例えるなら玉ねぎのような
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ジャミルくんは小盛りの方をあたしの前に置き、自分も大盛りカレーライスをテーブルに置いてから正面に座った。何も言わずともご馳走してくれるらしい態度にぶすくれた表情をやめて掌を合わせる。小さくいただきますと口にするとそのまま小さなスプーンでルゥを掬った。
「ん〜!美味しい!」
先程迄の不機嫌はなんだったのか。芳ばしいスパイスの香りとピリリと舌を刺激する独特な辛味。ごろごろとした人参やじゃがいもとは裏腹に、玉ねぎはしっかりと溶け込んでいるようで辛味の中にもしっかりとした甘味が感じとれる。明らかに市販のルゥとは違うジャミルくんお手製のカレーは、あたしのちゃちな嫉妬感を隠し味に喉を通った。
それを見てジャミルくんは自分もカレーを口に運ぶ。あたしに渡した物より一回り大きめなスプーンで豪快に掬い、意外にも大口を開けて目を伏せた。そのまま口に運ぶのかとも思ったが、長い髪が邪魔だったのか左手で自身の髪を耳の後ろへ持っていき漸くカレーに口をつける。
「美味いな。」
当の本人からしても満足のいく出来栄えだったのであろう。小さく漏れた言葉と緩む顔を見ていると、こちらも自然に笑みが浮かんだ。
「珍しいね。ジャミルくんが自分の夜食なんて。」
「たまに食べたくなるんだ。好物だからな。」
え、と目を見開くとどうかしたか?とこちらを覗き込まれる。あたしは何を考えるでもなく首を左右に振り、何でもないと示した。
そうか、これはジャミルくんの好物なのか。そう思うと口に含んだカレーが先程よりも美味しく感じる。自分でも呆れるくらいの単純思考であっという間に平らげたお皿を前にしてジャミルくんへ視線を向けると、彼のカレーも大分減ってはいるもののあと少し談笑できるくらいの量は残っていた。けれど彼があまりにも一生懸命にカレーを堪能しているものだから此方から声をかけるのも憚られて、普段よりも年相応に見える彼を堪能する事にする。そう言えば彼が意外と人目を気にせず男らしい食べ方をするのは初めて知ったな、と思いついたところで視線をジャミルくんから空になった手元の皿へと移した。
明らかにルゥに対して少なかったご飯の量。体重を気にして朝食以外では主食を抜いていると彼に話したのはいつだったか。そう考えると彼に渡されたスプーンのサイズにも納得がいった。あたしは彼の事をそんなに知らない。でも多分、あたしが思っているよりも彼はあたしの事を知っている。妙に気恥ずかしくなって視線をお皿に下げたまま、口を開いた。
「あたし、ご飯の代わりにキャベツにルゥをかけるんだよね。」
「そうか。なら次はキャベツも用意しておこう。」
彼の手元のお皿は同じく空になっていて、立ち上がる彼の"次"という言葉に胸を弾ませた。あぁ、なんだ。あたし、嫌われてないのか。
敬語混じりとはいえ他の先生方に対する物よりラフな言葉遣いも、あたしのお皿も一緒に下げてくれるところも。なら今はそれでいいや。あたしは片付けを手伝うべく、今度こそ彼の背中を追った。
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