えぺ
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「はいナタリー、今年の新作だよ」
「わあ! ありがとうクオレ、やっぱりネッシーはいいわね」
僕が渡したプレゼントボックスを開き、中身であるネッシーのぬいぐるみを愛しそうに抱き締める。
彼女の名はナタリー・パケット、通称"ワットソン"。僕の友人で、APEXゲームに参加するレジェンドの一人でもある。
可愛いものが総じて好きな彼女の一番のお気に入りがこの、ネッシーという数世紀前に地球の人々を熱狂させた未確認生物を模したぬいぐるみだった。
ネッシーの正体は、恐竜の生き残りともウミガメの一種とも言われている。僕はリヴァイアサンの幼体と睨んでいるが、生物学者ではないので確証はない。
まあそんなことはどうでもよくて、僕も彼女もこのネッシーのデフォルメされた愛らしい造形が好きで、たまにこうして二人でその可愛さを共有しているのだ。
「そうだね。この首から手にかけてのフォルム、いつ見ても癒される」
「あら、つぶらな瞳もとってもキュートよ」
そう言って一頻り笑って、改めてナタリーが抱くネッシーのぬいぐるみに目を向ける。
今日僕が渡したのはパープルカラーのネッシーで、普段の愛くるしさの他にクールな雰囲気を感じさせるものだった。
「でもナタリー、こんなにネッシーのグッズが大量に出てるのに、どうして誰も本物を見たことが無いんだろう」
「変なこと言うのね、クオレ…ネッシーはネッシーよ、本物なんてこれ以外にないでしょう?」
困ったような笑みで言うナタリー。彼女は僕と違ってネッシーは創作上のキャラクターに過ぎないと思っているのか。
それも間違いではないのかもしれない。現に今の僕達にとってはネッシーと言えばこの姿が固定化されていて、異なる見た目のそれをネッシーだとは思えないだろう。
でも、それでも僕はネッシーの存在を諦めきれないでいた。だってこんなに可愛い見た目の生き物、目の前に居るのを見たらもっと可愛いに決まっている。
「そうかな。大昔の地球ではネッシーの目撃者がいたって言うし、実在する生物だと思うけども」
ネッシーの実在を信じてもらおうと、ネットの情報が掲載されている画面を見せる。
与太話に過ぎないものから信憑性の高いものまで色々あり、存在していないと断定的には言えないと思う。
「このネッシー、可愛くないわ」
「…」
骨格から想定される外見を忠実に再現したグラフィックを見たナタリーの一言が僕の胸に突き刺さる。
確かにその通りだ。リアルに寄せた見た目になると、あまり可愛いとは言えないものになるものもあった。
そういうマイナスの印象を与えるものまで一緒くたに見せてしまったのは失敗だったかもしれない。
「否定はしない。でもこっちの画像はちゃんとネッシーらしい可愛さがあるよ」
ナタリーが今の画で持ってしまった悪いイメージを払拭すべく、他のイラストを見せて気を逸らす作戦に出る。
ひとつが気になるとそれしか見えなくなる彼女を上手く誤魔化せるかは自信が無いが、やれるだけやってみることにする。
「そうね…さっきのと違って、確かにこれなら納得出来る形をしてるわね」
良かった、どうやら気に入ってくれたようだ。ここでも反応が悪かったらどうしようかと思っていたところだ。
「でも私はやっぱりネッシーが生き物として実在するとは思えないわ。爬虫類か水棲生物だと仮定して、虫やミミズを食べるネッシーなんて想像したくないもの」
「うっ…確かにそれはそうだ」
ナタリーの悲しげな声でもたらされた言葉に、僕は一切反論出来なかった。実際のネッシーが食べるであろう食物については完全に盲点だった。
僕もそんなグロテスクなシーンを見ることなんて考えたくない。あくまで空想上のものだとしておく方が幸せなのかもしれない。
「ごめんなさい、何がなんでも貴方の意見を否定したい訳じゃないんだけど…」
「大丈夫、気にしないで。僕も可愛いネッシーが動く姿を見れたらいいのにと思って言ってるだけだから」
「え? ネッシーは動くわよ?」
どういうことだ。彼女の発言に衝撃が走る。僕が知らないだけで、ネッシーは実在していたのか? 困惑する僕を見かねたナタリーが、とある映像を見せてくれた。
「ほら。この前やっていたエイプリルフールのイベントで、ネッシーを使役することが出来たの。とっても可愛かったわ」
「本当だ…本当に自立して動いてる…」
ナタリーが見せてくれた映像では、確かにネッシーがヨチヨチと歩いて相手に攻撃している姿が映っている。
だが、何かがおかしいと思わずにはいられなかった。モザンビークと全く同じ形の拳銃から、あの大きさのネッシーが飛び出すなんて有り得るのだろうか。
「ん? エイプリルフール? 随分と前の話だな…そんな企画があったなんて、今の今まで知らなかったよ」
「珍しいわね、クオレが関わっていないだけならまだしも、全く聞いてもいなかったなんて」
まあ確かに、僕がなんの前置きもなくそんな企画を聞かされたら、まずは発案者の頭がどうかしたかと疑うだろう。
そういう意味では僕に知らされないまま話が進んだとしても納得いくが、レジェンドの皆からの事後報告さえ全く耳にしなかったのは不思議だ。
「悔しいなあ、僕もネッシーが頑張る姿をこの目で見たかった…」
叶わぬ願いに嘆きを零す。エイプリルフールの時期はとうに過ぎた今、ネッシーが飛び出す特殊な仕様のモザンビークも既に処分されてしまった可能性が高い。
仮に現物が残っていたとしても、僕の権限ではそれを私的に使う許可が降りる訳もない。持ち出す理由が用意出来ないのだ。
「元気出してクオレ。来年またチャンスが来るかもしれないわ」
「来年か…それまで長いな」
年に一回のイベントに同じ企画を繰り返すだろうかと言う疑問を抱きながらも、唯一の希望を捨てる訳にも行かず頷く。
「待てよ…僕以外の誰かがアレを作れたということは、再現するのもそんなに難しくないのんじゃないか」
「私は技術班のレベルがどの程度か知らないけれど…そういうことになるのかしら?」
「多分ね。少なくとも、マップに何丁か散らばせて配置出来ている時点で、数が用意出来てるのは確かだ。たかが数日の企画の為に何年も割くことは無いだろうし、それなりに楽に量産が可能だとも推測出来る…」
そもそもの話、射出に使われている媒体はモザンビークなのだ。モザンビーク自体の改良はそれこそ何年もかけて繰り返し行っており、そのデータも豊富にある。
つまり、僕の手でネッシーが出る銃"オールドネッシー"を自作することは夢のまた夢などではない、現実味のある話だと思う。
「ナタリー、もう少し映像を見せてくれるかい」
「ええ…いいけど。でもクオレ、これがヒントになるとは思えないわ」
引鉄を引いて弾が飛び出す代わりに、銃口の先に煙が起こっている。その煙の中からネッシーが現れた。僕の見立てでは、この煙が重要なファクターとなっているように思う。
ショットガンアモをネッシーに変換させる為に煙が必要なのか、アモからネッシーが生成されるまでの隙を煙によって誤魔化しているのかはこの映像からではわからなかった。
「確かに、あんまり参考にはならないかもしれないね」
「…諦める気があるように聞こえないのだけど」
「だって諦めるつもりなんて全くないからね」
ナタリーが嘆くような声を上げるのを横目に、僕は久々に探究心が擽られる難題への期待に笑みを浮かべながらメモを取る。
少なくとも、批判の集まった武器の劣化チューニングなどという、技師としては苦痛でしかない仕事よりもずっとやり甲斐がある作業だ。
「はあ…貴方のそういうところ、アッシュを思い起こすわ。頑固で悪びれない感じ、すごく似てる」
「アッシュ? まあ、僕は確かに彼女との付き合いは長いから…少しくらい似るのも自然な事だよ」
レジェンドとしての彼女は冷徹で慈悲のない鉄クズの一人であり、それは仲間になった者にとってもあまり変わらないようだ。
彼女自身は孤高を体現することはなく、仲間には協力的な態度も見せているのだが、高圧的な言い回しにより中々それが正しく伝わっていないのを時折見かける。
「どうせなら、アッシュの方が貴方に似てくれれば良かったのに」
「あれでも充分仲間には優しくなった方だよ。昔は敵兵を実験材料 としか見てなかったし」
「そうなの…?」
ナタリーが吃驚したような顔でこちらを見る。作業の手を止め、彼女に向き直って僕はアッシュの代わりに非を詫びる。
「レヴナントと似たようなもので、彼女も好意を現すのは苦手だからね。ごめんよ」
「いえ、いいのよ。クオレが悪い訳じゃないから…その、気にしないで」
それきりナタリーは押し黙り、僕も作業に戻る。しかし随分と話が逸れてしまった。アッシュのことは確かに僕が気にかけるべき対象ではあるが、今はネッシーが優先だ。
射出されたネッシーが敵を探して彷徨う姿に何度も見惚れて我を忘れそうになりながら、僕は作製のヒントを探し続ける。
「…うーん。どうしても角度が一定だから難しいな」
ナタリーが戦場でオールドネッシーを乱れ撃っている映像では、視点の問題で仕方ないのだが銃口がよく見えないのだ。
他者が撃っているシーンもあるにはあるが、それでは今度は遠すぎて発射した瞬間がよく見えず、観察に向かないというジレンマが生まれる。
発射口を見られるような至近距離での戦闘になると、今度はオールドネッシーを撃っている余裕が無い。やはり実物を見ずに再現するのは無理があるのだろうか。
「参考になるかわからないけど、普段持つモザンビークと違って、一度に撃てる弾数が二発だったの」
「装填数がたった二発? 消費する弾数は増えていないのに、そんなに装填数が減っているのか…言われてみると、リロードも早く感じる」
このナタリーの助言によって、マガジンが通常のモザンビークとは異なることが判明した。
もしかすると、銃そのものよりもそちらに特殊性が集約しているのかもしれない。リロードの最中を改めて集中的に見るべく繰り返し再生してみる。
「ああ、やっぱりちょっと早いな。普段のと形が同じだからマガジンの大きさも同じ筈だけど…」
モザンビークはハンドガンタイプのショットガン故にリロードに必要な工程が通常の武器よりも少なく、必然的に隙も小さいのが利点のひとつとなっている。
オールドネッシーはその特徴が通常のモザンビークよりも強く現れているように見えたのは、どうやら気のせいではないようだ。
だがそれが銃口からネッシーが出てくる原理と関連するかはまだ何とも言えない。やはり使用しているところを見ているだけでは情報が少なすぎる。
「そういえば、このネッシー達はずっと居るわけではなくて、ある程度の時間が経つと消えてしまうんだね」
「ええ…そうなの。沢山のネッシーに囲まれたいと思ってたのだけど、マガジン量の少なさもあって中々難しくって」
確かに、最終ラウンドまで進んだ状態での安全地帯の狭さを考えるとそれは仕方ないことかもしれない。
ネッシー達に居場所を奪われてしまい身体が晒され、一斉射撃に見舞われるなんてことも有り得るだろう。
「そもそも敵が近いとそっちに向かってしまうから、あまり私達の傍には居てくれないのよね」
「その辺は調整次第でどうとでもなる…と、良いんだけど。ネッシーを出すに至るまでが困難だからな…」
どれだけ見ていても、やはりネッシーがどう出現しているのかは掴めない。
昔ながらの手品が技法として近いようにも思えてきたが、ネッシーは生き物である以上、無理矢理銃口に収まるようにしようとすると、身体を潰すしかなくなる。そんな残酷なものは作れない。
まあ、フェーズ技術が確立したこの時代においてそんな原始的な方法は流石に使っていないと思いたいが。
「いや、もしかして…案外ネッシーは元は銃口に収まっていられるほど小さいのかもしれない」
「…どういうこと?」
「モザンビークの内部でショットガンアモを極小サイズのネッシーに変換させて、射出と共にサイズを戻す。これなら説明が簡単だ」
仮にそうだとすると、モザンビークの中でどうネッシーに変換させているのかという、また振り出しに戻る現象が起きてしまうのだが。
「よくわからないわ」
「…正直、僕も頭が混乱してきているのは確かだ」
段々と二人とも極限状態に近付いているのを感じながら、探求の旅は続く。全てはネッシーの為に。
なお、夜通し調査と仮構築を繰り返してオールドネッシーの作製を試みたものの、結局最後まで完成させることは出来なかった。
何より不思議なのは、寝て起きた後の僕らはそれまで一体何にそこまで執着していたのか全く思い出せなくなったことだ。
まるで昨日の出来事だけでなく、オールドネッシーに関すること全てが、泡沫の夢だったかのように。
「わあ! ありがとうクオレ、やっぱりネッシーはいいわね」
僕が渡したプレゼントボックスを開き、中身であるネッシーのぬいぐるみを愛しそうに抱き締める。
彼女の名はナタリー・パケット、通称"ワットソン"。僕の友人で、APEXゲームに参加するレジェンドの一人でもある。
可愛いものが総じて好きな彼女の一番のお気に入りがこの、ネッシーという数世紀前に地球の人々を熱狂させた未確認生物を模したぬいぐるみだった。
ネッシーの正体は、恐竜の生き残りともウミガメの一種とも言われている。僕はリヴァイアサンの幼体と睨んでいるが、生物学者ではないので確証はない。
まあそんなことはどうでもよくて、僕も彼女もこのネッシーのデフォルメされた愛らしい造形が好きで、たまにこうして二人でその可愛さを共有しているのだ。
「そうだね。この首から手にかけてのフォルム、いつ見ても癒される」
「あら、つぶらな瞳もとってもキュートよ」
そう言って一頻り笑って、改めてナタリーが抱くネッシーのぬいぐるみに目を向ける。
今日僕が渡したのはパープルカラーのネッシーで、普段の愛くるしさの他にクールな雰囲気を感じさせるものだった。
「でもナタリー、こんなにネッシーのグッズが大量に出てるのに、どうして誰も本物を見たことが無いんだろう」
「変なこと言うのね、クオレ…ネッシーはネッシーよ、本物なんてこれ以外にないでしょう?」
困ったような笑みで言うナタリー。彼女は僕と違ってネッシーは創作上のキャラクターに過ぎないと思っているのか。
それも間違いではないのかもしれない。現に今の僕達にとってはネッシーと言えばこの姿が固定化されていて、異なる見た目のそれをネッシーだとは思えないだろう。
でも、それでも僕はネッシーの存在を諦めきれないでいた。だってこんなに可愛い見た目の生き物、目の前に居るのを見たらもっと可愛いに決まっている。
「そうかな。大昔の地球ではネッシーの目撃者がいたって言うし、実在する生物だと思うけども」
ネッシーの実在を信じてもらおうと、ネットの情報が掲載されている画面を見せる。
与太話に過ぎないものから信憑性の高いものまで色々あり、存在していないと断定的には言えないと思う。
「このネッシー、可愛くないわ」
「…」
骨格から想定される外見を忠実に再現したグラフィックを見たナタリーの一言が僕の胸に突き刺さる。
確かにその通りだ。リアルに寄せた見た目になると、あまり可愛いとは言えないものになるものもあった。
そういうマイナスの印象を与えるものまで一緒くたに見せてしまったのは失敗だったかもしれない。
「否定はしない。でもこっちの画像はちゃんとネッシーらしい可愛さがあるよ」
ナタリーが今の画で持ってしまった悪いイメージを払拭すべく、他のイラストを見せて気を逸らす作戦に出る。
ひとつが気になるとそれしか見えなくなる彼女を上手く誤魔化せるかは自信が無いが、やれるだけやってみることにする。
「そうね…さっきのと違って、確かにこれなら納得出来る形をしてるわね」
良かった、どうやら気に入ってくれたようだ。ここでも反応が悪かったらどうしようかと思っていたところだ。
「でも私はやっぱりネッシーが生き物として実在するとは思えないわ。爬虫類か水棲生物だと仮定して、虫やミミズを食べるネッシーなんて想像したくないもの」
「うっ…確かにそれはそうだ」
ナタリーの悲しげな声でもたらされた言葉に、僕は一切反論出来なかった。実際のネッシーが食べるであろう食物については完全に盲点だった。
僕もそんなグロテスクなシーンを見ることなんて考えたくない。あくまで空想上のものだとしておく方が幸せなのかもしれない。
「ごめんなさい、何がなんでも貴方の意見を否定したい訳じゃないんだけど…」
「大丈夫、気にしないで。僕も可愛いネッシーが動く姿を見れたらいいのにと思って言ってるだけだから」
「え? ネッシーは動くわよ?」
どういうことだ。彼女の発言に衝撃が走る。僕が知らないだけで、ネッシーは実在していたのか? 困惑する僕を見かねたナタリーが、とある映像を見せてくれた。
「ほら。この前やっていたエイプリルフールのイベントで、ネッシーを使役することが出来たの。とっても可愛かったわ」
「本当だ…本当に自立して動いてる…」
ナタリーが見せてくれた映像では、確かにネッシーがヨチヨチと歩いて相手に攻撃している姿が映っている。
だが、何かがおかしいと思わずにはいられなかった。モザンビークと全く同じ形の拳銃から、あの大きさのネッシーが飛び出すなんて有り得るのだろうか。
「ん? エイプリルフール? 随分と前の話だな…そんな企画があったなんて、今の今まで知らなかったよ」
「珍しいわね、クオレが関わっていないだけならまだしも、全く聞いてもいなかったなんて」
まあ確かに、僕がなんの前置きもなくそんな企画を聞かされたら、まずは発案者の頭がどうかしたかと疑うだろう。
そういう意味では僕に知らされないまま話が進んだとしても納得いくが、レジェンドの皆からの事後報告さえ全く耳にしなかったのは不思議だ。
「悔しいなあ、僕もネッシーが頑張る姿をこの目で見たかった…」
叶わぬ願いに嘆きを零す。エイプリルフールの時期はとうに過ぎた今、ネッシーが飛び出す特殊な仕様のモザンビークも既に処分されてしまった可能性が高い。
仮に現物が残っていたとしても、僕の権限ではそれを私的に使う許可が降りる訳もない。持ち出す理由が用意出来ないのだ。
「元気出してクオレ。来年またチャンスが来るかもしれないわ」
「来年か…それまで長いな」
年に一回のイベントに同じ企画を繰り返すだろうかと言う疑問を抱きながらも、唯一の希望を捨てる訳にも行かず頷く。
「待てよ…僕以外の誰かがアレを作れたということは、再現するのもそんなに難しくないのんじゃないか」
「私は技術班のレベルがどの程度か知らないけれど…そういうことになるのかしら?」
「多分ね。少なくとも、マップに何丁か散らばせて配置出来ている時点で、数が用意出来てるのは確かだ。たかが数日の企画の為に何年も割くことは無いだろうし、それなりに楽に量産が可能だとも推測出来る…」
そもそもの話、射出に使われている媒体はモザンビークなのだ。モザンビーク自体の改良はそれこそ何年もかけて繰り返し行っており、そのデータも豊富にある。
つまり、僕の手でネッシーが出る銃"オールドネッシー"を自作することは夢のまた夢などではない、現実味のある話だと思う。
「ナタリー、もう少し映像を見せてくれるかい」
「ええ…いいけど。でもクオレ、これがヒントになるとは思えないわ」
引鉄を引いて弾が飛び出す代わりに、銃口の先に煙が起こっている。その煙の中からネッシーが現れた。僕の見立てでは、この煙が重要なファクターとなっているように思う。
ショットガンアモをネッシーに変換させる為に煙が必要なのか、アモからネッシーが生成されるまでの隙を煙によって誤魔化しているのかはこの映像からではわからなかった。
「確かに、あんまり参考にはならないかもしれないね」
「…諦める気があるように聞こえないのだけど」
「だって諦めるつもりなんて全くないからね」
ナタリーが嘆くような声を上げるのを横目に、僕は久々に探究心が擽られる難題への期待に笑みを浮かべながらメモを取る。
少なくとも、批判の集まった武器の劣化チューニングなどという、技師としては苦痛でしかない仕事よりもずっとやり甲斐がある作業だ。
「はあ…貴方のそういうところ、アッシュを思い起こすわ。頑固で悪びれない感じ、すごく似てる」
「アッシュ? まあ、僕は確かに彼女との付き合いは長いから…少しくらい似るのも自然な事だよ」
レジェンドとしての彼女は冷徹で慈悲のない鉄クズの一人であり、それは仲間になった者にとってもあまり変わらないようだ。
彼女自身は孤高を体現することはなく、仲間には協力的な態度も見せているのだが、高圧的な言い回しにより中々それが正しく伝わっていないのを時折見かける。
「どうせなら、アッシュの方が貴方に似てくれれば良かったのに」
「あれでも充分仲間には優しくなった方だよ。昔は敵兵を
「そうなの…?」
ナタリーが吃驚したような顔でこちらを見る。作業の手を止め、彼女に向き直って僕はアッシュの代わりに非を詫びる。
「レヴナントと似たようなもので、彼女も好意を現すのは苦手だからね。ごめんよ」
「いえ、いいのよ。クオレが悪い訳じゃないから…その、気にしないで」
それきりナタリーは押し黙り、僕も作業に戻る。しかし随分と話が逸れてしまった。アッシュのことは確かに僕が気にかけるべき対象ではあるが、今はネッシーが優先だ。
射出されたネッシーが敵を探して彷徨う姿に何度も見惚れて我を忘れそうになりながら、僕は作製のヒントを探し続ける。
「…うーん。どうしても角度が一定だから難しいな」
ナタリーが戦場でオールドネッシーを乱れ撃っている映像では、視点の問題で仕方ないのだが銃口がよく見えないのだ。
他者が撃っているシーンもあるにはあるが、それでは今度は遠すぎて発射した瞬間がよく見えず、観察に向かないというジレンマが生まれる。
発射口を見られるような至近距離での戦闘になると、今度はオールドネッシーを撃っている余裕が無い。やはり実物を見ずに再現するのは無理があるのだろうか。
「参考になるかわからないけど、普段持つモザンビークと違って、一度に撃てる弾数が二発だったの」
「装填数がたった二発? 消費する弾数は増えていないのに、そんなに装填数が減っているのか…言われてみると、リロードも早く感じる」
このナタリーの助言によって、マガジンが通常のモザンビークとは異なることが判明した。
もしかすると、銃そのものよりもそちらに特殊性が集約しているのかもしれない。リロードの最中を改めて集中的に見るべく繰り返し再生してみる。
「ああ、やっぱりちょっと早いな。普段のと形が同じだからマガジンの大きさも同じ筈だけど…」
モザンビークはハンドガンタイプのショットガン故にリロードに必要な工程が通常の武器よりも少なく、必然的に隙も小さいのが利点のひとつとなっている。
オールドネッシーはその特徴が通常のモザンビークよりも強く現れているように見えたのは、どうやら気のせいではないようだ。
だがそれが銃口からネッシーが出てくる原理と関連するかはまだ何とも言えない。やはり使用しているところを見ているだけでは情報が少なすぎる。
「そういえば、このネッシー達はずっと居るわけではなくて、ある程度の時間が経つと消えてしまうんだね」
「ええ…そうなの。沢山のネッシーに囲まれたいと思ってたのだけど、マガジン量の少なさもあって中々難しくって」
確かに、最終ラウンドまで進んだ状態での安全地帯の狭さを考えるとそれは仕方ないことかもしれない。
ネッシー達に居場所を奪われてしまい身体が晒され、一斉射撃に見舞われるなんてことも有り得るだろう。
「そもそも敵が近いとそっちに向かってしまうから、あまり私達の傍には居てくれないのよね」
「その辺は調整次第でどうとでもなる…と、良いんだけど。ネッシーを出すに至るまでが困難だからな…」
どれだけ見ていても、やはりネッシーがどう出現しているのかは掴めない。
昔ながらの手品が技法として近いようにも思えてきたが、ネッシーは生き物である以上、無理矢理銃口に収まるようにしようとすると、身体を潰すしかなくなる。そんな残酷なものは作れない。
まあ、フェーズ技術が確立したこの時代においてそんな原始的な方法は流石に使っていないと思いたいが。
「いや、もしかして…案外ネッシーは元は銃口に収まっていられるほど小さいのかもしれない」
「…どういうこと?」
「モザンビークの内部でショットガンアモを極小サイズのネッシーに変換させて、射出と共にサイズを戻す。これなら説明が簡単だ」
仮にそうだとすると、モザンビークの中でどうネッシーに変換させているのかという、また振り出しに戻る現象が起きてしまうのだが。
「よくわからないわ」
「…正直、僕も頭が混乱してきているのは確かだ」
段々と二人とも極限状態に近付いているのを感じながら、探求の旅は続く。全てはネッシーの為に。
なお、夜通し調査と仮構築を繰り返してオールドネッシーの作製を試みたものの、結局最後まで完成させることは出来なかった。
何より不思議なのは、寝て起きた後の僕らはそれまで一体何にそこまで執着していたのか全く思い出せなくなったことだ。
まるで昨日の出来事だけでなく、オールドネッシーに関すること全てが、泡沫の夢だったかのように。
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