真紅の暴君
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うわぁ、と思わず漏れた感嘆の声はあたしだっただろうか。それ程までに目の前に広がる景色は素晴らしかった。
鏡舎に置かれていたトランプモチーフの鏡を潜った先、そこに広がっていたのは鮮やかな赤だった。赤い薔薇が花をつける木々はこぞってハート形に剪定されていて、その奥には赤を基調とした建物が佇んでいる。もしかしなくても、あれがハーツラビュル寮だろう。ハートやダイヤモンドといった奇抜とも取れるモチーフが調和している光景はまさに不思議の国のアリスといった雰囲気で、昨日エースくんが口にしていたグレートセブンの一人、ハートの女王を彷彿とさせる。多分その要因の一つには、エースくんとスペードくんのお化粧もあるのだろうけど。
「ほわぁ〜!めっちゃ豪華だ!オレ様たちの寮と全然違うんだゾ!」
「うちの寮はまだ発展途上だから!」
「そうだね。まだ伸び代はあるよ。」
一先ずユウちゃんの言葉に便乗しておく。オンボロ寮は所々劣化しているが建物自体は立派だし、好みの問題もあるだろうが意匠に趣がある。時間をかけて掃除していけば、ハーツラビュル寮程とはいかなくても見れるものにはなるだろう。ただ、できればそうなる前に元の世界には帰りたいけれど。
「お前達、こっちだ。」
スペードくんの背中について行くと、そこには薔薇に囲まれた迷路が広がっていて、あたしはまた感嘆の声を上げた。けれどよく見ると先程の入り口とは違い、薔薇の色が赤や白、まちまちに入り混じっている。どうせならもっと区切りをつけて色分けすればいいのに。折角どちらの色も綺麗に花を咲かせているのに勿体ないなと思っていると、その思考を遮るかのように誰かが声を上げた。
「やばいやばい。急いで薔薇を赤く塗らないと。……おっと危ない。塗り残しは首が飛ぶぞ。」
(首が飛ぶ……?)
凡そ日本の学校では耳にすることのない単語に声の人物を探すと、その人は簡単に見つかった。明るい色の前髪を括って後ろに持っていく髪型、なんといったっけ。ポンプ……ポンパ?そうだ、ポンパドール。髪をポンパドールに結っているその彼が慌ただしく右へ左へと移動すると、たちまち紅白入り混じっていた薔薇の木が赤一色に染まった。
「この光景、どこかで見たような気が……。」
確かに、と口には出さずに思考を巡らせると、やはり不思議の国のアリスという単語が頭に浮かんで、あたしはそれを静かに呑み込んだ。