例えるなら玉ねぎのような
Name input
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
何を言われるでもなく距離を取らされると小さなスプーンが差し出される。それを受け取ると今度は肩に手を置かれ背中を押された。されるがままにキッチンを出てほど近い椅子に座らされる。どう言う事かともう一度ジャミルくんを見上げると、涼しい顔であぁと言葉を漏らす。そのままなんて事ないような仕草であたしの肩に乗せていた両手を離した。
「少し待っててくれ。」
急いでキッチンに戻ろうとするジャミルくんの背中を追いかけるようにして一瞬腰を浮かせるが、少しして大人しく腰を下ろした。今彼の背中を追ってキッチンに戻ったところで、彼の鋭い眼光で"大人しく待っていてくれるな?"と言い聞かせられるだけである。
彼に強く言い含められると断れないのはいつもの事で、どうせ断れないのなら最初から彼に従った方が楽だ。きっとそれが彼のユニーク魔法なんだろう。詳しい事は教えてくれないから知らないけど。大体、彼は何を聞いてもはっきり返してくれないのだ。ユニーク魔法の事は勿論、その綺麗な髪の手入れ方法ですら。
カリムくんが眠った後に翌日のお弁当の仕込みに来ている彼は一番キッチンの利用率が高く、それ故に見回り途中のあたしとの遭遇率も高い。時々彼の料理を手伝ったりする事もあるくらいだ。
(でもジャミルくんの事、何にも知らないんだよなぁ……。)
何を聞いても躱されてしまって結局気がつけばあたしやカリムくんの話題になっている事が常で、ジャミルくんの事で知っている事とすればバスケ部に所属していることであったり2年C組の所属であったりと上部だけのものだ。それでも最近は彼の主であるカリムくんが口にする料理を手伝わせてくれるようになっていたから少しは近づけたと思っていたのだけど。どうやらそれも思い上がりだったらしい。
「お待たせしました……って、ん?なんだ、拗ねているのか?」
悲しい事実に辿り着いてしまって、年甲斐もなく膨らませた頬をスプーンを持ったままの掌にのせテーブルに肘を付くあたしを認めたジャミルくんの両手には、眩しい程に白いお皿に盛られた艶々と輝くお米。そしてそれを覆い隠すとろとろとしたカレールゥ。つまりはカレーライスが鎮座していた。二皿ある内の一つはお米が申し訳程度しか盛られていないほぼルゥだけのもので、反対にもう一つはガッツリとご飯もルゥも大盛りの対照的なものだ。