真紅の暴君
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「あ、君、噂のオンボロ寮の監督生になったコだよね。ってことは、アイちゃんが寮母さん?」
「え、あ、なんでダイヤモンドくんが知ってるの?」
オンボロ寮の寮母なんて、昨日の帰り道でエースくん達が適当に付けた肩書き。ユウちゃんの監督生と違って、クロウリー先生の前で与えられたものではないし、言わば非公式のものだ。それがなんで彼まで広がっているんだ、という疑問に対して、ダイヤモンドくんはだってアイさん有名だし?と返した。
「そっか。」
(アイ"さん"……か。)
ダイヤモンドくんの言葉に曖昧に微笑む。彼が知っているのだとしたら、もうあたしを子供だと間違える人はいないだろう。多分、あたしの年齢も一緒に広まるのだろうし。もう、アイ"ちゃん"なんて、呼んでくれる人はいないのだ。きっとヴィルくんですら。
それが少し寂しくて自分でも眉尻が下がるのが分かる。けれどダイヤモンドくんに言っても仕方がないし、彼が悪い訳でもない。強いて言うなら、あたしが生まれたタイミングが悪いのだ。あたしはダイヤモンドくんから視線を逸らした。
「って、話し込んでる場合じゃないんだった!パーティーの開催は明後日。遅れたら首が飛んじゃう。ねーねーアイちゃん、薔薇を塗るのを手伝ってくれない?」
「え、ダイヤモンドくん、今……。」
バッと逸らした視線をダイヤモンドくんに戻す。ダイヤモンドくんはダメダメ、違うでしょ、と首を振った。
「けーくん、って呼んでよ。ね?」
「け、けーくん?」
「そうそう、合格!ね、エースちゃん達も薔薇を塗るのを手伝って!」
けーくんかぁ……ハードル高いなぁ。でも、それで彼があたしの事をアイ"ちゃん"と呼んでくれるのなら、それはそれでアリなのかもしれない。呼び方一つで何が変わるというわけでもないけれど、少なくともあたしは、呼ばれ方くらい子供じみたものであって欲しかった。
けーくん達の話題は既にハーツラビュル寮伝統の"なんでもない日"のパーティーに移ってしまったけれど、あたしはじんわりと温まる胸元に手を置いたまま、彼らの話が終わるのを待った。どうやらエースくんが盗み食いしたタルトは、そのなんでもない日のためのタルトだったらしい。それなら首輪をつけられるのも仕方ないかもしれない。
結局、けーくんにやりくるめられる形であたしの手には赤いペンキの入った缶と刷毛が握らされる。けれどその頃にはけーくんへの苦手意識は薄れていて、手伝ってあげる、というよりは、先程の彼の気遣いへのお礼として、あたしはひたすらに手を動かしていた。