真紅の暴君
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そんな下らないことを考えていると食事を摂るために食堂へ向かうのか、何人かの生徒があたしの横を通り過ぎて行く。まずい、その中にアズールくんが居たかもしれない。あたしは勢いよく振り返り、すぐ横を通り過ぎていった生徒の手首を掴んだ。
「俺に何か用ですか?」
さらりと長い黒髪が視界を過ぎる。突然掴まれた腕に驚いたのか、少し見開かれた鋭い黒い瞳があたしを捉えた。
「急にごめんね、アズールくんに用があって……呼んでもらえないかな。」
彼がアズールくんだったらどうしよう。これならクロウリー先生にアズールくんの特徴も聞いておくべきだった。あたしは彼のクラスと彼の名前しか知らない。明らかに情報不足だ。
目の前の男の子は掴まれている手首をさり気なく振り払ってから、少し待っていてくださいと再度教室へと戻った。
(良かった、彼はアズールくんじゃないのか。)
あたしの視線は彼の背中を追う。彼は淡藤色の髪をした少年の背中に声をかけると人差し指であたしを指し示した。多分、あの人がアズールくんなのだろう。その指先に釣られるように視線をこちらに向けるアズールくんと一瞬目があって、どうしたものかととりあえず会釈をする。それを合図にアズールくんが近寄ってきた。
「おや、貴女はオンボロ寮の寮母さんじゃありませんか。」
「初めまして、アイです。」
「これはご丁寧にどうも。僕がアズール・アーシェングロットです。」
あ、そうだ。アーシェングロットくん。そうだそうだ、そんな名前だった。とはいえ、先程まで好き勝手にアズールくんと呼ばせてもらっていた分、今更アーシェングロットくんと呼ぶのは違和感があって仕方がないから、そのままにさせてもらおう。別に覚えきれないわけではない。決して。
「それで、僕に何のご用です?」
「えっと、アルバイトできる所を探していて……。」
「成る程、モストロ・ラウンジでアルバイトがしたいと。」
モストロ・ラウンジ?と初めて耳にする単語に首を傾げると、アズールくんは教室の時計で時間を確認して詳しくは昼食を摂りながらにしましょうとあたしの肩を押した。
アズールくんの身体が少し横にずれたお陰で、あたしにも少しだけ教室の中が確認出来るようになる。そういえば、先程の男の子にまだお礼を言っていなかった、と滑らかな黒髪を探すも、彼の姿は既に教室にはなかった。