それはキミでした
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元の世界では所謂大企業に勤めていた。時折ニュース番組でも見かける程の会社で、それ故にブラックな部分も多く、今考えればあたしは軽く鬱状態だったのではないかと思える程だ。
不眠、胃痛、嘔吐。身体に現れる不調の大概はストレスが原因のもので、それでも働かなくては病院にかかる事すら出来ない悪循環。それを経験していた身としては、彼の目標には何とも言えない表情で無言を貫くのが精一杯だった。
「オレは絶対、大企業に就職してやるんスから!」
堅実な夢。けれど夢と言うには現実的で、いっそ目標といった方が正しいだろう。そしてそれを成し遂げてしまえる程の狡猾さも器用さも彼は持ち合わせている。だからきっと、ラギーくんはナイトレイブンカレッジを卒業したら、世間に名を轟かせる程の大企業の社員として胸を張っているのだろう。キッチリと糊の効いたワイシャツにサイズの合ったスーツを着こなして。それは簡単に想像が出来るが、似合うかと言われれば言葉を濁してしまう物だった。
「……そんなに良いもんじゃないよ。大企業なんて。」
制服で洗濯物を干すラギーくんを見上げる。彼の手に握られているTシャツはレオナさんの物で、先程の言葉は黙々と作業していた間の単なる愚痴だった。少し大きめのジャケットを腕まくりしている彼の姿に漏れた安堵の溜息を隠すようにあたしは慌てて手にしていた服をハンガーに掛ける。それをラギーくんに渡すと、彼は物干し竿にそれを掛けながら何てことない雑談を続けた。どうやら先程のあたしの言葉は彼に不快感を与えなかったらしい。良かった。
「アイさん、大企業に勤めてたんスね。」
「そうそう。お陰様で色々ボロボロだったよ。」
こっちに来てからは大分マシになったけど、と笑うと彼はでも、と口を開いた。
「大企業なんだから当たり前じゃないッスか。」
パンっと服の皺を伸ばす音がする。少し湿った匂いが鼻腔を擽った。嫌いじゃない。
「働いて働いて会社がデカくなってるんスから、楽なわけないッスよ。」
「確かに。」
会社の規模が大きくなればなる程、勿論仕事を増える。だからしんどいのは当たり前なのだ。単にあたしが弱かっただけの話。それでもやっぱり、ラギーくんに誰かの理不尽な八つ当たりを受けたりムカつく上司に頭を下げる姿は似合わない気がして。あぁ、違うな。ラギーくんに似合って欲しくないのだ。
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