真紅の暴君
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あたしがフロイドくんとジェイドくんに恐怖心を抱いているのは、多分アズールくんも知っていて、だからこそ彼はあたしと彼らを出来るだけ同じ場所に留めないように配慮してくれている。あたしがキッチンに居る間は双子はフロアに、逆もまた然りだ。そんな風にアズールくんの手を煩わせている事に申し訳なさを感じてはいるが、本能的な恐怖心はどうしようもなく克服のしようがない。こうしてアズールくんの背中に逃げる事もしばしばで、最早彼も慣れてしまっているらしく、彼の口からは溜息が漏れた。
「さあ、早く寮に戻りますよ。」
「でもホタテちゃんがアズールに用があるって〜。」
「それなら手短にお願いしま……ッ!」
フロイドくんの言葉に顔を上げたあたしと、あたしの方を振り向こうとしたアズールくんのタイミングが重なり、至近距離で視線がかち合う。予想以上に近い顔の距離に、ボンっと音が鳴りそうな程に顔を赤く染め上げたのは多分同時だっただろうが、一歩距離を取ったのはアズールくんの方が早かった。
心臓がバクバクと煩い。忙しいアズールくんを引き止めては悪いからと否定しようとした唇はキュッと結ぶ事しか出来ない。頭がグラグラする。それは多分目の前のアズールくんも同じだ。
「き、今日の!」
「ぇ、ぁ、はい!」
「今日の日替わりメニュー、なん、ですか……。」
裏返る声で紡ぎ出した言葉は自分でも予期しない言葉だった。多分直前まで今日の夕飯について考えていたからなのだろうが、口に出した言葉があまりにも間抜けでぱちくりと目を見開いているのは多分あたしも同じだ。一瞬沈黙が辺りを支配し、それから双子の笑い声が広がる。アハハと笑い声を上げるフロイドくんは先程までの不機嫌は何処へやら、あたしの間抜けさに気分が上向いたらしくあたしの側にしゃがみ込んだ。そのまま下から覗き込むようにしてあたしの顔をじっと見つめてニタリと笑う。
(あ……。)
自分よりも低くなったフロイドくんの視線。楽しげに笑っているからだろうか、ホタテちゃんよく出来ました、と最初と同じようにハートマークが付きそうな口調にも彼の鋭い歯にも恐怖心は湧かない。あぁ、成る程、あたしが彼ら双子に抱いていた恐怖心が自分よりも大きな者に迫られる恐怖だというのなら、確かに自分よりも彼らが小さくなってしまえばそれは解決する。そんな単純なものだったのか。
それが分かればどうということもない。アズールくんとあたしは纏めて双子に揶揄われたような気がしてならないが、それに腹を立てるのも大人げないし、彼らは今急いでいる。それならこれ以上ここに留めておく理由もない。
あたしはまだ赤い顔でご丁寧にもペペロンチーノですよ、と先程の質問への答えを返してくれるアズールくんを横目に、ぽんぽんとフロイドくんの頭を軽く撫でてからお礼を告げる。あぁ、今日の夕飯はオムライスの予定だったけれど、折角だからペペロンチーノに変更しよう。それ程面倒な料理でもない。そんなあたし達を見届けてから、ジェイドくんはアズールくん達をモストロ・ラウンジへと促していた。
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