例えるなら玉ねぎのような
Name input
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ふわりと鼻を擽る香りに、思わず懐中電灯の先がそちらを向く。帰寮時間の過ぎたこの時間に見回りをするのはあたしの日課だ。というより仕事だ。
あたしは懐中電灯の先、食堂へと足を向ける。帰寮時間が過ぎているとはいえ、この時間に食堂を利用する生徒は少なくない。きちんと帰寮時間を守るのはハーツラビュル寮生くらいで、そのハーツラビュル寮生も若干一名は見回り途中に鉢合う事も一度や二度ではなかった。
さて、今日は誰だろうか。食堂のキッチンを利用する生徒は大体決まっているから大方の予想はできる。この香りはスイーツではないからトレイくんではない。フロイドくんとジェイドくんもモストロ・ラウンジのキッチンを使うことが殆どだからその二人でもないだろう。残るはラギーくんとジャミルくんか。
そのスパイシーな香りは十人が十人知っている家庭料理の香りで、その二人を絞り込む事はできない。強いて言うならスパイスの香りという点でジャミルくんに寄っているくらいだ。
あたしは広い食堂を適当に懐中電灯で照らして人が居ないことを確認してキッチンの方へ足を向ける。そのままキッチンの入り口に顔を覗かせた。
「あ、ジャミルくんだ。」
「ん……?あぁ、アイさんですか。」
さらりと長い黒髪を流しながら彼はこちらを振り返る。羨ましいくらいのそれは手入れの方法を聞いたところで特段変わったことはしていないと曖昧な回答が返ってくるだけだ。
「帰寮時間過ぎてるよ。」
「今日の見回りがアイさんで良かったです。」
言外に見逃せと言われている。確実に。彼の怪しげな笑顔がそう言っている。まぁ別に彼を見逃したところでお咎めはないし構わないのだけど。仕方ないなぁと苦笑するのもいつものことで、雑用係……いや、用務員程度の言うことを聞いてくれる生徒たちではない事は十分身に染みて分かっている。
「今日もカリムくんのお弁当……ってわけじゃないよね。カレーだし。」
早々にジャミルくんを寮に帰すことを諦めて彼の手元を覗き込む。大きめの鍋でくるくるとかき混ぜられていたのはごろごろとした人参とじゃがいも、そしてとろみのある茶色い液体。つまるところあたしの予想通りしていたとおりのものがここにある。けれどコレは彼の主の嫌いな食べ物ではなかったか。
ちらりと視線だけを彼に向けると、彼はお玉を持っている手とは逆の手であたしの目を覆い少し距離を取らせるように押した。
1/3ページ