真紅の暴君
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「お帰り。随分とたくさん拾えたな。」
そう言ってにこやかにあたし達を出迎えたのは、今日の昼に食堂で見かけた緑髪の短髪の彼だった。大き目の眼鏡がよく似合っている。その彼が口にした言葉は、先程廊下であたしがエースくん達に投げた言葉と殆ど変わらない。その言葉に込められたニュアンスも、流石に母親のようなとまではいかないが、お兄ちゃんが小さな弟達を褒めるような口ぶりだ。随分と優しい。
「お前たち、アイさんまで巻き込んだのか……。」
彼は額に掌を当てて、やれやれと呆れたポーズをする。それからすみません、と眉を下げて笑った。
「こんだけの栗剥くんだし、人手はあった方がいいじゃないっすか。」
「まぁ、それはそうなんだが……。アイさん、仕事は大丈夫ですか?」
「え?」
今は放課後なのだしあたしの仕事は終わっている。それなのにどうして、と彼の困ったような視線を追う。それはあたしの手元に向かっていて、成程と心の中で拳を掌に打ち付けた。
あたしが脚立とバケツを持っているせいだ。しかもバケツにはご丁寧にも黒く濁った水が入ったままである。そんな状態のあたしを連れていたら、確かに仕事中のところを無理矢理連れてきたと勘違いされても仕方ない。実際、無理矢理であることに違いはないのだけど。
「大丈夫。仕事は終わってるよ。でも、こんなのキッチンに持ち込むものじゃないよね。片づけてくるから先に始めてて。」
何をするのかは知らないが、と心の中で付け足した。これが夕飯の下ごしらえだったら助かるんだけどな……。あ、そうだ。手伝う代わりに少し分けてもらおう。それで今日の夕食は栗ご飯にしよう。あたしは夜に主食は食べないけど。
食堂を出ていこうとするあたしの背中に、眼鏡くんの分かりました、という声といってらっしゃい、というユウちゃんの声。その中に紛れているのは、エースくんのサボんなよなーという失礼な言葉。
(でもなんか、憎めないんだよね。)
遠慮のない彼の言動は変に大人とか子供とか、そういう壁がないからか憎めない。そういえば昨日彼が起こした騒動の時、あたしは彼を止める為に拳を振り上げた。それは彼を殴るために振り上げたのではなく、拳骨をお見舞いするためだったのだが、それはつまり、あの一瞬で、あたしは彼にはそういったことをしてもいいのだ、と判断したのだ。
たとえ、彼が悪かったのだとしても、こちらが暴力を奮っていい理由にはならない。けれど、エースくんには多少強引なくらいが丁度いいを思わせるような雰囲気がある。ついでに言うとスペードくんとグリムにもだ。とはいえ、たかが拳骨程度の話だが。
(あぁ、そうか。他人の子、という感じがしないんだ。)
自分の弟のような。もっと言えば我が子のような、そんな感じ。こちらも遠慮はいらないけれど、向こうからの配慮も期待できないような。あぁこれは、彼らのことであたしの胃が悲鳴を上げる日も近そうだ、とあたしは食堂への道を辿る足を速めた。