幸せの三つ葉
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今日も今日とていやにアンティークなほうきを片手に広い敷地を移動する。本日学園長に命じられたのは中庭の清掃だった。
広い敷地は、魔法が使える者からしたら言う程困りはしないのだろう。必須科目の中に飛行術があると聞いたのは記憶に新しい。けれど、生憎とあたしは魔法も使えぬ一般人で、更にはグリムのような使い魔も居ないのだから大袈裟に言わずとも不便である。それでも雑用係として雇われている以上サボるという選択肢は無く、あたしは大人しくほうきを左右に動かした。
生徒達は授業中だから、当たり前のように中庭にはあたししか居ない。時折木の葉を揺らす風が林檎の薫りを運んでくる。閑散とした広い中庭は寂しさすら感じる事もあるのだろうが、残念ながら遠くで聞こえる謎の爆発音に頭を抱える事こそあれどセンチメンタルな気持ちに浸るまでもなく現実に引き戻される。それが有り難くもあるが、同時に人として失ってはいけない感情を取りこぼした気分にもなって複雑だ。今現在、恐らく錬金術の授業を受けているであろう彼女と一匹を思い浮かべてあたしは重い溜息を吐いた。
「あ……。」
自然と足元に落ちた視線。その先には懐かしさが滲むシロツメクサが群生していた。コロンと丸い花が可愛らしいけれど、あたしの視線を奪ったのはその根本を覆うクローバーの存在だった。
ふと頭を過ったのはトレイくんの顔。我ながら自分の単純思考に笑ってしまう。それでも頭の片隅に居場所を作ったアイデアは掻き消えてくれない。ほうきを傍らに横に倒し、そのまま地面に膝をつけると四つん這いの格好になる。じっと手元に目を凝らした。頭の中に元の世界の曲がリフレインする。しおりにしようか、それともキーホルダー……は流石にトレイくんも使いにくいかな。もしも見つけられたらしおりにしてプレゼントしよう。四つ葉のクローバーの花言葉は幸福。少し歳の離れた友人にプレゼントしても可笑しくはない。
「探し物はなんですかー……見つけにくいものですかー……っと。」
どうせ誰も来ないだろうし、と頭の中をループしていた曲の一節を口に出すと何故だか探し物が捗る気がするのは日本人の性だろうか。あたしだけじゃないことを祈る。
指先でシロツメクサの花をずらし、クローバーの葉っぱの枚数を視線で確認する。何度かそれらしい物を見つけはしたが、いざ摘み取ってみると普通の三つ葉のクローバーだった。残念。
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