真紅の暴君
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「終わったー!」
周囲に誰も居ないことをいいことに、年甲斐なく無邪気に叫んだ声が教室に僅かに反響する。あたしは手にしていた雑巾をバケツに放り込んだ。
昨日クロウリー先生に言い渡された罰則。それは途中でヴィルくんに呼び止められてしまったから100枚全部拭き終わらなかった。別に誰から何を言われたでもないが、中途半端なそれが気がかりであたしは生徒たちの授業が終わった後、つまりあたしの勤務時間が終了した後に自主残業をしたのだ。残念ながら無給だが。
あたしはほくほくとした達成感を胸に脚立を担ぐ。によによと緩む頬をそのままに廊下を進んだ。多分側から見たら気持ち悪いことこの上ないだろう。それでもあたしは浮き立った心を隠すことはしなかった。
トン、と不意に軽い衝撃を、脚立をかけた方とは反対の肩に感じる。つられて振り向くと、そこには最早お馴染みとなった3人と1匹が立っていた。ユウちゃんを除く2人と1匹は、先程の自分とは意味の違うによによとした表情でこちらを見ている。何か言いたげな
少し艶のある硬そうな茶色い棘。否、
「皆で栗拾い?沢山拾えたね。」
おいしそうな栗に思考が奪われ、思わず小さな子供に話しかけるような声色になってしまう。彼らが本当に小さな子供であったなら、多分あたしは彼らの頭を撫でていただろう。実際は彼らの方が身長が高い上、両手が塞がっているのだから無理な話なのだが。
あたしの言葉を聞いて、エースくんとスペードくんがニヤリと口角を上げた。ちょっと嫌な予感がする。
「そー、いっぱい拾ったんだよね。コレ、剥くの大変だと思わね?」
「ちょっとエース!」
「アイさん、料理得意ですよね?」
「デュースまで!」
咎めるようなユウちゃんの言葉を遮るように、グリムがトドメの声を上げた。
「オメーも手伝うんだゾ!」
そう言いながら容赦のない腕があたしの両肩を捉える。あたしの右肩にはエースくんの左手が、そして左肩にはスペードくんの右手が乗った。そのままあたしの背中を押して歩き出す。んじゃ、しゅっぱーつ!と機嫌よさげに上げられた声に、あたしの機嫌は急降下した。