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第一章

 ダン「そーいえばさ、クレナイの師匠って、帰ってきた?」

クレナイは師匠に親に捨てられた所を拾われて育てられた恩がおる。

しかし、師匠はクレナイが5歳の時に突然姿を消した。

クレナイは仕事がてらいろいろなところを回り師匠をさがしているのだ。

ク「ううん、情報も全くなし。」

ア「だいたい、名前も言わなかったんだろう?そんな奴忘れちゃいなよ。」

師匠が突然いなくなり、その直後現れたのがアッシャーだった。

『僕の兄妹になるかい?僕も家族が居ないんだ。』そういって手をさしのべてきたアッシャーをクレナイは今でも覚えている。


ク「あ!またリズに色々話したでしょう?!ダン!」

ふと、クレナイは機密情報をダンが少年に言っていたことを思い出す。

ダ「いやいやいやいや、待て!」

クレナイのことばを聞きブチッと音を立てて魔法を使おうとしたガルファをダンは必死で止めようとする。

ダ「言ったのはリズとその子だけだっ!子供はともかく!あいつなら信用できる!」

ガ「何度言ったら分かるのですか?例え『慧眼』だとしても、相手は一般人です。」

リズとは週刊『マジック』で編集長をする傍ら自らも特ダネを探しに行く女性記者で『詮索サーチ』と言う魔法と鋭い洞察力を持つため『慧眼のリズ』と呼ばれている。




      ガチャン


不意に会議室のドアの開く音がした。

魔「失礼する。」

アー「ヤッホー、今帰ったよ!」

入ってきたのは先ほど帰還した二軍騎士長のアーサーと副騎士長の魔理沙、そして魔導騎士の鎧を着た男が入る。

アーサーが白と金色の鎧をガチャガチャと鳴らして席に着こうとする。

ク「お帰り。」

ダ「無事で良かったぜ!」

魔「これくらい、どうと言うことはない。」

魔理沙の返しに「素直じゃないなぁ」とアーサーは笑い席に着いた。

ガ「さぁ、今回の結果をはなしていただこう。」

アー「うん!いいよ。えーと、」

魔「アーサーは黙っていろ。私が説明する。」

魔理沙がアーサーをとめ今回の件について話し始めた。

魔「この度、第五エリアにて暴れていたとみられる獣人ビーストラーを十名を発見。呼びかけに応じず魔法の使用による攻撃を確認したため捕らえた。」

ジ「その獣人ビーストラー達はどこにいる?」

魔「ヒロさんに持たせている。」

と魔理沙は目で自分の隣にいる男の魔導騎士を見た。

?「呼び捨てでいいって言ってんのに。」

アー「まぁ、元教育監だから。なかなかタメ口なんて使えないよ。」

そういうもんか?と言って男、ヒロ・アンダーグラウンドは席から立ち上がった。

ヒ「捕らえた獣人ビーストラーは此処です。」

ヒロは腰のケースのようなものからカードを取り出す。

カードには獣人ビーストラーの絵があり、妙にリアルで今にも動き出しそうだった。

会議室のドーナツ型のテーブルの中心に置いた。

そして、

ヒ「我が札よ従えカード・アムレート!呼び起こせ、獣人ビーストラーカード!」


魔法呪文を唱えるとカードを中心に魔方陣が転回されまばゆい紫の光を放つ。

すると、カードの中から鎖で縛られた
獣人ビーストラー が飛び出してきた。

ジ「こいつらが今回の捕虜となった獣人ビーストラーか?」

ヒ「はい。」

獣人ビーストラー達は何か叫んでいるようだが口パクのように何も聞こえない。

ガ「声を奪ったのか?」

魔「あぁ、うるさかったので呪詛を施した。」

見たようでは男が6人、女が4人。

その中には子供もいるようだった。

戦闘での傷だろうか手錠と鎖に抵抗したあと以外にも傷が見える。

ヒ「我が札よ従えカード・アムレート。閉じよ。」

ヒロがカードに向かって再度命令すると今度は獣人族ビーストラー達を紫の光で包みカードの中に納めてしまった。

ヒ「では、牢に入れておきますのでよろしくお願いいたします。クレナイ様。」

ヒロはそういって地下牢へと足を進め、クレナイも「分かりました。」と言って席を立つ。

ア「じゃあ、行くかぁ。」

アー「あれ?アッシャーさんも行くの?」

クレナイがする尋問と聞いていたのにアッシャーも立ち上がったことを不思議に思ったアーサーが尋ねる。

ア「当たり前だろ。クレナイが怪我でもしたら大変だ。」

さも、当然のようにアッシャーは返し、席を立ったクレナイの後を追う。


ル「気をつけてね!」

ルシェル姫はブンブンと椅子の上から手を振った。

それに気づいたクレナイはニコッと笑って手を振りつつ歩いて行った。

コツコツと螺旋状の地下牢へと続く階段を三人は降りていく。

ク「ヒロさん。」

ヒ「んー?どした?」

ク「獣人ビーストラー達の体には魔理沙達と闘ったときについたとは思えない傷がありました。何か知りませんか?」

ヒロは質問を聞き、やっぱお前スゲぇな、と感心した様子だった。

ヒ「確かに、俺たちと交戦する前にはもう、あいつらは負傷してた。魔法によるものもあったがほとんどは、…鋭利な爪のようなもので引っ掻いたような傷。」

ク「…爪か。」

アッシャーの頭のなかにはあるひとつの結論が浮かんでいた。

ア「同族同士の揉め事で逃げてきた可能性があるな。」

ク「…でも、何より同士を大切にして多種族を軽蔑する獣人族ビーストラーが揉め事なんておこすかな?」

ヒ「ま、聞いたら分かるさ。」

一番下に着くと魔法を施された扉が見えてきた。

魔法を手順通りに解いていかねば拘束魔法が発動し城内に一斉に警報が鳴るようになっている。

それが3枚も続けてあるので侵入するのは難しい。


ヒ「…えーと、これでラストっと!」

ガチャン

金属が鳴る音がして扉が開いた。

見回りの兵士に挨拶してサイドに牢屋がある通路を進むと一番奥に集団が入れる牢屋があった。

兵「では、此処に獣人ビーストラー達を。」

兵士が鍵で入り口を空け、ヒロが中に入ってカードを落とす。

ヒ「我が札よ従えカード・アムレート‼呼び起こせ、獣人ビーストラーカード!」

紫色の光と共に、獣人ビーストラー達が現れた。

鎖と錠で繋がれ、痛々しい傷を庇いながら、声を奪われた口で必死に何かを言っていた。

ヒロはカードを回収すると牢から出てきた。

ヒ「じゃあ、後は頼んだぞ。俺は世話の焼ける上司達の面倒を見てくるからな。」

そう言ってヒロは地下牢を後にした。

ヒロが出ていったのを見届けるとクレナイは獣人ビーストラーの方を再び見た。

ク「取り敢えず、声を返そうか。」

クレナイは声もなく喚く獣人ビーストラーのいる牢に入った。

すっと息を吸って呪詛解除の呪文を唱える。

呪詛は魔法に属するものでありながら少し違ったものである。

一般的に『封印』魔法は術者か『解除』魔法使い手、もしくは封印より強い魔法をぶつけ破壊することでしか解けない。

しかし、呪詛は術者と同等でありかつ呪詛を解く呪文をとなえれば解ける。

ク「接骨木ニワトコの持つ紅き実を、奪いて咲きたる白き花、断りにおいて汝の紅を今返そう。」

すると、獣人ビーストラー達は自分たちの喉に起こった変化に気づく。

獣1「声が、出た。」

獣2「…やった、声が出たぞ!」

皆、声が出たことに喜びつつクレナイのことを睨む。

獣3「おい、人間族ヒュマニス!俺達を解放しろ‼」

一人が怒涛を響かせると口々にそうだそうだ、と喚く。

      ガチャン‼

大きな音にビクッと何人かが震える。

クレナイが背を向けている鉄格子を見ると案の定、アッシャーが鉄格子を蹴っているのが見えた。

ア「ピーピーうるせーんだよ。自分たちの捕まってるジョーキョー分かんないのか。第一なんだ?声、返してもらっといて罵倒するのはどういう了見だ。あぁ?」

要するにアッシャーはクレナイが罵倒されたことに腹を立てたらしい。

これ以上いくと本気でアッシャーがぶちギレそうなのでクレナイは宥めた。

獣4「何て言われたって、俺達は何も言わないぞ‼」

ク「そうですか。一応此方にも考えがあります。アッシャー参謀長。」


ア「…了解。」

クレナイが指示するとアッシャーは右手を獣人ビーストラーの方にかざした。

獣5「何もねえぞ。」

攻撃が来ると思って、獣人ビーストラー達は身構えたが何も起こらず、アッシャーが指をこきざみにクイクイと動かしているだけだった。

ク「手始めに、そこの犬の耳の女の子こっちにおいで?」

獣6「私?」

獣7「待て、行くな!」

女の子は立ち上がりヨロヨロとクレナイの方に向かって歩き出す。

獣8「ダメよ‼戻って、ルル!」

母親らしき獣人ビーストラーが必死に少女の名前を呼ぶが少女は歩く。

獣1「きっと何かの魔法だ‼止めてやる!っつ、なんだこれ、体が動かない‼」

獣2「まるで、縛られているようだ‼」

動けない獣人ビーストラー達の合間を縫って、少女は進む。

獣8「ルル!何で行くの?!」

母の声が悲痛に叫んだ。

ル「ママ!何でかわからないの‼体が勝手に動くの‼」

獣8「‼」

そしてついに、ルルはクレナイの足下にたどり着いた。

ク「よっこらせっと。」

クレナイは牢の中の何もないはずのところに腰を下ろす。

まるで、椅子でも有るかのように。

ルルを膝の上に乗せて座らせ獣人ビーストラー達を見据えた。

そして次の瞬間、右手の指を銃のようにしてルルに向けた。

ク「…何しても何も言わないんですよね。」

クレナイが一言そう呟くと何かを察して獣人ビーストラー達の顔色が変わった。

獣1「おい!てめぇ何する気だ!」

獣2「その指、まさか!」

ク「…知ってますか?私達の国の軍は皆、魔力操作ソーサルが出来るんですよ。」

魔力操作ソーサルとは自分に流れる内なる魔力を魔法とは違い意図的に放出する方法のことであり、習得するには訓練を積まなければならない。

その一つとして魔力を指先に貯めて撃つという訓練がある。

クレナイも勿論、それが出来る。

そして今それをしようとしているのだ。

ク「この指先に溜まった魔力を放ったら、木っ端みじんでしょうね。」

クレナイは不敵な笑みを浮かべて言った。

そして、バンッと地下牢に銃声のような音が響いた。
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