愚者の行進
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人を好きになるのに理由はいらない、なんてのをどっかで聞いたことがある。そんなのは結局綺麗事でしかなくて、人に執着するのならそれなりに理由がある筈なのだ。
例えばオレがレオナさんに付き纏うのはレオナさんが好きだからであって、その理由はあの人の世話をする事で施しを受けられるからだ。オレの中でその人が好きかどうかは自分に返ってくる利益次第でしかない。筈なのに。
「ラギーくん、モフらせて〜。」
いつものように猫撫で声で嘆願するちまっこい草食動物は別に何か対価をよこす訳でもない。愛するペットにメロメロな飼い主そのものだ。散々弄ってとろとろに蕩けただらしない表情でありがとうと手を振って去って行くのが常だった。時折手土産を持参する事もあるが、今日はそれも無さそうだ。なのに、仕方ないッスね〜と肯定を意を返すのは間違いなく自分が目の前の草食動物が"好き"だからだった。
オレの返事にパァッと嬉しそうに頬を綻ばせたアイさんに、しゃがんで背中を向ける。それもまた常だった。
自分の目線よりもオレの耳の位置が低くなったのを確認しておずおずと手を伸ばすと、親指で根元からぺこりと耳を押し曲げ、そのまま残りの指でオレの髪を巻き込んで優しく撫でる。それに満足すると今度は更に身体の距離を詰めてきた。それもまたいつものことで、この後に来る衝撃を受け止める為に少し足先に力を込める。一瞬耳からアイさんの手が離れたかと思えば、そのすぐ後に感じたのは予想していた衝撃だった。
後ろから首元に伸ばされた細い腕は前で組まれ、背中にふにふにと柔らかい感触を感じる。それが何かなんてのは健全な男子なら瞬時に判別できるだろう。あーあと少しの役得感と落胆を抱えて自身の膝に肘を付き、掌に顎を乗せてアイさんを見上げた。
「それ、楽しいんスか?」
「めっちゃ楽しい。」
食い気味に答えたその人は、後ろからオレの額に自身の額を乗せもふっと音が立ちそうなくらいの勢いでオレの髪に鼻を埋める。すりっと耳に感じるのはアイさんの頬の柔らかさだ。
「アイさん知ってます?オレ人間なんスよ。」
「知ってるよ。」
「そんで男、なんスよね。」
「ん?そうだね。」
分かったようで分かってないアイさんの口振りにぶつかる額をそのままに立ち上がった。
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