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目覚めたら新世界

ふと気がつくと、私は深い森の奥に立っていた。あたりには馴染みのない植物が鬱蒼と茂っている。木々の隙間から見える空の色からすれば昼間のはずなのだが、森の中は薄暗い。
何故こんな場所にいるんだ、と自問してみるも、直前の記憶が靄がかかったかのように思い出せない。
最後の記憶はなんだ。確か、会社に行って仕事をして……駄目だ、最後の記憶が何月何日かすら判然としない。
頭をコツコツと叩いてみる。いや、最後の記憶を探るより、先程から見ないようにしていた事実を直視しなければならない。
黄色人種とは根本的に違う白い肌。ホームレスの方がよほどマシだろうという粗末な服……というか巻いてある布。シャツとズボンと表現するのが失礼な、小学生の家庭科の授業作品にも劣る雑なものだ。
そして明らかに違和感しかないすらりと伸びた手足。足には靴の代わりか、布が堅く巻いてある。
「誰よこの体」
呟いた声は、やはり聞き覚えのないものだ。

SF、ファンタジー好きとして考えてみる。
私の意識が見知らぬ誰かの体に入れられた可能性。
私のこの日本人としての記憶がねつ造されたもので、本来はこの原住民的な人間だった可能性。
後者の可能性は限りなく低い気がする。なにせ、思い返せば幼稚園から社会人まで、それこそ発表会やらダルマさんが転んだやら友達と喧嘩したことやら、とかく他人に話さないだろう細かい記憶が残っている。私自身が記憶を埋め込んだ張本人という考え方もあるが、文学部出身の事務員がそんな高等なことをできる気がししない。
私という存在が実在したとすると、ではなぜ今他人の体なのかを考えるべきである。
脳移植? ならば、病院で目覚めなければおかしい。
死んだか幽体離脱して他人に憑依した? 現代日本でこんな格好の奴がいたらお巡りさんに捕まること間違いなしである。
前世の記憶が蘇った? なんで前世より文明退化してるんだ。いや、どっかの山奥の秘境ならあり得るのか?
実は自分は今病気か何かでぶっ倒れて植物人間状態で、リアルな夢を見ている? これが一番あり得そうだ。なんとなく感覚も鈍い気がするし。

とりあえず、夢のディティールを確認するため、私は体に纏っていたボロ布をとってみた。
「…………作りが雑」
服の、ではない。体の、である。
胸部は明らかに女性のそれではない。たとえAAAカップでも、男女で作りが違うのだ。
そして下半身。男性に必要なアレが付いていない。というか、何も生えていない。下半身は女性ということか? 臀部に蒙古斑はない。まああれ、モンゴロイドの子供限定だしな……
体に丸みがないし、手が大きめで若干ゴツいので男性体な気がするのだが、よく分からない。半陰陽というものか?
あと全体的に体毛が薄い。金に近い茶色の毛が薄っすら生えている程度だ。原始人みたいな暮らしをしているなら濃そうなものだが。
毛髪を抜いてみる。こげ茶色だ。触ってみた感じ、長さはベリーショートくらいだろう。
顔に触る。出来物が一つもないつるんとしたプニプニ肌だ。あと目元の感触に違和感がある。彫りは深い気がする。
また一つ夢である説が補強された。本当に原始人であるなら、こんな生活をしていて肌が荒れないはずがない。手の皮は多少厚いが、肉体労働者のそれには程遠い。
「よし、これは夢だな」
現実世界の私が目覚めるまで、私はこのワンダーランドを楽しもうと決めた。
謗るなかれ。元来楽天的なのだ。
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