ないものねだり
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ごぼりと自分の限界がきて大きく泡を吐き出すと、反対に水が口の中に流れ込んでくる。飲み込んではいけないと分かっていても、息苦しさから反射的に呼吸をしようとする浅ましい身体が水を取り込んでしまう。足をバタつかせて無謀にも水面を目指そうとするがフロイドくんがそれを許さない。
(どうして……。)
このままでは溺れてしまう。頭を過ったのは死の一文字だった。どうすれば、どうしよう。足掻くように手足をバタつかせる。彼の腕を振り解ければまだ間に合うかもしれない。けれど非力なあたしがウツボである彼に敵う筈もなく、次第に身体の力が抜けていく。もうダメだ、とゆったりと動かしていた足すらも止まった時、彼の腕が離れた。
自由になった身体、早く水面に顔を出さなければ。そうは思うのに身体動かない。あぁ、あたしは決してフロイドくんと同じ景色を見る事が出来ないまま死んでいくのか。
(あたしが人魚だったら。)
何が少し変わったかもしれないのに。あたしが好きになったのがジェイドくんの方だったら、共に陸で生きていく道もあったかもしれないのに。
それでも実際にあたしが恋に落ちたのは、ジェイドくんでもアズールくんでも、どこかの陸の王子様でもなく、気分屋で飽きっぽくてそれでも確かに優しいフロイドくんだったから。
未成年である彼に、伝えるつもりなんて微塵もなかったあたしの恋心。どうせ死ぬのなら、最期くらい。
「……好、き。」
こぽりと小さな泡が水中に消えていく。きっと、人魚姫の結末と同じようにあたしの想いは届かない。それで良い。
ゆっくりと目蓋を下ろすと、少しだけ感覚が敏感になり自分の頬を包み込むような感じがした。フロイドくんの掌があたしの頬を包んでいるのだ、と期待を多分に含んだ結論を裏付けるように唇に柔らかいものが触れる。そこから流れ込んでくるのは水ではなくて、待ち望んでいた酸素。けれど水で埋もれた口内はその酸素を受け入れてくれない。流し込まれた酸素をそのまま気泡として吐き出すと、怒ったようなフロイドくんの声がした。
「あーめんど。」
ぐいぐいと上がっていく自分の身体。背中に感じる硬い地面は陸に上がったのだろうか。
今度こそゆっくりと流れ込んでくる酸素を大人しく受け入れる代わりに、口内を支配していた水を吐き出す。ゲホッと咳き込むと一気に肺に酸素が周り、いっそクラクラとする程だ。
「ホタテちゃんはぁ、なんで海で息できねぇの?」
「あたしが……っ、人間、だから。」
背びれもなければ尾びれもない。それらと交換出来るほどの美しい歌声も持っていない。それでも彼の心が欲しいだなんて、浅ましいにも程がある。
フロイドくんは大きく口を開けたまま、アズールと契約すれば良いのにと笑った。
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