Rainbow 9
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時計の針がやけに響く。
俺はソファベッドの上で、また寝返りを打った。
…うまくいかねーな
名無しさんに気持をぶつけたいのに、中々思うように進まない。
…早くしないと、いつ帰るか分かんねーんだ。明日突然その時が来るかも知れねぇ。
もう少し時間が欲しいという思いと、早く帰らなければと焦る思いが頭の中で交錯する。
俺は溜息を吐くと、明かりの漏れる寝室に足を運んだ。
『寝れないの?』
「あぁ…なんか目が冴えちまってな」
ベッドサイドの灯の下で、名無しさんは寝転びながらぼんやりしていた。
「寝る所だったのか?」
『ううん、考え事してた』
そう言うとゆるりと笑う。
俺は彼女の側まで行くと床に胡座をかいた。
「少し話さねぇか?」
『いいよ、何の話する?』
…そうだな、じゃあ
「……お伽話だ」
『エース、余りにも似合わないよ…』
「うるせぇな!……昔々、夢を叶えた大海賊がいました!」
--夢を叶えた海賊王は同時に犯罪者だった。
彼の夢の跡には、街を破壊され居場所を無くし路頭に迷う人間、大事な人を亡くし憎しみに生きる人間、生きる意味を見失い死者を追い掛ける人間、そんな残骸が残された--
「…その犯罪者も遂には捕らえられ殺された。だが、知らねー間に子供を作ってたんだ」
--子供は大きくなるにつれ、自分の出生に気付いた。出会う人皆に聞いた。
“海賊王はどんな奴だった?”
皆、口を揃えて言うんだ
“人間のクズだ”
それでも食い下がらず子供は聞いた。
“じゃあ海賊王にガキがいたらどうする?”
ニヤニヤ笑いながら皆言ったさ。
“殺しちまえ”
“生きる権利なぞ無い”
“生きてるだけで迷惑だ”
罵倒する人間をいつも地に沈めてきた。街では大層な荒くれ者になっていた。
子供は思うんだ。
“俺は俺で生きてやる”
“名声を上げてやるんだ”--
「自由を求め手を伸ばした先が、同じ海賊なんだから世話ねぇが…」
名無しさんはゆっくり起き上がり、優しくこちらを見つめた。
『それで…どうなったの?』
「それから…?」
話は途中までだ。そりゃそうだ、現在進行なんだから。
『ハッピーエンド?それともバッドエンド?』
「わりぃ…まだ考えてねぇ」
『何、エースが作ってたの?その話』
ふふ、と可笑しそうに笑うと名無しさんは俺の両手を包んだ。
『…じゃあ、代わりに私が作ってあげる』
「……名無しさんが?」
『そう…。ええとね、海賊王の子供は父親と同じ海賊になって…』
--海へ出て、仲間が増え…家族が出来た。
この人なら“オヤジ”と呼べる。
なぜ?そりゃもちろん信頼してるから。
オヤシが“息子”と呼んでくれる。
なぜ?そりゃもちろん愛してるから。
仲間が殺された。ソイツを許せない…
なぜそう思う?家族が大切だから--
『……海賊王の子供は気付きました。今は守るべき者が居て、自分も守られて、家族に愛されてる。亡くなった父親もそう、家族を…エースを愛してた』
……両手が塞がってちゃ顔が拭えねぇ。
『…過去は変えれないから、その分未来を変えればいいの』
俺は零れたモノが見えねぇ様に下を向いた。この手は離したく無かった。
『大丈夫、何を言われても笑って跳ね返せる位、エースは強くなるから』
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