えぺ
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「いやー勝った勝った! あんなに気持ちのいいキルは久しぶりだよ」
今日のチャンピオンを勝ち取ったレジェンド"ヴァルキリー"氏が勝利の余韻を味わいながら、部隊の三名揃って賞金を受け取りにやって来た。
「おめでとうございます、ヴァルクさん」
「ありがとクオレちゃん。最後のローバと私の連携見てた? すごかったろ!」
受付の隣でデータを纏めていた僕に顔を寄せ、彼女は子供のようにはしゃぐ。余程の喜びだったのが伝わり、こちらまで嬉しくなってくる。
だが釣られて浮かべた笑みを苦笑と捉えたのか、後ろから今回のチャンピオンチームの一人に数えられるローバ女史がヴァルクさんを宥めていた。
「カイリ、彼女を困らせないの。それにラストキルは貴方でも、アニータが貴方をリスポーンさせてくれてなかったらそれが出来なかったのを忘れちゃダメよ」
「っと…そうだった。ちゃんとお礼しないと」
たった今話題に挙げられたチャンピオン部隊最後の一人、アニータこと"バンガロール"氏はと言うと、半ば恋人同士のような親密な空気を醸し出す二人からは少し距離を取り、静々とこの場が静まるのを待っている様子。
元々がIMCの兵士だった彼女にとってはタイタン操縦パイロットは目の上の瘤で、そのパイロットの装備から作製したジェットパックを背負うヴァルクさんにあまり良い印象がないのは仕方の無いことだと思う。
尤も、バンガロール氏がヴァルクさんを時折睨むような目で見ているのは、それだけが理由ではないのかもしれないが。
「軍曹、あの時は助かったよ」
「…勝つ為よ。貴方の為じゃない。それより早く賞金を分けさせて貰えるかしら」
「つれないねぇ」
無愛想な返答のバンガロール氏に、ヴァルクさんがわざとらしく肩を竦める。それを見ていたローバ女史は、二人の間で困惑した表情を見せていた。
恐らく場の空気を壊さぬ為に彼女は道化を演じただけなのだろうが、彼女自身も軍曹の不機嫌な態度には何か思うところあるように感じられた。
「…あの、いつも二人はこんな感じなんですか」
「ここまで露骨に険悪なのを隠さないのは珍しいけど…まあ、概ねそうね」
ローバ女史の腕を引き、耳打ちする。チャンピオンを勝ち取ったチームが、こうも不穏な空気になっているのは僕の知る限りでは初めてのことだ。
彼女は僕の問いにゆっくりと頷いて肯定し、ヴァルクさんとバンガロール氏が贔屓目に見ても友好的な関係ではないことを示す。
「仕方のないことだとは思います。自身の足が武器だった戦士と、タイタンに乗っていないとはいえパイロットの志を持った人とでは、どうしても相容れないでしょうから」
「よくわからないけど…そういうものなの?」
「残念ながらそういうものです。僕自身、戦禍の中でも仲間同士であるはずの兵士たちが啀 み合う姿を見てきたのを朧気ながら覚えています」
幼い時分の記憶が、少しずつ蘇ってくる。子供だった僕にもお構い無しに愚痴を零しては、互いを煽り合っていた。
彼らにはそれぞれの言い分があるのはわかるが、間に立たされる身としては辛いものがある。同じ状況に陥っているローバ女史には、少なからず同情したくなる。
「そう…二人には仲良くして欲しいのに」
「それは難しいかと」
僕があけすけに言うと、ローバ女史の目が一瞬大きく見開かれた。叶わない願いに絶望したのか、慰めの一切ない淡々とした否定が心苦しかったのかは分からない。
「…ああ、失礼。そうですね…ヴァルクさんはあくまで煽られたことに対しての物言いを我慢できないだけで、レジェンド"バンガロール"ないし"アニータ・ウィリアムズ"という女性自体に敵意があるようには感じませんが」
ローバ女史の哀しみに満ちた瞳に罪悪感を覚え、一言非を詫びてから僕から見た彼女らの心情を考察する。
ヴァルクさんからバンガロール氏への印象は口頭で説明した通りだが、その逆はとても口に出来そうになかった。
「大丈夫よ。そうね、カイリはとてもいい子よ。アニータの嫌味に毎回食って掛かるのも、お父さんを侮辱されたくないからだもの」
「…その点については、僕もヴァルクさんと同じ気持ちです。彼女の父君…バイパー氏は、本当に偉大なパイロットでした」
僕がバイパー氏の名を口にすると、彼女はとても驚いた様子でこちらを見る。大きく開けた口を手で覆い、しかしそれ以上何も言えぬまま何度も瞬きを繰り返していた。
「貴方も彼らと繋がりがあったのね…」
「ええ、まぁ。 …尤も、だからと言ってヴァルクさんを贔屓するつもりはありませんよ」
果たしてそれは本心から来る言葉だろうか、そんな自問自答をしつつ僕はローバ女史にそう告げる。
嘘を吐いたつもりはないが、IMCよりもAPEXプレデターズとの関わりが強い僕にとっては、どうしても心情が傾いてしまっているように思う。
レジェンドとしての二人はどちらも名高い戦士で、そこに差異は無いと、頭ではわかっている筈なのに。
そんな風に頭を悩ませている事など露知らず、バンガロール氏が僕らの元に歩み寄る。ローバ女史と話しているからかと思ったが、どうやら僕に用があるらしい。
「マキナ、今日の賞金の分配はどうなってるの? ちゃんとリスポーン費用の分下げてる?」
誰の、と口にこそしないものの、今回の三人についてリスポーンしたのは一人しか該当しないので察しがついた。
彼女が言いたかったのは、一度キルされてヴァルクさんが戦場から身を引いた後、バンガロール氏の機転によりリスポーン、つまり再び戦地に戻った時の話。
その際のドロップシップ手配による手間賃がデスペナルティとして引かれているはずだが、それが正しく反映されていないように見えたということのようだ。
「…引いてますね。それでも賞金が均等に割られて見えるのは、アシストによる加算で取り返しているからでしょう」
敵を無力化する最後のヒットを与えた者には"キル"が加算されるが、同じ敵にダメージを与えてキルに貢献した仲間には"アシスト"がつく。
中継ライブの実況や優勝インタビューなど、報道面ではアシストについては触れられることがほぼない事もあって目立たない制度となっているが、チームにとってはアシストも立派な貢献にあたる。
故に、賞金額にもそれは考慮される。驚くことに、ヴァルクさんのアシスト加算数はチームの総キル数とほぼ同じだった。
「最後はご自身でも言った通りキルしていたのと、途中のリスポーン待機中に起きた戦闘以外では殆どアシストしていたようですね」
「気付かなかった…そうだったのカイリ?」
横で僕の見ていたログを覗いて驚くローバ女史が、少し離れた位置で他の参加者と談笑していたヴァルクさんに真相を確かめる。
「ん? ああ、確かにその通りだったかもね。あんまり覚えてないけど」
あっけらかんと答え、ヴァルクさんは再び祝賀の輪に戻る。その答えに、バンガロール氏も改めてログをその目で確かめようとこちらへやって来た。
瞳の奥にはヴァルクさんへの嫉妬や憤怒が宿っているかと思ったが、どちらかと言うと戸惑いに近いものが見え隠れしていた。
「何これ、まるで私達に魅せ場を譲ってくれていたみたいじゃない」
「本当にね。でも…あの子そんな器用なこと出来る子だったかしら…」
仲間の意外な一面に、困惑する様子を見せる二人。実際これまでの試合においてヴァルクさんが今回のようにアシストに徹していた記録は一切なく、僕らから見ても突然裏方に回ったようにしか見えないのは確かだ。
ログを眺めていく内、僕はひとつの可能性に辿り着く。だがそれは彼女の名誉の為にも胸の内にしまっておこうと思う。
「翼ってのは二対ないと飛べないだろ? 片羽では滑空するのが精一杯だ」
いつの間にやら酒が入っていて上機嫌なヴァルクさんが、自分達が打ち負かした相手に得意げにそう語るのが聞こえてくる。
「だから、私は仲間との連携を意識するようにしたんだ。おかげで、今日の試合はここ最近ではかなり良かったんじゃあないかな」
「…そんなの自慢することじゃない、私だってずっとそうして来てるわ」
そうバンガロール氏が苦し紛れに吐くのを、僕は聞き逃さなかった。ヴァルクさんへのライバル心は捨てきれないながらも、彼女自身を認めざるを得ない様子だ。
だが、氏が自分で言った言葉もその通りだと僕は知っている。彼女は志が強く一人でも戦える人ではあるが、仲間を無視して戦いを優先することはない。
かつて肩を並べて戦っていた実兄ジャクソン氏との連携がバンガロール氏の支柱となっているのだろう。それもあってか、チームワークにおいてバンガロール氏は右に出る者はいない印象がある。
「えぇ、そうね。アニータがチャンスを作ってカイリを呼び戻してくれたから、私達は最後まで負けずにいられた」
「でもねロー…それは貴方が安全に物資を集めてくれたおかげよ。戦えるようにする為の武器もアイテムもなければ、リスポーンするだけ無駄だった可能性が高いから」
ローバ女史のアルティメット"ブラックマーケット"は、そのロッドを立てた位置にある周辺のアイテムに直接アクセスして奪い取ることが出来る。
たとえ戦場に舞い戻ったとしても、その後無防備なところを撃たれてしまっては何の意味もない。だが、ブラックマーケットでアイテムを回収すればすぐさま戦線復帰が可能となる。
リスポーンという行為そのものの隙を、彼女のアルティメットによってカバーしていたのが大きいのは間違いないだろう。
「フフ、嬉しいわ。私達…息ピッタリね」
完璧なチームワークによる勝利だったことを改めて実感したローバ女史が、嬉しさを露にはにかむ。
普段の妖艶さとは全く異なる、心からの笑みに思わず僕まで心臓が跳ねる。それは仲間として同じ勝利を分かつバンガロール氏には更に直撃だったらしく、照れ隠しに再びヴァルクさんへの嫌味を零す。
「…そうかもね。でも一番いいのは、誰かさんが死なずに生き残ってくれることだったようにも思うけど」
「うん? 軍曹、何か言った?」
「なんでもない。次は完勝したいわね」
聞こえなかったフリをしたのか、本当に耳に入ってなかったのか、ヴァルクさんはそれ以上は何も言い返さなかった。
もしかすると、彼女なりに一度落ちてしまった時のことを悔いており、バンガロール氏の言葉に反論しようがなかったのかもしれない。
とはいえヴァルクさんがキルされたのは、乱戦の中で二人を安全な場所まで隠れさせる為に援護していたところを襲われた結果だから、避けようがなかったとは思うのだが。
「次も勝てるのを楽しみにしてますよ」
「ありがと、マキナ」
期待を込めてそう言葉にする。バンガロール氏は短く礼を言って、僕らに背を向けたまま去ってしまった。
残されたヴァルクさんとローバ女史がどうしたのかと顔を見合わせるが、答えは見つかりそうになかった。
「…次にあのパイロットと顔を合わせる時、私は…今日みたいに素直でいられるかしら」
今日のチャンピオンを勝ち取ったレジェンド"ヴァルキリー"氏が勝利の余韻を味わいながら、部隊の三名揃って賞金を受け取りにやって来た。
「おめでとうございます、ヴァルクさん」
「ありがとクオレちゃん。最後のローバと私の連携見てた? すごかったろ!」
受付の隣でデータを纏めていた僕に顔を寄せ、彼女は子供のようにはしゃぐ。余程の喜びだったのが伝わり、こちらまで嬉しくなってくる。
だが釣られて浮かべた笑みを苦笑と捉えたのか、後ろから今回のチャンピオンチームの一人に数えられるローバ女史がヴァルクさんを宥めていた。
「カイリ、彼女を困らせないの。それにラストキルは貴方でも、アニータが貴方をリスポーンさせてくれてなかったらそれが出来なかったのを忘れちゃダメよ」
「っと…そうだった。ちゃんとお礼しないと」
たった今話題に挙げられたチャンピオン部隊最後の一人、アニータこと"バンガロール"氏はと言うと、半ば恋人同士のような親密な空気を醸し出す二人からは少し距離を取り、静々とこの場が静まるのを待っている様子。
元々がIMCの兵士だった彼女にとってはタイタン操縦パイロットは目の上の瘤で、そのパイロットの装備から作製したジェットパックを背負うヴァルクさんにあまり良い印象がないのは仕方の無いことだと思う。
尤も、バンガロール氏がヴァルクさんを時折睨むような目で見ているのは、それだけが理由ではないのかもしれないが。
「軍曹、あの時は助かったよ」
「…勝つ為よ。貴方の為じゃない。それより早く賞金を分けさせて貰えるかしら」
「つれないねぇ」
無愛想な返答のバンガロール氏に、ヴァルクさんがわざとらしく肩を竦める。それを見ていたローバ女史は、二人の間で困惑した表情を見せていた。
恐らく場の空気を壊さぬ為に彼女は道化を演じただけなのだろうが、彼女自身も軍曹の不機嫌な態度には何か思うところあるように感じられた。
「…あの、いつも二人はこんな感じなんですか」
「ここまで露骨に険悪なのを隠さないのは珍しいけど…まあ、概ねそうね」
ローバ女史の腕を引き、耳打ちする。チャンピオンを勝ち取ったチームが、こうも不穏な空気になっているのは僕の知る限りでは初めてのことだ。
彼女は僕の問いにゆっくりと頷いて肯定し、ヴァルクさんとバンガロール氏が贔屓目に見ても友好的な関係ではないことを示す。
「仕方のないことだとは思います。自身の足が武器だった戦士と、タイタンに乗っていないとはいえパイロットの志を持った人とでは、どうしても相容れないでしょうから」
「よくわからないけど…そういうものなの?」
「残念ながらそういうものです。僕自身、戦禍の中でも仲間同士であるはずの兵士たちが
幼い時分の記憶が、少しずつ蘇ってくる。子供だった僕にもお構い無しに愚痴を零しては、互いを煽り合っていた。
彼らにはそれぞれの言い分があるのはわかるが、間に立たされる身としては辛いものがある。同じ状況に陥っているローバ女史には、少なからず同情したくなる。
「そう…二人には仲良くして欲しいのに」
「それは難しいかと」
僕があけすけに言うと、ローバ女史の目が一瞬大きく見開かれた。叶わない願いに絶望したのか、慰めの一切ない淡々とした否定が心苦しかったのかは分からない。
「…ああ、失礼。そうですね…ヴァルクさんはあくまで煽られたことに対しての物言いを我慢できないだけで、レジェンド"バンガロール"ないし"アニータ・ウィリアムズ"という女性自体に敵意があるようには感じませんが」
ローバ女史の哀しみに満ちた瞳に罪悪感を覚え、一言非を詫びてから僕から見た彼女らの心情を考察する。
ヴァルクさんからバンガロール氏への印象は口頭で説明した通りだが、その逆はとても口に出来そうになかった。
「大丈夫よ。そうね、カイリはとてもいい子よ。アニータの嫌味に毎回食って掛かるのも、お父さんを侮辱されたくないからだもの」
「…その点については、僕もヴァルクさんと同じ気持ちです。彼女の父君…バイパー氏は、本当に偉大なパイロットでした」
僕がバイパー氏の名を口にすると、彼女はとても驚いた様子でこちらを見る。大きく開けた口を手で覆い、しかしそれ以上何も言えぬまま何度も瞬きを繰り返していた。
「貴方も彼らと繋がりがあったのね…」
「ええ、まぁ。 …尤も、だからと言ってヴァルクさんを贔屓するつもりはありませんよ」
果たしてそれは本心から来る言葉だろうか、そんな自問自答をしつつ僕はローバ女史にそう告げる。
嘘を吐いたつもりはないが、IMCよりもAPEXプレデターズとの関わりが強い僕にとっては、どうしても心情が傾いてしまっているように思う。
レジェンドとしての二人はどちらも名高い戦士で、そこに差異は無いと、頭ではわかっている筈なのに。
そんな風に頭を悩ませている事など露知らず、バンガロール氏が僕らの元に歩み寄る。ローバ女史と話しているからかと思ったが、どうやら僕に用があるらしい。
「マキナ、今日の賞金の分配はどうなってるの? ちゃんとリスポーン費用の分下げてる?」
誰の、と口にこそしないものの、今回の三人についてリスポーンしたのは一人しか該当しないので察しがついた。
彼女が言いたかったのは、一度キルされてヴァルクさんが戦場から身を引いた後、バンガロール氏の機転によりリスポーン、つまり再び戦地に戻った時の話。
その際のドロップシップ手配による手間賃がデスペナルティとして引かれているはずだが、それが正しく反映されていないように見えたということのようだ。
「…引いてますね。それでも賞金が均等に割られて見えるのは、アシストによる加算で取り返しているからでしょう」
敵を無力化する最後のヒットを与えた者には"キル"が加算されるが、同じ敵にダメージを与えてキルに貢献した仲間には"アシスト"がつく。
中継ライブの実況や優勝インタビューなど、報道面ではアシストについては触れられることがほぼない事もあって目立たない制度となっているが、チームにとってはアシストも立派な貢献にあたる。
故に、賞金額にもそれは考慮される。驚くことに、ヴァルクさんのアシスト加算数はチームの総キル数とほぼ同じだった。
「最後はご自身でも言った通りキルしていたのと、途中のリスポーン待機中に起きた戦闘以外では殆どアシストしていたようですね」
「気付かなかった…そうだったのカイリ?」
横で僕の見ていたログを覗いて驚くローバ女史が、少し離れた位置で他の参加者と談笑していたヴァルクさんに真相を確かめる。
「ん? ああ、確かにその通りだったかもね。あんまり覚えてないけど」
あっけらかんと答え、ヴァルクさんは再び祝賀の輪に戻る。その答えに、バンガロール氏も改めてログをその目で確かめようとこちらへやって来た。
瞳の奥にはヴァルクさんへの嫉妬や憤怒が宿っているかと思ったが、どちらかと言うと戸惑いに近いものが見え隠れしていた。
「何これ、まるで私達に魅せ場を譲ってくれていたみたいじゃない」
「本当にね。でも…あの子そんな器用なこと出来る子だったかしら…」
仲間の意外な一面に、困惑する様子を見せる二人。実際これまでの試合においてヴァルクさんが今回のようにアシストに徹していた記録は一切なく、僕らから見ても突然裏方に回ったようにしか見えないのは確かだ。
ログを眺めていく内、僕はひとつの可能性に辿り着く。だがそれは彼女の名誉の為にも胸の内にしまっておこうと思う。
「翼ってのは二対ないと飛べないだろ? 片羽では滑空するのが精一杯だ」
いつの間にやら酒が入っていて上機嫌なヴァルクさんが、自分達が打ち負かした相手に得意げにそう語るのが聞こえてくる。
「だから、私は仲間との連携を意識するようにしたんだ。おかげで、今日の試合はここ最近ではかなり良かったんじゃあないかな」
「…そんなの自慢することじゃない、私だってずっとそうして来てるわ」
そうバンガロール氏が苦し紛れに吐くのを、僕は聞き逃さなかった。ヴァルクさんへのライバル心は捨てきれないながらも、彼女自身を認めざるを得ない様子だ。
だが、氏が自分で言った言葉もその通りだと僕は知っている。彼女は志が強く一人でも戦える人ではあるが、仲間を無視して戦いを優先することはない。
かつて肩を並べて戦っていた実兄ジャクソン氏との連携がバンガロール氏の支柱となっているのだろう。それもあってか、チームワークにおいてバンガロール氏は右に出る者はいない印象がある。
「えぇ、そうね。アニータがチャンスを作ってカイリを呼び戻してくれたから、私達は最後まで負けずにいられた」
「でもねロー…それは貴方が安全に物資を集めてくれたおかげよ。戦えるようにする為の武器もアイテムもなければ、リスポーンするだけ無駄だった可能性が高いから」
ローバ女史のアルティメット"ブラックマーケット"は、そのロッドを立てた位置にある周辺のアイテムに直接アクセスして奪い取ることが出来る。
たとえ戦場に舞い戻ったとしても、その後無防備なところを撃たれてしまっては何の意味もない。だが、ブラックマーケットでアイテムを回収すればすぐさま戦線復帰が可能となる。
リスポーンという行為そのものの隙を、彼女のアルティメットによってカバーしていたのが大きいのは間違いないだろう。
「フフ、嬉しいわ。私達…息ピッタリね」
完璧なチームワークによる勝利だったことを改めて実感したローバ女史が、嬉しさを露にはにかむ。
普段の妖艶さとは全く異なる、心からの笑みに思わず僕まで心臓が跳ねる。それは仲間として同じ勝利を分かつバンガロール氏には更に直撃だったらしく、照れ隠しに再びヴァルクさんへの嫌味を零す。
「…そうかもね。でも一番いいのは、誰かさんが死なずに生き残ってくれることだったようにも思うけど」
「うん? 軍曹、何か言った?」
「なんでもない。次は完勝したいわね」
聞こえなかったフリをしたのか、本当に耳に入ってなかったのか、ヴァルクさんはそれ以上は何も言い返さなかった。
もしかすると、彼女なりに一度落ちてしまった時のことを悔いており、バンガロール氏の言葉に反論しようがなかったのかもしれない。
とはいえヴァルクさんがキルされたのは、乱戦の中で二人を安全な場所まで隠れさせる為に援護していたところを襲われた結果だから、避けようがなかったとは思うのだが。
「次も勝てるのを楽しみにしてますよ」
「ありがと、マキナ」
期待を込めてそう言葉にする。バンガロール氏は短く礼を言って、僕らに背を向けたまま去ってしまった。
残されたヴァルクさんとローバ女史がどうしたのかと顔を見合わせるが、答えは見つかりそうになかった。
「…次にあのパイロットと顔を合わせる時、私は…今日みたいに素直でいられるかしら」
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