真紅の暴君
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今頃エースくん達は仲直りできている頃だろうか。柔らかいソファに腰を沈めゆらゆらと揺れる海藻を横目に今朝方意気込んでいた彼らを思い出す。今日はハーツラビュル寮のなんでもない日のパーティーの日。そう、エースくんがローズハートくんに謝罪ができるチャンスの日だ。当たり前のようにあたしも連れていかれそうになったが、残念ながら今日はモストロ・ラウンジでのバイト初日だったものだから諦めてもらった。流石にこちらを無視するわけにはいかない。今後の生活が懸かっている。
「アイさん。」
「っ、はい。」
呼ばれた名前に思わずバッと立ち上がる。開店前といえど上の空がバレてしまっただろうかと慌ててアズールくんの方へ視線を向けると、そこには先程までと装いの違う彼が立っていた。
ウィングカラーの白いシャツにセンタープレスがしっかりとされた黒いスラックス。腰のカマーバンドがウエストを絞り、薄灰色のストールが彼のスタイルをシュッと引き締める。全体的に色味のない服装に紫のリボンタイとソックスがアクセントとして目を引く。コートを肩に掛けるその姿は、まさに支配人という肩書きが相応しい。先程までの制服姿と一転して少し大人びた彼に、あたしは何も言えず瞬きを繰り返した。
「……何か?」
「え、あ、いや。ごめん、似合ってるなって思って。アズールくん、スマートだから。」
まじまじと見つめるあたしの視線に、アズールくんは訝しげな表情を浮かべる。不躾な視線を向けたことにすぐさま謝罪を口にするがアズールくんの反応はない。余計なことを口にしたかもしれない。とりあえずこのままアズールくんを見続けるわけにもいかないから、あたしはゆっくりと彼の鼻先へと視線を落とした。
それでも、アズールくんからの反応はない。もう一度謝罪をするべきだろうか。いや、今は開店前の僅かな時間をあたしに割いてくれているのだから、迷っている時間が申し訳ない。あたしはもう一度ごめんと口にして、それから仕事内容を教えて貰うためにメモ帳を取り出した。聞いたことはメモを取り、同じことを何度も聞かない。悲しいかな、社会人の鉄則だ。
「失礼ですが、以前のお仕事は何を?」
アズールくんはコホンと一つ咳払いをする。気が付けばあたしが僅かにずらしたはずの視線が、またカチリと噛み合っていた。