真紅の暴君
Name input
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
コンコン、コンコンとユウちゃんを起こさない程度にオンボロ寮の扉を4回ノックする。今日はバイトがあるからとユウちゃんに戸締まりをお願いしたのだ。勿論、この入り口の扉の鍵も閉めるようによくよく言い聞かせて。ここの鍵を閉めてしまうとあたしが帰ってきた時に入れないからと渋るユウちゃんに、その時はゴースト達に開けてもらうから、と説得した際に決めた合図が4回のノックだ。だから当然、ガタリと古びた鈍い音を立てて解錠された扉の先に居るのはゴーストだと思っていたものだから、実際に姿を見せたエースくんの姿にえ、と小さな声が漏れる。そんなあたしの姿に、彼は不満げな表情を隠しもせずお帰り、と口にした。
「ただいま……?」
「帰ってくんの遅くね?
「そうだけど、その後に雑用係の仕事があって。」
はぁ?と苛立ちを隠さない表情を浮かべたエースくんに何故か謝罪の言葉がポロリと口を伝った。それに対してエースくんの表情は更に渋くなる。
「アンタ、働き過ぎなんじゃないの?」
「大人だからね、このくらい平気だよ。」
お金がないと生きていけないでしょ、と下衆な現実は口に出せなかった。代わりに恐らく心配してくれているであろう彼の言葉にありがとうと感謝を述べると、アンタが帰って来ないとオレが寝れねーんだけど、と本心なのか照れ隠しなのか分からない事を言いながら、あたしを寮内に入れる為に身体をずらしてくれる。その彼の首には今朝と変わらずハート型の首輪が存在を主張して、話を聞かずとも仲直りに失敗したのだと分かってしまった。
(あぁ、今日もベッドはお預けか。)
結局、ここに来てからあたしがベッドで眠れたのは初日のみだ。エースくんの口振りからして、今日もあたしのベッドで眠るつもりなのだろうし、そもそも彼が遠慮したところであたしはそれを許すつもりもない。とは言え、一泊で済むと思っていた彼の家出がここまで長引くのなら自室よりも先に他の部屋を掃除するべきだった、と後悔する。それはただの結果論なのだけれど。
あたしはエースくんと共に、半ば彼の部屋となってしまっている自室に向かう。2階に上がるとその廊下は今朝よりも綺麗になっていて、どうやらあたしの居ない間にユウちゃん達が寮の掃除を進めてくれているようだった。
あたしは自室のクローゼットから着替えを取り出すと、掛け布団を足元に追いやったままあたしのベッドに横たえる彼に近づき、彼の足元の布団を肩口まで引き上げる。それからぽんぽんと軽く布団の上から叩いた。
彼がまだオンボロ寮に居ると知らなかったとは言え、彼をこんな時間まで夜更かしさせてしまったのはあたしの所為だ。まぁ、別にここまで馴染んでしまっているのならあたしが居ない間に勝手に部屋に入って眠ってしまえば良かったのにと思わなくもないが。
「んー、おやすみ。」
部屋の電気を消して出て行こうとするあたしを追ってころりと身体の向きを変えるエースくんに、随分と可愛い弟に懐かれたものだ、と重い身体が少しだけ軽くなった。