真紅の暴君
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「ホタテちゃん♡」
語尾にハートマークが付きそうなその口振りは、けーくんのような軽さがある筈なのにその実何処か圧を感じて、反射的に肩を跳ねさせる。恐る恐る背後を振り向くと案の定フロイドくんとジェイドくんがその長身で日を遮っていた。
あたしはこんにちは、と取り繕うように口にしながらチラチラと視線だけでアズールくんが居ない事を確認して内心大きな溜息を吐く。目の前の双子達を悪い子だと思っている訳ではないのだが、初対面の時に植え付けられた恐怖心はそうそう払拭される事もなく未だに根付いている。彼等は多分ソレに気が付いていて何かとこうしてあたしにちょっかいをかけてくるのだが、毎度それを嗜めてくれるのはアズールくんだ。しかしながら今日はそれも期待出来ない。つまりあたしには大人しくこの双子の玩具になる選択肢しか残されていない訳だ。
「ジェイドくん達は今からモストロ・ラウンジ?」
「えぇ、アズールが待っているので。」
楽しげにニタリと口角を上げるジェイドくんは、口には出していないものの"残念ですね、アズールが居なくて"と目が言っている。ぐぬぬと歯噛みをするがそれを表に出すことはなく、代わりに口角を上げた。
「アズールくんは先に行っちゃったのか、残念。」
「何、アズールに用でもあったワケ?」
「え?いや、特には……?」
ジェイドくんへの意趣返しのつもりだったが、予想に反してフロイドくんの機嫌が急降下する。低くなった彼のああ?という声に再度冗談を言う雰囲気でもなくなって、口をつぐむが彼の機嫌は治らなかった。
(え……えー?何が彼の逆鱗に触れたんだ……?)
あたしの発言がトリガーなのは分かっているが、どの発言かまでは分からない。不快な発言をした自覚はないし、そもそもアズールくんの話題しか出していないのだ。彼が怒る理由が分からない。どうにかしなければと謝罪を口にしようとするが、原因が曖昧なまま謝るのは違う気がしてジェイドくんに視線で助けを求める。けれどそれもフロイドくんは気に入らないようで、彼の長い腕があたしの首元へと伸びた。
怖い。彼の長身も沸点の分からない感情も、何もかもが怖い。その恐怖心があたしの足を地面に縫いつけてフロイドくんの腕から逃してくれない。側に居るジェイドくんもフロイドくんを止めてはくれず、あたしは"絞められる"と浮かぶ頭の警鐘に倣って目を強く閉じる。あぁもうダメだ、と大した覚悟も決まらないまま来るであろう感触に身構えると、お前達、と誰かの声がそれを遮った。
「こんなところで油を売っているほど時間は無いはずですが?」
「おや、アズール直々にお迎えですか。珍しいですね。」
既に支配人のような格好……寮服というらしいその格好に着替えているアズールくんがツカツカと此方に近寄り、あたしを庇うかのようにフロイドくんとの間に割り込んでくる。情けない話、あたしはその背中に酷く安堵してアズールくんの背中に額を付けて大きく溜息を吐き出した。