真紅の暴君
Name input
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
お疲れ様でしたとお先に失礼しますという定型文を続けて口にして、賄いを頬張るオクタヴィネル寮生を横目にモストロ・ラウンジを後にした。以前の仕事も人と接する機会の多い仕事だったから大きく勝手が違うこともないだろうと高を括っていたが、それは今日の一日で覆される。普通に疲れた。
料理の乗ったお皿は意外と重いし、バランスを取ることも難しい。けれど乗っている物が固形物であればまだマシな方で、スープやドリンクだと最悪だ。溢してはいけないというプレッシャーが圧し掛かる。つまりはいろんな意味で"重い"のだ。それでも慎重に運んでばかりだと間に合わず、多少の思い切りも必要で普段の仕事よりも何倍も気をすり減らした。結果として大して役には立てなかっただろうが、大きなミスもしていないのだから良しとしよう。役に立てないのは慣れで何とかなる。否、そう思っていないとやっていけない。
(それにしてもお腹空いたな。)
誰も居ない校舎。蛍光灯ではなく、緑がかったランプの明かりがぼんやりと頭上を照らす中で自身の空腹を自覚して、懐中電灯を握っているために塞がっている左手ではなく右の掌で腹部を押さえた。
モストロ・ラウンジのバイト条件には賄いも含まれてはいるが、生憎あたしはバイト終わりの時間が丁度いいからと、バイト先を紹介するのと交換条件で学園内の見回りを任せられている。一応雑用係として雇われて……いや、お給料もらってないから雇われているわけではないな。そう、雑用係として働くことを条件に学園に滞在することを許されているのだから文句はないが、魔法が当たり前のこの世界で魔法も使えない上に体術を身に付けているわけではないあたしが見回りをしたところで効果はないと思うのだけれど。泥棒とかと遭遇しても何もできないぞ。ということをオブラートに包んで反論したが、結局それはクロウリー先生には届かなかったせいで、目出度くこの見回りもあたしの仕事となってしまった。つまりは、単純に賄いをいただいていると間に合わないのだ。見回りの時間に。
(クロウリー先生の話では、帰寮時間が過ぎても校舎内に残っている生徒が居ないか一階を見回るだけでいいっていう話だけど……。)
誰も居ない、昼とはまた表情を変えた校舎を薄暗い明かりを頼りに歩くのは少々肝が冷える。心なしか歩幅も狭くなっていた。とりあえず急いで回ってしまおうと入り口からほど近い階段を辺りを足速に横切るとと何やら強い香りを感じて、無意識に腹部を押さえて足を止めた。