第一章
うっそうと繁り、他を拒む森。
その中心には大きな湖が広がり、畔には二階建てのレンガ作りの家がある。
家の煙突からは煙がたなびき、庭に干されたローブが揺れた。
畑の草花は朝露に濡れて射し込む朝日を受け宝石のように輝いていた。
?「兄さん!遅刻するよ‼」
穏やかな木漏れ日に響く凛とした声。
と同時に階段をかけ上がる度に揺れる少女の赤髪。
バン‼
大きな音を鳴らしながら扉を開き、少女はオッドアイの二つの瞳で目的の人物が寝ているであろう膨らんだ布団を見つめる。
?「朝ごはん作ったから食べよ!」
少女は真っ白な布団を一気に剥がす。
すると、モゾモゾとさっきまで寝ていた黒髪の青年が現れた。
?「クレナイ~。まだ、お兄ちゃん眠い。」
青年は少女の名前を呼ぶと温もりを求め手を空中に広げた。
その手をつかみ少女、クレナイは
ク「起きなきゃご飯なしだよ。」
といった。すると、
?「それは嫌だ!でもさ、クレナイ。お兄ちゃんはクレナイと夜の間、一緒にいられなかった寂しさで動けそうにない。クレナイがぎゅーってしてくれたら起きるかも!」
と赤い瞳を輝かせて頼み込む。
ク「全く、王国一の策士、アッシャー様が毎朝そんなこと言ってるって知ったらひかれるよ?」
ア「いいよー。さ、クレナイ!早く早く!」
クレナイは溜め息をつきつつアッシャーを屈んで抱き締める。
ア「…やっぱりクレナイはいい匂いだな。」
ク「朝ごはんの匂いじゃない?」
匂いを嗅がれたことに恥ずかしさを感じ、クレナイはアッシャーを引き剥がすと王国の紋章が入ったローブを投げつけ階段を下りていった。
ア「…はあ、シャイなんだから。」
アッシャーは投げつけられたローブを持ってベットから降りる。
そして、ドレッサーの前にたちボサボサになった髪をとかす。
前髪をクロスにピンで止めてローブに袖を通した。
ア「よし、いい感じかな?」
アッシャーはシャツの襟を正すと食欲をそそる匂いに心踊らせ階段を下りていった。
アッシャーが1階に下りるとリビングのテーブルに朝食が置かれているのを見つける。
ア「んー、おいしそう。」
アッシャーはすぐに椅子に着きクレナイと向かい合った。
ク・ア「「いただきます。」」
ふたりは朝食を食べ始める。
今日の朝食は、パンとサラダとスクランブルエッグ、それとコーヒーだ。
パンは外は香ばしそうな焼き目をつけつつ中は真っ白でフンワリもちっとして、噛めば甘味が増してくる。
サラダに使われる野菜は朝日が昇るとともに収穫されたもので噛みしめるたびに軽快な音楽のようにシャキシャキッと音と水分がはじけ出す。
毎朝とれる卵で作られたトロトロのスクランブルエッグは、塩コショウとの相性が良く合い、パンとの組み合わせも最高。
コーヒーは挽き立てで湯気さえもおいしく思わせるように香りが爽やかだ。
それをシメでグイッと飲めば体は芯から温まる。
ア「ふぅ、ご馳走様。」
アッシャーは空になった食器を洗いに席を立った。
まだ、テーブルで朝食をとっているクレナイを眺めつつくちぶえをふきながら、皿の水分を拭き取っている。
すると、クレナイが
ク「あ、兄さん。今日ポストを見るの忘れちゃったから見てくれる?」
ア「オッケー。」
アッシャーが庭のポストを見ると、一通の手紙が届いていた。
ア「クレナイ~。ポストにこんなのが入っていたよ。」
アッシャーは王族マークの封蠟が押された手紙を見せた。
ア「開ける?」
クレナイはコーヒーを飲んでいるので首を縦に振る。
アッシャーは人さし指を封蠟に押し付けた。
青白く封蠟が光る。
すると、ひとりでに手紙は開かれ綺麗に手紙が出てきた。
ア「えっと、なになに?」
晴れやかな顔がいっぺん、アッシャーの顔は曇っていった。
ク「どうしたの?」
クレナイは珍しく手紙を熱心に読むアッシャーにしびれを切らし聞く。
ア「クレナイ、二週間前に二軍騎士団が何者かに荒らされた郊外に進軍したのを覚えているかい?」
ク「うん。」
クレナイはそういえばそろそろ帰ってくるころかなと思いつつ頷く。
ア「その犯人が見つけられて捕まった。」
ク「捕まえれたなら良かったね。どんな魔物だったの?」
ア「いや、捕らえられたのは
思いもしなかった名前を告げられクレナイは動揺する。
ク「
ア「どういう訳かは分からないが犯人たちはそうらしい。手紙には今日、二軍騎士団が帰ってくるからそれまでに
信じられないと思ったがクレナイは食器を洗い、ローブを羽織った。
一足先に出たアッシャーを追うように戸を閉める。
玄関から森の出口へと続く石畳をならしながらクレナイは走る。
風がほおをなでクレナイはなにかがおこる前兆のように感じた。
森の出口の脇には
因みにこの森にあるものには王国の広場が設定されている。
クレナイは
ア「じゃあ、行こっか。」
アッシャーはクレナイの手を取り、石に触れた。
次の瞬間にはアッシャーの「王都」という声と石から放たれる緑色の光以外何も残っていなかった。