Rainbow 9
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『…そろそろ帰ろうか』
氷にさくさくとスプーンを突っ込みながら名無しさんはそう呟いた。
太陽は西に傾き始めている。
「そうだな」
彼女の口元に付いた桃色のシロップを拭ってやると、照れた様に小さくこちらを睨んだ。
その些細な仕種でさえも煽られる。
自分の赤くなった顔を誤魔化す為に指を舐めた。
「甘っ!よく食えるなこんなもん」
『劇物を食べてた人が良く言うよ』
「あのな、お前が作ったんだぞ?」
ケラケラと笑う名無しさんは先程の事など気にも留めていないかのように見える。
気に障らないのは幸いだが、こんなに意志表示してるんだ。少し位気にしてくれ。
底に溜まったシロップを美味しそうに掬いあげる彼女を、俺は頬杖を付きながら眺めていた。
ふと、ずっと気になっていた事を聞いてみようと思った。
「名無しさん、お前俺と同じ世界に居たっつってたけど、どこで生活してたんだ?」
『…ん?…暴君のところ』
「まさか奴隷扱いされてたのか!?」
慌てて立ち上がった俺に構わず名無しさんはカップを煽ってトントンと底を叩く。
『奴隷じゃないよ。下僕』
「同じ事だろ?」
コン、と空のカップを置くと、海を見つめて名無しさんは言う。
『それでも私の…居場所だったんだよ』
その横顔が、彷徨う瞳が、切なく揺れている気がした。
「…酷い扱いを受けてたんじゃねぇのか?」
『そりゃーヒドイヒドイ。弄られて嬲られて犯されたよ、精神が』
「おい、真面目に…」
『なのに……今でも頭に浮かぶのは何でだろ?』
「…………………」
困った様に眉根を寄せてこちらを見上げる名無しさん。
…それを俺に聞くのか?
お前の方が酷ぇよな。そんな切なそうな顔してんなよ。
立ち尽くす俺に名無しさんは、着替えてくるね、と席を立つ。
どうすれば彼女は俺を見てくれるんだろう。
誰か教えてくれねぇか?
でも、俺が帰っちまえばもう…
なら、いっその事
……掠っちまおうか。
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