Rainbow 9
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『…私は…エースに好きになって貰う資格なんかない…』
見上げた彼の頬は涙に濡れていて…
その姿は私の胸を鋭く深く抉った。
「……どういう意味だ…?」
彼は不審げに眉を潜ませ、私の顔を覗き込む。
私は腕を伸ばし、抱き竦める彼と距離を取った。
『私は…エースを…騙してる』
「…なんだって?」
途端にぎらりと光る眼に、一瞬怯み視線を逸らしそうになるが、なんとか耐える。
逸らしたら、ダメだ。
『…今すぐにでも、帰れるの。元の世界に』
「…どういう事だ…!」
瞬間、力の緩んだ腕を解き、部屋の隅に置いてある服の側に寄るとポケットをまさぐった。
あの日と変わらず、それはそこにあった。
『………これ、こっちの世界に来た時に飲んだよね』
私は手に乗せた粒を差し出す。
「………………」
『…これで、エースは帰れるんだよ』
ギリ、とエースは私を鋭い目で睨む。
「なんでだ……」
その刺すような視線に耐え切れず、つぅっと流れた自分の涙に嫌気がさす。
…泣くな。自分が招いた結果なんだから…
『…ごめ…なさ…』
「…何で黙ってた?」
『…エースの事、もっと知りたかった…』
彼の表情が固まる。瞳には困惑の色が浮かんでいた。
どんなに我慢しても止まらない涙がぽとりと一つ床に落ちた。
「……名無しさん…」
エースはゆっくり近付くと、手を伸ばしそっと私の頬を拭う。
その、どこまでも優しい彼の仕種に堪らなくなり、添えられた手を除けた。
『ごめん…本当にごめんね…』
「もういい…」
『……でも…』
エースはふっと笑うと私の頭を撫でる。
「惚れた女がついた嘘くらい、許してやるのが男だろ?」
『………ッ……』
「……確かに嘘つかれたのはショックだけどよ…少し嬉しかった…」
エースは私の肩に両手を置くとぎゅっと力を込める。
『……ッ……なんで』
「お前が、俺と一緒に居たいと思ってくれた」
『…そんなのっ…ただの私の我が儘じゃん!』
「じゃあ俺も我が儘だな。名無しさんとずっと一緒にいてぇ」
『…無理だよ』
「世界が違うからか?それともお前の気持ちがか?」
『…分からない…』
「…じゃあ、分かるまで待つとするか」
『…どうやって…』
エースは私の握り閉めた拳を解き、指先で摘んだ薬を自分の唇に寄せた。
もう、帰ってしまうの…?
『……っ…。エースと一緒にいて本当に楽しかった…』
エースはそれを口に含む。
「俺の方こそ、お前からは大事なモンいっぱい貰ったな」
エースの体が段々と空気に溶けて行く。
あぁ、もっと沢山懺悔して、もっと沢山感謝の言葉を伝えたかったのに。
口許に弧を描きエースは目を細めた。
彼の顔が近付く。
--名無しさん、海賊は欲しいモンは奪うんだぜ?--
遠くで反響する声がする。
ソッと触れたエースの唇は…………
………苦かった………。
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