えぺ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ところで、今日は誰と組むか事前に聞いていますか」
「さあ? 誰と一緒でも関係ねえ、全員なぎ倒すだけだ」
「…味方はなぎ倒さないでくださいね」
僕は今日も、レジェンドでありながら大罪人という特異的な扱いであるマッドマギー氏を護送するべくドロップシップまで同行していた。
どんな悪人でも嫌われ者でも、チームを組んで戦うのがAPEXゲームだ。それはマッドマギーに限らず、コースティック博士やレヴナントでも変わらない。
運悪く彼女とチームメイトになってしまうメンバーには申し訳ないが、組んだレジェンド達の意外な一面が垣間見えることもあってか、観戦者からの悪評は実は殆どなかったりする。
今回の"被害者"は誰だろうと気が気でないと思いながら、僕はマギー氏のチームメイトが待つ扉を開けた。
「あれ、クオレちゃん? ってことは…最後のメンバーはマギーか」
「悪くないんじゃない、アタシは大歓迎だよ」
出迎えたのはヴァルクさんだった。僕が同行している理由にいち早く勘づいて、一人納得した様子で頷いた。
もう一人はラムヤ。チームとしてかなりバランスが取れた組み合わせだなどと、観戦する側の視点から感じてしまいつつ、それを表に出さぬように努めて二人に頭を下げる。
「すみませんが、今日はよろしくお願いします」
「そんな頭下げなくていいって。私も別にそんなに不満はないからさ」
言いながら、どこか嬉しそうにも見える。強い女性が好きなヴァルクさんにとってはマギー氏ですら好意の対象なのだろうか。流石にそんなことは無いと思いたいが。
「そーだそーだ。このアタシがついてるんだからチャンピオン間違いなしだ、感謝しろよ?」
「それはどうかなー、アタシのシーラが大活躍する予定だからなー」
負けん気からなのかマギー氏に合わせているつもりなのか、愛用のミニガンタレット"シーラ"を愛でるラムヤ。
マギー氏はそれを自分への煽りではなく意気投合と受け取ってくれたらしく、満足げに笑みを浮かべていた。
「いいねぇ、そんくらい殺る気がなくちゃつまらねー」
三人の会話を窺う限り、僕の心配は完全に杞憂だったと言っていいだろう。チームワーク意識は問題ないと思える。
後のことはラムヤ達に任せて去ろうとしたが、そう上手くはいかなかった。ヴァルクさんが扉の前に先回りして、僕を逃すまいと退路を塞いでいた。
「せっかく来たんだしゆっくりしていきなよ。たまには四人で作戦会議したいじゃん?」
「…わかりました、ですが僕は下手に発言すると特定のチームへの肩入れになってしまうので、聞くだけになると思いますが」
「やった! クオレの顔見てれば作戦の善し悪しわかるぞ、本当にヤバかったら顔に出るから」
ラムヤ、僕が感情を顔に出てしまいやすい性格みたいに言わないで欲しい。一応これでも毅然と振舞ってるつもりなのに。
そんな僕の嘆きを余所に、本当に作戦会議が始まってしまった。議長も決めずに大丈夫だろうかと気になったが、年功序列なのか自然とマギー氏が指揮を取っていた。
「どこに降りようかねえ。殺しがしたいなら激戦区はやっぱこのフラグメントってトコか?」
ワールズエッジの一番の人気スポットとも言える場所を指して、マギー氏がそこを降下地点に挙げる。
だがあそこはあまりにも人が集まりすぎるせいで、武器やアイテムの確保すらままならず殴り合いが始まることも多い。それを見越していたラムヤが断固拒否の意を露に首を振る。
「ダメダメ、絶対物資不足になっちゃうよ。シーラが使えるようになるまでは敵に会わないところで待ってた方がいいって」
「でもそれじゃつまらないだろ、程々に戦いたいしあの周辺の家屋とかはどうよ」
ヴァルクさんが、代替案としてフラグメントの近隣の家群を指す。物資の供給量という面では正直大して多くなく、潤沢とは決して言えない場所だった。
だが、フラグメントの騒ぎが落ち着くまでは安全に待機することが出来る場所なのはその通りだと言える。同じことを考える者が居なければの話にはなるが。
「あそこか…どうなんかねぇ。ショットガンがありゃいいが」
そう言って僕を一瞥するマギー氏。これはどういう意味なんだ、まさか僕がアイテム配置を決めていると思っているのか、それとも置けという圧なのか。
「いや、僕を睨まれても…」
「冗談だよ。アンタの采配なわきゃねーしな」
流石に弁えていたらしく、僕の呆れた声を聞いた後はマギー氏が食ってかかってくることはなかった。
そう安堵したのも束の間、今度はラムヤが不満の声を漏らして来た。当然ながら、全くの濡れ衣だった。
「あぁでもLMGは絶対欲しいよ。なークオレ、最近減らしてない? 全然見かけない日あるんだけど」
「…むしろ増えているくらいだと思うよ。四種類全てが地上に出現するんだから」
「それ本当かい? もしかしてそれでサブマシンガンやアサルトが少ないのか」
ラムヤの言葉を遮るように口を挟んできたのはヴァルクさん、彼女はボセックを愛用しているからか、相方として相性のいい近、中距離用の武器も好みのようだ。
サブマシンガンは確かにケアパッケージにのみ入っていたりクラフトの必要があったりするものもあるが、アサルトライフルも今は四種類全てが地上で拾えるはずだ。少ないなんてことは無いと思われる。
「ああ、ティアの低いエリアですと、確かにあまり優秀な武器は落ちていないかもしれませんね」
「…ティア?」
マギー氏とヴァルクさんが、まるで初めて聞いたと言わんばかりの表情を見せる。レジェンドになって長いラムヤは流石に知っていたようで、代わりに説明を請け負ってくれた。良かった。
「ハイティア、ミッドティア、えーっと…下のランクは忘れたけど、ある程度場所ごとにイイもん落ちてる度合いが違うって意味だよ」
「へぇ。そうだったのかい」
「なるほどね、施錠エリアでもホットゾーンでもないのに高レアリティのアタッチメントがポロッと落ちてることがあるのはそういう場所だったからか」
半信半疑のような生返事のマギー氏と、彼女とは対照的に納得の意を示すべく何度も頷くヴァルクさん。
ヴァルクさんは過去に知らず知らずの内にハイティアエリアで美味しい思いをした覚えがあるらしく、それで理解が早かったと思われる。
「そういうことですね。先程降下候補に挙げたような、マップに地名の記載がない小さな集落などは基本的にティアが低めなので、そういうエリアにはモザンビークやP2020しか落ちていない…なんてこともあるかと」
「ふーん。ま、モザンビークはアタシは使いこなせる自信があるから構わねーけどよ」
「どうかなぁ、マギーでもハンマーポイントがないと流石にきついだろ〜」
ショットガンはその性質上非常に近い距離で交戦しない限りは真価を発揮出来ないものとなっている。また、現在の通常スポーンにおける選択肢もピースキーパー、EVA-8、モザンビークの三種のみ。
マギー氏が愛してやまないマスティフは非常に強力なチューンが施された代わりに、ケアパッケージ専用武器になってしまった。
「アタシの脚を舐めんなよ、モザンビークを使って被弾なしで殺す様を見せてやるさ」
三種のショットガンのうち、EVA-8はその名を表す八の字散弾の形状と弾数の多さによるマガジンの大きさから、ショットガンの中では圧倒的リロードに時間がかかる武器と言える。
その上まともなダメージを出す為には10数mが限界の距離となるという、二重の意味で自身の被弾が必然的に増えやすい仕組みが難点だ。
一方で、モザンビークはピストル型で重さという概念からは程遠く、マギー氏が誇示するショットガン装備時の脚の速さを最大限に生かすことが出来るということらしい。
装填数もコンパクトな見た目に反して六発と、実はピースキーパーの五発を上回っているなど、明確な強みがあるのがモザンビークだ。
ローティア用のハズレ武器とは言い難い、いぶし銀的な性能を持っていると言っても過言ではない、と僕は密かに思っている。
「いや、素直にピースキーパー持った方がいいんじゃないかな…」
「ま、それはそうだ。だが、そうすんなり見つからない可能性も高いだろ」
モザンビークの強さを信用していないらしく、ヴァルクさんがピースキーパーを勧めてくる。まあ、それがベターな選択肢なのは間違いないから仕方ない。
現在の通常スポーンのショットガンの中では、一発ごとの最大ダメージが一番大きいのがピースキーパーだ。
星型に散るペレットが全弾命中すれば、シールドセルを使って増幅状態にあるセンチネルの一発よりも高いダメージを叩き出す強さを持つ。
だがそのダメージの高さの反面、一発ごとにコッキングを必要としてしまうという、近距離戦闘を軸とするショットガンとしては時として致命的にもなりうる、非常に大きな隙が生じてしまう武器でもある。
「あーあ、なんでアタシの大好きなカワイ子ちゃんがケアパッケージに収監されちまったんだか」
「マギーとお揃いってことじゃね?」
「何か言ったかクソガキ」
「うそうそ、ゴメンって!」
マスティフが容易に拾えない現状を嘆くのを揶揄するラムヤ、そしてそれを睨みつけるマギー氏。すぐにラムヤが謝ったことで事なきを得たが、横で聞いていて僕もヴァルクさんも肝が冷えた。
でもこれは、自虐ネタと捉えられても仕方のない言い方をしたマギー氏が悪いような気がする。
マギー氏に限らず、ケアパッケージ専用となった武器のことを"投獄"や"収監"とまるで罪を犯したからケアパッケージに閉じ込められてしまったかのように言う者が時折居るが、良くない文化だと思う。
「…戦闘前に揉め事を起こすのはペナルティに繋がりますからね」
「悪ぃ悪ぃ、ショットガンの話してるとついアツくなっちまう」
やんわりとマギー氏を諌めると、存外素直に非を認めて詫びる。この辺りの聞き分けの良さは、こう言っては失礼かもしれないが、唯我独尊という言葉が似合う彼女らしくないようにも思える。
彼女も一応自分の立場をわきまえているのか、それとも僕が"マッドマギーは勝手極まりない人"という先入観を持ってしまっていただけかはわからないが。
「なあ、クオレちゃんのソレが鳴ってるってことは…そろそろ時間なんじゃ?」
徐に僕の方を向いて、腕に着けていた時計型デバイスを指す。目を向けると確かに、ゲームの開幕を知らせるアラームが鳴っていた。
全く気が付かなかったのは、自然と会話に意識を割いていたからだろう。僕自身、ここまで居座るつもりなんて無かったのだ。このアラームも、観戦するつもりでセットしていたものだし。
「…すみませんヴァルクさん、全然気が付きませんでした。ラムヤも頑張って」
「あんがとクオレ。あーでも、結局何も決まんなかった気もするけど、まぁ何とかなるっしょ」
「このアタシがついてるから心配はいらねぇ。ヒヨッコ共に戦い方っつーモンを教えてやるよ」
慌ててアラームを止めて、彼女達が降下するのを見送る。どうやら当初話していた通りに、フラグメントの近隣、マップに載らない現地でのみ見られる地名としては"アンダーパス"という名の地域を目指して行った。
やはりと言うべきかフラグメントを目指す者は多く、戦闘を求める大半の戦士たちがフラグメントに降りていくのが見えた。
そんな中少し離れた位置に向かう彼女達。近くに敵は降下せず、第一の作戦はひとまず成功したようだ。
マギー氏を送る役目を果たした以上、本来なら別の仕事に取り組みたいところだが、今日は発進前にドロップシップから降りられなかった。
「…せっかくだから、ここから見てようかな」
彼女達が勝つまで、あるいは負けるまで。どちらにせよ、ただ見守るしか僕には出来ないのだ。
ならばせめて、勝って帰って来るのを迎えたい。そう願いながら、僕は中継画面を開いた。
「さあ? 誰と一緒でも関係ねえ、全員なぎ倒すだけだ」
「…味方はなぎ倒さないでくださいね」
僕は今日も、レジェンドでありながら大罪人という特異的な扱いであるマッドマギー氏を護送するべくドロップシップまで同行していた。
どんな悪人でも嫌われ者でも、チームを組んで戦うのがAPEXゲームだ。それはマッドマギーに限らず、コースティック博士やレヴナントでも変わらない。
運悪く彼女とチームメイトになってしまうメンバーには申し訳ないが、組んだレジェンド達の意外な一面が垣間見えることもあってか、観戦者からの悪評は実は殆どなかったりする。
今回の"被害者"は誰だろうと気が気でないと思いながら、僕はマギー氏のチームメイトが待つ扉を開けた。
「あれ、クオレちゃん? ってことは…最後のメンバーはマギーか」
「悪くないんじゃない、アタシは大歓迎だよ」
出迎えたのはヴァルクさんだった。僕が同行している理由にいち早く勘づいて、一人納得した様子で頷いた。
もう一人はラムヤ。チームとしてかなりバランスが取れた組み合わせだなどと、観戦する側の視点から感じてしまいつつ、それを表に出さぬように努めて二人に頭を下げる。
「すみませんが、今日はよろしくお願いします」
「そんな頭下げなくていいって。私も別にそんなに不満はないからさ」
言いながら、どこか嬉しそうにも見える。強い女性が好きなヴァルクさんにとってはマギー氏ですら好意の対象なのだろうか。流石にそんなことは無いと思いたいが。
「そーだそーだ。このアタシがついてるんだからチャンピオン間違いなしだ、感謝しろよ?」
「それはどうかなー、アタシのシーラが大活躍する予定だからなー」
負けん気からなのかマギー氏に合わせているつもりなのか、愛用のミニガンタレット"シーラ"を愛でるラムヤ。
マギー氏はそれを自分への煽りではなく意気投合と受け取ってくれたらしく、満足げに笑みを浮かべていた。
「いいねぇ、そんくらい殺る気がなくちゃつまらねー」
三人の会話を窺う限り、僕の心配は完全に杞憂だったと言っていいだろう。チームワーク意識は問題ないと思える。
後のことはラムヤ達に任せて去ろうとしたが、そう上手くはいかなかった。ヴァルクさんが扉の前に先回りして、僕を逃すまいと退路を塞いでいた。
「せっかく来たんだしゆっくりしていきなよ。たまには四人で作戦会議したいじゃん?」
「…わかりました、ですが僕は下手に発言すると特定のチームへの肩入れになってしまうので、聞くだけになると思いますが」
「やった! クオレの顔見てれば作戦の善し悪しわかるぞ、本当にヤバかったら顔に出るから」
ラムヤ、僕が感情を顔に出てしまいやすい性格みたいに言わないで欲しい。一応これでも毅然と振舞ってるつもりなのに。
そんな僕の嘆きを余所に、本当に作戦会議が始まってしまった。議長も決めずに大丈夫だろうかと気になったが、年功序列なのか自然とマギー氏が指揮を取っていた。
「どこに降りようかねえ。殺しがしたいなら激戦区はやっぱこのフラグメントってトコか?」
ワールズエッジの一番の人気スポットとも言える場所を指して、マギー氏がそこを降下地点に挙げる。
だがあそこはあまりにも人が集まりすぎるせいで、武器やアイテムの確保すらままならず殴り合いが始まることも多い。それを見越していたラムヤが断固拒否の意を露に首を振る。
「ダメダメ、絶対物資不足になっちゃうよ。シーラが使えるようになるまでは敵に会わないところで待ってた方がいいって」
「でもそれじゃつまらないだろ、程々に戦いたいしあの周辺の家屋とかはどうよ」
ヴァルクさんが、代替案としてフラグメントの近隣の家群を指す。物資の供給量という面では正直大して多くなく、潤沢とは決して言えない場所だった。
だが、フラグメントの騒ぎが落ち着くまでは安全に待機することが出来る場所なのはその通りだと言える。同じことを考える者が居なければの話にはなるが。
「あそこか…どうなんかねぇ。ショットガンがありゃいいが」
そう言って僕を一瞥するマギー氏。これはどういう意味なんだ、まさか僕がアイテム配置を決めていると思っているのか、それとも置けという圧なのか。
「いや、僕を睨まれても…」
「冗談だよ。アンタの采配なわきゃねーしな」
流石に弁えていたらしく、僕の呆れた声を聞いた後はマギー氏が食ってかかってくることはなかった。
そう安堵したのも束の間、今度はラムヤが不満の声を漏らして来た。当然ながら、全くの濡れ衣だった。
「あぁでもLMGは絶対欲しいよ。なークオレ、最近減らしてない? 全然見かけない日あるんだけど」
「…むしろ増えているくらいだと思うよ。四種類全てが地上に出現するんだから」
「それ本当かい? もしかしてそれでサブマシンガンやアサルトが少ないのか」
ラムヤの言葉を遮るように口を挟んできたのはヴァルクさん、彼女はボセックを愛用しているからか、相方として相性のいい近、中距離用の武器も好みのようだ。
サブマシンガンは確かにケアパッケージにのみ入っていたりクラフトの必要があったりするものもあるが、アサルトライフルも今は四種類全てが地上で拾えるはずだ。少ないなんてことは無いと思われる。
「ああ、ティアの低いエリアですと、確かにあまり優秀な武器は落ちていないかもしれませんね」
「…ティア?」
マギー氏とヴァルクさんが、まるで初めて聞いたと言わんばかりの表情を見せる。レジェンドになって長いラムヤは流石に知っていたようで、代わりに説明を請け負ってくれた。良かった。
「ハイティア、ミッドティア、えーっと…下のランクは忘れたけど、ある程度場所ごとにイイもん落ちてる度合いが違うって意味だよ」
「へぇ。そうだったのかい」
「なるほどね、施錠エリアでもホットゾーンでもないのに高レアリティのアタッチメントがポロッと落ちてることがあるのはそういう場所だったからか」
半信半疑のような生返事のマギー氏と、彼女とは対照的に納得の意を示すべく何度も頷くヴァルクさん。
ヴァルクさんは過去に知らず知らずの内にハイティアエリアで美味しい思いをした覚えがあるらしく、それで理解が早かったと思われる。
「そういうことですね。先程降下候補に挙げたような、マップに地名の記載がない小さな集落などは基本的にティアが低めなので、そういうエリアにはモザンビークやP2020しか落ちていない…なんてこともあるかと」
「ふーん。ま、モザンビークはアタシは使いこなせる自信があるから構わねーけどよ」
「どうかなぁ、マギーでもハンマーポイントがないと流石にきついだろ〜」
ショットガンはその性質上非常に近い距離で交戦しない限りは真価を発揮出来ないものとなっている。また、現在の通常スポーンにおける選択肢もピースキーパー、EVA-8、モザンビークの三種のみ。
マギー氏が愛してやまないマスティフは非常に強力なチューンが施された代わりに、ケアパッケージ専用武器になってしまった。
「アタシの脚を舐めんなよ、モザンビークを使って被弾なしで殺す様を見せてやるさ」
三種のショットガンのうち、EVA-8はその名を表す八の字散弾の形状と弾数の多さによるマガジンの大きさから、ショットガンの中では圧倒的リロードに時間がかかる武器と言える。
その上まともなダメージを出す為には10数mが限界の距離となるという、二重の意味で自身の被弾が必然的に増えやすい仕組みが難点だ。
一方で、モザンビークはピストル型で重さという概念からは程遠く、マギー氏が誇示するショットガン装備時の脚の速さを最大限に生かすことが出来るということらしい。
装填数もコンパクトな見た目に反して六発と、実はピースキーパーの五発を上回っているなど、明確な強みがあるのがモザンビークだ。
ローティア用のハズレ武器とは言い難い、いぶし銀的な性能を持っていると言っても過言ではない、と僕は密かに思っている。
「いや、素直にピースキーパー持った方がいいんじゃないかな…」
「ま、それはそうだ。だが、そうすんなり見つからない可能性も高いだろ」
モザンビークの強さを信用していないらしく、ヴァルクさんがピースキーパーを勧めてくる。まあ、それがベターな選択肢なのは間違いないから仕方ない。
現在の通常スポーンのショットガンの中では、一発ごとの最大ダメージが一番大きいのがピースキーパーだ。
星型に散るペレットが全弾命中すれば、シールドセルを使って増幅状態にあるセンチネルの一発よりも高いダメージを叩き出す強さを持つ。
だがそのダメージの高さの反面、一発ごとにコッキングを必要としてしまうという、近距離戦闘を軸とするショットガンとしては時として致命的にもなりうる、非常に大きな隙が生じてしまう武器でもある。
「あーあ、なんでアタシの大好きなカワイ子ちゃんがケアパッケージに収監されちまったんだか」
「マギーとお揃いってことじゃね?」
「何か言ったかクソガキ」
「うそうそ、ゴメンって!」
マスティフが容易に拾えない現状を嘆くのを揶揄するラムヤ、そしてそれを睨みつけるマギー氏。すぐにラムヤが謝ったことで事なきを得たが、横で聞いていて僕もヴァルクさんも肝が冷えた。
でもこれは、自虐ネタと捉えられても仕方のない言い方をしたマギー氏が悪いような気がする。
マギー氏に限らず、ケアパッケージ専用となった武器のことを"投獄"や"収監"とまるで罪を犯したからケアパッケージに閉じ込められてしまったかのように言う者が時折居るが、良くない文化だと思う。
「…戦闘前に揉め事を起こすのはペナルティに繋がりますからね」
「悪ぃ悪ぃ、ショットガンの話してるとついアツくなっちまう」
やんわりとマギー氏を諌めると、存外素直に非を認めて詫びる。この辺りの聞き分けの良さは、こう言っては失礼かもしれないが、唯我独尊という言葉が似合う彼女らしくないようにも思える。
彼女も一応自分の立場をわきまえているのか、それとも僕が"マッドマギーは勝手極まりない人"という先入観を持ってしまっていただけかはわからないが。
「なあ、クオレちゃんのソレが鳴ってるってことは…そろそろ時間なんじゃ?」
徐に僕の方を向いて、腕に着けていた時計型デバイスを指す。目を向けると確かに、ゲームの開幕を知らせるアラームが鳴っていた。
全く気が付かなかったのは、自然と会話に意識を割いていたからだろう。僕自身、ここまで居座るつもりなんて無かったのだ。このアラームも、観戦するつもりでセットしていたものだし。
「…すみませんヴァルクさん、全然気が付きませんでした。ラムヤも頑張って」
「あんがとクオレ。あーでも、結局何も決まんなかった気もするけど、まぁ何とかなるっしょ」
「このアタシがついてるから心配はいらねぇ。ヒヨッコ共に戦い方っつーモンを教えてやるよ」
慌ててアラームを止めて、彼女達が降下するのを見送る。どうやら当初話していた通りに、フラグメントの近隣、マップに載らない現地でのみ見られる地名としては"アンダーパス"という名の地域を目指して行った。
やはりと言うべきかフラグメントを目指す者は多く、戦闘を求める大半の戦士たちがフラグメントに降りていくのが見えた。
そんな中少し離れた位置に向かう彼女達。近くに敵は降下せず、第一の作戦はひとまず成功したようだ。
マギー氏を送る役目を果たした以上、本来なら別の仕事に取り組みたいところだが、今日は発進前にドロップシップから降りられなかった。
「…せっかくだから、ここから見てようかな」
彼女達が勝つまで、あるいは負けるまで。どちらにせよ、ただ見守るしか僕には出来ないのだ。
ならばせめて、勝って帰って来るのを迎えたい。そう願いながら、僕は中継画面を開いた。
20/28ページ