?アイツが」
「何言ってんすか。めかし込んでたっしょ?船長が帰ってくるの待ちながら、朝からソワソワしてましたよ」
--“待ってたのに”--
「…そんなにブルに乗りたかったのか…」
シャチがガクッと肩を落とした。
「…それ違うって…楽しみにしてたのは船長と出掛ける事っすよ」
「ハァ?何でだ」
「何で…って…」
シャチは突然グシャグシャと頭を掻き乱す。キャスケット帽が投げ遣りに吹っ飛んだ。
「あーもう疲れるこの二人!!」
「…お前、頭…」
「俺はどこもおかしくない!おかしいほど鈍いのはアンタ達だ!」
俺は無言で刀に手を掛ける。
後ずさったシャチはそれでも負けじと続ける。
「名無しさんにとって船長は特別な男なんだよ!」
「…んなワケ無ェだろ」
「だー!何で気付かないんだよ。あいつは船長にしか反応しない!特別な男にしか過剰反応しないんだよ!」
“過剰反応”……
「………クソッ…」
あの時の記憶が鮮明に蘇り、心臓が掴まれる感覚がした。
彼女の頬を撫でようと伸ばした手は空を切り、目が捉えたのは強張った身体。
肩を震わせ怯えていた……俺に。
お前を欲し拒絶される事を嫌う、この俺に。
「…… あれが “特別” だからだと?都合の良い思考回路だな」
「そう思うなら自分で確かめて下さいよ!ビビってないで抱きしめてきたらいいじゃないっすか!」
刀に置いていた手に力を込めると、青ざめたシャチは条件反射のように頭を下げた。
「…シャチ…」
「あああああ…口が過ぎました!すんません!」
…その通りだ。俺は恐れている…これ以上拒絶されるのを。
それでもお前に触れたくてたまらないんだと、けれど怖がらせたくはないのだと……
そう言葉にして伝えていれば…
「…分かった」
不可解な表情で顔を上げるシャチに、ゆっくりと近付く。
「退け、俺が行く」
「…はいよ!早く連れ帰って下さいよ!」
辺りを見渡すと曇天色の厚い雲が覆っている。
その空は嵐の前兆を予感させた。
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