Wellcome to the Villain's world.
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ユウちゃんの部屋の前を通り過ぎ、取り敢えずは談話室を中心に探していけばいいかという単純な考えで進む方向を決めたが、あたしはふと聞こえた声に足を止めた。
「……っ、帰りたい……。」
オンボロ寮の薄い壁ではその小さな声すら部屋に閉じ込めてくれないらしい。ユウちゃんの小さな小さな涙を含んだ声があたしまで届いてしまう。
(……帰りたいなんて、当たり前だよね。)
家族は勿論、きっと友達だって居て、そうでなくとも自分がずっと信じて生きてきた世界だ。帰りたいと思わない方が可笑しい。それは勿論、あたしも同じ。ぐっと下唇を噛み締めて堪える。そのまま早足で歩みを進めた。
何処も彼処も埃だらけの廊下。明日からユウちゃんと少しずつ掃除して行かないと。そうだ、少しずつでもこの現状を受け入れていかなければならない。あたしが泣いている暇なんてないんだ。
「ゴーストさーん、居ませんかー!」
ユウちゃんの部屋から大分離れた事を確認して胸に込み上げる感情を誤魔化すようにして声を張り上げた。この広い建物は老朽化が進んでいる。床を踏み抜いてしまうかもしれない。そうならない為にも先住者に知恵を仰ぐべきだ、なんてのは言い訳で、本当は震える指先が示す不安を誰かといる事で拭い去りたかった。それがゴーストとか云う、元の世界では有り得ない存在だとしても。
「お前さんは……さっきの嬢ちゃんじゃないか。」
「あぁ良かった、居てくれたんですね。お風呂場の場所を聞きたくて。」
じんわりと滲むように姿を現すゴーストに事情を説明すると、彼等が浴室の掃除をしてくれると言う。その間にあたしは学園長……基、クロウリー先生に着替えを貰ってくるといい、とそう言われてハッと顔を上げた。そうだ。あたし達は着の身着のままでここに来た。着替えなんて持っていない。あぁ、それなら先程クロウリー先生が夕食を持って来てくれた時に一緒に話しておくべきだった、と後悔しても遅い。あたしはゴースト達にお礼を言って、お言葉に甘える事にする。ゴースト達曰く、この時間なら職員寮に戻っているだろうと教えて貰いあたしは駆け足で外を目指した。
ギギギ、と鈍い音がして冷たい夜の風が頬を撫でる。ここの夜は元の世界よりも随分暗い。肌寒さからではない震えに両肩を抱くと、ほっと大きく息を吐いた。
(ユウちゃんがゆっくり泣けるといいな。)
あたしは静かにオンボロ寮を後にした。