だいすきを伝えて(ミルムル)
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茜色とすみれ色が混じり合う、夕暮れの空。……城にある部屋で、見守っていた赤い色の大きな花の蕾がふんわり、ゆっくりとほころびだして、開いた花ん中から触覚の生えた小さな赤ん坊が現れる――ついにこの時が来た。こいつがオレのきょうだい、ついにオレは『あにき』になるんだな……。
「わ……っ、わしがパパじゃぞ!」
「こんにちは、私達の赤ちゃん。綺麗な星が輝き始めた、素敵な時間に生まれてきてくれたわね。ミルモ、これがあなたのきょうだいよ」
「こいつが、オレの……なあ、おやじにおふくろ、こいつの名前はなんていうんだ?」
「そうじゃな……ワシが『マルモ』でお前が『ミルモ』ときたから、この子の名前は『ムルモ』にしようかの」
「まあ……きっと素敵な子になると思います」
「ムルモかぁ……おまえの名前決まったぞ! どーだ気に入ったか?」
伏せっていた赤ん坊の目がゆっくりと開く。ちょうど窓の外には、一番星がキラリと輝き始めていた。その星の光が映り込んだみてえに、きらきらの光をたたえたそいつの目がオレの方をじっと見た。その瞬間、にこっと満開の笑顔になる。
「この子、ミルモのことが気に入ったのかしら。さあ、抱っこしてごらんなさい」
「おう……っ!」
オレはおふくろから、生まれたてのムルモを受け取って胸に抱いた。こいつはオレにほっぺをくっつけたきり、べったりとくっついて離れない。ムルモの手をそっと握ると、こいつの手がオレの手の中に包まれる。あまりにちっちゃいからシャボン玉みてえに消えちまうんじゃないかって思っちまったけど、触れた場所からじんわりとやさしい温もりが伝わってくる。それに顔を近付けると花のいい匂いがして、空に輝く一番星みてえに、特別なオーラを感じて……それがなんだか、すっげー嬉しかった。
――オレ、こいつの兄ちゃんになったんだ。
「オレはミルモ。おまえの……ムルモの兄ちゃんだ! おまえをぜってーに、しあわせにしてやるからなっ!」
――まるで魔法の光みてえだ。キラキラして優しい……これが赤ちゃんなんだ。今思えばあの時、あいつはオレに魔法をかけたのかもしれない。オレがムルモを好きになる魔法を。
◆
「――……はっ……オレ、なんて夢みてたんだ……」
茜色の光が薄く開けた目に入る。飛び起きて、窓の扉を開けて外を見ると、空がだんだんと茜色からすみれ色に変わり始めている。オレはいつの間にかベッドに突っ伏して寝ていたみてーだ――気付いちまった。ムルモのことが本当に好きでしょうがねえということに。でもこんなんじゃ、オレがムルモのことをずっと気にしてるみてえじゃねーか……。
「……まあ、目覚めたのね。私 のかわいいミルモ!」
すぐ側におふくろがいるのに気が付いた。おふくろはオレの手を両手で包んでから、おふくろのほっぺにくっつけた。オレのほっぺがカァーッと熱くなる。
「やめろー! 照れるじゃねーか……」
「嫌だったかしら?」
「オレはガキじゃねーんだ。おふくろにべったりされんのは……」
「そうだったわ。妖精学校のナーシ先生がこちらまで来ているわ。ミルモにお話があるんですって」
おふくろには一旦部屋の外に出てってもらって、オレとナーシ先生は向き合う格好で座った。
「ナーシ先生、なんか用か?」
「ミルモくんのことも診察しておきたいと思ったの」
「オレはどこも悪くねーぞ」
「体はそうでも、心はどうかしら?」
ナーシ先生は魔法スコープを取り出して、オレの方へ向けた。――まったく、一体何だってんだ?
「やっぱりね……ミルモくんにも恋心があるわ。一体誰を好きになったのかしら?」
「ばかやろーっ! んなこと言えるかよ!」
オレのほっぺが思わず熱くなる。
「ほっぺを真っ赤にしちゃうくらい大好きなのね」
「やめろー……!」
ナーシ先生がオレに向かって微笑んでくる。しょうがねーから息を整えて、一旦落ち着くことにした。
「『やっぱり』って、とっくに勘付いてたのか?」
「ええ。保健室の先生だもの」
「バレてたのかよ……白状するよ。元々ずっと好きで長い間一緒にいたんだけど、最近離ればなれになって、でもまた一緒にいられて――すげー嬉しかった。
でも……好きになっちゃいけねーやつだったんだ。それにあいつ、他に好きなやつがいるみてーだし、オレもオレでリルムがいるしよ……だからこれは、どうしようもねー片思いなんだよ……」
「そう……」
ナーシ先生は魔法スコープを懐にしまってから、液体の入った小さな瓶を取り出した。あれは……『恋心スイトール』だ!
「ミルモくん、あなたは好きになってはいけない誰かを好きで、その子は他の子のことが好きなのよね? それなら――『恋心スイトール』を使ってあなたの恋心を吸い取りましょう」
「おい……それってやっていいことなのかよっ……!」
「『恋心スイトール』はれっきとした医療用のお薬よ。恋の病……それも実らない恋をした妖精がダメージを受けないようにしたり、心の傷を癒すために作られたものなの。だからミルモくん、安心してこのお薬を……」
ナーシ先生はオレの手に恋心スイトールをのせた。
「安心なんかできるかぁーーー!!!」
オレは喉が潰れるんじゃねえかって程の大声で、ありったけの想いを叫んだ。
「あいつを……ムルモを放っといてオレだけ楽になんかなれねーー!!
あいつはぶりっ子だし腹黒いし本当 生意気なやつだけど、オレを兄貴にしてくれたんだ。オレはどうしようもねー兄貴だけどよぉ……ムルモへの、幸せにしてやるって気持ちは本物なんだ。だから恋心スイトールは使えねー。ムルモの恋心を失っちまったらオレはもう、あいつの兄貴じゃなくなっちまうからな」
そうだ……あいつが生まれたとき、すげー嬉しかった。ムルモっていう弟がいるだけで幸せだったんだ。あいつは今好きなやつができて、デートして、告白までするってんだ。オレがやれなかったことを全部やろうとしてる。それに真正面から向き合わねーと、オレは兄貴としても、恋の妖精としても失格だぜ……!
「ミルモくん……意地悪なことをしてごめんなさい。あなたが好きな妖精の子をとても大切に思っていることが伝わってきたわ」
ナーシ先生は恋心スイトールを懐にしまい込んだ。
「ナーシ先生……」
「ミルモくんがいてくれて、ムルモくんもとても幸せだと思うの」
「お、おい!? オレがムルモが好きっていつ言ったよ!?」
「さっき大声で言ってたじゃない」
「そうだったかっ!?」
「ふふっ、お大事に……それじゃあアタシは失礼するわね」
ナーシ先生はオレに頭を下げたあと、部屋から出ていった。それと入れ替わるようにおふくろがオレの部屋に入ってきた。
「ミルモ……ッ!」
おふくろはオレに近付くなり、ぎゅっと抱きしめてやがった。それに……泣いてやがる。
「!?」
「ミルモ、わたくしは……あなたを、愛しています……」
おふくろの胸に抱き留められたオレはしばらく驚いて声も出なかったが、なんとか絞り出した。
「……なんだよいきなり」
「今晩はミルモと一緒に居たいのです。大切な子供が帰ってきたんですもの」
「なあおふくろ、オレ……ムルモのいい兄ちゃんになれてるか?」
「もちろんですわ」
「ならよかったぜ······」
「晩ご飯ができていますよ。一緒に食べましょう」
「そうするよ。ありがとな、おふくろ……」
意地を張りたかったが、そんな気にはなれなかった。オレの目からだんだんと涙が出てきちまったぜ……おふくろはそっと、その涙をハンカチで拭ってくれた。窓から、すみれ色の優しい光がそっと差してきた。
◆
――妖精デパートのお洋服売り場の試着室、ボクの目の前には仁王立ちして鈴を構えるパピィの姿があったでしゅ。
「パピィでポーンッ!」
パピィが鈴を鳴らすとボクの身体が魔法の光に包まれましゅ。
「······お似合いね。どっからどうみても、すてきな女の子じゃないっ······あははっ、可愛いムルモちゃん!」
鏡の中のパピィがけらけら笑ってるでしゅ。肝心のボクは、リボンのついた帽子に三つ編みに結った髪、フリッフリのワンピース姿……これじゃパピィの言う通り、本当に女の子みたいでしゅね。
「しょんなこと言うなでしゅ!」
「ごめんなちゃい! だって似合ってんだもの。今のあんただったら、大抵の子は落ちるんじゃないかちら?」
「お断りでしゅうー!」
「本気にしないでちょうだい。あたち、デートのために作戦立てたの。名付けて『ラブラブ大作戦』でちゅ!」
パピィは自信満々な顔でボクに手帳を見せてきたでしゅ。そこには習いたての妖精文字でびっしりと色んなことが書き込まれていたでしゅ……。
「デートにおける見た目……第一印象 は大事なの。リルムたんにミルモたんの事を色々聞いたけど、守ってあげたくなるようなか弱い子とか、優しい感じの清楚系なんかがタイプなんでちゅって。だからムルモの見た目を変えてミルモたんのハートをゲットするという作戦じゃない」
「言っておきましゅが、ボクはお兄たまに告白するだけでしゅよ」
「だからこそ全力を尽くすんじゃない。――パピィでポンッ!」
パピィは鈴を鳴らして、次々とボクの服を着せ替えていきましゅ。そして一通りやり終わると、パピィはボクの顔を見て、はぁぁ……と、とびーっきり長いため息をついたでしゅ。
「やっぱりあんたは清楚系ってガラじゃないわね」
「……はぁあ、さっきのはなんだったんでしゅか」
「妖精デパートに来たなら試着ちないとね」
「しょういうことでしゅか!?」
「ちょうだ、メイク売り場に行かない? 美容部員たんに聞けばピッタリのコスメをおすすめちてくれるわ! それとも、ジュエリー売り場なんかどう?」
ボクはふと、売り場の棚にあるリボンが気になって手にとるでしゅ。
「ふあぁ……!」
「ちょれ欲しいの?」
「うーん……でもボク、リボンいっぱい持ってましゅから、やめておくでしゅ」
「そう。じゃ、次行くわよ!」
◆
「みなしゃあん、ボクムルモでしゅ〜♡」
たくさんいるファンの女の子に手を振り返すでしゅ。
「はあ、あんたのファンがあ~んなにいるなんて呆れたわ」
パピィがため息をつくでしゅが、ボクはこんな可愛いんでしゅからしょんなの当たり前でしゅよね?
「ボクのことをなんだと思っているのでしゅか。ボクはこんなにプリティーなんでしゅよ。女の子たちがキャーキャー言うのは当然 のことでしゅ」
「また女装ちてもらうわよ」
「えぇっ……しょんな〜!」
「さっ、ぶりっ子ちてないで行くわよ!」
「そういえば、次はどこなんでしゅか?」
「遊園地よ」
「妖精界に遊園地ってあったんでしゅか?」
「最近できたのよ。ホラッ!」
◆
しょんなわけで、遊園地にゲートインしたボク達はベンチに座ってポップコーンを食べることにしたでしゅ。
「なんでもミルモたんは明日、あたちたちをくっちゅけるためにこの遊園地でデートさせるつもりだってリルムたんから聞いたのよ。あむっ…あたちが一芝居打って、ムルモをミルモたんと二人きりにさせてあげるわ……っんむ、このポップコーン、おいちいわね」
「…あむっ、でも相手はお兄たまでしゅよ。簡単にいくとは思えないでしゅけど……病みつきになるでしゅ……」
『あの〜、ちょっといいですか?』
「なによ、今おやつ食べてんの!」
突然、一人の妖精に声を掛けられるでしゅ。ファンの女の子に話しかけられるのは慣れてましゅが、この人たちは違う用事みたいでしゅね。
『妖精新聞の者ですが取材させて頂けますか?』
「だからおやつ食べてるって言ってるでちょ!」
「パパパッパピィ、この人たぶん……」
ピンときたでしゅ。『妖精新聞』と言えば、妖精界で有名な新聞でボクもよく読んでましゅ。この人は妖精新聞の記者しゃん――おそらくニュース三人娘のひとり、ワカバしゃん……。ボクはパピィの肩を叩いて、ポップコーンから気を逸らすでしゅ。
「あたし、ニュース三人娘のワカバです。『妖精遊園地100時間! 密着ドキュメント』という特集記事の取材の最中なんです。あの〜、取材に協力してもらえますか?」
やはりボクの予想通り、取材のようでしゅね。麦わら帽子の記者妖精、ワカバしゃんはパピィに再び話し掛けるでしゅが……。
「なにかご用? あたちたちはいま、ムルモのデート作戦の真っ最中なの!」
「ムルモってもしかして……ミルモの里の第二王子で、ミルモ王子の弟のムルモ王子ご本人〜っ!?」
ベチャッとなにかが落ちる音がしたと思って見たらソフトクリームが床に落ちてましゅね――ってしょんな場合じゃないでしゅ!
「パピィ、ここは行くでしゅ……」
「あたち今忙しいの! ムルモをミルモたんとくっつけるために作戦会議ちてるのよ、あんたに構ってる暇なんてないの……」
「そうだったの!? ……トモン、チーエ、特ダネよ!」
「もうだめでしゅー!」
「そうだ、あなたってムルモ王子の彼女なの?」
「なんでちゅってーーーっ!!!」
「ふむふむ……そんなわけでムルモ王子のために、パピィさんは遊園地でデートの練習をしていたんですね……なんという熱い友情!」
一通り事情を話したところで、ニュース三人娘のひとり、妖精新聞のワカバしゃんが身を乗り出してくるでしゅ。
「ところであたし、気付いちゃったんですが……ミルモ王子はこの妖精界の第一王子で、リルムさんという婚約者もおられます。つまり第二王子でミルモ王子の弟であるムルモ王子の恋は、叶わないのでは?」
「ちょうね。フツーはね」
……ハッキリ言われちゃったでしゅ。今度はカメラマンのトモンしゃんがカメラを構えて首を傾げるでしゅ。
「そこよ。ムルモ王子はなぜ、そこまでミルモ王子が好きなのか……。その気持ちまで記事を読んだ人にも伝わるようにしなきゃ!」
「ボクのこと記事にしゅるんでしゅか……!?」
「もちろんよ。これはどうかな~?」
どこか間延びした声をさせて、記者のチーエしゃんがさらさらと手帳に何やら書き込んでるでしゅ。
「なに書いてるでしゅか?」
「名付けて『ムルモ王子の告白大作戦』〜。わたしたちが計画を立てて、責任を持って妖精新聞の記事にするの。ワカバちゃん、トモンちゃんも、これどうかな~……」
「なに!? っっわあ······!」
「これよこれっ!」
ワカバしゃんとトモンしゃんがチーエしゃんの手帳を読んでふんふんうなってるでしゅ。
「えっとね……ムルモ王子が考える理想のデートをそのままやるの。そうしたら告白も上手くいくんじゃないかしら〜?」
「ねえねえムルモ王子、理想の告白ってなに〜?」
「理想の告白……しょんな、ボク……」
ワカバしゃん達に言い寄られて、ボクは返す言葉が見つからなかったでしゅ。
その時、ボクのケータイの着信音が鳴るでしゅ。画面を見て思わず驚いちゃったでしゅ。
「お、お兄たまでしゅ……!」
「これはミルモ王子からの電話! ナイスタイミング!」
「静かにしてくだしゃい!」
慌ててボタンを押して電話に出ると、お兄たまの顔が映って顔が熱くなるでしゅ。
『――おう、ムルモ……オレだよ。あれから元気してたか?』
「まっ……まあ、元気にしてたでしゅよ。ましゃか用事でしゅか?」
『そのまさかだよ。オレさ、今妖精界に出来たっていう遊園地にいるんだけどよぉ、今から会えねーか? 渡してー物があるんだよ……』
お兄たまも遊園地にいるんでしゅか……!? どきどきした胸を思わず片手で抑えましゅ……。
「おーい、ムールモーー!」
ボクは辺りを見回すと、遠くから手を振るお兄たまの姿が見えて、ボクの方へ向かってくるでしゅ。
「隠れましょう! ニ人を見守るのよ!」
パピィとワカバしゃん達がベンチの陰に隠れたあと、ボクの隣に来たお兄たまはベンチの前に来たかと思うとどっかり座り込んで、ボクにプレゼントボックスを渡してきたでしゅ。
「開けてみろよ。ムルモへのプレゼントだ」
「あ、あい……」
箱を開けるときれいな真っ赤なリボンが入っていて、ボクは思わず声をあげたでしゅ。
「うわぁ……!」
「プレゼントだ。オレがとびきりの魔法をかけてやったぜ」
「魔法って……なんでしゅか?」
「願いが叶う魔法のアイテムだよ。このリボンを持って願いごとを言うと、ひとつだけならどんな願いだって叶えられるんだ。これやるの、結構苦労したんだぜ?」
お兄たまはそう言って、ウィンクしてきたでしゅ。このお兄たまがボクにプレゼントを……嬉しくなって、ボクはリボンをそっと手にとるでしゅ。
「ムルモも好きなやつが出来たってことは、大人の男に一歩近付いたってことだ。兄貴なんだから、これくれーはやらなきゃダメだろ?」
「……お兄たまにしては、気が利いてましゅね」
そういうことでしゅか。お兄たまと一緒にいられて、本当に嬉しいはずでしゅが……。
「だろ? デート、頑張れよ。オレも見守ってるからさ……。じゃあ行くわ」
お兄たまはボクを見て肩をポンッと叩くと、こっちに来たときと同じ方へ、今度は走り去っていくでしゅ。
「また明日なー!」
見えなくなるまでお兄たまに手を振って見送ったあと、ボクはふと寂しさが込み上げてきて地べたに座り込むでしゅ。しょれから寒くないのにだんだん体が震えてきて……なぜでしゅかね。――なぜだか、目から涙がポロポロと溢れてきたでしゅ。
「……ボク、じゅっと好きなひといたでしゅよ。おにいたまのこと、じゅっと…………ああぁあ゙ーーーん!!!」
ボクの触覚がバチバチ音を立ててショートしたかと思うと、今度は自分が黒焦げになる程の電撃を浴びたでしゅ。ボクは身体全体を地べたに付けて、まるで息絶えたかのように倒れ込んだでしゅ……お兄たまは、こんなしゅごいのをいつも浴びてたんでしゅね……。
「大変よ! 運ぶわよ。ワカバたんたちも手伝ってっ……!」
「うん、分かったわ……」
◆
『ミルモくん、城まで来てちょうだい! ムルモくんが倒れたの……』
電話のナーシ先生の声を聞いて、オレは血の気が引いた。
城のオレの部屋にあるベッドにはムルモが目を閉じたまま眠っていた。横にはおふくろとナーシ先生が付き添っている。
「ねえミルモ、ムルモは……」
「ったく、心配かけんな……!」
オレは寝ているムルモの側に駆け寄った。おふくろが何か話しかけたが、それどころじゃなかった。ムルモは青白い顔をしてて、居ても立ってもいられねーんでオレはムルモの手をとった。握ったムルモの手はまるで氷のように冷たくて、オレまで凍り付いちまいそうだ……。
「くそぉっ…!」
なんで寝てんだよ……さっきまで元気だったのに。握っていた手が震えて、オレまでぶっ倒れそうになる。そうならないよう、オレはムルモの手をぎゅっと握り直した。それから段々と手が暖 まって、ムルモの顔に赤みが差してきたからオレは胸をなで下ろした。
「おにい、たま……」
「気がついたか!?」
ムルモは寝返りを打った。……なんだ寝言か。
それでも幸せそうな顔見せて、すやすや寝息を立てるムルモの姿にオレはほっとした。そういや『幸せ』って、こいつの――。
「ムルモくんはもう大丈夫そうねぇ。ミルモくんは隣の部屋に行ってちょうだい」
「隣の部屋って、ムルモの部屋か?」
「ええ。あなたをよく知ってる人たちがいるわ」
◆
「……で、『知ってる人』っておめーらか」
「おめーらって何よ!」
ムルモの部屋にいたのはリルムと妖精の姿になった楓だった。
「――ミルモ様」
リルムが声を出した。いつもみてーな甘ったるい声じゃねー。怒ってやがる。それに頭に血が上った時の力任せの怒りでなく――本気 の怒り。
「どうしてムルモ様にあのような態度を取られるのですか」
「それは……」
「ミルモ様はお気付きでないのですわ……!」
まるで雷を落とす時のおふくろだ。リルムのやつ、絶対 何か勘違いしてるぜ。こうなったのはオレだけのせいじゃねーってのに……!
「わかんねーよっ……あいつは、パピィのことが…好きなんだろ!」
リルムは静かに首を振った。
「……いいえ、ミルモ様。それは違いますの」
「はぁ? 違うって……じゃあ誰なんだよ、あいつが好きなのは」
リルムは一瞬顔を伏せった。そんで意を決したようにオレの目を真っ直ぐに見やる。
「……あなたですわ」
「…………は?」
「ムルモ様は、ミルモ様のことが好きなのですわ」
時が止まったみてーだ。
――『ムルモ』が『オレ』を『好き』……? 夢だ。こんなのぜってー夢に決まってらぁ……。
「そんなの、ぜってー嘘だ……」
リルムの言葉がまるでスローモーションみてーにオレの頭の中に響く。オレは床に手をつけ、突っ伏した。泣いてる姿を見られたくなかったからだ。よりにもよって、あのムルモのことで泣くのはカッコ悪 ぃから……。
「冗談きついぜぇ…オレのこと、なんかっ……どーでもいいに決まってる、だろ……」
「ミルモ様、どうしてそのようなことを……!」
「決まってるじゃねーか……なんで、よりにもよってオレを……」
「ミルモ……どうしてムルモちゃんがミルモのことを好きで泣くの? そんなにムルモちゃんのことが嫌いなの?」
楓がいつの間にかオレの背中を擦っていた。
「……ちげーよ! 嫌いなんかじゃねー……好きだっ!」
「ムルモちゃんのことが好きなんじゃない。だったら、どうしてそんなこと言うの?」
オレは楓の手を払って立ち上がった。
「……親父と約束したんだよ」
「マルモ国王様と? どういうこと?」
窓際まで寄ったオレは窓の扉をバンッと開け放った。
「くっそぉーーっ、血だの魔法だのくだらねえ!
――あいつには……好きに生きてほしいんだよ!」
「ミルモ様!? まさかっ……そんな……」
「リルムちゃん? リルムちゃんっ!?」
リルムがその場に崩れ落ちるように倒れて、楓も寄り添うようにしゃがんだ。オレは楓とリルムから顔を逸らした。
「リルムちゃん……?」
「ミルモ様は『魔法の継承』のためにご自分を犠牲に……」
「どういうこと?」
「ミルモ様たち王族の使命ですわ。ご先祖様が残した古の魔法の継承をするというのが、王族の習わしなんですの。ミルモ様と私が婚約することになったのもそのためですわ……」
「そういうこった。だからオレは……親父と約束した。オレが全部引き受けるから、ムルモにはそんなもん押し付けんなってな!」
オレは楓とリルムに向き直った。……楓もリルムも、真剣な表情をしていた。
「ミルモ……」
「それでムルモも自由になれるし、好きなやつとだって愛し合えると思ったんだよ……」
開け放った窓から風が入ってきて、カーテンがそよそよ揺れる。
「でもムルモちゃんは、ミルモのこと……」
「じきにオレを好きってこと、忘れるさ。――世の中には叶わねー恋もある。あいつだって分かってるはずだし、しばらく経てばあいつも別の誰かを……」
「そんなの違うよ!」
楓がバカでっかい声で叫んで、オレは思わず耳をふさいだ。
「ムルモちゃんはミルモが好きなこと、絶対に忘れたりなんかしないよ……!」
「知った口聞くなよ……ムルモはガキなんだぜ。小せえうちにした恋なんざ忘れるに決まってらぁ」
「私は……ミルモ様のこと、絶っ対に忘れたりしませんわ!!!」
今度はリルムがオレの目の前まで寄って、話しだした。
「幼い頃の思い出も、今この時の出来事も、ぜんぶ……ミルモ様との思い出は私の大切な記憶。そう簡単に忘れられるものではありませんわ。ミルモ様にとっても、大切な記憶は……忘れられないものではありませんか?」
リルムがオレの手を取った。リルムの手は小刻みに震えてて、それなのに不思議と勇気が湧くようなチカラ強さがあった。
「ごめんな。リルム……オレ、バカだった……」
「ミルモ様、本当に大切なことはなんですか?」
あいつとの思い出……。オレの頭の中に次々に色んなムルモの姿が浮かびあがってくる。
ぶりっ子で腹黒で、弱虫で素直じゃねーけど、本当は一途で、オレに会いに人間界までやってきてくれた大事で可愛いムルモ……オレのそばに居てくれた、かけがえのねえやつ……。
『ずっといっしょに······おそばに、いてくれましゅか?』
頭に焼き付いて離れねえ――オレのグレートバッチグーチョコを全部食ったくせに、ぶりっ子してごまかそうとしたときのあの笑顔とか、ケツアタック食らわせたときの泣きべそとか、ケンカしてぷいっと背を向けたかと思えば、次の瞬間には涙目で「お兄たま~」とすがりついてきた、あの困った顔とか……そして、たまに見せるなんとも言えねえ寂しそうな顔とか……。
――今思えば、あいつはオレが好きだったからあんな顔見せたのかもしれねーな……。
目がかすんで、涙が滲んで溢れてきやがる。
「あいつだよ……」
リルムが優しい目でオレを見つめてきた。
「ミルモ様は、もしムルモ様が大きくなられて、愛する人とご結婚されて、もし離ればなれになったとしても……ムルモ様のことをずっと好きでい続けると思いますわ……」
「わたしだってそうだよ。結木くんのこと、絶対忘れたりしないもん! もし冷たくされて、嫌われて、ふられたとしても……それでも結木くんとの思い出は忘れない。絶対、一生覚えてる! 好きな人との記憶って永遠なんだよ……」
楓もオレの手をとって、真っ直ぐにオレを見据えた。
「わたしもミルモのこと、結木くんの次だけど大好きなの。結木くんに好きだって気持ちをぶつけられるようになったのも……ミルモに出会えたから、背中を押してくれたからだもん。そんなミルモが好きな人を諦めるなんて、絶対に見たくない!」
言い終えてから、オレにパチリとウィンクしてきた。……ったく、いい顔しやがって。
オレはムルモのこと、一生忘れられるはずが無え。でもあいつは器用なやつだから別の誰かと一緒になって……幸せになれると思ってた。でもムルモも一緒なんだ。そんな簡単には出来てねーんだ。――だったら……!
「オレ、ムルモのところ行ってくる!」
◆
「ムルモ、起きろ! ムルモ……」
「ミルモくん、気持ちは分かるけど落ち着いて……」
「落ち着いてられっかよ!」
ムルモの身体を揺すって起こそうとしたオレをナーシ先生が止めてきた。
「ムルモくんはかなり危ない状況だったの。しばらくは目覚めないわ。サリアさんが機転を利かせたり、ミルモくんが早く来なかったら、ムルモくんがどうなっていたのか分からないのよ」
「どういうことだよ? 説明してくれよ」
「分かったわ。その前に……」
ナーシ先生は部屋のドアを開けた。楓とリルム、パピィと……ニュース三人娘まで居るぞ!? いったいどうなってやがるんだ……?
「あの、わたしたちムルモちゃんのことが気になっちゃって……」
「あたちもよ」
「あたし達もでーす……」
「事情は分かったわ、あがってちょうだい」
「おい、病人の部屋に何人もあげんじゃねーよ……」
「構わないわ。みんないたほうが賑やかですもの」
『おじゃましまーす!!!』
おふくろ、マジでいいのかよ……? ナーシ先生もナーシ先生だよなぁ。楓やリルム達が部屋に入ってきて賑やかになったところで、ナーシ先生が話を切り出した。
「そうねぇ……『イヤイヤ病』ってみんな分かるわよね?」
「はーい、わたし分からないです……」
楓が控えめに手を挙げた。
「そういえば、楓さんは人間だったわね。『イヤイヤ病』はね、妖精のイヤイヤ期がもう一度やってくる病気なのよ」
「小さな妖精の子供がかかる病気ですわ」
「ちょうよ。あたちもこの間かかったんだから」
「楓さんも小さい頃は、人間の子供がかかる風邪になったりして、寝込んだりしたことがあったと思うの。イヤイヤ病はそれと変わらない、妖精界ではごく当たり前の病気で、その病気にムルモくんが今かかっているのよ。
本当なら数日で治るような病気だけど、一週間以上経った今も快復せずに、むしろ症状はどんどんひどくなっているわ……」
「どうしてムルモちゃんはそんなにひどくなったんですか?」
オレは話を聞きながらムルモのそばについているおふくろの方を見た。おふくろは険しい顔をしてやがる。……あんなおふくろは初めてだぜ。
「楓さん。そのことなんだけど……アタシもこんな状況になった子をみるのは初めてだから先程、妖精界の名医であるゲンパ医師に判断を仰いだの」
「ゲンパ医師って、この城に常駐しているマルモ国王の御殿医 妖精ですよね?」
「ワカバさん、よくご存知ね。アタシのお父さんなのよ。そのゲンパ医師によると……『明日を待たずして、今日! ……一刻も早く手を打たないと駄目、ですにゃ!』と言ったの。つまり今日がタイムリミットなの……」
「まあ……!」
「ムルモはどうなるんだよ!?」
オレとおふくろは思わず叫んだ。
「……助ける方法はあるわ。ムルモくんの強い想いを外に出すことよ」
「そうだ! パピィちゃんが『ムルモはミルモたんに告白しないと、魔法が使えなくなるかもちれないの』って言ってたんだけど、強い想いを出す方法が告白することなの?」
「ったく、そんなこと言ってたのか……!」
「そうよ。今のムルモくんは心のバランスが崩れているの。そして、病気が元々あったミルモくんへの恋心をさらに強くさせて、魔法や触覚ビームを暴走させ、自分自身にまでダメージを与え始めているわ……」
その場にいるやつ全員が息を呑んだ。
ナーシ先生はその様子を見つめたあと、ほんの一瞬うつむいてから、ほっぺに手を置いた。
「もうこうなれば、治療法はひとつだけ。持っている気持ちを外へと解放させないといけないの。その手段が『愛の告白』なのよ。
でもアタシ、イヤな予感がするの……ムルモくんはミルモくんへの気持ちをずっと抑えているわ。きっと、ムルモくんはミルモくんが好きなことを、いけないことだと思っているのね……」
オレはちらりと、ベッドに寝ているムルモの寝顔を眺めた。いけねえことなんて勝手に思いやがって。オレの気持ちも知らねーで……!
「ゲンパ医師は『絆を結んだ妖精の…存在! それが放つ特別なオーラ、とりわけミルモ様の匂いが、ムルモ様を快復へ向かわせるのですにゃ』とも言っていたわ。
ムルモくんの想いはとてつもなく強いわ。言葉だけでは伝えきれないほどに……ミルモくん、ムルモくんの気持ちを全力で受け止めてあげて。――そうしないと、ムルモくんは助からないと思うわ」
「ムルモ……!」
おふくろが叫ぶと、晴れてやがるのに部屋が光って、雷が鋭く落ちる音がした。ベッドについていたおふくろがムルモの顔を見やってから、オレの方へ寄ってきた。
「ミルモがムルモの手を握ったとたん、ムルモがみるみる元気になりました。ムルモ……この子にとってはミルモが、一番に想う大切な妖精だと思うの……」
「おふくろ、何いってんだ…」
「私は気付いていました。ムルモがミルモに対して、お兄ちゃんを見るだけではない、特別な感情を抱いていたことを。そしてミルモ、あなたも……」
「おい、おふくろっ……!」
「ミルモ……あなたに魔法の継承という重荷を背負わせたこと、ひとりで抱え込ませたこと……本当にごめんなさい。どうかムルモの本当の気持ちを聞いてあげて……」
おふくろはオレの顔を見つめてから、オレをぎゅっと抱きしめた。
「おふくろ……」
……余計なこと言うんじゃねぇ! ここにいるのはオレ達だけじゃねーんだぞ……でも、そうだ。オレがムルモの気持ちを受け止めるしかねえ。じゃねーとムルモは本当に、どうなっちまうか分かんねー。――オレはムルモには元気で、『幸せ』でいてほしいんだから!
「ムルモ……起きてくれ、ムルモ!」
オレはムルモの側に駆け寄った。窓から夕暮れを告げる茜色の光が入って、ムルモの顔を照らした。
◆
――お兄たまのばか。
「おにいたまのばかぁーーー!」
誰もいない森の中で思いっきり叫ぶでしゅ。
もう、お兄たまなんか大嫌いでしゅ! ボクがいくらお兄たまが楽しみにしていたグレートバッチグーチョコをじぇ〜んぶ食べたからって、あんな怒ることないじゃないでしゅか……。
「家出してやったでしゅ! お兄たま、今ごろ驚いてるでしゅね……!」
生まれて初めてのひとりきりの冒険なんでしゅ。いつもお兄たまとふたりで行っていたこの森をひとりで……木に生えている魔法ドングリをどっちが多く取れるか競争したり、咲いている素敵 なお花を一緒に眺めたり、ナンダカワカンナイノをボクが初めて見かけたときは、びっくりして『あのなんだかわからない生き物、こわいでしゅ!』なんて言いながらお兄たまにくっついたものでしゅが、しょんなこの森をボクは今、たったひとりで歩いてるんでしゅよ!
「わくわくしゅるでしゅね。でも……」
日が沈みだすと、どんどん辺りが暗くなって、胸が心細い気持ちでいっぱいになっていくでしゅ。どうすればいいんでしゅか……こんな森の中で一晩過ごすなんて……ひ、火起こしなんて…ボクみたいなプリティーな妖精にできるわけないじゃないでしゅか! でも、こんな時こそ……
「へっちゃらでしゅ! お外で寝るなんて…じぇ、絶対 無理でしゅからっ! うぅ……」
しょんなことを考えていたせいか、ボクはうっかり石につまづいて転んで、目の前の穴に飛び込んでしまったでしゅ。
「うわぁ……っ!」
ドテンッ、と手をついて倒れた穴の中を起き上がって下から見上げるでしゅ。
「ひゃーひゃっひゃっひゃーっ!」
「しょの声は……ヤシチしゃん!」
聞き覚えのある笑い声がこだまして、ボクの予想通りヤシチしゃんがひょこっと顔を出すでしゅ。
「やいミルモ! 拙者の作った落とし穴にはまるとは、おマヌケなやつよ……」
「おマヌケなのはヤシチしゃんの方でしゅ」
「お、おぬしは……ムルモ〜!?」
ヤシチしゃんが豆鉄砲を食らった顔をして、おマヌケな大声をあげると、ショックを受けたのかポカーンとその場に立ち尽くすでしゅ。
「ほーんと、ボクとお兄たまの見分けがつかないなんて、ヤシチしゃんは本物のおばかしゃんでしゅね」
「キーーッ! ムルモだと!? なぜだー!」
ヤシチしゃんが地団駄を踏んで悔しがるでしゅ。
「覚えてろミルモめ、次は必ず…! ええい、さらばだ!」
と言って、ヤシチしゃんが煙玉を取り出して地面に叩きつけましゅが、煙がしょぼしょぼとしか出てましぇんね……。
「……しょんな失敗作、どこで手に入れたんでしゅかね」
「けほんけほん、では、さらばだ!」
ヤシチしゃんがどこかへと走り去っていくでしゅ……! 途中でヤシチしゃんがつまづいて転ぶ音がしましゅが、何事も無かったように行ってしまったでしゅ……ボクは穴の底にひとり残されて、ぽつんと佇むでしゅ。
「ボク、いやでしゅ。ひとりなんか……ひとりなんか寂しいでしゅ……!」
涙が溢れてきて止まらないでしゅ。ボク、お兄たまに構ってほしくてあんなことしたんでしゅよ……このごろお兄たまは友達のペータしゃんやビケーしゃんたちとじゅっと遊んだり、ヤシチしゃんと魔法の対決をしたり、リルムしゃんとデートに行ってボクを放ったらかしに……って、なんてこと考えてるんでしゅか? お兄たまにはお兄たまの付き合いというものがあるし、ましてやリルムしゃんはお兄たまの婚約者なんでしゅよ……?
ボク、やっぱり帰らないでしゅ。お兄たまのもとには絶対 帰れましぇん……!
ボクのほっぺを涙が伝って、地面にぽたりぽたりと落ちていくでしゅ。
「ううぅっ……あぁ、……ああんっ…………!」
穴の中に体育座りして、腕で顔を隠して泣き始めましゅ。
――あんたってほーんと、素直じゃないんだから!
しょういえば、パピィにこんなこと言われたでしゅが、いったいなんのことでしゅかね? 昨日のお兄たまとリルムしゃんのデート、お兄たまもリルムしゃんもとっても楽しそうだったでしゅ。お花畑でピクニックなんてうらやまし……邪魔してやろうと思って茂みに隠れて見張ってたところをパピィに見つかったんでしゅが……
――ムルモのおばか! おなんこなす! 弱虫! あんたなんか大っ嫌い!
――なんでしゅって〜! パピィのくせに生意気なんでしゅ、ムカつくでしゅ!
しょれから取っ組み合いのケンカになって、結局お兄たまとリルムしゃんに見つかったんでしゅ。ふたりともデートが台無しになったからがっかりしたに決まってましゅよね……。
「ボクのせいでしゅ。ボクがいなかったらあんなことにはならなかったんでしゅ。ボクなんかいなくなっちゃえばいいんでしゅーー!」
『ルモ……ムルモーッ! おい、どこにいるんだーっ! ムルモ、ムルモ……ッ!』
……遠くから、茂みがガサガサ動く音と一緒に、必死にボクを呼ぶ声が聞こえるでしゅが、まさか……?
「おにい……たま?」
――ハッとして見上げると人影が見えたでしゅ。暗くて一瞬分からかったでしゅが、穴の上から息を切らしたお兄たまが覗き込んでいたでしゅ。
「はぁ、はぁ…ムルモ、やっと見つけた……! こんなところにいやがって、バカヤローッ!」
マラカスを取り出してお兄たまが魔法を使うと、光と一緒にロープが出てきて、ボクに絡みついてきたでしゅ。
「すぐ引っ張ってやる…!」
お兄たまに引きあげられて、ボクはようやく地上に戻れたでしゅ……と思ったら、ボクのほっぺをお兄たまは両手で触れて、擦ってくるでしゅ……。
「お兄たま、ボク…」
「ったく、手間かけさせんじゃねえ! ケガしてねえな…このおバカ……」
お兄たまが、ボクをガバッと抱きしめてましゅ……。少し震えてるみたいで、ぎゅーって力が強くて、ちょっとだけ苦しいくらいでしゅ。
「お兄たま、ボクのこと探してたんでしゅか?」
「ったく、生意気言うんじゃねぇ…」
お兄たまの胸の中はあったかくて、お兄たまの匂いがして安心するのに……ほっぺが熱くなって、なんだか胸がどきどきするでしゅ。でもボク、じゅっとこうしていたいでしゅ……。
「……ムルモ? どうしたんだよ」
「なっ…なんでもないでしゅよっ!」
――あんたってほーんと、素直じゃないんだから! ちょういうのを『ドンカン』っていうのよ!
ま、まさか……気のせいに決まってましゅよ。
◆
おうちに帰ってくると、お父たまとお母たまがボクたちを迎えてくれたでしゅ。お母たまはボクやお兄たまの身体をタオルで拭いてくれたでしゅ……。
そして、ボクはいつものようにお兄たまのお部屋のベッドに潜り込むでしゅ。
「おいムルモ、オレの寝床に潜り込むんじゃねえ!!」
「お兄たまのいじわる! この間までボクと一緒に寝てくれたじゃないでしゅか!」
ボクがかぶっていた布団をめくられたかと思えば、お兄たまの顔がドアップでボクの目に映るでしゅ。
「はぁ~、これだからガキは困るぜ。てめーもうじき妖精学校入るんだろ。ひとりで寝てくれねえとオレが困るんだよ!」
「しょんなの、お兄たまの勝手でしゅ」
「……いつまでだって、一緒にはいられねーんだぞ……」
お兄たまがほんの一瞬だけでしゅが……どこか寂しそうな、困ったような顔をしたでしゅ。
「なにか言ったでしゅか?」
「なんでもねー!」
それからお兄たまはぷいと横を向いてから、ベッドに横になると、布団をかぶるでしゅ。
「……オレは寝るぞ。おめーも早く寝ろよ」
「言われなくてもそうしゅるでしゅよ! おやすみなしゃい……」
ボクもお兄たまのしゅぐそばに擦り寄って、目をつぶるでしゅ。そうしゅるとお兄たまは……ボクの手を両手で優しく、そっと握ってきたでしゅ。
「ムルモ……」
その後、お兄たまがボクの頭に手をのせてから、ボクの頭をそっと撫でてくるでしゅ。
「ムルモ、オレが悪かった……もう勝手に、ひとりでどっか行くんじゃねーぞっ……」
ボクの顔にぼたり、ぽたりとしずくが落ちてくるでしゅ。これは……涙でしゅ。お兄たまは今、泣いてるんでしゅ……涙からお兄たまの悲しみが伝わってくるようでボクまで悲しくなってくるでしゅ。お兄たま、ボクのことをしょんなに……。
――ほんとに、お兄たまのばか。
「お前がいなくなったら、オレ…オレッ……!」
――ボク、お兄たまのおそばにいましゅよ。だから……泣かないでくだしゃい。
ボクの気持ちはお兄たまには届かなくて、お兄たまは声をあげてしばらく泣いていたでしゅ。……パピィ、ボクってほんっと『ドンカン』みたいでしゅね。これでようやく分かったんでしゅから。
ボク、お兄たまのことが『好 き』みたいでしゅ……。
「わ……っ、わしがパパじゃぞ!」
「こんにちは、私達の赤ちゃん。綺麗な星が輝き始めた、素敵な時間に生まれてきてくれたわね。ミルモ、これがあなたのきょうだいよ」
「こいつが、オレの……なあ、おやじにおふくろ、こいつの名前はなんていうんだ?」
「そうじゃな……ワシが『マルモ』でお前が『ミルモ』ときたから、この子の名前は『ムルモ』にしようかの」
「まあ……きっと素敵な子になると思います」
「ムルモかぁ……おまえの名前決まったぞ! どーだ気に入ったか?」
伏せっていた赤ん坊の目がゆっくりと開く。ちょうど窓の外には、一番星がキラリと輝き始めていた。その星の光が映り込んだみてえに、きらきらの光をたたえたそいつの目がオレの方をじっと見た。その瞬間、にこっと満開の笑顔になる。
「この子、ミルモのことが気に入ったのかしら。さあ、抱っこしてごらんなさい」
「おう……っ!」
オレはおふくろから、生まれたてのムルモを受け取って胸に抱いた。こいつはオレにほっぺをくっつけたきり、べったりとくっついて離れない。ムルモの手をそっと握ると、こいつの手がオレの手の中に包まれる。あまりにちっちゃいからシャボン玉みてえに消えちまうんじゃないかって思っちまったけど、触れた場所からじんわりとやさしい温もりが伝わってくる。それに顔を近付けると花のいい匂いがして、空に輝く一番星みてえに、特別なオーラを感じて……それがなんだか、すっげー嬉しかった。
――オレ、こいつの兄ちゃんになったんだ。
「オレはミルモ。おまえの……ムルモの兄ちゃんだ! おまえをぜってーに、しあわせにしてやるからなっ!」
――まるで魔法の光みてえだ。キラキラして優しい……これが赤ちゃんなんだ。今思えばあの時、あいつはオレに魔法をかけたのかもしれない。オレがムルモを好きになる魔法を。
◆
「――……はっ……オレ、なんて夢みてたんだ……」
茜色の光が薄く開けた目に入る。飛び起きて、窓の扉を開けて外を見ると、空がだんだんと茜色からすみれ色に変わり始めている。オレはいつの間にかベッドに突っ伏して寝ていたみてーだ――気付いちまった。ムルモのことが本当に好きでしょうがねえということに。でもこんなんじゃ、オレがムルモのことをずっと気にしてるみてえじゃねーか……。
「……まあ、目覚めたのね。
すぐ側におふくろがいるのに気が付いた。おふくろはオレの手を両手で包んでから、おふくろのほっぺにくっつけた。オレのほっぺがカァーッと熱くなる。
「やめろー! 照れるじゃねーか……」
「嫌だったかしら?」
「オレはガキじゃねーんだ。おふくろにべったりされんのは……」
「そうだったわ。妖精学校のナーシ先生がこちらまで来ているわ。ミルモにお話があるんですって」
おふくろには一旦部屋の外に出てってもらって、オレとナーシ先生は向き合う格好で座った。
「ナーシ先生、なんか用か?」
「ミルモくんのことも診察しておきたいと思ったの」
「オレはどこも悪くねーぞ」
「体はそうでも、心はどうかしら?」
ナーシ先生は魔法スコープを取り出して、オレの方へ向けた。――まったく、一体何だってんだ?
「やっぱりね……ミルモくんにも恋心があるわ。一体誰を好きになったのかしら?」
「ばかやろーっ! んなこと言えるかよ!」
オレのほっぺが思わず熱くなる。
「ほっぺを真っ赤にしちゃうくらい大好きなのね」
「やめろー……!」
ナーシ先生がオレに向かって微笑んでくる。しょうがねーから息を整えて、一旦落ち着くことにした。
「『やっぱり』って、とっくに勘付いてたのか?」
「ええ。保健室の先生だもの」
「バレてたのかよ……白状するよ。元々ずっと好きで長い間一緒にいたんだけど、最近離ればなれになって、でもまた一緒にいられて――すげー嬉しかった。
でも……好きになっちゃいけねーやつだったんだ。それにあいつ、他に好きなやつがいるみてーだし、オレもオレでリルムがいるしよ……だからこれは、どうしようもねー片思いなんだよ……」
「そう……」
ナーシ先生は魔法スコープを懐にしまってから、液体の入った小さな瓶を取り出した。あれは……『恋心スイトール』だ!
「ミルモくん、あなたは好きになってはいけない誰かを好きで、その子は他の子のことが好きなのよね? それなら――『恋心スイトール』を使ってあなたの恋心を吸い取りましょう」
「おい……それってやっていいことなのかよっ……!」
「『恋心スイトール』はれっきとした医療用のお薬よ。恋の病……それも実らない恋をした妖精がダメージを受けないようにしたり、心の傷を癒すために作られたものなの。だからミルモくん、安心してこのお薬を……」
ナーシ先生はオレの手に恋心スイトールをのせた。
「安心なんかできるかぁーーー!!!」
オレは喉が潰れるんじゃねえかって程の大声で、ありったけの想いを叫んだ。
「あいつを……ムルモを放っといてオレだけ楽になんかなれねーー!!
あいつはぶりっ子だし腹黒いし
そうだ……あいつが生まれたとき、すげー嬉しかった。ムルモっていう弟がいるだけで幸せだったんだ。あいつは今好きなやつができて、デートして、告白までするってんだ。オレがやれなかったことを全部やろうとしてる。それに真正面から向き合わねーと、オレは兄貴としても、恋の妖精としても失格だぜ……!
「ミルモくん……意地悪なことをしてごめんなさい。あなたが好きな妖精の子をとても大切に思っていることが伝わってきたわ」
ナーシ先生は恋心スイトールを懐にしまい込んだ。
「ナーシ先生……」
「ミルモくんがいてくれて、ムルモくんもとても幸せだと思うの」
「お、おい!? オレがムルモが好きっていつ言ったよ!?」
「さっき大声で言ってたじゃない」
「そうだったかっ!?」
「ふふっ、お大事に……それじゃあアタシは失礼するわね」
ナーシ先生はオレに頭を下げたあと、部屋から出ていった。それと入れ替わるようにおふくろがオレの部屋に入ってきた。
「ミルモ……ッ!」
おふくろはオレに近付くなり、ぎゅっと抱きしめてやがった。それに……泣いてやがる。
「!?」
「ミルモ、わたくしは……あなたを、愛しています……」
おふくろの胸に抱き留められたオレはしばらく驚いて声も出なかったが、なんとか絞り出した。
「……なんだよいきなり」
「今晩はミルモと一緒に居たいのです。大切な子供が帰ってきたんですもの」
「なあおふくろ、オレ……ムルモのいい兄ちゃんになれてるか?」
「もちろんですわ」
「ならよかったぜ······」
「晩ご飯ができていますよ。一緒に食べましょう」
「そうするよ。ありがとな、おふくろ……」
意地を張りたかったが、そんな気にはなれなかった。オレの目からだんだんと涙が出てきちまったぜ……おふくろはそっと、その涙をハンカチで拭ってくれた。窓から、すみれ色の優しい光がそっと差してきた。
◆
――妖精デパートのお洋服売り場の試着室、ボクの目の前には仁王立ちして鈴を構えるパピィの姿があったでしゅ。
「パピィでポーンッ!」
パピィが鈴を鳴らすとボクの身体が魔法の光に包まれましゅ。
「······お似合いね。どっからどうみても、すてきな女の子じゃないっ······あははっ、可愛いムルモちゃん!」
鏡の中のパピィがけらけら笑ってるでしゅ。肝心のボクは、リボンのついた帽子に三つ編みに結った髪、フリッフリのワンピース姿……これじゃパピィの言う通り、本当に女の子みたいでしゅね。
「しょんなこと言うなでしゅ!」
「ごめんなちゃい! だって似合ってんだもの。今のあんただったら、大抵の子は落ちるんじゃないかちら?」
「お断りでしゅうー!」
「本気にしないでちょうだい。あたち、デートのために作戦立てたの。名付けて『ラブラブ大作戦』でちゅ!」
パピィは自信満々な顔でボクに手帳を見せてきたでしゅ。そこには習いたての妖精文字でびっしりと色んなことが書き込まれていたでしゅ……。
「デートにおける見た目……
「言っておきましゅが、ボクはお兄たまに告白するだけでしゅよ」
「だからこそ全力を尽くすんじゃない。――パピィでポンッ!」
パピィは鈴を鳴らして、次々とボクの服を着せ替えていきましゅ。そして一通りやり終わると、パピィはボクの顔を見て、はぁぁ……と、とびーっきり長いため息をついたでしゅ。
「やっぱりあんたは清楚系ってガラじゃないわね」
「……はぁあ、さっきのはなんだったんでしゅか」
「妖精デパートに来たなら試着ちないとね」
「しょういうことでしゅか!?」
「ちょうだ、メイク売り場に行かない? 美容部員たんに聞けばピッタリのコスメをおすすめちてくれるわ! それとも、ジュエリー売り場なんかどう?」
ボクはふと、売り場の棚にあるリボンが気になって手にとるでしゅ。
「ふあぁ……!」
「ちょれ欲しいの?」
「うーん……でもボク、リボンいっぱい持ってましゅから、やめておくでしゅ」
「そう。じゃ、次行くわよ!」
◆
「みなしゃあん、ボクムルモでしゅ〜♡」
たくさんいるファンの女の子に手を振り返すでしゅ。
「はあ、あんたのファンがあ~んなにいるなんて呆れたわ」
パピィがため息をつくでしゅが、ボクはこんな可愛いんでしゅからしょんなの当たり前でしゅよね?
「ボクのことをなんだと思っているのでしゅか。ボクはこんなにプリティーなんでしゅよ。女の子たちがキャーキャー言うのは
「また女装ちてもらうわよ」
「えぇっ……しょんな〜!」
「さっ、ぶりっ子ちてないで行くわよ!」
「そういえば、次はどこなんでしゅか?」
「遊園地よ」
「妖精界に遊園地ってあったんでしゅか?」
「最近できたのよ。ホラッ!」
◆
しょんなわけで、遊園地にゲートインしたボク達はベンチに座ってポップコーンを食べることにしたでしゅ。
「なんでもミルモたんは明日、あたちたちをくっちゅけるためにこの遊園地でデートさせるつもりだってリルムたんから聞いたのよ。あむっ…あたちが一芝居打って、ムルモをミルモたんと二人きりにさせてあげるわ……っんむ、このポップコーン、おいちいわね」
「…あむっ、でも相手はお兄たまでしゅよ。簡単にいくとは思えないでしゅけど……病みつきになるでしゅ……」
『あの〜、ちょっといいですか?』
「なによ、今おやつ食べてんの!」
突然、一人の妖精に声を掛けられるでしゅ。ファンの女の子に話しかけられるのは慣れてましゅが、この人たちは違う用事みたいでしゅね。
『妖精新聞の者ですが取材させて頂けますか?』
「だからおやつ食べてるって言ってるでちょ!」
「パパパッパピィ、この人たぶん……」
ピンときたでしゅ。『妖精新聞』と言えば、妖精界で有名な新聞でボクもよく読んでましゅ。この人は妖精新聞の記者しゃん――おそらくニュース三人娘のひとり、ワカバしゃん……。ボクはパピィの肩を叩いて、ポップコーンから気を逸らすでしゅ。
「あたし、ニュース三人娘のワカバです。『妖精遊園地100時間! 密着ドキュメント』という特集記事の取材の最中なんです。あの〜、取材に協力してもらえますか?」
やはりボクの予想通り、取材のようでしゅね。麦わら帽子の記者妖精、ワカバしゃんはパピィに再び話し掛けるでしゅが……。
「なにかご用? あたちたちはいま、ムルモのデート作戦の真っ最中なの!」
「ムルモってもしかして……ミルモの里の第二王子で、ミルモ王子の弟のムルモ王子ご本人〜っ!?」
ベチャッとなにかが落ちる音がしたと思って見たらソフトクリームが床に落ちてましゅね――ってしょんな場合じゃないでしゅ!
「パピィ、ここは行くでしゅ……」
「あたち今忙しいの! ムルモをミルモたんとくっつけるために作戦会議ちてるのよ、あんたに構ってる暇なんてないの……」
「そうだったの!? ……トモン、チーエ、特ダネよ!」
「もうだめでしゅー!」
「そうだ、あなたってムルモ王子の彼女なの?」
「なんでちゅってーーーっ!!!」
「ふむふむ……そんなわけでムルモ王子のために、パピィさんは遊園地でデートの練習をしていたんですね……なんという熱い友情!」
一通り事情を話したところで、ニュース三人娘のひとり、妖精新聞のワカバしゃんが身を乗り出してくるでしゅ。
「ところであたし、気付いちゃったんですが……ミルモ王子はこの妖精界の第一王子で、リルムさんという婚約者もおられます。つまり第二王子でミルモ王子の弟であるムルモ王子の恋は、叶わないのでは?」
「ちょうね。フツーはね」
……ハッキリ言われちゃったでしゅ。今度はカメラマンのトモンしゃんがカメラを構えて首を傾げるでしゅ。
「そこよ。ムルモ王子はなぜ、そこまでミルモ王子が好きなのか……。その気持ちまで記事を読んだ人にも伝わるようにしなきゃ!」
「ボクのこと記事にしゅるんでしゅか……!?」
「もちろんよ。これはどうかな~?」
どこか間延びした声をさせて、記者のチーエしゃんがさらさらと手帳に何やら書き込んでるでしゅ。
「なに書いてるでしゅか?」
「名付けて『ムルモ王子の告白大作戦』〜。わたしたちが計画を立てて、責任を持って妖精新聞の記事にするの。ワカバちゃん、トモンちゃんも、これどうかな~……」
「なに!? っっわあ······!」
「これよこれっ!」
ワカバしゃんとトモンしゃんがチーエしゃんの手帳を読んでふんふんうなってるでしゅ。
「えっとね……ムルモ王子が考える理想のデートをそのままやるの。そうしたら告白も上手くいくんじゃないかしら〜?」
「ねえねえムルモ王子、理想の告白ってなに〜?」
「理想の告白……しょんな、ボク……」
ワカバしゃん達に言い寄られて、ボクは返す言葉が見つからなかったでしゅ。
その時、ボクのケータイの着信音が鳴るでしゅ。画面を見て思わず驚いちゃったでしゅ。
「お、お兄たまでしゅ……!」
「これはミルモ王子からの電話! ナイスタイミング!」
「静かにしてくだしゃい!」
慌ててボタンを押して電話に出ると、お兄たまの顔が映って顔が熱くなるでしゅ。
『――おう、ムルモ……オレだよ。あれから元気してたか?』
「まっ……まあ、元気にしてたでしゅよ。ましゃか用事でしゅか?」
『そのまさかだよ。オレさ、今妖精界に出来たっていう遊園地にいるんだけどよぉ、今から会えねーか? 渡してー物があるんだよ……』
お兄たまも遊園地にいるんでしゅか……!? どきどきした胸を思わず片手で抑えましゅ……。
「おーい、ムールモーー!」
ボクは辺りを見回すと、遠くから手を振るお兄たまの姿が見えて、ボクの方へ向かってくるでしゅ。
「隠れましょう! ニ人を見守るのよ!」
パピィとワカバしゃん達がベンチの陰に隠れたあと、ボクの隣に来たお兄たまはベンチの前に来たかと思うとどっかり座り込んで、ボクにプレゼントボックスを渡してきたでしゅ。
「開けてみろよ。ムルモへのプレゼントだ」
「あ、あい……」
箱を開けるときれいな真っ赤なリボンが入っていて、ボクは思わず声をあげたでしゅ。
「うわぁ……!」
「プレゼントだ。オレがとびきりの魔法をかけてやったぜ」
「魔法って……なんでしゅか?」
「願いが叶う魔法のアイテムだよ。このリボンを持って願いごとを言うと、ひとつだけならどんな願いだって叶えられるんだ。これやるの、結構苦労したんだぜ?」
お兄たまはそう言って、ウィンクしてきたでしゅ。このお兄たまがボクにプレゼントを……嬉しくなって、ボクはリボンをそっと手にとるでしゅ。
「ムルモも好きなやつが出来たってことは、大人の男に一歩近付いたってことだ。兄貴なんだから、これくれーはやらなきゃダメだろ?」
「……お兄たまにしては、気が利いてましゅね」
そういうことでしゅか。お兄たまと一緒にいられて、本当に嬉しいはずでしゅが……。
「だろ? デート、頑張れよ。オレも見守ってるからさ……。じゃあ行くわ」
お兄たまはボクを見て肩をポンッと叩くと、こっちに来たときと同じ方へ、今度は走り去っていくでしゅ。
「また明日なー!」
見えなくなるまでお兄たまに手を振って見送ったあと、ボクはふと寂しさが込み上げてきて地べたに座り込むでしゅ。しょれから寒くないのにだんだん体が震えてきて……なぜでしゅかね。――なぜだか、目から涙がポロポロと溢れてきたでしゅ。
「……ボク、じゅっと好きなひといたでしゅよ。おにいたまのこと、じゅっと…………ああぁあ゙ーーーん!!!」
ボクの触覚がバチバチ音を立ててショートしたかと思うと、今度は自分が黒焦げになる程の電撃を浴びたでしゅ。ボクは身体全体を地べたに付けて、まるで息絶えたかのように倒れ込んだでしゅ……お兄たまは、こんなしゅごいのをいつも浴びてたんでしゅね……。
「大変よ! 運ぶわよ。ワカバたんたちも手伝ってっ……!」
「うん、分かったわ……」
◆
『ミルモくん、城まで来てちょうだい! ムルモくんが倒れたの……』
電話のナーシ先生の声を聞いて、オレは血の気が引いた。
城のオレの部屋にあるベッドにはムルモが目を閉じたまま眠っていた。横にはおふくろとナーシ先生が付き添っている。
「ねえミルモ、ムルモは……」
「ったく、心配かけんな……!」
オレは寝ているムルモの側に駆け寄った。おふくろが何か話しかけたが、それどころじゃなかった。ムルモは青白い顔をしてて、居ても立ってもいられねーんでオレはムルモの手をとった。握ったムルモの手はまるで氷のように冷たくて、オレまで凍り付いちまいそうだ……。
「くそぉっ…!」
なんで寝てんだよ……さっきまで元気だったのに。握っていた手が震えて、オレまでぶっ倒れそうになる。そうならないよう、オレはムルモの手をぎゅっと握り直した。それから段々と手が
「おにい、たま……」
「気がついたか!?」
ムルモは寝返りを打った。……なんだ寝言か。
それでも幸せそうな顔見せて、すやすや寝息を立てるムルモの姿にオレはほっとした。そういや『幸せ』って、こいつの――。
「ムルモくんはもう大丈夫そうねぇ。ミルモくんは隣の部屋に行ってちょうだい」
「隣の部屋って、ムルモの部屋か?」
「ええ。あなたをよく知ってる人たちがいるわ」
◆
「……で、『知ってる人』っておめーらか」
「おめーらって何よ!」
ムルモの部屋にいたのはリルムと妖精の姿になった楓だった。
「――ミルモ様」
リルムが声を出した。いつもみてーな甘ったるい声じゃねー。怒ってやがる。それに頭に血が上った時の力任せの怒りでなく――
「どうしてムルモ様にあのような態度を取られるのですか」
「それは……」
「ミルモ様はお気付きでないのですわ……!」
まるで雷を落とす時のおふくろだ。リルムのやつ、
「わかんねーよっ……あいつは、パピィのことが…好きなんだろ!」
リルムは静かに首を振った。
「……いいえ、ミルモ様。それは違いますの」
「はぁ? 違うって……じゃあ誰なんだよ、あいつが好きなのは」
リルムは一瞬顔を伏せった。そんで意を決したようにオレの目を真っ直ぐに見やる。
「……あなたですわ」
「…………は?」
「ムルモ様は、ミルモ様のことが好きなのですわ」
時が止まったみてーだ。
――『ムルモ』が『オレ』を『好き』……? 夢だ。こんなのぜってー夢に決まってらぁ……。
「そんなの、ぜってー嘘だ……」
リルムの言葉がまるでスローモーションみてーにオレの頭の中に響く。オレは床に手をつけ、突っ伏した。泣いてる姿を見られたくなかったからだ。よりにもよって、あのムルモのことで泣くのはカッコ
「冗談きついぜぇ…オレのこと、なんかっ……どーでもいいに決まってる、だろ……」
「ミルモ様、どうしてそのようなことを……!」
「決まってるじゃねーか……なんで、よりにもよってオレを……」
「ミルモ……どうしてムルモちゃんがミルモのことを好きで泣くの? そんなにムルモちゃんのことが嫌いなの?」
楓がいつの間にかオレの背中を擦っていた。
「……ちげーよ! 嫌いなんかじゃねー……好きだっ!」
「ムルモちゃんのことが好きなんじゃない。だったら、どうしてそんなこと言うの?」
オレは楓の手を払って立ち上がった。
「……親父と約束したんだよ」
「マルモ国王様と? どういうこと?」
窓際まで寄ったオレは窓の扉をバンッと開け放った。
「くっそぉーーっ、血だの魔法だのくだらねえ!
――あいつには……好きに生きてほしいんだよ!」
「ミルモ様!? まさかっ……そんな……」
「リルムちゃん? リルムちゃんっ!?」
リルムがその場に崩れ落ちるように倒れて、楓も寄り添うようにしゃがんだ。オレは楓とリルムから顔を逸らした。
「リルムちゃん……?」
「ミルモ様は『魔法の継承』のためにご自分を犠牲に……」
「どういうこと?」
「ミルモ様たち王族の使命ですわ。ご先祖様が残した古の魔法の継承をするというのが、王族の習わしなんですの。ミルモ様と私が婚約することになったのもそのためですわ……」
「そういうこった。だからオレは……親父と約束した。オレが全部引き受けるから、ムルモにはそんなもん押し付けんなってな!」
オレは楓とリルムに向き直った。……楓もリルムも、真剣な表情をしていた。
「ミルモ……」
「それでムルモも自由になれるし、好きなやつとだって愛し合えると思ったんだよ……」
開け放った窓から風が入ってきて、カーテンがそよそよ揺れる。
「でもムルモちゃんは、ミルモのこと……」
「じきにオレを好きってこと、忘れるさ。――世の中には叶わねー恋もある。あいつだって分かってるはずだし、しばらく経てばあいつも別の誰かを……」
「そんなの違うよ!」
楓がバカでっかい声で叫んで、オレは思わず耳をふさいだ。
「ムルモちゃんはミルモが好きなこと、絶対に忘れたりなんかしないよ……!」
「知った口聞くなよ……ムルモはガキなんだぜ。小せえうちにした恋なんざ忘れるに決まってらぁ」
「私は……ミルモ様のこと、絶っ対に忘れたりしませんわ!!!」
今度はリルムがオレの目の前まで寄って、話しだした。
「幼い頃の思い出も、今この時の出来事も、ぜんぶ……ミルモ様との思い出は私の大切な記憶。そう簡単に忘れられるものではありませんわ。ミルモ様にとっても、大切な記憶は……忘れられないものではありませんか?」
リルムがオレの手を取った。リルムの手は小刻みに震えてて、それなのに不思議と勇気が湧くようなチカラ強さがあった。
「ごめんな。リルム……オレ、バカだった……」
「ミルモ様、本当に大切なことはなんですか?」
あいつとの思い出……。オレの頭の中に次々に色んなムルモの姿が浮かびあがってくる。
ぶりっ子で腹黒で、弱虫で素直じゃねーけど、本当は一途で、オレに会いに人間界までやってきてくれた大事で可愛いムルモ……オレのそばに居てくれた、かけがえのねえやつ……。
『ずっといっしょに······おそばに、いてくれましゅか?』
頭に焼き付いて離れねえ――オレのグレートバッチグーチョコを全部食ったくせに、ぶりっ子してごまかそうとしたときのあの笑顔とか、ケツアタック食らわせたときの泣きべそとか、ケンカしてぷいっと背を向けたかと思えば、次の瞬間には涙目で「お兄たま~」とすがりついてきた、あの困った顔とか……そして、たまに見せるなんとも言えねえ寂しそうな顔とか……。
――今思えば、あいつはオレが好きだったからあんな顔見せたのかもしれねーな……。
目がかすんで、涙が滲んで溢れてきやがる。
「あいつだよ……」
リルムが優しい目でオレを見つめてきた。
「ミルモ様は、もしムルモ様が大きくなられて、愛する人とご結婚されて、もし離ればなれになったとしても……ムルモ様のことをずっと好きでい続けると思いますわ……」
「わたしだってそうだよ。結木くんのこと、絶対忘れたりしないもん! もし冷たくされて、嫌われて、ふられたとしても……それでも結木くんとの思い出は忘れない。絶対、一生覚えてる! 好きな人との記憶って永遠なんだよ……」
楓もオレの手をとって、真っ直ぐにオレを見据えた。
「わたしもミルモのこと、結木くんの次だけど大好きなの。結木くんに好きだって気持ちをぶつけられるようになったのも……ミルモに出会えたから、背中を押してくれたからだもん。そんなミルモが好きな人を諦めるなんて、絶対に見たくない!」
言い終えてから、オレにパチリとウィンクしてきた。……ったく、いい顔しやがって。
オレはムルモのこと、一生忘れられるはずが無え。でもあいつは器用なやつだから別の誰かと一緒になって……幸せになれると思ってた。でもムルモも一緒なんだ。そんな簡単には出来てねーんだ。――だったら……!
「オレ、ムルモのところ行ってくる!」
◆
「ムルモ、起きろ! ムルモ……」
「ミルモくん、気持ちは分かるけど落ち着いて……」
「落ち着いてられっかよ!」
ムルモの身体を揺すって起こそうとしたオレをナーシ先生が止めてきた。
「ムルモくんはかなり危ない状況だったの。しばらくは目覚めないわ。サリアさんが機転を利かせたり、ミルモくんが早く来なかったら、ムルモくんがどうなっていたのか分からないのよ」
「どういうことだよ? 説明してくれよ」
「分かったわ。その前に……」
ナーシ先生は部屋のドアを開けた。楓とリルム、パピィと……ニュース三人娘まで居るぞ!? いったいどうなってやがるんだ……?
「あの、わたしたちムルモちゃんのことが気になっちゃって……」
「あたちもよ」
「あたし達もでーす……」
「事情は分かったわ、あがってちょうだい」
「おい、病人の部屋に何人もあげんじゃねーよ……」
「構わないわ。みんないたほうが賑やかですもの」
『おじゃましまーす!!!』
おふくろ、マジでいいのかよ……? ナーシ先生もナーシ先生だよなぁ。楓やリルム達が部屋に入ってきて賑やかになったところで、ナーシ先生が話を切り出した。
「そうねぇ……『イヤイヤ病』ってみんな分かるわよね?」
「はーい、わたし分からないです……」
楓が控えめに手を挙げた。
「そういえば、楓さんは人間だったわね。『イヤイヤ病』はね、妖精のイヤイヤ期がもう一度やってくる病気なのよ」
「小さな妖精の子供がかかる病気ですわ」
「ちょうよ。あたちもこの間かかったんだから」
「楓さんも小さい頃は、人間の子供がかかる風邪になったりして、寝込んだりしたことがあったと思うの。イヤイヤ病はそれと変わらない、妖精界ではごく当たり前の病気で、その病気にムルモくんが今かかっているのよ。
本当なら数日で治るような病気だけど、一週間以上経った今も快復せずに、むしろ症状はどんどんひどくなっているわ……」
「どうしてムルモちゃんはそんなにひどくなったんですか?」
オレは話を聞きながらムルモのそばについているおふくろの方を見た。おふくろは険しい顔をしてやがる。……あんなおふくろは初めてだぜ。
「楓さん。そのことなんだけど……アタシもこんな状況になった子をみるのは初めてだから先程、妖精界の名医であるゲンパ医師に判断を仰いだの」
「ゲンパ医師って、この城に常駐しているマルモ国王の
「ワカバさん、よくご存知ね。アタシのお父さんなのよ。そのゲンパ医師によると……『明日を待たずして、今日! ……一刻も早く手を打たないと駄目、ですにゃ!』と言ったの。つまり今日がタイムリミットなの……」
「まあ……!」
「ムルモはどうなるんだよ!?」
オレとおふくろは思わず叫んだ。
「……助ける方法はあるわ。ムルモくんの強い想いを外に出すことよ」
「そうだ! パピィちゃんが『ムルモはミルモたんに告白しないと、魔法が使えなくなるかもちれないの』って言ってたんだけど、強い想いを出す方法が告白することなの?」
「ったく、そんなこと言ってたのか……!」
「そうよ。今のムルモくんは心のバランスが崩れているの。そして、病気が元々あったミルモくんへの恋心をさらに強くさせて、魔法や触覚ビームを暴走させ、自分自身にまでダメージを与え始めているわ……」
その場にいるやつ全員が息を呑んだ。
ナーシ先生はその様子を見つめたあと、ほんの一瞬うつむいてから、ほっぺに手を置いた。
「もうこうなれば、治療法はひとつだけ。持っている気持ちを外へと解放させないといけないの。その手段が『愛の告白』なのよ。
でもアタシ、イヤな予感がするの……ムルモくんはミルモくんへの気持ちをずっと抑えているわ。きっと、ムルモくんはミルモくんが好きなことを、いけないことだと思っているのね……」
オレはちらりと、ベッドに寝ているムルモの寝顔を眺めた。いけねえことなんて勝手に思いやがって。オレの気持ちも知らねーで……!
「ゲンパ医師は『絆を結んだ妖精の…存在! それが放つ特別なオーラ、とりわけミルモ様の匂いが、ムルモ様を快復へ向かわせるのですにゃ』とも言っていたわ。
ムルモくんの想いはとてつもなく強いわ。言葉だけでは伝えきれないほどに……ミルモくん、ムルモくんの気持ちを全力で受け止めてあげて。――そうしないと、ムルモくんは助からないと思うわ」
「ムルモ……!」
おふくろが叫ぶと、晴れてやがるのに部屋が光って、雷が鋭く落ちる音がした。ベッドについていたおふくろがムルモの顔を見やってから、オレの方へ寄ってきた。
「ミルモがムルモの手を握ったとたん、ムルモがみるみる元気になりました。ムルモ……この子にとってはミルモが、一番に想う大切な妖精だと思うの……」
「おふくろ、何いってんだ…」
「私は気付いていました。ムルモがミルモに対して、お兄ちゃんを見るだけではない、特別な感情を抱いていたことを。そしてミルモ、あなたも……」
「おい、おふくろっ……!」
「ミルモ……あなたに魔法の継承という重荷を背負わせたこと、ひとりで抱え込ませたこと……本当にごめんなさい。どうかムルモの本当の気持ちを聞いてあげて……」
おふくろはオレの顔を見つめてから、オレをぎゅっと抱きしめた。
「おふくろ……」
……余計なこと言うんじゃねぇ! ここにいるのはオレ達だけじゃねーんだぞ……でも、そうだ。オレがムルモの気持ちを受け止めるしかねえ。じゃねーとムルモは本当に、どうなっちまうか分かんねー。――オレはムルモには元気で、『幸せ』でいてほしいんだから!
「ムルモ……起きてくれ、ムルモ!」
オレはムルモの側に駆け寄った。窓から夕暮れを告げる茜色の光が入って、ムルモの顔を照らした。
◆
――お兄たまのばか。
「おにいたまのばかぁーーー!」
誰もいない森の中で思いっきり叫ぶでしゅ。
もう、お兄たまなんか大嫌いでしゅ! ボクがいくらお兄たまが楽しみにしていたグレートバッチグーチョコをじぇ〜んぶ食べたからって、あんな怒ることないじゃないでしゅか……。
「家出してやったでしゅ! お兄たま、今ごろ驚いてるでしゅね……!」
生まれて初めてのひとりきりの冒険なんでしゅ。いつもお兄たまとふたりで行っていたこの森をひとりで……木に生えている魔法ドングリをどっちが多く取れるか競争したり、咲いている
「わくわくしゅるでしゅね。でも……」
日が沈みだすと、どんどん辺りが暗くなって、胸が心細い気持ちでいっぱいになっていくでしゅ。どうすればいいんでしゅか……こんな森の中で一晩過ごすなんて……ひ、火起こしなんて…ボクみたいなプリティーな妖精にできるわけないじゃないでしゅか! でも、こんな時こそ……
「へっちゃらでしゅ! お外で寝るなんて…じぇ、
しょんなことを考えていたせいか、ボクはうっかり石につまづいて転んで、目の前の穴に飛び込んでしまったでしゅ。
「うわぁ……っ!」
ドテンッ、と手をついて倒れた穴の中を起き上がって下から見上げるでしゅ。
「ひゃーひゃっひゃっひゃーっ!」
「しょの声は……ヤシチしゃん!」
聞き覚えのある笑い声がこだまして、ボクの予想通りヤシチしゃんがひょこっと顔を出すでしゅ。
「やいミルモ! 拙者の作った落とし穴にはまるとは、おマヌケなやつよ……」
「おマヌケなのはヤシチしゃんの方でしゅ」
「お、おぬしは……ムルモ〜!?」
ヤシチしゃんが豆鉄砲を食らった顔をして、おマヌケな大声をあげると、ショックを受けたのかポカーンとその場に立ち尽くすでしゅ。
「ほーんと、ボクとお兄たまの見分けがつかないなんて、ヤシチしゃんは本物のおばかしゃんでしゅね」
「キーーッ! ムルモだと!? なぜだー!」
ヤシチしゃんが地団駄を踏んで悔しがるでしゅ。
「覚えてろミルモめ、次は必ず…! ええい、さらばだ!」
と言って、ヤシチしゃんが煙玉を取り出して地面に叩きつけましゅが、煙がしょぼしょぼとしか出てましぇんね……。
「……しょんな失敗作、どこで手に入れたんでしゅかね」
「けほんけほん、では、さらばだ!」
ヤシチしゃんがどこかへと走り去っていくでしゅ……! 途中でヤシチしゃんがつまづいて転ぶ音がしましゅが、何事も無かったように行ってしまったでしゅ……ボクは穴の底にひとり残されて、ぽつんと佇むでしゅ。
「ボク、いやでしゅ。ひとりなんか……ひとりなんか寂しいでしゅ……!」
涙が溢れてきて止まらないでしゅ。ボク、お兄たまに構ってほしくてあんなことしたんでしゅよ……このごろお兄たまは友達のペータしゃんやビケーしゃんたちとじゅっと遊んだり、ヤシチしゃんと魔法の対決をしたり、リルムしゃんとデートに行ってボクを放ったらかしに……って、なんてこと考えてるんでしゅか? お兄たまにはお兄たまの付き合いというものがあるし、ましてやリルムしゃんはお兄たまの婚約者なんでしゅよ……?
ボク、やっぱり帰らないでしゅ。お兄たまのもとには
ボクのほっぺを涙が伝って、地面にぽたりぽたりと落ちていくでしゅ。
「ううぅっ……あぁ、……ああんっ…………!」
穴の中に体育座りして、腕で顔を隠して泣き始めましゅ。
――あんたってほーんと、素直じゃないんだから!
しょういえば、パピィにこんなこと言われたでしゅが、いったいなんのことでしゅかね? 昨日のお兄たまとリルムしゃんのデート、お兄たまもリルムしゃんもとっても楽しそうだったでしゅ。お花畑でピクニックなんてうらやまし……邪魔してやろうと思って茂みに隠れて見張ってたところをパピィに見つかったんでしゅが……
――ムルモのおばか! おなんこなす! 弱虫! あんたなんか大っ嫌い!
――なんでしゅって〜! パピィのくせに生意気なんでしゅ、ムカつくでしゅ!
しょれから取っ組み合いのケンカになって、結局お兄たまとリルムしゃんに見つかったんでしゅ。ふたりともデートが台無しになったからがっかりしたに決まってましゅよね……。
「ボクのせいでしゅ。ボクがいなかったらあんなことにはならなかったんでしゅ。ボクなんかいなくなっちゃえばいいんでしゅーー!」
『ルモ……ムルモーッ! おい、どこにいるんだーっ! ムルモ、ムルモ……ッ!』
……遠くから、茂みがガサガサ動く音と一緒に、必死にボクを呼ぶ声が聞こえるでしゅが、まさか……?
「おにい……たま?」
――ハッとして見上げると人影が見えたでしゅ。暗くて一瞬分からかったでしゅが、穴の上から息を切らしたお兄たまが覗き込んでいたでしゅ。
「はぁ、はぁ…ムルモ、やっと見つけた……! こんなところにいやがって、バカヤローッ!」
マラカスを取り出してお兄たまが魔法を使うと、光と一緒にロープが出てきて、ボクに絡みついてきたでしゅ。
「すぐ引っ張ってやる…!」
お兄たまに引きあげられて、ボクはようやく地上に戻れたでしゅ……と思ったら、ボクのほっぺをお兄たまは両手で触れて、擦ってくるでしゅ……。
「お兄たま、ボク…」
「ったく、手間かけさせんじゃねえ! ケガしてねえな…このおバカ……」
お兄たまが、ボクをガバッと抱きしめてましゅ……。少し震えてるみたいで、ぎゅーって力が強くて、ちょっとだけ苦しいくらいでしゅ。
「お兄たま、ボクのこと探してたんでしゅか?」
「ったく、生意気言うんじゃねぇ…」
お兄たまの胸の中はあったかくて、お兄たまの匂いがして安心するのに……ほっぺが熱くなって、なんだか胸がどきどきするでしゅ。でもボク、じゅっとこうしていたいでしゅ……。
「……ムルモ? どうしたんだよ」
「なっ…なんでもないでしゅよっ!」
――あんたってほーんと、素直じゃないんだから! ちょういうのを『ドンカン』っていうのよ!
ま、まさか……気のせいに決まってましゅよ。
◆
おうちに帰ってくると、お父たまとお母たまがボクたちを迎えてくれたでしゅ。お母たまはボクやお兄たまの身体をタオルで拭いてくれたでしゅ……。
そして、ボクはいつものようにお兄たまのお部屋のベッドに潜り込むでしゅ。
「おいムルモ、オレの寝床に潜り込むんじゃねえ!!」
「お兄たまのいじわる! この間までボクと一緒に寝てくれたじゃないでしゅか!」
ボクがかぶっていた布団をめくられたかと思えば、お兄たまの顔がドアップでボクの目に映るでしゅ。
「はぁ~、これだからガキは困るぜ。てめーもうじき妖精学校入るんだろ。ひとりで寝てくれねえとオレが困るんだよ!」
「しょんなの、お兄たまの勝手でしゅ」
「……いつまでだって、一緒にはいられねーんだぞ……」
お兄たまがほんの一瞬だけでしゅが……どこか寂しそうな、困ったような顔をしたでしゅ。
「なにか言ったでしゅか?」
「なんでもねー!」
それからお兄たまはぷいと横を向いてから、ベッドに横になると、布団をかぶるでしゅ。
「……オレは寝るぞ。おめーも早く寝ろよ」
「言われなくてもそうしゅるでしゅよ! おやすみなしゃい……」
ボクもお兄たまのしゅぐそばに擦り寄って、目をつぶるでしゅ。そうしゅるとお兄たまは……ボクの手を両手で優しく、そっと握ってきたでしゅ。
「ムルモ……」
その後、お兄たまがボクの頭に手をのせてから、ボクの頭をそっと撫でてくるでしゅ。
「ムルモ、オレが悪かった……もう勝手に、ひとりでどっか行くんじゃねーぞっ……」
ボクの顔にぼたり、ぽたりとしずくが落ちてくるでしゅ。これは……涙でしゅ。お兄たまは今、泣いてるんでしゅ……涙からお兄たまの悲しみが伝わってくるようでボクまで悲しくなってくるでしゅ。お兄たま、ボクのことをしょんなに……。
――ほんとに、お兄たまのばか。
「お前がいなくなったら、オレ…オレッ……!」
――ボク、お兄たまのおそばにいましゅよ。だから……泣かないでくだしゃい。
ボクの気持ちはお兄たまには届かなくて、お兄たまは声をあげてしばらく泣いていたでしゅ。……パピィ、ボクってほんっと『ドンカン』みたいでしゅね。これでようやく分かったんでしゅから。
ボク、お兄たまのことが『
