真紅の暴君
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以前の仕事、と頭の中でくるりと一周回してから、OLだと答えた。少しばかり言い淀んだのは、別に何か疚しい事情があるだとか、そういうわけではない。単に答え辛かっただけだ。
あたしの仕事は少し特殊で、様々なサービスを取り扱っているから、金融機関と言えばそうだし、販売業と言えばそれも正しい。強いていうのなら総合サービスになるのかもしれない。つまりは、一言で答えるのが難しいのだ。
それに対してアズールくんはそうですか、と特にこれといった反応は見せず眼鏡のブリッジを押し上げた。
「ジェイド、フロイド。」
「はい。」
「なぁ~に?あ、ホタテちゃんじゃ~ん。」
(ほ、ほたて……?)
アズールくんがパンッと手袋を嵌めた手でくぐもった音を立てると、彼の呼び声に答えるように奥の方からにゅっと二つの顔が生えてくる。見覚えのないその二つの顔は、同じ色の髪を二人で左右対称になるようにセットされていて無意識に"双子"という単語が頭に浮かぶような恰好だ。顔つきもよく似ている。
その片割れが口にした、"ホタテちゃん"という言葉。勿論それにも覚えはない。思わずオウムのようにそのまま言葉を返したあたしの声に、二人は一度頭を引っ込ませてからその全貌を明らかにした。その彼らの姿に抱いた感想はでかい、とただ一言だ。
あたしよりも遥かに高い身長。あたしのすぐ隣に立っているアズールくんだって決して低いわけではないし、つい先ほどまであたしは彼にすら身長高いな、という感情を抱いていたけれど、それはこの一瞬で覆ってしまう。すらりと高い身長に、ニタリと弧を描く唇から僅かに覗く鋭そうな歯。初対面の人に対して失礼だと分かっていても、薄っすらと滲む恐怖心に逆らえない。最早本能と言ってよかった。あたしは斜め後ろに身体をずらした。そう、ちょうどアズールくんを盾にして双子の視界から逃れる為に。それに少し驚いたのか、アズールくんがあたしの行動を視線で追った。
「おや、酷いですね。」
双子の片割れがニヤニヤと楽しそうに口元を歪める。それに続いてもう片方が、逃げんのヘタじゃん、ホタテなのに、と続けた。
「あの、そのホタテってなんのこと?」
「あぁ、フロイドの付けたニックネームですよ。」
「そ~白いからぁ、ホタテちゃん♡」
ぞくりと背筋を振るわせる。会話の内容だけ見ればひどく和やかだが、フロイドと呼ばれた彼もその片割れもじっとりとあたしの反応を楽しんでいるようで意地の悪い笑みは消えない。そのうちにあたしの手の中のメモ帳をくしゃりと音を立て、ジェイドくんとフロイドくんの瞳の色が左右で違うことに気が付いた時、あたしは耐え切れずアズールくんの背中に逃げ込んだのだった。