真紅の暴君
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「
彼のその言葉を合図にエースくん達のタルトに光の粒子が降りかかる。けれど、皿の上のタルトになんの変化もなく、先程と寸分違わず半分ほどになったタルトが鎮座していた。
スペードくんが首を傾ける。それに対してトレイくんは回答をぼかしてタルトを食べるよう促した。あたしはもちろんだが、好きな食べ物を答えていないユウちゃんもなんだろうと首を傾げている。その中でトレイくんとけーくんだけがによによと楽しげな笑みを浮かべていた。
エースくんが恐る恐る"マロンタルト"を口に運ぶ。一瞬の間を開けて、先程のあたしのように彼の眼が見開かれた。
「マロンタルトなのにチェリーパイの味がする!」
エースくんが嬉しさと驚きを滲ませた声色で宣言する。その言葉に続いてグリムがタルトを口にした。ツナ缶とチーズオムレツ、それから鶏肉のグリルにプリン。グリムの言葉をすべて信じるのなら、タルトを口にする度に味が変わっているようで、あたしは思わず自分の手元の皿に視線を落として、おずおずとそれを口にした。
(……さっきと変わらないけどな。)
見た目も味も何も変わらない。変わらずしっとりとしたマロンペーストの香りが鼻を抜けていく。美味しい。ユウちゃんも隣でタルトを一口口にして首を傾げた。
「面白いでしょ?コレ、女の子とお茶をする時に鉄板でウケると思わない?」
「スゴイですね。味を変える魔法がクローバー先輩のユニーク魔法なんですか?」
「正確には、"要素を上書きする魔法"だな。味だけじゃなく、色や匂いなんかも上書きできる。」
トレイくんのその説明に、あたしは成程と首を軽く縦に振る。先程、彼がペン先を振るったのは男子達のお皿。あたしとユウちゃんのお皿にはトレイくんの魔法はかかっていなかったはずだ。
あたしはそっと安堵の溜息を吐き出す。だって折角こんなにも美味しいのに、味を変えてしまうなんて勿体ないことはしたくない。けれどそれを勘違いしたのかトレイくんがペンを構えた。
「アイさんのタルトにも"上書き"しましょうか。」
「ううん、大丈夫。」
あたしはサッとタルトを自分の身体に隠すようにお皿を逸らす。それからどうやらあたしの行動を遠慮と捉えているような彼に、だって勿体ない、と付け足した。その言葉にトレイくんがパチリと瞬きをする。
「初めてだから。こんなにおいしいタルト。」
こんなにも、美味しい。シンプルで華やかで、舌先が楽しい。そんなもの初めてだから。
あたしは視線をトレイくんに合わせて、だから変えないで、と笑った。