五ェ門さん
『…ん?』
今日という日が終わる頃、寝仕度を整えている自分の元に一匹の鳩が飛んできた。
どうやら窓を開けっぱなしにしていたらしい。一人暮らしなのに警戒心が無さすぎるな、と自分を戒めつつその鳩から手紙のついた花を受けとる。
『桃の花…?』
鳩を使って届けてくるということは、あの一味____以前知り合ったルパンたちだと思うのだが、花までついてきたのは初めてで首を傾げた。
丁寧にくくりつけてある手紙を開くとそこには
「今夜会いに行く」
とだけ達筆な文字で書いてあった。
この字はどう考えても五ェ門だろう。相変わらず綺麗な字である。これを梅の枝につけて鳩に運ばせている恋人の様子を思い浮かべ、思わず笑みがこぼれた。
さて、今夜来るというのなら準備をせねばならない。寝間着から着替え、髪を整えるための櫛を探す。
「…櫛ならここにあるぞ」
『ああ、ありがとう…って五ェ門!?いつからそこに』
櫛を差し出した相手は窓際に寄りかかり、刀を大事そうに抱えていた。まだ万全な状態ではない姿を見られたのだと覚え顔が熱くなる。
「…安心しろ、着替えは見てない」
『本当に?』
「本当だ」
少しの沈黙の後、二人で目を合わせ笑った。窓際では寒いだろうから座るように促すと、五ェ門はすぐに済ませるからいいと断った。
『で、今日は何の御用で?』
「…桃の花」
『?』
「…桃の花の花言葉を知っているか?」
『いや、知らないけど…』
花言葉なんて可愛らしいことには生憎興味がないため、首を横に振る。そうか、と少し残念そうに肩を落とした後、五ェ門が再び口を開いた。
「…今日は、キュウコンの日だそうだ」
『キュウコン?』
「ああ、だからその花をお主に贈った」
五ェ門が自分の手元にある桃の花を指差す。はて、桃の花は球根であっただろうか。それにしてもそんな理由で花を贈ってくるとはなかなか珍しい。
『でも、それなら花を贈るだけで良かったんじゃないの?』
「いや、そうはいかないだろう
こういうのはちゃんと口で伝えるべきだ」
どうやら五ェ門と話が噛み合ってない。頭の中がクエスチョンで一杯になりそうなのをどうにか振り払う。
『ねえ五ェ門、それってどういうこと?』
「つまり…その、こういうことだ」
五ェ門が流れるように跪き袖から箱を取り出す。
「拙者と…これからの生涯を共に過ごしてはくれないだろうか」
『…え?』
真剣な五ェ門の眼差しと開けられた箱のなかに入った簪を見比べ、ようやく状況を理解した。
キュウコンって、そっちの意味だったのか。
理解したとたん心臓がはねあがり、全身を血が駆け巡る。すっかり火照った頬をおさえながら、自分はゆっくり頷いた。
「ありがとう…幸せにする
絶対だ」