幸せの三つ葉
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あ、と小さな声を上げたのと、アイさんと声をかけられたのはほぼ同時だった。呼ばれた名前に振り返るよりも先に根元からクローバーを摘み取ると、きちんと四つの葉を付けている。目当ての物を漸く見つけて満足した所でゆっくりと振り返ると、どうやらあたしの名前を呼んだのはこのクローバーの贈り先であるトレイ・クローバーその人だった。
教科書を片手にあたしが放置したほうきの辺りに立つトレイくんに倣って立ち上がる。地面に膝をついていた時よりかは幾分マシだが、それでも顕著な身長差にもいつしか慣れてしまったもので、特段気にせず口を開いた。
「ごめん、何か用だった?」
「あぁ、いや。何か探しているみたいだったので。……邪魔してしまってすみません。」
彼の八の字に寄せた眉と意味深長な口振りからすると、もしかしたら先程の鼻歌を聞かれていたのかもしれない。いつの間に授業が終わっていたのだろう。全く気がつかなかった。恥ずかしさからあああああと嘆きたくなる気持ちを心内に留めておいて、奥歯を噛み締める。色々な言葉を飲み込んでやり過ごした。
「これ、探してて。」
話題を変える為にしおりに加工する前の四つ葉のクローバーを指先で摘んでみせる。トレイくんはあたしの指先を視線でなぞって、あたしが持っているクローバーが四つ葉である事に気が付いたのか懐かしそうに頬を緩めた。彼には下に数人の兄弟がいるらしいから妹もいるのかもしれない。妹に付き合って四つ葉のクローバーを探す彼を想像したら違和感がなくて微笑ましい。
「懐かしいな。昔、リドル達と探した事がありますよ。」
「……これ、トレイくんにあげるよ。」
本当は加工してから渡すつもりだったのだけど、クローバーを見つめる彼の視線がとても優しかったから。きっとリドルくん達との大切な思い出があるのだろう。それなら彼の好きなように加工するなり飾るなり、なんなら過去の彼が枯らしてしまったというのならそうしてしまってもいいとすら思ってしまったから。あたしからしたらただ予定が少し早まっただけの事だ。
「元々、トレイくんにあげる為に探してたんだよね。」
だから遠慮しないで欲しいと言外に伝えると、トレイくんは一瞬言葉を詰まらせてありがとうございますと受け取ってくれた。その彼の頬は仄かに色づいているように見える。それを見てあたしも妙に気恥ずかしくなって、自分の左頬を指先でトントンと示すことで妙に浮つく心を誤魔化した。