だいすきを伝えて(ミルムル)
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目を開けると、ボクたちは……さっきまでいた、お兄たまの部屋のベッドの上で、向かい合って手を繋いでいたでしゅ。窓から差し込む茜色の光が、まるで夢の終わりを告げているようでしゅ。
「お兄たま……さっきのは、夢……だったんでしゅか?」
「夢なんかじゃねーよ。おめーもオレも憶えてんだから」
夢なんかじゃないでしゅよね……胸の中には、ガイア族の皆しゃんの言葉と、さっき交わしたお兄たまとの熱い決意が、確かに残っていましゅ。
「……ムルモ、一番星見ようぜ」
「一番星、でしゅか?」
お兄たまが、ベッドから降りながらボクに言いましゅ。その声はいつものぶっきらぼうな感じに聞こえましゅが、どこか吹っ切れたような、力強さがこもっていましゅ。
「あいでしゅ、お兄たま!」
ボクも元気よく返事をして、お兄たまの大きな手をぎゅっと握りましゅ……もう、この手を離したくないんでしゅ。絶対 に。
ふたりで部屋の窓辺に立ち、茜色からすみれ色に変わろうとする妖精界の空を見上げましゅ。遠くには、一番星がキラリと、まばゆく輝き始めていましゅ。
「ムルモが生まれたのは、ちょうどこの時間なんだよ。夕方になって、空には一番星が輝いてて……ほら、あのへんとかさぁ、おめーの髪の色みてえだろ……」
お兄たまは夕焼け空のすみれ色の部分をぴんと指差すでしゅ。そして、帽子から覗くボクの髪をさらりと指ですいてから、頭を優しく撫でてくれましゅ。
「ムルモ、もう二度とお前を悲しませたりしねえ。お前が心から笑って暮らせる……そんな妖精界にしてやらぁ……!」
「……ボクも、お兄たまをもう泣かせたりしましぇん。これからは、ふたりで一緒に頑張るでしゅ……!」
ボクはお兄たまに寄り添って、とびっきりの笑顔のプレゼントをしましゅ。お兄たまも少し照れたように……でも嬉しそうに笑ってくれましゅ。その時でしゅ。
バンッ! と大きな音と共にドアが開け放たれ、ボクたちの静かな時間を破る声が響きましゅ……お兄たまとボクが驚いて振り向くと、目の前にはカンカンに怒ってほっぺを真っ赤にしたお父たまが立っていましゅ……!
『ミルモにムルモ……! お前たち、いったい今までどこへ行っておったのだ……! 心配したんじゃぞ!』
「げっ……親父!」
「お父たまっ!? あの、これには深ーいわけがあるのでしゅ……!」
ボクとお兄たまは、まずい! と思って窓から外に逃げようとしゅると、お父たまが持っていた王様 のステッキを床にトントンと叩きつけましゅ。
「ええい、逃げるなぁ! ふたりともおしおきルーム行きじゃあ! 無断で姿を消すとは何事じゃ! わしがどれほど心配したと…いててててっ……!」
ボクたちに向かってステッキを振りかざそうとしたお父たまは、突然胸を押さえてガクッとその場に崩れ落ちてしまったでしゅ!
「国王様!」「マルモさん!」
「国王様、どうかご無理なさらず、安静……! にするのですにゃ……」
「マルモさん、ベッドから勝手に抜け出されては困ります!」
ちょうど部屋に入ってきたゲンパしゃんとナーシ先生が、阿吽の呼吸で倒れそうなお父たまを両側から支えましゅ。
「む、むう…しかし、ゲンパよ…ミルモと……ムルモが無事なのか、確かめねば……」
「ミルモくんと……ムルモくん!?」
ナーシ先生がハッとしたようにボクたちの方を見ると目をキラキラとさせて、ボクたちの方へ駆け寄りましゅ。
「……ふたりとも、無事だったのね! よかった……! 心配したのよ、苦労をかけてごめんなさいねぇ……」
ナーシ先生はボクとお兄たまの手がまだ繋がれているのを見て、一瞬驚いたような顔をしましゅが、すぐに優しく微笑んで尋ねながら、ボクの脈をとったり、触診をはじめましゅ。
「ムルモくん、もう身体は痛くない? 苦しくない?」
「はい! もうなんともありましぇんよ。すっかり元気でしゅ!」
「ええ、そうみたいねぇ……脈も落ち着いてるし、顔色もとても良いわ。……念のため、これも診ておくわ」
ナーシ先生は魔法スコープを取り出して覗き込みましゅ。そして、「あら!?」と小さく声をあげたでしゅ。
◆
いつの間にか診察に加わっていたゲンパしゃんが、ボクの脈を確かめてから、ボクとお兄たまの胸を順番に魔法スコープで診ていきましゅ。しばらくして「ほう……」と小さく声をあげると、ポツリと呟きましゅ。
「……これは、『魂の絆』ですにゃ」
「父さん、ご存知なの?」
「うむ。昔読んだ、古い古い医学書に記されておった。まさか現代で、しかもこのような形でお目にかかれるとは……驚き、ますにゃ!」
ゲンパしゃんは魔法スコープを下ろしたあと、ニコニコと、そして深く感心した様子でボクたちを眺めましゅ。
「『魂の絆』は、非常に強い……精神的! な結びつきを持つ妖精同士が、共に大きな困難……それこそ……生死の境! を乗り越えた時に生まれるものと言われる、とても……稀! なものとされておるんにゃ。
しかし…記録によれば、その元は……『恋心』! であったはず……。恋心が変化したものか、それとも恋心とは全く異なる、より深い心の繋がりなのか……実に興味深く、不思議なものにゃ……」
「それで、ムルモくんの身体はもう大丈夫なの?」
ナーシ先生が確認しましゅ。
「うむ、それなら心配はいらんにゃ。この通りムルモ様は元気いっぱいにゃ。薬を出す必要もない……イヤイヤ病は、見事に……完治! ですにゃ!」
「ムルモ〜、本当に治っちまったんだな!」
「そうみたいでしゅねえ、お兄たま!」
ボクとお兄たまはぱちくりと目を見合わせて、にっこりと笑い合うでしゅ。
ゲンパしゃんは満足そうに頷くと、目を閉じて何か考え込んでから、部屋をトボトボと歩いて出ていこうとしましゅ。
「わたしはこれからこの『魂の絆』について、緊急の論文をまとめねばならんから、国王様のことはナーシに任せるにゃ。歴史的な……大発見! にゃ!」
「もう父さんったら。マルモさんのこと放っておいて……!」
ナーシ先生は困った様子でゲンパしゃんを眺めると、ボクとお兄たまに向き直って、ニッコリと笑うでしゅ。
「ミルモくんにムルモくん、本当に……よく頑張ったわ。これからも、ふたりでチカラを合わせるのよ……
安心したとばかりに、ナーシ先生がにっこりして手を叩くでしゅ。
「さてと、アタシはマルモさんをベッドに寝かしつけるわ……」
ナーシ先生がお父たまのもとに駆け寄ろうとしたその時……ガチャン! と、大きな音をたてて、クローゼットの扉が開くでしゅ……なんと、楓しゃんやリルムしゃんたちが雪崩みたいに転がり出てきて、折り重なるように床にドサッと倒れ込んだでしゅ!
「うーん……、ここ狭いよぉ……あっ! ミルモにムルモちゃん、告白成功したんだね、おめでとう!」
山の下敷きになっている楓しゃんがボクたちを見て、まるでドッキリが大成功したかのような、うきうきとした表情で挨拶をしゅるでしゅ。
「……しょ、しょんな……!?」
「う、う……うわあ……! なんて日だあ〜!」
お兄たまが、頭を帽子ごと抑えて床にしゃがみ込むでしゅ。耳が真っ赤でしゅ……。ボクも顔から火が出そうで、思わず触覚がしょんぼりとしおれてしまいましゅ。み、見られてたなんて……!
「もう、あなたたち……」
これにはいつもにこやかなナーシ先生も、やれやれといった風に額に手を当てていましゅ。
「ねえねえミルモ〜、『ムルモ、一番星見ようぜ』とか、普段のミルモだったら絶対考えらんないよ〜! あっはは〜!」
「楓様、からかってはいけませんわ。ミルモ様にとって、あれは大切なムルモ様への……精一杯の愛情表現なのですわ! ……おふたりとも、おめでとうございます!」
楓しゃんはゲラゲラ笑いながら、お兄たまのことを全力でからかってきましゅ。……これが普段積もり積もった恨みなのでしゅね。リルムしゃんは楓しゃんを諌めたあと、ボクたちに綺麗な笑顔を向けてくれましゅ。リルムしゃん、ありがとうございましゅ…。
「これは特集記事……いいえ号外よ! トモン、チーエ、ばっちり抑えたわね?」
「あぁ~ん、ブレてるかも〜! 途中から泣きっぱなしだもん〜!」
ワカバしゃんの手には、キラリと光る最新型のボイスレコーダーが握られていましゅ! ま…ましゃか、さっきのお兄たまとの大事な会話まで録られてるんじゃ…!? そう思うと、背筋がゾクッとしましゅ! トモンしゃんはカメラを持つ手をぷるぷると震わせて、服の袖でぐしぐしと涙を拭ってましゅ。……しょれにしても、クローゼットの中でどうやって写真を撮っていたんでしゅかね?
「もう……ワカバちゃんったら。ムルモくんもミルモくんもすごく良かったわよ。ふたりともおめでとう! さあて、どんな見出しにしようかしら〜?」
一方、チーエしゃんはどこか楽しそうに微笑みながら、愛用の手帳にさらさらとペンを走らせていましゅ。…やっぱり記事にする気満々みたいでしゅ! もし新聞が出たら、きっと妖精界中が大パニックでしゅよ!
「ボクたちのこと、本当に記事になっちゃうんでしゅね……」
「仕方ねえよ。これも運命だ……」
ボクがこれからのことを考えて青くなっていると、隣でお兄たまがポンと軽く肩を叩いてくれましゅ。その手は、なんだか『ま、なるようになるさ』って言ってるみたいで、少しだけ安心しましゅ。
楓しゃんたちが倒れている山のてっぺんから、桜色のうさぎの耳がぴょこんっと出てるでしゅ……これって、もしかして……!?
「ぷはぁーーー!」
思いっきり息を吸い込んで、山のてっぺんから顔を出したパピィは、トレードマークのうさ耳帽子をピクピク動かしながら、一目散にボクのそばに駆け寄ってきましゅ!
「おめでとうムルモ! ちゅいに、ちゅいに……やったのね! この意地張ってた、弱虫で泣き虫の腹黒で、おばかたんだったムルモが……ミルモたんとや〜っと結ばれたのね……!」
「このこの〜、すんげえ言われようじゃねーかぁ!」
「お兄たまは黙っててくだしゃい!」
パピィ、一言も二言も三言も多すぎなんでしゅよ……! お兄たまも、ボクの肩をバンバン叩いてくるなでしゅ! パピィはお兄たまの顔を見て、こう自信満々に宣言しましゅ。
「ミルモたんも、ムルモを受け止めるところ……凄 くカッコよかったわ! ムード作りも自然に出来ててホント最高だし、さすが恋の妖精やってるだけあるわ! あたちも……あんたたちみたいな関係になれる人すぐにでも見ちゅけて、絶対にくっついてみちぇるわ!」
「ひぃぃっ…! パ、パピィ、おまえってホントませてんな……」
お兄たまの顔がきれいなくらいに、ゾッと青ざめるでしゅ。当のパピィは全然 気にしてないみたいでしゅが……。
「ちょんなの常識 よ? あったり前じゃない!」
パピィはまるで大好物のキャンディを食べているときのような、とびっきりの笑顔を見せてきてボクの手を強く握ってきましゅ……! でも、しょんなパピィの顔を見てるとボク、なんだか寂しくなってくるでしゅ。
「パピィ……ボク……」
「どうちたのよ?」
「嬉しいでしゅ……けど、なんだかとっても寂しいんでしゅ……パピィがいなかったら、ボク……」
――あんな告白なんてできなかったでしゅ。もういっぱい怒られたり、励まされたり、色々とアドバイスしてもらえないって思うと悲しくって、胸が張り裂けそうになって、胸の前に手を置きましゅ……ホント、涙が出ちゃうでしゅ。
「パピィ……」
パピィがボクにほっぺをくっつけて、ぎゅっと、それでいて優しくハグしましゅ。
「ムルモのおばかっ! あたちまで泣けてきたじゃないっ……! ムルモとミルモたんとが結ばれたように、あたちとムルモも結ばれているのよ……!」
パピィがボクの顔を離して、涙を手で振り払うでしゅ。今度はボクの肩を持って、眩しいくらいのとびっきりの笑顔を、パピィはボクに見せてきたでしゅ。
「まだまだあたちたちの友情は続くのよ。これからまた、うーんと……たっくさんレクチャーちてあげるわ! ミルモたんとも、まだデートちてないんでちょ?」
「光の中で一緒に喋ったでしゅよ。しょれに、ガイアの里にも行ったでしゅ……」
「光? ガイアの里? あんた何言ってんの? ――ちょういえばあんたたちの様子、なんとなく変わったわね。なんだか凛々しく、大人っぽくなったような……ほっぺつねるわよ!」
パピィは「?」という顔をして、ボクの顔を見ながら、むにゅっとボクの自慢のぷにぷにほっぺを両手で掴むと、びよーんと容赦なく引っ張るでしゅ……!
「ほっぺは変わってないわね……」
「あっ……なにひゅるんでしゅか!」
「ミルモ……ムルモ……おまえたちに、話をしなければな……」
皆しゃんがわいわいしている中、お兄たまのベッドで静かに寝ていたお父たまが突然、布団を跳ねのけるでしゅ。ゆっくりと起き上がって、身体を起こすでしゅ。
「マルモさん、絶対安静よ! あのあと、ミルモくんの部屋の前で倒れていたときはびっくりしたんですから……!」
「いやじゃ! この妖精界に関わることなのじゃ……! わしは確かに驚きと悲しみのあまり腰を抜かしたが、そのようなことではへこたれんぞ……ガクガクブルブル……」
そばにいたナーシ先生が寝かしつけようとしましゅが、お父たまは聞きましぇん。お父たまは腰を抜かしたんでしゅね……。
ちょうどその時、部屋の外の騒ぎを聞きつけたのか、心配そうな顔をしたお母たまが、静かに扉を開けて部屋に入ってきたでしゅ。
「いいではありませんか。……あなた、話ってなんですの?」
そう言いながら、お母たまはお父たまのおそばへと行きましゅ。
「……仕方ないわねぇ。言い出したら聞かないんだから」
ナーシ先生は小さくため息をつきましゅ。
「ですがマルモさん、少しでも無理そうでしたら、今度こそベッドに戻ってもらうという約束ですよ!」
「腰を抜かしただけではないか!」
「いいえ、いけません!」
◆
皆しゃんがお父たまが寝ているベッドの前に集まるでしゅ。ボクとお兄たま、お母たま、ナーシ先生がお父たまのすぐそば、リルムしゃんや楓しゃん、パピィ、ニュース三人娘もその近くにいましゅ。でしゅが……。
「あのよ〜、オレやムルモ、おふくろやリルムはともかく、なんで他のやつらまで居合わせてんだ?」
「ミルモのいじわる! わたし、ミルモのパートナーよ! 一か月チョコ抜きになっても良いの?」
「お、おい! ……それは絶対 やめろ! そんならオレだって、楓に魔法使ってやらねーぞ!」
「望むところよ! ミルモがいなくたって結木くんと両思いになってやるんだから〜! ミルモのへちゃむくれ〜!」
「んだとコラァ〜! もういっぺん言ってみろ!」
「へちゃむくれ、ずんぐりむっくり、おたんこなす〜!」
「こんにゃろー! 付け足すなぁー!」
「ふたりともやめて、マルモさんは具合が悪いのよ……」
お兄たまと楓しゃんはケンカを始めたでしゅ。ナーシ先生が止めに入ったでしゅが、止まらないでしゅ。もう、どうしゅればいいんでしゅか……?
「まあまあお二人とも。楓様もご一緒に、マルモ国王様のお話をお聞きになりましょう!」
「さっすがリルムちゃん。ミルモと違って優 しい〜!」
リルムしゃんがすかさず、ふたりの間に入って仲裁しましゅ。……本当にリルムしゃんは、ふたりのことよく分かってましゅね。
「はぁ~、これだから楓は……てめーがいると緊張感が出ねえんだよ……」
「ミルモだっていつもと変わんないじゃない」
「楓、てめー……!」
「まあまあ」
「あのぅ……楓しゃんやリルムしゃんはともかく、なんで他の皆しゃんも居るんでしゅか?」
「いちゃ悪いの? べっー!」
「まあまあ。パピィちゃんや、皆さんがいたほうが賑やかでいいじゃない」
パピィがボクを思っきり睨みつけてあっかんべーをしてくるでしゅ。ボクはパピィにお返ししたいところでしゅが、お母たまが間に入って、ボクとパピィの肩にそっと手を置きましゅ。
「あたしたちは取材のためでーす! 元はと言えば……ムルモ王子が倒れて運び込まれたときに、城中が大パニックになっていたので、『妖精界に暮らす全国民にお知らせするためなら……』ということで取材許可が降りたんです!」
「これは緊急事態だってことで、特別にマルモ国王とサリア王妃、それと大臣さんから直々に『緊急取材パス』をいただいたんですから! ほら〜! これもムルモ王子のおかげよ!」
ワカバしゃんとトモンしゃんがそう言って、首にかけているカードを自慢げに見せるでしゅ。
「それ、ニセ物じゃねーか?」
「あれは正真正銘、国王が認める……本物の『緊急取材パス』じゃ! わしのサイン入りじゃから偽造の心配もないわい〜!」
「それにその子たち、ムルモのお友達でしょう?」
「マジかよ、ぎょえ〜……」
『ミルモ王子、それっていったいどういう反応なの〜!?』
ワカバしゃんとトモンしゃんがお兄たまに詰め寄るでしゅ。
「チーエちゃんも『緊急取材パス』を貰ってるの?」
「もちろんよ〜。じゃ~ん!」
「私も実物は初めて見ますわ……!」
楓しゃんに聞かれて、チーエしゃんが手帳をしまって、取材パスを取り出して見せるでしゅ。リルムしゃんが感激していましゅ……!
「マジかよ……! ちゃっかりしてんなぁ……」
これにはお兄たまも呆れ顔でしゅね。
ボクは部屋の入り口のほうを見るでしゅ。部屋の扉の前には、大臣しゃんや王国警備兵しゃんたちもこっそりと覗いていらっしゃいましゅ。……ということは本当に妖精界に関わる、かなり大事な話なんでしゅね。
「おほん! みなに話をするのは他でもない。この妖精界の掟のことじゃ」
お父たまがみんなを見回してから、話し出すでしゅ。
「妖精の掟がどのようにできておるか、みなはご存知か?」
「そんなの親父が決めてんだろ。ま、親父も時々破ってるけどなぁ〜」
お兄たまが腕を組んで、ぷいとそっぽを向くでしゅ。
「ミルモ〜! お前というやつは……ゆるさーん! 一週間お菓子没収じゃあっ!」
「げっ! 本当のことじゃねーかっ! ヘンなヒゲのクソ親父!」
「一週間では短い、一か月じゃあ〜っ!」
「だからなんでそうなるんだよ〜!」
お父たまとお兄たまのケンカが始まったでしゅ。お父たまはポンと大太鼓を出すと、お兄たまもそれに合わせて楽器のマラカスを出しましゅ。……大変でしゅ!
「マルモで……」
「ミルモで……」
「ダメよ!」
「ふたりともやめて!」
皆しゃんが息を呑む中、ナーシ先生と楓しゃんがふたりの間に割って入るでしゅ……! その場の空気が緊張感に包まれましゅ。
「はっはっは〜〜!」
突然、お父たまが窓ガラスが割れるくらいの大声で笑い出しましゅ。
「皆の衆、これは掟とはどんなものかを説明するための演技じゃよ、え・ん・ぎ!」
ズコーン! その場にいた全員がずっこけましゅ。
「演技だとぉーー!? 騙しやがったな〜!」
「本気でやらんと演技にならんじゃろ〜? ミルモがノッてきたからよかった、よかった〜!」
「チキショーッ! マジで没収されると思ったじゃねーか!」
「あっかんべー! 本当に没収してやっても良かったんじゃぞ〜」
カンカンにキレたお兄たまが素早く起き上がって、悔しそうに地団駄をドンドンと踏むでしゅ。
「本当にケンカはじめると思ったよ……」
「マルモさん、あなたって人は……!」
楓しゃんもナーシ先生も額に汗を滲ませながら、呆れた表情をしていましゅ。
「お母たま、さっきのお父たまは本当に演技だったんでしゅか? ボク、本当にケンカはじめちゃうと思ったでしゅ」
ボクは隣にいたお母たまに慌てながら聞いたでしゅ。
「そうねえ。ただ説明するだけでは分からないと思って、あの人は演技をしてみたのよ。なにか大切なことを、全力で伝えなければならない時が来たのでしょう」
「お父たまが、本気で伝えたいこと……!」
ボクは、急に緊張してきて胸の鼓動が速くなりましゅ。
「さて、本題に戻るぞ。さっきのような『お菓子没収の刑』といったものがわしの作った、すべての妖精が守るべき掟じゃ。
他にも『妖精は一家にひとりまで』や、『妖精が人間界でやたらと魔法を使ってはならん』というような人間界で修行に励む妖精のための掟、『朝の挨拶は、太陽に向かって「おはようございマッスル!」と元気に叫ぶこと!』といった、妖精たちが元気に暮らすために加えた掟もあるのう〜!」
「やっぱり親父が掟作ってんじゃねーか!」
「ミルモ、最後まで話を聞けい。でないと本当にお菓子没収じゃぞ」
「ケッ、分かったよ。聞きゃいいんだろ、聞きゃあ……」
お兄たまがあぐらをかいて、ドスンと床に座り込むでしゅ。
「掟には二種類ある。さっき言ったような、その時々の王様が作った掟と……『特別な掟』の二種類じゃ」
「『特別な掟』ってのはなんなんだよ?」
「わしもこの話をするのは初めてじゃ。いや……何をどう話せば良いのかも、わしには分からなかったのじゃ……なにせ『特別な掟』とは、ルールやマナーといった次元のものではなく、すべての妖精に関わる、いわばこの妖精界の柱であるからのう……」
「……お父たま、その『特別な掟』とはいったい何なのでしゅか?」
ボクはたまらず、お父たまに尋ねましゅ。
「ムルモにミルモ……そして、ここにいるみなの者よ……どうか聞いてくれ」
お父たまは今まで見たことのない程、真剣な表情をして話し出すでしゅ……。
「『特別な掟』――それは、紙に書かれた決まり事というわけではないんじゃ。じゃが、ガイア族が世界を創った時よりずっと、この妖精界の根っこに流れ続けている……わしら王族がご先祖様の時代から、今この瞬間までこの心で受け継いできた、大切な教えのようなものじゃ……」
お父たまの言葉に、部屋にいる皆しゃんが息を呑んで聞き入っていましゅ。ボクも、ゴクリと唾を飲み込みましゅ。
「その掟が示しておるのは、ただ一つ……この妖精界における、真の『[[rb:力>チカラ]]』がどこにあるか、ということじゃ」
「真の、チカラ……?」
お兄たまが確かめるように呟きましゅ。
「うむ。多くの妖精は五つの要素……『火』『水』『土』『風』『雲』の魔法を完璧にマスターして、楽器から五つの色の光を放つことこそが、この妖精界の王の証であり、妖精界で最も偉大な力だと考えておる。わしもそう教えられて育った。じゃからミルモ、お前にもそれを求めてしまった……」
お父たまはお兄たまの方を見て、少しだけ悔しそうな、しょして……苦しそうな顔をしましゅ。お兄たまは……お父たまから目を逸らして、俯いていましゅ。
「お兄たま……」
ボクはお兄たまの方に寄って、そっと手をとって、両手で持って繋ぎましゅ。繋いだ手からお兄たまの手の温もりが、じわりじわりと伝わってきましゅ――しょれに…なんとなくでしゅが、お兄たまの気持ち……心の声が伝わってきましゅ。
――ミルモ! 力を引き出す楽器の持ち方はもっと、こうじゃ……!
――このクソ親父! てめー、ムルモにまでこんなことやらせる気かよ!
――それがわしら王族の務め。逃げだすことも、やめることも許されんのだ……。
――だったら……オレが全部引き受ける。あいつに……ムルモにまでこんなこと、やらせるわけにはいかねーからな!
お兄たまはこんなこと、ひとりでやってきたんでしゅね。誰にも言わず、ひとりぼっちで抱え込んで……。
「じゃがな、それは『力』の一つの姿に過ぎんかったのかもしれん。『特別な掟』が示す本当の、そして最も強い力とは……」
お父たまの視線が今度はボクと、そしてボクと手を繋いでいるお兄たまに、真っ直ぐに向けられましゅ。
「お前たち二人がたった今、わしらの目の前で示してくれた……心の底からの『[[rb:願>ねが]]う[[rb:力>チカラ]]』、そのものなのじゃ」
ボクは思わず、胸に手をあてるでしゅ。
「願う力だと……? それが、掟って……いったいどういう意味なんだ……!?」
お兄たまも驚きを隠せないようでしゅ。
「そうじゃ。他の誰かを心の底から大切に想い、その幸せを強く……強く願う優しい心。そしてその願いに応え、どんな困難をも共に乗り越えようとする、揺るぎない『絆』……それこそが妖精が持っている最も素晴らしい、そして何よりも強い力であると『特別な掟』は静かに示しておる」
お父たまがお兄たま……そしてボクの方をみて、言葉を続けましゅ。
「――五色の光を放つ魔法の技 はもしかすると、その力を引き出すための『形 』に過ぎんのかもしれん。真の王たる者は目に見える力だけでなく、その力の源となる『心 』…すなわち、[[rb:願>ねが]]いと[[rb:絆>きずな]]をも深く理解し、受け継ぎ……そしてこの身を持って示すことなのじゃ……」
隣でお母たまが、静かに頷いていましゅ。
「わたくしも陛下から直接、この掟について詳しくお聞きしたことはありませんでした。ですが――妖精界に伝わる古い歌や、ガイア族のお話の中に、[[rb:願>ねが]]う心と[[rb:絆>きずな]]の力が魔法をも超える、素晴らしい奇跡のチカラを生む――という教えがあることは、聞いておりましたわ」
「ミルモにムルモ」
お父たまが、再びボクたちを見つめましゅ。
「お前たちの間に生まれた……あのゲンパが言う『魂の絆』はわしらが忘れかけておった、この『特別な掟』の本当の意味を、改めて思い出させてくれたのかもしれん……」
「じゃからこそ、問わねばならんのじゃ。お前たちはその特別な力と絆をもって、これからどうするつもりか? 古くからある『王が作る掟』……例えば、第一王子の婚約や世継ぎのしきたりといったものに、どう向き合い、どう乗り越えていく気か、お前たちに聞こうではないか……」
お父たまは厳しいけれど、どこかボクたちの答えを待っているような……そんな目で、じっとボクたちを見つめていましゅ――。
古い、とても難しい掟の問題……『魂の絆』をもつボクたちは、それとどう向き合っていくのか……。
――お兄たま、ボク……。
――ムルモ、分かってらぁ。
ボクはお兄たまを見上げましゅ。お兄たまもボクを見て、力強く頷き返してくれるでしゅ。ボクの……いや、ボクたちの気持ちはもう、決まっていましゅ。
――答えは、ボクたちの中にあるんでしゅ。
まずお兄たまが、お父たまに向かって、はっきりとした声で言いましゅ。
「親父の言う『特別な掟』の本当の意味なんて、まだ分からねえ。けどな、ひとつだけ確かなことがある」
お兄たまは、繋いだボクの手をぎゅっと握りましゅ。
「オレは、こいつが……ムルモがそばにいなきゃダメなんだ。掟がどうだろうと関係ねえ。オレはこの『魂の絆』とともにこいつと生きる。本当の幸せ のために信じて、愛して……守り抜く。それがオレの見つけた、本当の『チカラ』だ!」
ボクも、お兄たまの隣で胸を張って言いましゅ!
「お兄たまの苦しみも、悲しみも……これからはボクが一緒に背負いましゅ。そして、ずっと お兄たまを支えましゅ! この『魂の絆』のチカラで、どんな掟だって乗り越えてみせましゅ。そしてボクたちの『自由』も、『未来』も、『幸せ』も……絶対 にふたりで創ると約束しゅるでしゅ!」
最後に、ボクとお兄たまは息を吸い込んで、整えて、声を揃えましゅ。
『だから、見ててくれ(くだしゃい)! オレたち(ボクたち)のやり方で、必ず幸せになってみせるからな(ましゅから)!!」」
ボクたちの強い決意の言葉に、部屋は一瞬……しんと静まり返りましゅ。お父たまはまだ難しい顔をしていましゅが、その目の奥にはほんの少しだけ、何かを認めたような光が宿った気がしましゅ。お母たまは目に涙をためて、どこか遠くをみるような……それでいて優しく微笑んでくれましゅ。リルムしゃんも、パピィも、楓しゃんも、ナーシ先生も……皆しゃんがそれぞれの、あたたかい眼差しでボクたちを見守ってくれていましゅ。
「ミルモ……ムルモ……」
お父たまが、鍵の掛かっている重い扉をこじ開けるようにゆっくりと……それでいてしっかりと口を開くでしゅ。
「……ふたりとも、本当に良くやったぞ……!」
お父たまの目にキラリと、真珠のような涙が一粒こぼれ出て、ほっぺを伝って流れ落ちるでしゅ。
「『特別な掟』のひとつ。代々王族に伝わる古文書に、このような言い伝えがこう記されておる……。
――いつか、妖精の世界に生まれてくる子のなかに「魂の絆」という、心の繋がりを持って生まれ、それを目覚めさせる者があらわれるであろう……
妖精の国の王はその身をもって、その者のチカラを見極めなければならない。その者がまこと……つまり本物のチカラを持つ者であるならば、その者たちはこの国の真の王となり、妖精界をより良い世界へと導くであろう……では、ふたりとも手を貸せ」
「あい?」
「こうか?」
お父たまがベッドに座ったまま、ボクたちの前に身体を動かして、ボクとお兄たまの手をがっちりと組み合わせるでしゅ。そして、そのうえにお父たまの両手を置いて、さらに組み固めましゅ。
「ふむ、これは『契りの握手』じゃよ。妖精界では昔から、深い絆で結ばれた者たちが喜びや未来への誓いを込めて、こうして手を重ね合ってきたのじゃ。わしもお前たちの父として、そして王として……この握手にわしの想いを込めよう。お前たちの『魂の絆』が、多くの幸せを生み出すチカラとなることを信じておるぞ」
お父たまは、本当に優しい目でボクたちを見つめてくれていましゅ。その温かさがボクの心にもじんわりと広がってきて、胸がいっぱいになりましゅ。そして……繋いだ手から、もっとしゅごいことが伝わってきたんでしゅ。
――親父、すまねえ……。
――お前には大変な苦労をかけた。だが、もうよい……これからは、自由に生きるのじゃぞ……。
じゅっとお兄たまを苦しめていた、重たい鎖みたいな悲しみがふっと軽くなって、無くなるような……そんな感じがしたんでしゅ。
――けっ、親父らしくねー。
――なんじゃと! 全く、誰に似たんだか……。
――でもよ、ありがとな……!
……お兄たま、やっとお父たまと心が通じたんでしゅね。ボクは自分のことみたいに嬉しくて、安心しましゅ。でも……なんだかふたりには、ボクの知らない長い時間があったみたいで……ほんの少 し、少しでしゅよ! ボクにはとても入れない場所にいるような気がして、うらやましくなっちゃうんでしゅ。
「さて……ミルモにムルモ」
お父たまの手が、ゆっくりと離れていくでしゅ……。お父たまが「ボクたちのお父たま」から「王様 」にパチンと、切り替わったような気がボクには感じたでしゅ。
お父たまは一度ゆっくりと息を吸い込んでから、威厳と……そして愛情の込もった声で言ったでしゅ。
「お前たちは、もはやただの兄弟ではない。この妖精界の未来を担う大いなる[[rb:可能性>かのうせい]]を秘めた……そう、『ミラクルな二人組』としてこのわしが、確かに認めたぞ!」
「ミ、ミラクルな……」
「二人組……だとぉ?」
ボクとお兄たまは、思わず顔を見合わせましゅ。でも驚きと戸惑いだけじゃなく、ワクワクする響きを持つ、なんだかとっても素敵 な言葉でしゅ……!
「そうじゃ。すなわち、お前たちの絆が認められたことになる。本当の意味での……ふたりの旅立ちじゃ!」
まるでこの瞬間 を待っていたかのような、それでいて未来へと、新しい時代の扉が一気にバンと開きそうな……お父たまの宣言でしゅ!
「お兄たま……さっきのは、夢……だったんでしゅか?」
「夢なんかじゃねーよ。おめーもオレも憶えてんだから」
夢なんかじゃないでしゅよね……胸の中には、ガイア族の皆しゃんの言葉と、さっき交わしたお兄たまとの熱い決意が、確かに残っていましゅ。
「……ムルモ、一番星見ようぜ」
「一番星、でしゅか?」
お兄たまが、ベッドから降りながらボクに言いましゅ。その声はいつものぶっきらぼうな感じに聞こえましゅが、どこか吹っ切れたような、力強さがこもっていましゅ。
「あいでしゅ、お兄たま!」
ボクも元気よく返事をして、お兄たまの大きな手をぎゅっと握りましゅ……もう、この手を離したくないんでしゅ。
ふたりで部屋の窓辺に立ち、茜色からすみれ色に変わろうとする妖精界の空を見上げましゅ。遠くには、一番星がキラリと、まばゆく輝き始めていましゅ。
「ムルモが生まれたのは、ちょうどこの時間なんだよ。夕方になって、空には一番星が輝いてて……ほら、あのへんとかさぁ、おめーの髪の色みてえだろ……」
お兄たまは夕焼け空のすみれ色の部分をぴんと指差すでしゅ。そして、帽子から覗くボクの髪をさらりと指ですいてから、頭を優しく撫でてくれましゅ。
「ムルモ、もう二度とお前を悲しませたりしねえ。お前が心から笑って暮らせる……そんな妖精界にしてやらぁ……!」
「……ボクも、お兄たまをもう泣かせたりしましぇん。これからは、ふたりで一緒に頑張るでしゅ……!」
ボクはお兄たまに寄り添って、とびっきりの笑顔のプレゼントをしましゅ。お兄たまも少し照れたように……でも嬉しそうに笑ってくれましゅ。その時でしゅ。
バンッ! と大きな音と共にドアが開け放たれ、ボクたちの静かな時間を破る声が響きましゅ……お兄たまとボクが驚いて振り向くと、目の前にはカンカンに怒ってほっぺを真っ赤にしたお父たまが立っていましゅ……!
『ミルモにムルモ……! お前たち、いったい今までどこへ行っておったのだ……! 心配したんじゃぞ!』
「げっ……親父!」
「お父たまっ!? あの、これには深ーいわけがあるのでしゅ……!」
ボクとお兄たまは、まずい! と思って窓から外に逃げようとしゅると、お父たまが持っていた王
「ええい、逃げるなぁ! ふたりともおしおきルーム行きじゃあ! 無断で姿を消すとは何事じゃ! わしがどれほど心配したと…いててててっ……!」
ボクたちに向かってステッキを振りかざそうとしたお父たまは、突然胸を押さえてガクッとその場に崩れ落ちてしまったでしゅ!
「国王様!」「マルモさん!」
「国王様、どうかご無理なさらず、安静……! にするのですにゃ……」
「マルモさん、ベッドから勝手に抜け出されては困ります!」
ちょうど部屋に入ってきたゲンパしゃんとナーシ先生が、阿吽の呼吸で倒れそうなお父たまを両側から支えましゅ。
「む、むう…しかし、ゲンパよ…ミルモと……ムルモが無事なのか、確かめねば……」
「ミルモくんと……ムルモくん!?」
ナーシ先生がハッとしたようにボクたちの方を見ると目をキラキラとさせて、ボクたちの方へ駆け寄りましゅ。
「……ふたりとも、無事だったのね! よかった……! 心配したのよ、苦労をかけてごめんなさいねぇ……」
ナーシ先生はボクとお兄たまの手がまだ繋がれているのを見て、一瞬驚いたような顔をしましゅが、すぐに優しく微笑んで尋ねながら、ボクの脈をとったり、触診をはじめましゅ。
「ムルモくん、もう身体は痛くない? 苦しくない?」
「はい! もうなんともありましぇんよ。すっかり元気でしゅ!」
「ええ、そうみたいねぇ……脈も落ち着いてるし、顔色もとても良いわ。……念のため、これも診ておくわ」
ナーシ先生は魔法スコープを取り出して覗き込みましゅ。そして、「あら!?」と小さく声をあげたでしゅ。
◆
いつの間にか診察に加わっていたゲンパしゃんが、ボクの脈を確かめてから、ボクとお兄たまの胸を順番に魔法スコープで診ていきましゅ。しばらくして「ほう……」と小さく声をあげると、ポツリと呟きましゅ。
「……これは、『魂の絆』ですにゃ」
「父さん、ご存知なの?」
「うむ。昔読んだ、古い古い医学書に記されておった。まさか現代で、しかもこのような形でお目にかかれるとは……驚き、ますにゃ!」
ゲンパしゃんは魔法スコープを下ろしたあと、ニコニコと、そして深く感心した様子でボクたちを眺めましゅ。
「『魂の絆』は、非常に強い……精神的! な結びつきを持つ妖精同士が、共に大きな困難……それこそ……生死の境! を乗り越えた時に生まれるものと言われる、とても……稀! なものとされておるんにゃ。
しかし…記録によれば、その元は……『恋心』! であったはず……。恋心が変化したものか、それとも恋心とは全く異なる、より深い心の繋がりなのか……実に興味深く、不思議なものにゃ……」
「それで、ムルモくんの身体はもう大丈夫なの?」
ナーシ先生が確認しましゅ。
「うむ、それなら心配はいらんにゃ。この通りムルモ様は元気いっぱいにゃ。薬を出す必要もない……イヤイヤ病は、見事に……完治! ですにゃ!」
「ムルモ〜、本当に治っちまったんだな!」
「そうみたいでしゅねえ、お兄たま!」
ボクとお兄たまはぱちくりと目を見合わせて、にっこりと笑い合うでしゅ。
ゲンパしゃんは満足そうに頷くと、目を閉じて何か考え込んでから、部屋をトボトボと歩いて出ていこうとしましゅ。
「わたしはこれからこの『魂の絆』について、緊急の論文をまとめねばならんから、国王様のことはナーシに任せるにゃ。歴史的な……大発見! にゃ!」
「もう父さんったら。マルモさんのこと放っておいて……!」
ナーシ先生は困った様子でゲンパしゃんを眺めると、ボクとお兄たまに向き直って、ニッコリと笑うでしゅ。
「ミルモくんにムルモくん、本当に……よく頑張ったわ。これからも、ふたりでチカラを合わせるのよ……
安心したとばかりに、ナーシ先生がにっこりして手を叩くでしゅ。
「さてと、アタシはマルモさんをベッドに寝かしつけるわ……」
ナーシ先生がお父たまのもとに駆け寄ろうとしたその時……ガチャン! と、大きな音をたてて、クローゼットの扉が開くでしゅ……なんと、楓しゃんやリルムしゃんたちが雪崩みたいに転がり出てきて、折り重なるように床にドサッと倒れ込んだでしゅ!
「うーん……、ここ狭いよぉ……あっ! ミルモにムルモちゃん、告白成功したんだね、おめでとう!」
山の下敷きになっている楓しゃんがボクたちを見て、まるでドッキリが大成功したかのような、うきうきとした表情で挨拶をしゅるでしゅ。
「……しょ、しょんな……!?」
「う、う……うわあ……! なんて日だあ〜!」
お兄たまが、頭を帽子ごと抑えて床にしゃがみ込むでしゅ。耳が真っ赤でしゅ……。ボクも顔から火が出そうで、思わず触覚がしょんぼりとしおれてしまいましゅ。み、見られてたなんて……!
「もう、あなたたち……」
これにはいつもにこやかなナーシ先生も、やれやれといった風に額に手を当てていましゅ。
「ねえねえミルモ〜、『ムルモ、一番星見ようぜ』とか、普段のミルモだったら絶対考えらんないよ〜! あっはは〜!」
「楓様、からかってはいけませんわ。ミルモ様にとって、あれは大切なムルモ様への……精一杯の愛情表現なのですわ! ……おふたりとも、おめでとうございます!」
楓しゃんはゲラゲラ笑いながら、お兄たまのことを全力でからかってきましゅ。……これが普段積もり積もった恨みなのでしゅね。リルムしゃんは楓しゃんを諌めたあと、ボクたちに綺麗な笑顔を向けてくれましゅ。リルムしゃん、ありがとうございましゅ…。
「これは特集記事……いいえ号外よ! トモン、チーエ、ばっちり抑えたわね?」
「あぁ~ん、ブレてるかも〜! 途中から泣きっぱなしだもん〜!」
ワカバしゃんの手には、キラリと光る最新型のボイスレコーダーが握られていましゅ! ま…ましゃか、さっきのお兄たまとの大事な会話まで録られてるんじゃ…!? そう思うと、背筋がゾクッとしましゅ! トモンしゃんはカメラを持つ手をぷるぷると震わせて、服の袖でぐしぐしと涙を拭ってましゅ。……しょれにしても、クローゼットの中でどうやって写真を撮っていたんでしゅかね?
「もう……ワカバちゃんったら。ムルモくんもミルモくんもすごく良かったわよ。ふたりともおめでとう! さあて、どんな見出しにしようかしら〜?」
一方、チーエしゃんはどこか楽しそうに微笑みながら、愛用の手帳にさらさらとペンを走らせていましゅ。…やっぱり記事にする気満々みたいでしゅ! もし新聞が出たら、きっと妖精界中が大パニックでしゅよ!
「ボクたちのこと、本当に記事になっちゃうんでしゅね……」
「仕方ねえよ。これも運命だ……」
ボクがこれからのことを考えて青くなっていると、隣でお兄たまがポンと軽く肩を叩いてくれましゅ。その手は、なんだか『ま、なるようになるさ』って言ってるみたいで、少しだけ安心しましゅ。
楓しゃんたちが倒れている山のてっぺんから、桜色のうさぎの耳がぴょこんっと出てるでしゅ……これって、もしかして……!?
「ぷはぁーーー!」
思いっきり息を吸い込んで、山のてっぺんから顔を出したパピィは、トレードマークのうさ耳帽子をピクピク動かしながら、一目散にボクのそばに駆け寄ってきましゅ!
「おめでとうムルモ! ちゅいに、ちゅいに……やったのね! この意地張ってた、弱虫で泣き虫の腹黒で、おばかたんだったムルモが……ミルモたんとや〜っと結ばれたのね……!」
「このこの〜、すんげえ言われようじゃねーかぁ!」
「お兄たまは黙っててくだしゃい!」
パピィ、一言も二言も三言も多すぎなんでしゅよ……! お兄たまも、ボクの肩をバンバン叩いてくるなでしゅ! パピィはお兄たまの顔を見て、こう自信満々に宣言しましゅ。
「ミルモたんも、ムルモを受け止めるところ……
「ひぃぃっ…! パ、パピィ、おまえってホントませてんな……」
お兄たまの顔がきれいなくらいに、ゾッと青ざめるでしゅ。当のパピィは
「ちょんなの
パピィはまるで大好物のキャンディを食べているときのような、とびっきりの笑顔を見せてきてボクの手を強く握ってきましゅ……! でも、しょんなパピィの顔を見てるとボク、なんだか寂しくなってくるでしゅ。
「パピィ……ボク……」
「どうちたのよ?」
「嬉しいでしゅ……けど、なんだかとっても寂しいんでしゅ……パピィがいなかったら、ボク……」
――あんな告白なんてできなかったでしゅ。もういっぱい怒られたり、励まされたり、色々とアドバイスしてもらえないって思うと悲しくって、胸が張り裂けそうになって、胸の前に手を置きましゅ……ホント、涙が出ちゃうでしゅ。
「パピィ……」
パピィがボクにほっぺをくっつけて、ぎゅっと、それでいて優しくハグしましゅ。
「ムルモのおばかっ! あたちまで泣けてきたじゃないっ……! ムルモとミルモたんとが結ばれたように、あたちとムルモも結ばれているのよ……!」
パピィがボクの顔を離して、涙を手で振り払うでしゅ。今度はボクの肩を持って、眩しいくらいのとびっきりの笑顔を、パピィはボクに見せてきたでしゅ。
「まだまだあたちたちの友情は続くのよ。これからまた、うーんと……たっくさんレクチャーちてあげるわ! ミルモたんとも、まだデートちてないんでちょ?」
「光の中で一緒に喋ったでしゅよ。しょれに、ガイアの里にも行ったでしゅ……」
「光? ガイアの里? あんた何言ってんの? ――ちょういえばあんたたちの様子、なんとなく変わったわね。なんだか凛々しく、大人っぽくなったような……ほっぺつねるわよ!」
パピィは「?」という顔をして、ボクの顔を見ながら、むにゅっとボクの自慢のぷにぷにほっぺを両手で掴むと、びよーんと容赦なく引っ張るでしゅ……!
「ほっぺは変わってないわね……」
「あっ……なにひゅるんでしゅか!」
「ミルモ……ムルモ……おまえたちに、話をしなければな……」
皆しゃんがわいわいしている中、お兄たまのベッドで静かに寝ていたお父たまが突然、布団を跳ねのけるでしゅ。ゆっくりと起き上がって、身体を起こすでしゅ。
「マルモさん、絶対安静よ! あのあと、ミルモくんの部屋の前で倒れていたときはびっくりしたんですから……!」
「いやじゃ! この妖精界に関わることなのじゃ……! わしは確かに驚きと悲しみのあまり腰を抜かしたが、そのようなことではへこたれんぞ……ガクガクブルブル……」
そばにいたナーシ先生が寝かしつけようとしましゅが、お父たまは聞きましぇん。お父たまは腰を抜かしたんでしゅね……。
ちょうどその時、部屋の外の騒ぎを聞きつけたのか、心配そうな顔をしたお母たまが、静かに扉を開けて部屋に入ってきたでしゅ。
「いいではありませんか。……あなた、話ってなんですの?」
そう言いながら、お母たまはお父たまのおそばへと行きましゅ。
「……仕方ないわねぇ。言い出したら聞かないんだから」
ナーシ先生は小さくため息をつきましゅ。
「ですがマルモさん、少しでも無理そうでしたら、今度こそベッドに戻ってもらうという約束ですよ!」
「腰を抜かしただけではないか!」
「いいえ、いけません!」
◆
皆しゃんがお父たまが寝ているベッドの前に集まるでしゅ。ボクとお兄たま、お母たま、ナーシ先生がお父たまのすぐそば、リルムしゃんや楓しゃん、パピィ、ニュース三人娘もその近くにいましゅ。でしゅが……。
「あのよ〜、オレやムルモ、おふくろやリルムはともかく、なんで他のやつらまで居合わせてんだ?」
「ミルモのいじわる! わたし、ミルモのパートナーよ! 一か月チョコ抜きになっても良いの?」
「お、おい! ……それは
「望むところよ! ミルモがいなくたって結木くんと両思いになってやるんだから〜! ミルモのへちゃむくれ〜!」
「んだとコラァ〜! もういっぺん言ってみろ!」
「へちゃむくれ、ずんぐりむっくり、おたんこなす〜!」
「こんにゃろー! 付け足すなぁー!」
「ふたりともやめて、マルモさんは具合が悪いのよ……」
お兄たまと楓しゃんはケンカを始めたでしゅ。ナーシ先生が止めに入ったでしゅが、止まらないでしゅ。もう、どうしゅればいいんでしゅか……?
「まあまあお二人とも。楓様もご一緒に、マルモ国王様のお話をお聞きになりましょう!」
「さっすがリルムちゃん。ミルモと違って
リルムしゃんがすかさず、ふたりの間に入って仲裁しましゅ。……本当にリルムしゃんは、ふたりのことよく分かってましゅね。
「はぁ~、これだから楓は……てめーがいると緊張感が出ねえんだよ……」
「ミルモだっていつもと変わんないじゃない」
「楓、てめー……!」
「まあまあ」
「あのぅ……楓しゃんやリルムしゃんはともかく、なんで他の皆しゃんも居るんでしゅか?」
「いちゃ悪いの? べっー!」
「まあまあ。パピィちゃんや、皆さんがいたほうが賑やかでいいじゃない」
パピィがボクを思っきり睨みつけてあっかんべーをしてくるでしゅ。ボクはパピィにお返ししたいところでしゅが、お母たまが間に入って、ボクとパピィの肩にそっと手を置きましゅ。
「あたしたちは取材のためでーす! 元はと言えば……ムルモ王子が倒れて運び込まれたときに、城中が大パニックになっていたので、『妖精界に暮らす全国民にお知らせするためなら……』ということで取材許可が降りたんです!」
「これは緊急事態だってことで、特別にマルモ国王とサリア王妃、それと大臣さんから直々に『緊急取材パス』をいただいたんですから! ほら〜! これもムルモ王子のおかげよ!」
ワカバしゃんとトモンしゃんがそう言って、首にかけているカードを自慢げに見せるでしゅ。
「それ、ニセ物じゃねーか?」
「あれは正真正銘、国王が認める……本物の『緊急取材パス』じゃ! わしのサイン入りじゃから偽造の心配もないわい〜!」
「それにその子たち、ムルモのお友達でしょう?」
「マジかよ、ぎょえ〜……」
『ミルモ王子、それっていったいどういう反応なの〜!?』
ワカバしゃんとトモンしゃんがお兄たまに詰め寄るでしゅ。
「チーエちゃんも『緊急取材パス』を貰ってるの?」
「もちろんよ〜。じゃ~ん!」
「私も実物は初めて見ますわ……!」
楓しゃんに聞かれて、チーエしゃんが手帳をしまって、取材パスを取り出して見せるでしゅ。リルムしゃんが感激していましゅ……!
「マジかよ……! ちゃっかりしてんなぁ……」
これにはお兄たまも呆れ顔でしゅね。
ボクは部屋の入り口のほうを見るでしゅ。部屋の扉の前には、大臣しゃんや王国警備兵しゃんたちもこっそりと覗いていらっしゃいましゅ。……ということは本当に妖精界に関わる、かなり大事な話なんでしゅね。
「おほん! みなに話をするのは他でもない。この妖精界の掟のことじゃ」
お父たまがみんなを見回してから、話し出すでしゅ。
「妖精の掟がどのようにできておるか、みなはご存知か?」
「そんなの親父が決めてんだろ。ま、親父も時々破ってるけどなぁ〜」
お兄たまが腕を組んで、ぷいとそっぽを向くでしゅ。
「ミルモ〜! お前というやつは……ゆるさーん! 一週間お菓子没収じゃあっ!」
「げっ! 本当のことじゃねーかっ! ヘンなヒゲのクソ親父!」
「一週間では短い、一か月じゃあ〜っ!」
「だからなんでそうなるんだよ〜!」
お父たまとお兄たまのケンカが始まったでしゅ。お父たまはポンと大太鼓を出すと、お兄たまもそれに合わせて楽器のマラカスを出しましゅ。……大変でしゅ!
「マルモで……」
「ミルモで……」
「ダメよ!」
「ふたりともやめて!」
皆しゃんが息を呑む中、ナーシ先生と楓しゃんがふたりの間に割って入るでしゅ……! その場の空気が緊張感に包まれましゅ。
「はっはっは〜〜!」
突然、お父たまが窓ガラスが割れるくらいの大声で笑い出しましゅ。
「皆の衆、これは掟とはどんなものかを説明するための演技じゃよ、え・ん・ぎ!」
ズコーン! その場にいた全員がずっこけましゅ。
「演技だとぉーー!? 騙しやがったな〜!」
「本気でやらんと演技にならんじゃろ〜? ミルモがノッてきたからよかった、よかった〜!」
「チキショーッ! マジで没収されると思ったじゃねーか!」
「あっかんべー! 本当に没収してやっても良かったんじゃぞ〜」
カンカンにキレたお兄たまが素早く起き上がって、悔しそうに地団駄をドンドンと踏むでしゅ。
「本当にケンカはじめると思ったよ……」
「マルモさん、あなたって人は……!」
楓しゃんもナーシ先生も額に汗を滲ませながら、呆れた表情をしていましゅ。
「お母たま、さっきのお父たまは本当に演技だったんでしゅか? ボク、本当にケンカはじめちゃうと思ったでしゅ」
ボクは隣にいたお母たまに慌てながら聞いたでしゅ。
「そうねえ。ただ説明するだけでは分からないと思って、あの人は演技をしてみたのよ。なにか大切なことを、全力で伝えなければならない時が来たのでしょう」
「お父たまが、本気で伝えたいこと……!」
ボクは、急に緊張してきて胸の鼓動が速くなりましゅ。
「さて、本題に戻るぞ。さっきのような『お菓子没収の刑』といったものがわしの作った、すべての妖精が守るべき掟じゃ。
他にも『妖精は一家にひとりまで』や、『妖精が人間界でやたらと魔法を使ってはならん』というような人間界で修行に励む妖精のための掟、『朝の挨拶は、太陽に向かって「おはようございマッスル!」と元気に叫ぶこと!』といった、妖精たちが元気に暮らすために加えた掟もあるのう〜!」
「やっぱり親父が掟作ってんじゃねーか!」
「ミルモ、最後まで話を聞けい。でないと本当にお菓子没収じゃぞ」
「ケッ、分かったよ。聞きゃいいんだろ、聞きゃあ……」
お兄たまがあぐらをかいて、ドスンと床に座り込むでしゅ。
「掟には二種類ある。さっき言ったような、その時々の王様が作った掟と……『特別な掟』の二種類じゃ」
「『特別な掟』ってのはなんなんだよ?」
「わしもこの話をするのは初めてじゃ。いや……何をどう話せば良いのかも、わしには分からなかったのじゃ……なにせ『特別な掟』とは、ルールやマナーといった次元のものではなく、すべての妖精に関わる、いわばこの妖精界の柱であるからのう……」
「……お父たま、その『特別な掟』とはいったい何なのでしゅか?」
ボクはたまらず、お父たまに尋ねましゅ。
「ムルモにミルモ……そして、ここにいるみなの者よ……どうか聞いてくれ」
お父たまは今まで見たことのない程、真剣な表情をして話し出すでしゅ……。
「『特別な掟』――それは、紙に書かれた決まり事というわけではないんじゃ。じゃが、ガイア族が世界を創った時よりずっと、この妖精界の根っこに流れ続けている……わしら王族がご先祖様の時代から、今この瞬間までこの心で受け継いできた、大切な教えのようなものじゃ……」
お父たまの言葉に、部屋にいる皆しゃんが息を呑んで聞き入っていましゅ。ボクも、ゴクリと唾を飲み込みましゅ。
「その掟が示しておるのは、ただ一つ……この妖精界における、真の『[[rb:力>チカラ]]』がどこにあるか、ということじゃ」
「真の、チカラ……?」
お兄たまが確かめるように呟きましゅ。
「うむ。多くの妖精は五つの要素……『火』『水』『土』『風』『雲』の魔法を完璧にマスターして、楽器から五つの色の光を放つことこそが、この妖精界の王の証であり、妖精界で最も偉大な力だと考えておる。わしもそう教えられて育った。じゃからミルモ、お前にもそれを求めてしまった……」
お父たまはお兄たまの方を見て、少しだけ悔しそうな、しょして……苦しそうな顔をしましゅ。お兄たまは……お父たまから目を逸らして、俯いていましゅ。
「お兄たま……」
ボクはお兄たまの方に寄って、そっと手をとって、両手で持って繋ぎましゅ。繋いだ手からお兄たまの手の温もりが、じわりじわりと伝わってきましゅ――しょれに…なんとなくでしゅが、お兄たまの気持ち……心の声が伝わってきましゅ。
――ミルモ! 力を引き出す楽器の持ち方はもっと、こうじゃ……!
――このクソ親父! てめー、ムルモにまでこんなことやらせる気かよ!
――それがわしら王族の務め。逃げだすことも、やめることも許されんのだ……。
――だったら……オレが全部引き受ける。あいつに……ムルモにまでこんなこと、やらせるわけにはいかねーからな!
お兄たまはこんなこと、ひとりでやってきたんでしゅね。誰にも言わず、ひとりぼっちで抱え込んで……。
「じゃがな、それは『力』の一つの姿に過ぎんかったのかもしれん。『特別な掟』が示す本当の、そして最も強い力とは……」
お父たまの視線が今度はボクと、そしてボクと手を繋いでいるお兄たまに、真っ直ぐに向けられましゅ。
「お前たち二人がたった今、わしらの目の前で示してくれた……心の底からの『[[rb:願>ねが]]う[[rb:力>チカラ]]』、そのものなのじゃ」
ボクは思わず、胸に手をあてるでしゅ。
「願う力だと……? それが、掟って……いったいどういう意味なんだ……!?」
お兄たまも驚きを隠せないようでしゅ。
「そうじゃ。他の誰かを心の底から大切に想い、その幸せを強く……強く願う優しい心。そしてその願いに応え、どんな困難をも共に乗り越えようとする、揺るぎない『絆』……それこそが妖精が持っている最も素晴らしい、そして何よりも強い力であると『特別な掟』は静かに示しておる」
お父たまがお兄たま……そしてボクの方をみて、言葉を続けましゅ。
「――五色の光を放つ魔法の
隣でお母たまが、静かに頷いていましゅ。
「わたくしも陛下から直接、この掟について詳しくお聞きしたことはありませんでした。ですが――妖精界に伝わる古い歌や、ガイア族のお話の中に、[[rb:願>ねが]]う心と[[rb:絆>きずな]]の力が魔法をも超える、素晴らしい奇跡のチカラを生む――という教えがあることは、聞いておりましたわ」
「ミルモにムルモ」
お父たまが、再びボクたちを見つめましゅ。
「お前たちの間に生まれた……あのゲンパが言う『魂の絆』はわしらが忘れかけておった、この『特別な掟』の本当の意味を、改めて思い出させてくれたのかもしれん……」
「じゃからこそ、問わねばならんのじゃ。お前たちはその特別な力と絆をもって、これからどうするつもりか? 古くからある『王が作る掟』……例えば、第一王子の婚約や世継ぎのしきたりといったものに、どう向き合い、どう乗り越えていく気か、お前たちに聞こうではないか……」
お父たまは厳しいけれど、どこかボクたちの答えを待っているような……そんな目で、じっとボクたちを見つめていましゅ――。
古い、とても難しい掟の問題……『魂の絆』をもつボクたちは、それとどう向き合っていくのか……。
――お兄たま、ボク……。
――ムルモ、分かってらぁ。
ボクはお兄たまを見上げましゅ。お兄たまもボクを見て、力強く頷き返してくれるでしゅ。ボクの……いや、ボクたちの気持ちはもう、決まっていましゅ。
――答えは、ボクたちの中にあるんでしゅ。
まずお兄たまが、お父たまに向かって、はっきりとした声で言いましゅ。
「親父の言う『特別な掟』の本当の意味なんて、まだ分からねえ。けどな、ひとつだけ確かなことがある」
お兄たまは、繋いだボクの手をぎゅっと握りましゅ。
「オレは、こいつが……ムルモがそばにいなきゃダメなんだ。掟がどうだろうと関係ねえ。オレはこの『魂の絆』とともにこいつと生きる。
ボクも、お兄たまの隣で胸を張って言いましゅ!
「お兄たまの苦しみも、悲しみも……これからはボクが一緒に背負いましゅ。そして、
最後に、ボクとお兄たまは息を吸い込んで、整えて、声を揃えましゅ。
『だから、見ててくれ(くだしゃい)! オレたち(ボクたち)のやり方で、必ず幸せになってみせるからな(ましゅから)!!」」
ボクたちの強い決意の言葉に、部屋は一瞬……しんと静まり返りましゅ。お父たまはまだ難しい顔をしていましゅが、その目の奥にはほんの少しだけ、何かを認めたような光が宿った気がしましゅ。お母たまは目に涙をためて、どこか遠くをみるような……それでいて優しく微笑んでくれましゅ。リルムしゃんも、パピィも、楓しゃんも、ナーシ先生も……皆しゃんがそれぞれの、あたたかい眼差しでボクたちを見守ってくれていましゅ。
「ミルモ……ムルモ……」
お父たまが、鍵の掛かっている重い扉をこじ開けるようにゆっくりと……それでいてしっかりと口を開くでしゅ。
「……ふたりとも、本当に良くやったぞ……!」
お父たまの目にキラリと、真珠のような涙が一粒こぼれ出て、ほっぺを伝って流れ落ちるでしゅ。
「『特別な掟』のひとつ。代々王族に伝わる古文書に、このような言い伝えがこう記されておる……。
――いつか、妖精の世界に生まれてくる子のなかに「魂の絆」という、心の繋がりを持って生まれ、それを目覚めさせる者があらわれるであろう……
妖精の国の王はその身をもって、その者のチカラを見極めなければならない。その者がまこと……つまり本物のチカラを持つ者であるならば、その者たちはこの国の真の王となり、妖精界をより良い世界へと導くであろう……では、ふたりとも手を貸せ」
「あい?」
「こうか?」
お父たまがベッドに座ったまま、ボクたちの前に身体を動かして、ボクとお兄たまの手をがっちりと組み合わせるでしゅ。そして、そのうえにお父たまの両手を置いて、さらに組み固めましゅ。
「ふむ、これは『契りの握手』じゃよ。妖精界では昔から、深い絆で結ばれた者たちが喜びや未来への誓いを込めて、こうして手を重ね合ってきたのじゃ。わしもお前たちの父として、そして王として……この握手にわしの想いを込めよう。お前たちの『魂の絆』が、多くの幸せを生み出すチカラとなることを信じておるぞ」
お父たまは、本当に優しい目でボクたちを見つめてくれていましゅ。その温かさがボクの心にもじんわりと広がってきて、胸がいっぱいになりましゅ。そして……繋いだ手から、もっとしゅごいことが伝わってきたんでしゅ。
――親父、すまねえ……。
――お前には大変な苦労をかけた。だが、もうよい……これからは、自由に生きるのじゃぞ……。
じゅっとお兄たまを苦しめていた、重たい鎖みたいな悲しみがふっと軽くなって、無くなるような……そんな感じがしたんでしゅ。
――けっ、親父らしくねー。
――なんじゃと! 全く、誰に似たんだか……。
――でもよ、ありがとな……!
……お兄たま、やっとお父たまと心が通じたんでしゅね。ボクは自分のことみたいに嬉しくて、安心しましゅ。でも……なんだかふたりには、ボクの知らない長い時間があったみたいで……ほんの
「さて……ミルモにムルモ」
お父たまの手が、ゆっくりと離れていくでしゅ……。お父たまが「ボクたちのお父たま」から「王
お父たまは一度ゆっくりと息を吸い込んでから、威厳と……そして愛情の込もった声で言ったでしゅ。
「お前たちは、もはやただの兄弟ではない。この妖精界の未来を担う大いなる[[rb:可能性>かのうせい]]を秘めた……そう、『ミラクルな二人組』としてこのわしが、確かに認めたぞ!」
「ミ、ミラクルな……」
「二人組……だとぉ?」
ボクとお兄たまは、思わず顔を見合わせましゅ。でも驚きと戸惑いだけじゃなく、ワクワクする響きを持つ、なんだかとっても
「そうじゃ。すなわち、お前たちの絆が認められたことになる。本当の意味での……ふたりの旅立ちじゃ!」
まるでこの
