真紅の暴君
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「よし、最後に粉砂糖をふりかけてっと……。」
「完成~!!」
そうグリムとエースくんが声を揃えて両腕を天井へ突き上げる。それに続いてちょっと落ち込んだ様子のスペードくんが続いた。ユウちゃんと買い出しに行った際に何やらあったらしい。ユウちゃんに聞いても、ヒヨコショックがという全く詳細が見えてこない言葉しか返ってこないから、多分そっとしておくのが正解なのだろう。あたしとトレイくんはそんな彼らにお疲れ様と優しい瞳を向けた。とはいえ、あたしが何も感じていないわけではなく、程よい疲労感を辺りに漂う甘い香りが癒していた。
「それにしても、お菓子作りって時間かかるんだなー。メチャクチャ疲れたぁ……。」
「でも、今回はこれだけ男手があったし、楽な方だと思うよ。」
「マジ?」
疲れたようなエースくんの言葉に返事をするように、おつおつ~♪という軽やかな声が重なる。そちらに視線を向けるとそこにはお菓子作り教室が開催される原因をなったけーくんが、タイミングを見計らったように立っていた。
(実際、見計らってたんだろうな。)
完成した直後に登場なんて、狙わずにできることでもない。けーくんは出来上がったばかりのマロンタルトの前で派手なスマホを構えると写真を撮った。その時に一応写真を撮らせて、と許可を取るあたり好感を覚える。まぁ、本当に言うだけって感じで、誰の返事を待つでもなくシャッターを切っていたが。
「あーっ!アンタ、今さらなにしにきたんだよ。」
「可愛い後輩たちが頑張ってるかな~っ様子見に来たんじゃん。なんかアイちゃんまで巻き込んじゃってるし。」
けーくんがこちらへ視線を向け、あっ、と小さく声を上げた。それから彼はあたしの頬にあたしよりも大きな掌を当てた。必然的に彼との距離が近くなる。その光景に周囲がひゅーひゅーと囃し立てた。いや、確実に囃し立てたのはエースくんだろうが。
けれどあたしにそれを窘める余裕などない。前髪を上げていることで惜しげもなく晒されているけーくんの顔に、自身の頬に熱が集まっている。それでもそれを隠すことはできず、うろうろを視線だけを彷徨わせて少しでもけーくんから逃れようと足掻いた。
それすらもどうしようもなくなって、我慢の限界と言わんばかりに距離を取ろうと彼の胸板に手を置いたところで、彼の指先があたしの口元を撫でた。
「はい、綺麗になったよ♪」
「……え?」
けーくんはあっさりとあたしから距離をとる。なんの抵抗もなく離れていった体温に、あたしの顔はボンっと音を立てそうなほど熱くなった。
多分、先程の粉砂糖か何かが口元についていたんだろう。なんてベタな。それでも、それならそうと言ってほしい。そうすれば自分で拭うなりなんなりする。あたしは結局、ありもしないその先を期待したのだ。恥ずかしい。明らかに先程よりも赤くなっている頬を自分の掌で隠し、少し俯きがちに視線を下げると、けーくんはめっちゃ疲れた顔してんね、と笑った。