短編集
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ずっと最悪だと思ってた僕の人生が、最近は少しずつ好転していっているような気がする。
そう思った要因の一人に含まれているのがアルハイゼンなのは癪だけど、あいつが居なかったらサージュとも出逢うことはなかっただろうと考えると、それはそれで全部必然だったのかもしれない、なんて思ってしまう。
「カーヴェ先輩、この二つだったら…どっちがいいと思う?」
「うん? そうだな…」
屈託のない笑みで、彼女は僕に微笑む。初めて会った日は僕の所為で酷く怯えていたあの子が、今は隣に居る。
最初はまだ子供だった筈なのに、思えば僕も彼女も随分と大人になったものだ。それだけ長いこと、彼女達と会っていなかったということか。
いや、そうじゃないな。単純に彼女の成長期真っ只中に疎遠だったというだけで、老いを感じる程長い間会わなかったわけじゃない…筈だ。
今日がまさに僕の誕生日で、また一つ歳を重ねてしまったというのも、そんな感傷に浸ってしまう理由のひとつかもしれない。
「造型がしっかりしているのはこっちだが…君に合わせるとなると、そっちの方がバランスがいいんじゃないか」
さて、そんな僕達だが、実は二人で買い物に来ているところだった。そして今、彼女は二つのネックレスを見比べて何やら悩んでいるようだ。
人に頼ることをあまり得意としないサージュがわざわざ呼び出すということは、僕の美的センスをそれだけ買ってくれているということだから、こんなに嬉しいことはない。
提示された二択に対しそれぞれの長所を挙げ、最終判断は彼女に委ねる。けれど彼女はあまり納得が行っていないのか、生返事でまた熟考に戻ってしまった。
「ふーん…」
会話が途絶えたのを機に、改めて僕はサージュの横顔をこの両目に捉える。整った睫毛が何度も揺れ、その度に僕の鼓動が大きく跳ねる。
過去に家が全焼してしまった際に負ったという火傷の痕が僅かに痛ましく残っているが、一見しただけではそんな怪我など気にならない程、彼女は"可愛い"顔をしていると断言出来る。
尤も、本人に面と向かって言うには色々と勇気がいることではあるから、易々と口に出せはしないけれど。
「悩むようなら両方買っていいんじゃないか。そう高い買い物でもないだろ?」
「ううん、そうしちゃうと両方持て余すから…っていうか、そんなだから先輩お金貯められないんだよ…買い物するときは、もっとちゃんと考えた方がいいよ」
「ぐっ…」
優柔不断な時の一番の解決策をあっさりと否定され、剰え逆に諫言を返されてしまう。
けどこればかりは彼女が正しい。何も言い返しようがない全くの正論なのだから。
でも仕方のないことでもあるんだ。買い物に限った話じゃない、僕は何かひとつを選ぶのが苦手だ。
選ばなかった方のことを考えると、頭が痛くなる。だったら、最初から悩まずにどっちも取る方がいいだろう?
「…すっごく反論したそうな顔してるね、先輩。ちゃんとした理由があるなら聞くけど」
全てを見透かしたかのような不敵な笑みを浮かべ、サージュが嘆息交じりに告げる。
でもここで僕の信念を語ったところで、残念ながら理解し共感してくれるような彼女ではないのを僕はよく知っている。
伝え聞く限りでも壮絶だとしか言えない過去の境遇がそうさせたのか、或いはアルハイゼンに懐いた所為であいつに感化されてしまったからなのか。
サージュは昔から随分と考え方がシビアな方で、僕とはその辺は真逆と言っていい。
折角の楽しい買い物が悪いものになってしまわないよう、理想をぶつけ合うのは諦めて引き下がることにする。
「いや、ないよ…全面的に君が正しい。だからこの件で君に言い返せることは何もない」
「そう? なら私も追及しないようにする。で、その上でもう一度質問させて。さっきの二つ、先輩の好みで選ぶとしたら…どっちにする?」
「え」
予想だにしない観点からの問いに、思わず喉が痞える。僕の好みなんて聞いて、どうするつもりなんだろう。
「ちょっと…考えてもいいか」
「うん、いいよ。あぁ待って、それならもう一回じっくり見た方がいいかな。はい」
一度陳列棚に戻していたそれらを再び拾い上げ、サージュは僕の掌に二つとも載せる。
どちらもそれぞれ異なるデザインで、最初に僕が"造型がいい"と言った方は割と凝った造りをしていた。
しかし精巧な反面、少しでも扱いが雑だと壊れてしまいそうで、その点は懸念材料のひとつになる。
彼女は遺跡調査に行ったり冒険者稼業でヒルチャール退治をしたりと割とお転婆な方だから、うっかり壊れたら僕の所為にされかねない。
「…うぅん、悩ましいな…」
半面、もう一方は僕から見ると装飾が少し物足りないというかなんというか。あと一個宝石が多く、もしくは大きく付いていればベストだったかもしれない。
ただ、元の外見がいいサージュにはそのくらいシンプルな方が合う気がすると思ったのは事実だ。
ごちゃごちゃ飾り立てるより、一点だけ引き立つ方が映える…と思う。完全な主観でしかないけれど。
それに余計な飾りがない分、何をするにも邪魔になりにくいのは利点とも言える。
間近で比較したことで余計に選びにくくなってしまったのを知ってか知らずか、彼女は特に何を言うこともなく僕の反応を待って黙り続けていた。
「アクセサリー単体として見れば、こっちの方がやっぱり凝ってる分優れているとは思う。けど人が…サージュが身につけることを考えたら、僕が勧めたいのはシンプルな方だな」
どんなに凝った造型でも、身に付ける人のことを考えてない設計は賞賛出来ない。これは建築と同じだ。
そう思った通りの考えを口にすると、サージュは照れ臭そうにはにかんで、そそくさと逃げるように別のコーナーに行ってしまった。
「…ん、ありがとう。じゃあそれにする。ちょっと待ってて、他のものも見てくるから」
待ってくれと言われたからには、ここは追いかけない方が得策か。店内は狭い方とはいえ、一人で考える時間も必要なんだろう。
どうせなら僕も何か買うかと言いたいところだけど、今月も借金と家賃の取り立てがあったばかりで財布には殆ど中身がない。
それを思い出すと、急に居心地が悪くなってきた。一旦気を紛らわせる為にも外に出ていようか。
そんなことを考え始めた矢先、サージュが小走りで僕の元に戻ってくる。紙袋を手に持っているということは、既に会計は済んでいるようだ。
「おまたせ。先輩、まだ時間あるよね? 今日のお礼に夕飯奢らせて」
「大したことじゃない、お礼なんて必要ないよ」
正直、奢ってもらいたい欲が全くないと言えば嘘になる。だが、曲がりなりにも僕は彼女の先輩であって、後輩に食事を無心するなんてとんでもない。
ジュエリーショップを出ながら全力で遠慮しようとするも、珍しく彼女は一度の拒否では頷かず食い下がってきた。
「ダメ。もう席予約してあるんだから」
強引に僕の手首を引いて、有無を言わさず次の場所へ連れて行くべく歩き始めたサージュ。
目指しているのがどこかはわからないが、せめて僕を知る人が居ないところであることを願いたいものだ。
「サージュ、手を離してくれないか。このままだと血が止まってしまう」
半ば引きずられるように歩く中、きつく握られた手首が痛くなってきた僕は希う。
「いいけど…逃げないよね?」
振り返り様に見えたサージュの眼には得体の知れない恐ろしさが宿っており、思わず息を呑む。
そして完全に身体をこちらへ向けた今、目を細めて笑ってこそいるけれど、その表情の裏には威圧感が漂っていた。
これでもし逃げようなどと考えたら、地の果てまで追ってくるんじゃなかろうか。背筋が凍る感覚に震えながら、ゆっくりと頷いて意志を示した。
「あぁ」
「なら、離すよ」
ようやく解放され、自然と安堵の息が零れる。神の目による加護の賜物か、彼女は普通の人より握力が強いようだ。
白んでいた手に血が巡っていくのを確かめて、腕が過不足なく動かせることを確かめる。大丈夫そうで良かった。
「えっと…ごめん。先輩、私が奢るって言うといつも何かにつけて断って逃げるから…今日だけはそうされたくなくて、つい」
僕が手首を執拗に気にしていると思ったのか、随分としおらしい態度で非を詫びるサージュ。
とはいえ前科持ちの僕にも非があるのは明白だから、あまり強くは責められないな。
「君が謝ることじゃない。普段の僕の言動を考えたら、そうするのが一番合理的だろうからね。けど、何だって今日だけはそんなに僕に奢りたいんだ?」
「奢りたい、っていうか…その…」
何気なく尋ねたつもりが、想像と異なる妙な反応を返してきた。目線が泳いで、頬がどことなく赤い。
まさかサージュ、僕のこと…いや考えるのはよそう。そうやって自惚れて、何度も痛い目を見てきたじゃないか。
「理由なんて別にいいでしょ。ほら行くよ」
無理矢理に会話を断ち切って、今度は背中を押してくる。そこまで信用ないのだろうか僕って。次からはもう少しお言葉に甘えるべきなのか。
でもそれは何だか申し訳ないと思ってしまうのは、やはり彼女はまだ教令院を卒業していないからなのだろう。
ティナリやセノと食事に行くときは何度も彼らの世話になってしまっているのに、サージュに同じことをされるのはどうしても気が引ける。
もしかしたら、彼女が年下の女の子だからというのが、僕にとっては一番大きな要因かもしれない。
そんな無為なことを考えている内に、いつの間にかよく見知ったあの酒場の景観が僕の眼前に飛び込んできた。
「カーヴェ先輩、着いたよ」
「ん? ここって…」
少し前、僕がアルハイゼンに拾われるまで入り浸っていた酒場だ。尤も彼女はそんなことは知らないだろうから、今からここでの食事は嫌だという訳にも行かない。
さて、どうしたものか。悩む暇もないまま、サージュは僕を店内に押し込んでいく。仕方ない、ここは覚悟を決めるしかないか。
「せーの…」
覚えがある誰かの声が微かに聞こえた気がしたと思った次の瞬間、何かの破裂音が耳に響く。
それが祝事に使われるクラッカーのものだと気付くのに、そう時間はかからなかった。
「誕生日おめでとう、カーヴェさん」
「え…?」
恐る恐る目を開けると、そこには親しいメンバーがほぼ揃っていた。ティナリ、セノ、コレイ。
そこにサージュを加えた四人で、今日のことを計画していたみたいだ。だから彼女は"今日だけはどうしても"と言って聞かなかったのか。
唯一アルハイゼンだけは居なかったが、どうせ僕のことなんて祝ってくれる奴じゃない、居なくて当たり前だろう。
最も驚くべきなのは、サージュが僕の誕生日を知ってたことだ。教えた記憶もないし、聞かれたこともないのに、一体どこから聞きつけたんだ?
「何故サージュがお前の誕生日を知ってるのか、そんな顔をしているな」
「どうしても知りたいって言うから、僕が教えたんだ。迷惑だった?」
セノの問いに狼狽えている内に、横からティナリが答える。どうやら犯人は彼だったらしい。
「いや、迷惑なんてことはないが…最初から言ってくれれば良かったのに」
「言ったら絶対遠慮するクセに、よく言うよ。ほら、早く席に着いて」
ティナリに一際目立つ装飾の席に案内され、完全に今日の主役にされてしまった。これは少し参ったな。
人の誕生日を祝うのは嫌いじゃないが、自分が祝われる側になる方の記憶は朧気で、どういうリアクションをすればいいかわからない。
呆然と待っていたら、五人でも食べ切れるか不安になる大きさのケーキが運ばれてきた。これを食べるのは骨が折れそうだ。
「あ…ありがとう。こんな盛大なお祝い、初めてだ」
それから僕は四人からそれぞれ思い思いのプレゼントを貰ったり、誕生日の歌を歌ってもらったりと、まるで子供の頃を思い出すような楽しさに満ちたパーティを満喫する。
皆僕のことを本当に心から祝ってくれているのが伝わってきて、こんな幸福を味わっていいのか不安が過ってしまう程だった。
「カーヴェ先輩」
誕生会が終わり、ティナリ達を見送った後。酔い醒ましにと酒場の屋外席へ移って夜風に当たり涼んでいた僕に、サージュが声を掛けてくる。
どうやら店内の片付けとか支払いの関係で、彼らが帰った後も一人で残っていたみたいだ。
今回は彼女が僕の誕生日をティナリに尋ねたのが始まりのようだから、恐らくは発起人としての責務を果たしたんだろう。
「ん? どうしたんだい、サージュ」
「改めて誕生日おめでとう。先輩…もうすぐ三十?」
「なっ…! はぁ…確かにそうだけど、何も今それを言わなくてもいいだろ? まだ僕だって誕生日を喜びたい歳なんだ、そんな現実を直視させるようなこと言わないでくれ」
遠回しにおじさん扱いされ、つい声を荒げてしまう。サージュはまだ酒が飲めるようになったばかりで若いから仕方ないとはいえ、流石に心外だ。
自分でも最近疲れが取れにくくなってきたり寝付きが悪かったりして少しずつ加齢を痛感しているところなんだから、残酷な現実を突き付けるのはやめて欲しいものだ。
「ごめん、悪口が言いたかったんじゃないの」
本気で悩んでると思ったのか、それとも別に考えがあったのか、サージュは珍しく僕を揶揄うことなく素直に非を詫びてきた。
それはそれでなんだか調子が狂ってしまう。こういう話題の時、大抵の場合彼女はどこぞの皮肉屋と似たような喧嘩の売り方をしてくるはずなのに。
「その歳であんな風に誕生日を祝われるの、本当は嫌だったんじゃないか…って急に不安になってきて」
泣きそうな目で、それでも懸命に笑う。彼女なりに頑張った気持ちが溢れてきて、こっちまで胸が苦しくなる。
「何だ、そういうことか…大丈夫。勿論嬉しかったさ、そこは年齢なんて関係ないだろ?」
「そっか。はあ…良かったぁ…」
苦しみを和らげるべくそう告げてやると、彼女は深い安堵の息を零して僕の隣の席に伏せ始める。
彼女が酒を飲んでいた記憶は無いけど、垂れた髪の隙間から見える顔が仄かに紅く染まっているようにも見えて、思わず心臓が跳ねる。
「…」
暫く沈黙が続いて、次第に心臓の音が耳鳴りになって木霊し始める。おかしいな、もうとっくに酔いは醒めてる筈なのに。
セノのジョークを聞かされた後の気まずい空気とはまた違った重苦しさが、開けたはずの空間にどんよりと佇んでいた。
「あの」
「なんだい?」
沈黙を破り、サージュが意を決して口を開く。ゆっくりと身体を起こして、それから深呼吸をする。
一瞬だけこちらを見た後、何かを躊躇うように俯く。その後すぐ首を振って、もう一度僕の方に向き直った。
「これ、受け取って欲しくて」
「えっ」
そう言って彼女が差し出したのは、食事の前に買い物した店での紙袋。でもこれは、サージュが自分の為に買ったアクセサリーじゃないのか?
「あぁ心配しないで、私が見立ててもらったのは別にあるから。こっちは元々先輩の為に買ったやつ」
「僕の為に…?」
状況が飲み込めずに訝しんでいると、サージュは僕が壮大な勘違いをしていることに気付いたらしく冷静にそれを訂正してくる。
けどその所為で、尚更疑問が増えてしまった。何だって彼女が僕にプレゼントを、それも皆の前でなく二人きりになってからの今、渡そうとしてきたんだろう、と。
心が騒めく感覚に、ただひたすら余計なことを考えてしまう。まさか本当に彼女、僕に先輩として以上の好意があるのか…?
それは唯の自惚れだとネガティブに囁く僕と、これだけ状況証拠が揃っていて気付かない程愚かではない筈だろうと変にポジティブさを持って嘲笑う僕が競り合っている。
あまりに突然のことに上手く頭が働かないまま、僕はサージュの表情をただぼうっと見ていることしか出来なかった。
「…そう。先輩の誕生石は御守りとして優れてる、って聞いたから。開けてみてよ」
言われるがままに、渡された袋の封を開ける。中から出てきたのは、小さな薄緑色の宝石がついたシンプルなブレスレットだった。
それは翡翠に似た綺麗な色をしていて、僕の持つ草元素の神の目と比べると少し白が強い。
誕生石なんて知らない概念だし、宝石に詳しい訳でもないから、これがどんな石なのか見ただけではよく分からないけど、少なくともサージュが僕の為を想って選んだものに違いはない。
「いい色をしているな。なんの石を加工したものなんだ?」
「緑玉髄。先輩に渡したそれは、スネージナヤの山で採れたものを加工したものみたい」
名前を聞けばわかるかもしれないと思って一縷の望みを賭けて聞いてみたが、やはり知らない石だった。
それにしても、元はスネージナヤの鉱石か。サージュがプレゼントしてくれなかったら、僕には一生縁のないものだっただろうな。
「そんなものを、本当に僕がもらっていいのかい」
不安に思ってもう一度問うと、彼女は無言で力強い首肯を見せて、そのまま俯いてしまった。
「言ったでしょ。御守りだ、って」
「…そうか。なら、大切にしないとな。ありがとうサージュ」
「ん」
僕の告げた感謝に、俯いたまま更に頭を下げてもう一度深く頷いて、それっきり押し黙るサージュ。
これ以上長居していると、場の雰囲気に流されて、よからぬ事をしてしまいかねない。
サージュのことは可愛い後輩だと思ってる。それでいい。いや、そうでなければいけないんだ。
それ以上近くなってしまうと、きっとまた関係を壊してしまう。親しくなればなるだけ、僕は人との接し方がわからなくなるから。
かつてそうやってアルハイゼンとの友好関係を打ち砕く瞬間を目の当たりにした彼女に、同じ想いをさせたくはない。
「じゃ、そろそろ…僕はこれで」
「待って」
立ち上がった僕を呼び止める、否、手を掴んで物理的に引き止めるサージュ。
強引に揺り戻されバランスを崩した身体を支えるべくもう一方の手をテーブルに着いた瞬間、頬に何かが触れる。
「ッ…おやすみ!」
その感触が何だったのか、その正体をハッキリと認識するよりも早く、彼女は脱兎の如く去ってしまう。
僕はと言うと、中腰で硬直したまま動くことも出来ず、頭の中でごちゃごちゃと騒ぐ感情に思考を占拠されていた。
何も考えられない程に、頬に触れた温もりが鮮明に脳裏に焼き付いている。もしかして、これが夢ってやつなのか。
「え、サージュ…?」
だとしたら、随分と僕に都合のいい夢だ。友達に誕生日を祝われて、好きな子からプレゼントを貰って、更にキスまでされて。
ん? 僕は今、なんと言った…? そんな馬鹿げたことを考えて…あぁ、実はまだ酔ってるのか。
だったら丁度いい、さっきは皆の手前遠慮してた所為で、本当は飲み足りないと思ってたところだったんだ。
もう一度飲み直して、それでも全部忘れられなかったら…ちゃんとサージュと向き合う、そういうことにしておこう。
「マスター! いつものもう一杯!」