Wellcome to the Villain's world.
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彼の顔が近い。キッと吊り上げられた眉と明らかに怒気を含んだ瞳すら美しさに変える彼が、胸元のポケットに入れていた万年筆のようなペンを振る。紫色の石がキラリと輝き、あたしの周りに光の粒子が舞ったかと思うと、身に纏っていた筈の運動着は白いワンピースへと変貌した。
「次は顔よ。ついてらっしゃい。」
「いや、あたし掃除中で……。」
服を戻してくれないかとの意味を込めて裾を摘んで持ち上げると、はしたないと手の甲を叩かれる。とはいえ、ワンピースでしかも白だなんて、汚さずに掃除をしろなんて無理だ。あたしの選択肢は彼の言葉に従うか、もしくは彼を無視してオンボロ寮に戻り、着替えてから作業を再開するかの二択しかない。
(……ついて行く方が早いか。)
けれど何に対してこれ程怒っているのかは知らないが、あたしとこの人は初対面の筈で、名前も知らない彼に着いて行ってもいいものだろうか。知らない人について行ってはいけないという事は幼い頃から口酸っぱく言われている。あたしは目の前の彼にも分かる程大きな溜め息を吐いた。
「あたしはアイ。今日からここで雑用係としてお世話になってます。……あなたは?」
「ヴィルよ。ヴィル・シェーンハイト。」
よし、これで完全に知らない人ではなくなった。揚げ足取りのような言い訳をこじつけて、あたしは脚立とバケツを廊下の端に寄せた。それを肯定と捉えたのかヴィルくんはこっちよ、と言いながらあたしを誘導する。それに着いて行くために横に並ぶと彼は満足そうに口角を上げた。
初めて見る緩やかな表情は、元の顔の作りのせいか柔和とは言い難い。けれど先程のような怒気は一切含まれておらず、もしかしたら機嫌が良いのかもしれないとすら思える程だ。何処か楽しげで、そこまで喜んでもらえるなら仕事を中断した甲斐もある。あぁ、この子は可愛い子だな、とつい先程自分で抱いた感想を秒で覆した。
(意外と気さくな子なのかもしれない。)
高嶺の花という程手の届かない存在ではないのかも、とチラリと隣の彼を盗み見る。けれど彼の美しさは確かに清廉されていて、花に例えるのは少し難しいかもしれない。そうだな、無理矢理何かに例えるのなら、彼は宝石なのだろう。磨けば磨くだけ美しくなる。皆の憧れの対象。けれどアクセサリーにもなりうるような気軽さも持ち合わせていて。あたしのその感想は、数分後にまたくるりと掌を返した。