真紅の暴君
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若いな、と思う。エースくんの並べる言葉は彼の経験値の少なさを表しているかのようで、初々しいというよりはむしろ、青い。それが良いとか悪いとか、そういうのではなくて、単純に羨ましかった。
自分の目線での正論を繰り出すエースくんは、良く言えば真っ直ぐな子なのだろう。逆に、悪く言えば相手の立場に立てない子だ。トレイくんの事情を全く考慮していない彼の言い分は、綺麗で正しくて、だからこそ横暴だ。
そもそも、エースくんは勿論、トレイくんだってまだ子供。そんな彼に何が出来るというのか。大人同士ですら他所の家の教育方針に口出しをする事は良しとされないのに、それが子供なら尚更だ。旧知の仲と言えど、所詮他人であるトレイくんに出来る事なんてそれ程ないということをエースくんは分かっていない。
でも多分、トレイくんはエースくんの言っている事が正しいと分かっている。少なくとも彼自身がローズハートくんが間違っていると思っているからこそ、ただの一度も"リドルは間違っていない"と、ローズハートくんを庇う言葉が出ないのだろう。その事実だけでもトレイくんが葛藤している事が伺える。自分の事ではなく、友人の為にそこまで出来るトレイくんをあたしはダサいとは思わないけれど、エースくんはそうではないらしい。彼はダッセェな、と声を張り上げた。
エースくんの言葉が段々とヒートアップしていく。先輩に対して不相応な言葉を発するエースくんを側に居るはずのスペードくんやユウちゃんが止めないのは、彼等もエースくんの言っている事が正しいと思っているからかもしれない。あたしからすれば、エースくんの主張は"間違ってはいない"けれど"正しい"とは思えない。かと言って、この件についてあたしは口出しをするつもりはないけれど。
(どうせあたしには何も出来ないし。)
流石にエースくんの声量がこの場に相応しくない程になってきたから、そろそろ止めなければとあたしは本棚の角に手を置いて顔だけひょっこり覗かせる。途中で退室する予定だったのに、と思いながらも、あたしの方に背中を向けて立っているエースくんに声をかけようと口を開くと、それを遮るかのようにエースくんは今日一番の声を出した。
「なにが幼なじみだ。そんなんダチでもなんでもねぇわ!」
「コラ!君たち!図書室では静かにー!」
びくりと肩が跳ねる。急に割り込んできた大きな声に、あたしは反射的に頭を引っ込ませた。バクバクと心臓が煩い。あたしは、グリムのアンタが一番声でけぇんだゾという言葉に、こくこくと無言で首を縦に振り、大きく深呼吸をして心臓を落ち着かせた。
多分、あたしがここに居た事は誰も気がついてないだろう。結局注意するのはクロウリー先生に任せてしまったし、顔を覗かせたのだって、多分エースくんで影になっていたはず。ならばあたしのする事は一つだ。
あたしは先の予定通り足音を潜ませ、彼等に見つからないように図書室を後にした。