えぺ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
突然だけど、僕は今ソラスの片隅キングスキャニオンの更に外れに位置する場所に用意された射撃訓練場に居る。
と言っても僕自身がレジェンドの皆のように射撃の練習をする訳では勿論なく、場内で無造作に生成され投げ捨てられた弾の残骸や銃器のデータチップなどのゴミを回収し敷地内をクリーンナップするために足を踏み入れていた。
「…ん?」
「おっと、悪い悪い。確かあんたは…マキナだっけ。整備中とは知らずにウッカリ入っちまった、すぐに出るよ」
汗を拭っていた僕に気付き踵を返そうとしたのは、"ヴァルキリー"こと今原カイリ氏。彼女を引き留めるべく、慌てて駆け寄る。
「僕の名を覚えていてくれるなんて光栄です、ヴァルクさん。大丈夫ですよ、もう綺麗にし終えた後なので気にせずどうぞ」
「って言われても、一番乗りに喜ぶほど乗り気な気分でもないんだよな…射撃じゃなくて、単にちょっと風を感じに来ただけだから」
そう言って、背中に携えたジェットを展開し大きく飛び上がる。彼女が訓練場を鋼鉄の翼で優雅に空を翔ける姿はとても綺麗で、いつまでも見ていたくなるものだった。
僕はそれをいつも憧れの眼差しで画面越しに観戦していただけに、こんな至近距離でそれを見るのはなんだか不思議な気分だ。
「…」
呆然と立ち尽くし見上げていた僕を案じたのか、単に満足したからなのかはわからないが、彼女はゆっくりと高度を下げて慎重に地上へと降りてくる。
「お、お疲れ様です。飲み物どうですか」
ミーハーなファンのような、情けない声で尋ねる。いや実際今の僕はこの蒼穹の支配者にとってただの砂粒程度の存在でしかなく、視界に入れてもらえているだけでも奇跡ではあるけども。
だがそんな僕にも彼女は優しく微笑んで、角の立たない柔らかな口調で遠慮する意志を示してくれた、と言うには何やら不穏な発言を口にするのだった。
「ん? ああ、ありがと。でもアンタも一仕事終えた後だろ? 私はこの後一杯やりに行くから大丈夫さ。っつーか、どうせだから一緒に飲むか!」
「えっ、と…」
面白い玩具を見つけたと言わんばかりに、ニコニコとこちらを見つめるヴァルクさん。
彼女がレジェンドの一人、ローバ・アンドラーデ女史とは仲睦まじい間柄なことは半ば周知の事実で、僕なんかがそこに入るような隙は無いはずなのだが、この状況下で断る勇気があるわけもなく。
「…僕でいいのであれば、構いませんが」
「よし、決まりだ。 …っと、誘っておいてなんだが、もし酒が飲めないってんなら…無理に私に付き合わなくていいからな」
「いっいえ大丈夫…全然大丈夫、です。ハイ」
正直なところ畏怖が半分、困惑が半分で景気よく飲酒する気分では全くないが、思わず空元気で頷いてしまった。
凄まじい程の緊張が僕を襲い、作業後の心地よいそれとは全く異なる冷え冷えとした汗が滴るのを感じる。
「ん? どーした」
「き、緊張してるんですよ。いちエンジニアの僕が、レジェンドのあなたと二人でって…心臓がバクバク鳴ってる」
「私は興味の無い相手をわざわざ飲みになんて誘わないよ。サポートとしての腕は確かなのに、随分自信が無いんだな」
俯く僕を、彼女が顎を引いて持ち上げる。そのままキスされるのかと焦ったが、流石にそれは突飛すぎる発想だった。
代わりに受けたのは、額への洗礼。指で勢いよく弾かれ、僕はそのまま尻餅を着いてしまう。
何が起こったかすぐに理解できないまま呆気にとられていると、彼女もこちらを驚いた様子で見つめてきた。
「…この通り、機械に関する技術以外はからっきしなので」
「だろうね。多少は加減したつもりなのに、そんなに派手に転ばれて逆にビックリしちまったよ…立てるか?」
手を差し伸べて、僕の身体を起こすヴァルクさん。引き上げてもらう所作すら覚束無いのに、デコピンを避けられる訳が無いのだ。
「すみません」
「ラムヤの友達だって聞いてたから腕っ節もそこそこなのかと思ってたけど、案外そうでもないんだなぁ」
「それは…そうですよ。僕は荒っぽいことをするのは苦手ですから」
全ての人を大事に思う心を持つ僕だ。どんな罪人でも、自分が死にかける間際でも、自分で誰かを傷つけなくて済むのであればそうする。
唯一の例外は、眼前の相手を殺らなければ別の人間に殺られる時だけ。尤も幸運なことに、僕は持ち前の技術力のおかげでそうなる前に命拾いしたことが何度もあったのだが。
「…へえ。随分と世渡り上手なお子様だったんだね」
吐き捨てるように、そう零す。目に見えて苛立っているのは、きっと死とは無縁の幸せ者だと思われているからだろう。
けれど、その認識を否定する気にもなれない。だって誤解でも何でもなく、実際に僕は機械を直すのが人より得意だと言う、たったそれだけで安全圏に居させてもらえた身だ。
常に死と隣り合わせだった人が怒りを見せるのは、寧ろ至極当然のことだとさえ思う。だから彼女の言葉には頷くしか出来ないのだ。
「そうですね。貴方の父君やブリスクおじさん達のおかげで、今の僕がここに居ますから」
「ッ、それは…知らなかったな。父さんとも面識があったのか」
エイペックスプレデターズ。まだ幼子だった僕の才を買って、この身を守ってくれた恩人たち。その中に、ヴァルクさんの父君こと"バイパー"も居たのを覚えている。
昔の才能に満ち溢れていた頃の僕は、彼らが求める修繕や改造を難なくこなして、そうして報酬と生きる糧を得ていた。
「直接顔を合わせたのはたった一度きりで…しかも僕がまだ小さい頃のことですから、面識があったと言うには微妙なところですが。でも、確かに僕は何年も前に…貴方が今その背中に背負う翼の傷を直したことがあります」
僕の言葉に驚きを隠せないのか、彼女は無言のまま立ち止まる。年齢的には僕がまだ幼子の頃のことで、それは彼女の疑念を増すのに充分過ぎることだと思う。
「…父さんからは君の話なんてひとつも聞いたことないが…その目を見る限りは嘘だと思えないな」
「信じてくれるんですね。気を引きたくて出任せ言ってるかもしれないのに」
「嘘なら嘘で、有能なエンジニアが一人事故死するだけだ」
真顔でサラッととんでもないことを言い放つ間際に、いつの間にか彼女が手に携えていたハンドガンの銃声がひとつ鳴り響く。
その音は空を切り僕のはるか頭上を通り抜け、数百メートル先の的が命中を示す赤色へと変わっていた。
「…やかましい割に相変わらず威力はしょっぱいね、コレ。もう少しマシになんない?」
彼女が持っていたのは、どうやら訓練場に入場する際に手渡されるP2020だったようだ。
的に当てた際のダメージ表示を目視して、その一発の価値の低さを嘆くが、それをどうにか出来る権限が僕程度の下っ端にあるはずも無く。
「そう言われても、残念ながら僕にはどうにも出来ませんが」
「ま…そりゃそうか。んー、せめてサイレンサーでも有れば多少は使いものになりそうな気もするんだけど」
構造を観察しながら、今は塞がれてしまったホップアップ接続部分へと不思議そうに指をあてるヴァルクさん。
それもその筈、P2020に装着出来た唯一のホップアップ"ハンマーポイント"は、彼女の参戦と入れ替わるように廃止されてしまったのだから。
「サイレンサー…ですか。銃声を消す、あるいは小さくするというのは、奇襲をかけやすくなりすぎてしまいそうで難しいかもしれませんね」
僕は開発には携わっていないので未発表のアタッチメントに関する情報は一切与えられておらず、迂闊なことは言えない。
そもそも所望したパーツの挙動も鑑みると、嘆く彼女へ肯定的な反応は出来そうになかった。
「ふーん、なるほどね。私達と運営側としての感覚とだと、流石に変わってくるか」
「ショーゲームとしてはやはり撃ち合い勝負が肝ですからね。一方的な奇襲による蹂躙は好まない観客も少なくないかと」
僕の意見、と言うよりは完全に観る側の意見だが。とはいえあながち的外れとも言い難いだろう答えに、彼女は納得する様子を見せる。
「…一理ある」
普段の戦闘における情景を思い起こしているのか、言葉少なに俯く。ヴァルクさんも、予想外の場面で危機に陥った経験も一度や二度ではないはずだし納得するのも当然か。
とはいえ、上の人が考えていることは僕にはさっぱりわからないので、次のシーズンあたりに唐突に気の狂った装備品を追加してもおかしくないのがこのエーペックスゲームの恐ろしさなのだが。
「ま、あまり考えすぎても仕方ないか。そろそろ行こう、モタモタしてると酒が逃げちまう」
どうやら戦闘に対する思考が空腹に負けたようだ。アンニュイな表情が一気に晴れ、離れて気味になっていた距離が一気に縮まり肩にヴァルクさんの重みがのしかかって来る。
「そうですね…あ、ヴァルクさんは確か日本酒がお好きでしたよね。和食のいい店知ってますよ」
「マジ? 最高だね! 誘って良かった」
僕の何気ない提案に無邪気な笑みを浮かべ、喜びを露わにする。そんな眩しさに満ちた笑顔を前に、僕はふとローバさんのことを思い出す。
今日の僕のこの邂逅のせいで、二人の仲が裂かれるような事態になることだけは避けたいな、と思ってしまう。尤も、そんなことにはならないだろうけれど。
と言っても僕自身がレジェンドの皆のように射撃の練習をする訳では勿論なく、場内で無造作に生成され投げ捨てられた弾の残骸や銃器のデータチップなどのゴミを回収し敷地内をクリーンナップするために足を踏み入れていた。
「…ん?」
「おっと、悪い悪い。確かあんたは…マキナだっけ。整備中とは知らずにウッカリ入っちまった、すぐに出るよ」
汗を拭っていた僕に気付き踵を返そうとしたのは、"ヴァルキリー"こと今原カイリ氏。彼女を引き留めるべく、慌てて駆け寄る。
「僕の名を覚えていてくれるなんて光栄です、ヴァルクさん。大丈夫ですよ、もう綺麗にし終えた後なので気にせずどうぞ」
「って言われても、一番乗りに喜ぶほど乗り気な気分でもないんだよな…射撃じゃなくて、単にちょっと風を感じに来ただけだから」
そう言って、背中に携えたジェットを展開し大きく飛び上がる。彼女が訓練場を鋼鉄の翼で優雅に空を翔ける姿はとても綺麗で、いつまでも見ていたくなるものだった。
僕はそれをいつも憧れの眼差しで画面越しに観戦していただけに、こんな至近距離でそれを見るのはなんだか不思議な気分だ。
「…」
呆然と立ち尽くし見上げていた僕を案じたのか、単に満足したからなのかはわからないが、彼女はゆっくりと高度を下げて慎重に地上へと降りてくる。
「お、お疲れ様です。飲み物どうですか」
ミーハーなファンのような、情けない声で尋ねる。いや実際今の僕はこの蒼穹の支配者にとってただの砂粒程度の存在でしかなく、視界に入れてもらえているだけでも奇跡ではあるけども。
だがそんな僕にも彼女は優しく微笑んで、角の立たない柔らかな口調で遠慮する意志を示してくれた、と言うには何やら不穏な発言を口にするのだった。
「ん? ああ、ありがと。でもアンタも一仕事終えた後だろ? 私はこの後一杯やりに行くから大丈夫さ。っつーか、どうせだから一緒に飲むか!」
「えっ、と…」
面白い玩具を見つけたと言わんばかりに、ニコニコとこちらを見つめるヴァルクさん。
彼女がレジェンドの一人、ローバ・アンドラーデ女史とは仲睦まじい間柄なことは半ば周知の事実で、僕なんかがそこに入るような隙は無いはずなのだが、この状況下で断る勇気があるわけもなく。
「…僕でいいのであれば、構いませんが」
「よし、決まりだ。 …っと、誘っておいてなんだが、もし酒が飲めないってんなら…無理に私に付き合わなくていいからな」
「いっいえ大丈夫…全然大丈夫、です。ハイ」
正直なところ畏怖が半分、困惑が半分で景気よく飲酒する気分では全くないが、思わず空元気で頷いてしまった。
凄まじい程の緊張が僕を襲い、作業後の心地よいそれとは全く異なる冷え冷えとした汗が滴るのを感じる。
「ん? どーした」
「き、緊張してるんですよ。いちエンジニアの僕が、レジェンドのあなたと二人でって…心臓がバクバク鳴ってる」
「私は興味の無い相手をわざわざ飲みになんて誘わないよ。サポートとしての腕は確かなのに、随分自信が無いんだな」
俯く僕を、彼女が顎を引いて持ち上げる。そのままキスされるのかと焦ったが、流石にそれは突飛すぎる発想だった。
代わりに受けたのは、額への洗礼。指で勢いよく弾かれ、僕はそのまま尻餅を着いてしまう。
何が起こったかすぐに理解できないまま呆気にとられていると、彼女もこちらを驚いた様子で見つめてきた。
「…この通り、機械に関する技術以外はからっきしなので」
「だろうね。多少は加減したつもりなのに、そんなに派手に転ばれて逆にビックリしちまったよ…立てるか?」
手を差し伸べて、僕の身体を起こすヴァルクさん。引き上げてもらう所作すら覚束無いのに、デコピンを避けられる訳が無いのだ。
「すみません」
「ラムヤの友達だって聞いてたから腕っ節もそこそこなのかと思ってたけど、案外そうでもないんだなぁ」
「それは…そうですよ。僕は荒っぽいことをするのは苦手ですから」
全ての人を大事に思う心を持つ僕だ。どんな罪人でも、自分が死にかける間際でも、自分で誰かを傷つけなくて済むのであればそうする。
唯一の例外は、眼前の相手を殺らなければ別の人間に殺られる時だけ。尤も幸運なことに、僕は持ち前の技術力のおかげでそうなる前に命拾いしたことが何度もあったのだが。
「…へえ。随分と世渡り上手なお子様だったんだね」
吐き捨てるように、そう零す。目に見えて苛立っているのは、きっと死とは無縁の幸せ者だと思われているからだろう。
けれど、その認識を否定する気にもなれない。だって誤解でも何でもなく、実際に僕は機械を直すのが人より得意だと言う、たったそれだけで安全圏に居させてもらえた身だ。
常に死と隣り合わせだった人が怒りを見せるのは、寧ろ至極当然のことだとさえ思う。だから彼女の言葉には頷くしか出来ないのだ。
「そうですね。貴方の父君やブリスクおじさん達のおかげで、今の僕がここに居ますから」
「ッ、それは…知らなかったな。父さんとも面識があったのか」
エイペックスプレデターズ。まだ幼子だった僕の才を買って、この身を守ってくれた恩人たち。その中に、ヴァルクさんの父君こと"バイパー"も居たのを覚えている。
昔の才能に満ち溢れていた頃の僕は、彼らが求める修繕や改造を難なくこなして、そうして報酬と生きる糧を得ていた。
「直接顔を合わせたのはたった一度きりで…しかも僕がまだ小さい頃のことですから、面識があったと言うには微妙なところですが。でも、確かに僕は何年も前に…貴方が今その背中に背負う翼の傷を直したことがあります」
僕の言葉に驚きを隠せないのか、彼女は無言のまま立ち止まる。年齢的には僕がまだ幼子の頃のことで、それは彼女の疑念を増すのに充分過ぎることだと思う。
「…父さんからは君の話なんてひとつも聞いたことないが…その目を見る限りは嘘だと思えないな」
「信じてくれるんですね。気を引きたくて出任せ言ってるかもしれないのに」
「嘘なら嘘で、有能なエンジニアが一人事故死するだけだ」
真顔でサラッととんでもないことを言い放つ間際に、いつの間にか彼女が手に携えていたハンドガンの銃声がひとつ鳴り響く。
その音は空を切り僕のはるか頭上を通り抜け、数百メートル先の的が命中を示す赤色へと変わっていた。
「…やかましい割に相変わらず威力はしょっぱいね、コレ。もう少しマシになんない?」
彼女が持っていたのは、どうやら訓練場に入場する際に手渡されるP2020だったようだ。
的に当てた際のダメージ表示を目視して、その一発の価値の低さを嘆くが、それをどうにか出来る権限が僕程度の下っ端にあるはずも無く。
「そう言われても、残念ながら僕にはどうにも出来ませんが」
「ま…そりゃそうか。んー、せめてサイレンサーでも有れば多少は使いものになりそうな気もするんだけど」
構造を観察しながら、今は塞がれてしまったホップアップ接続部分へと不思議そうに指をあてるヴァルクさん。
それもその筈、P2020に装着出来た唯一のホップアップ"ハンマーポイント"は、彼女の参戦と入れ替わるように廃止されてしまったのだから。
「サイレンサー…ですか。銃声を消す、あるいは小さくするというのは、奇襲をかけやすくなりすぎてしまいそうで難しいかもしれませんね」
僕は開発には携わっていないので未発表のアタッチメントに関する情報は一切与えられておらず、迂闊なことは言えない。
そもそも所望したパーツの挙動も鑑みると、嘆く彼女へ肯定的な反応は出来そうになかった。
「ふーん、なるほどね。私達と運営側としての感覚とだと、流石に変わってくるか」
「ショーゲームとしてはやはり撃ち合い勝負が肝ですからね。一方的な奇襲による蹂躙は好まない観客も少なくないかと」
僕の意見、と言うよりは完全に観る側の意見だが。とはいえあながち的外れとも言い難いだろう答えに、彼女は納得する様子を見せる。
「…一理ある」
普段の戦闘における情景を思い起こしているのか、言葉少なに俯く。ヴァルクさんも、予想外の場面で危機に陥った経験も一度や二度ではないはずだし納得するのも当然か。
とはいえ、上の人が考えていることは僕にはさっぱりわからないので、次のシーズンあたりに唐突に気の狂った装備品を追加してもおかしくないのがこのエーペックスゲームの恐ろしさなのだが。
「ま、あまり考えすぎても仕方ないか。そろそろ行こう、モタモタしてると酒が逃げちまう」
どうやら戦闘に対する思考が空腹に負けたようだ。アンニュイな表情が一気に晴れ、離れて気味になっていた距離が一気に縮まり肩にヴァルクさんの重みがのしかかって来る。
「そうですね…あ、ヴァルクさんは確か日本酒がお好きでしたよね。和食のいい店知ってますよ」
「マジ? 最高だね! 誘って良かった」
僕の何気ない提案に無邪気な笑みを浮かべ、喜びを露わにする。そんな眩しさに満ちた笑顔を前に、僕はふとローバさんのことを思い出す。
今日の僕のこの邂逅のせいで、二人の仲が裂かれるような事態になることだけは避けたいな、と思ってしまう。尤も、そんなことにはならないだろうけれど。
3/28ページ