えぺ
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サブマシンガンの一種として存在する、プラウラー。正式な名はプラウラーPDW、アルファベットも含めて略さずに言うと"Personal Defense Weapon"が正しいが、多くの者はこれをプラウラーSMGと、サブマシンガンであることを強調して呼ぶ。
広大な土地であるストームポイントを初めとしたいくつかの場所に住処を持つ、野生生物の方のプラウラーと混合し、チーム間の伝達に混乱を招く恐れがある故だろう。
これ以外にも、ショットガンボルトとボルトSMGの両方を同じ"ボルト"と呼び、区別しない者もいるようだ。イントネーションを分けることでどちらを指すか変えているらしいが、聞く側がわからないとどうしようもない。
「…で、ジブさんのアームシールド装置についたこの傷はどっちのプラウラーにやられたもの?」
僕の前で巨躯を縮こまらせて萎縮しているのは、レジェンドの一人、マコア・ジブラルタル。レジェンドとしてのリングネームもそのまま"ジブラルタル"で、その名を誇りに思っている。
ゲームに参加して命を落とす者を少しでも減らす為に戦っているという僕から見ると稀有な存在だが、防衛に強い意識を持つそんな彼でもやはり負傷する機会はある。
今日は彼の腕に取り付けられた盾"アームシールド"の不調を直すべく、僕は聴取を行っていた。その過程でプラウラーが銃と獣のどちらのことかわからず、思わず語気を強めてしまった。
「悪かったマキナ、説明不足だったのは認める。野生生物の方のプラウラーだ」
「了解、じゃあこのベッタリ着いた血は彼らの返り血って事か。ジブさんや他の誰かの血じゃないなら良かった」
エイミングする際に視界を遮らないよう透過されている筈のアームシールドを真っ黒に染めている血痕を見て、これがヒトのものでないことに安堵する。
僕は機械の修理は得意分野だが、人体の負傷やそれによる流血などは何度見ても気が滅入ってしまう。レジェンド達はそうした危険とは常に隣り合わせだと言うのに。
「ああ、心配してくれてありがとよ。ジブラルタル様はそんなにヤワじゃねえさ」
「そのようで。というかもし怪我をしていたなら、僕の所なんかより先に行くべき場所があるし」
軽口を言いながら、こびり付いた血を拭き取る。固まった状態ではわからなかったが、汚れが落ちるにつれてその返り血が特有の異臭を放ち始め、油断していた僕は顔を顰める。
「うわ、だいぶ臭いな…ジブさん大丈夫?」
防護マスクに手を伸ばしそのまま装着して、ジブさんにも予備を貸し出そうか問う。しかし彼は平気そうな顔のままどころか、寧ろ嬉しそうに笑ってみせる。
「俺は問題ない。ちょいとばかし腹が減ってくる匂いだな」
「え…ああ、プラウラーの肉の匂いってことか。食べられるものなんだ、アレ…」
あの獰猛な獣が食用の肉になり、しかもちゃんと美味しいだなんて想像もつかない。
缶詰の挽肉は個人的に馴染み深いが、もしかしたらそれにプラウラー肉も含まれていたりするのだろうか。あとで成分表を確認してみるか。
「今度プラウラーのステーキを目の前で焼いて貰える店に一緒に行くか? 中々壮観だぞ」
「いや、遠慮しとく…高そうだし」
「そうか。だがお前さんも別に金には困ってないだろう?」
遠慮する理由に金額を挙げたせいか、金銭難なのかと心配されてしまった。単に興味が恐怖を上回らなかっただけなのだが。
「…まあ、お陰様で一応は」
技師としての評価が認められ、好きに食べていけるようになったのは彼を始めとしたレジェンドの皆の依頼によるものだ。
感謝の意を込めつつそう告げて、丁度全ての修理工程を終えたアームシールド装置をジブさんに渡す。アームシールドを受け取りながら彼は、僕の語る言葉に静々と耳を傾けていた。
「でも、儲けているからと言って贅沢な暮らしをしたいとも特に思わないかな。今の生活が性に合ってるというか。高級ブランド品も、高価な珍味も僕には価値がよくわからないし」
「ハハッ、そいつはいい。大事なのはハートだぜ。俺の一族の教えだ」
「うん…僕は親を知らないから一族の血がっていう感覚はわからないけど、教えについてはその通りだと思う」
そう頷くと、ジブさんはその前に零した言葉を気にして俯いてしまった。曇らせる意図は決してなかったのだが、申し訳ないことをした。
「…そういやお前さんは元孤児だったな。すまない」
「気にしないで。親やその他の家族のことなんて、興味を持ったこともないから」
戦禍の中で独りだった淋しさも、幼いが故の弱さも、アッシュやブリスクおじさんを始めとしたAPEXプレデターの人達が埋めてくれていた。
そしてそれとは別に僕は自力でこの技師としての技術を使って生き抜いてアウトランズにやってきて、APEXゲームのサポートエンジニアになった。
そうしてレジェンドの皆という、顔も知らない血の繋がった家族よりも大切だと思える人々に出会えた。少なくとも僕はそうだった。
「誇れる家族が居る人は素敵だなとは思うけどね」
「おうとも、ありがとよ」
ジブさんのご両親はどちらもSARAS所属という、奉仕精神に満ちた家庭だ。それだけでなく、祖父のアレキ氏はパスの出生にも関わるあのプロジェクト・アイリスの構成員の一人に数えられている偉大な研究者でもあるという。
血の繋がりがそうした偉業を連鎖させているのだとしたら、それはとても素晴らしいことだと思う。
「…よし。大丈夫そうだな」
長々と話していた所為で忘れかけていたのか、ようやくアームシールドを装着したジブさんが性能チェックする。
まあ、僕自身は忘れかけるどころか完全に忘れていたので、人のことを言う資格はこれっぽちもないのだが。
「いつも通り、いやいつも以上に良い仕上がりだ」
「そう? 特別なことはしてない筈だけど」
どうやら本人にしか分からない何かがあるらしい。御満悦の様子で、アームシールドを何度も出し入れしている。
「お前さんがいい仕事をしてくれてる証拠さ。他のエンジニアが悪いとは言わないが、な」
「褒めても何も出ないし依頼料は据え置きだよ」
「おいおい、俺様がそんな下心をもって人を褒める奴だと思ってるのか? そりゃないぜマキナ」
冗談めかして笑うと、ジブさんは大きな肩を竦める。何度も依頼のやり取りを繰り返した仲なので、僕が依頼以外にサービスで何かをすることも出来ないのを既に周知だからこそ出来る会話だ。
タブレットを使いアームシールド改修完了の手続きを行って、仕事を介した関係は一旦終了する。ここからは、一人の友との会話が始まる。
「あんまりわざとらしく褒めてくるから、友人としての僕に何か頼みでもあるのかなと思って」
「あー…なんだ、頼みと言うほど大したことじゃないんだが」
ジブさんが俯きがちにこちらを見て、何かを言いたがっては目線を逸らす。焦れったさを感じながら彼が口を開くのを待って話を聞くが、勿体ぶるような話ではなく拍子抜けした。
「…今時の子供が喜ぶような玩具ってのは、どんなものだろうな」
「ジブさんのファングッズなんて、いくらでも出てた筈だけど」
「いや…それじゃダメなんだ」
自分が憧れの眼差しを向けられるヒーローの一人であることを忘れているのだろうか。
そう考えてそのままそれを告げるが、どうやら求める答えはもっと複雑なものらしい。
「俺のを渡すんじゃあ、あいつは喜ばないだろうよ」
「へえ、今の時代に珍しいね。いや…案外そうでもないか」
エーペックスゲームの参加権は相応に狭き門で、レジェンドとして認められた者はそれだけでも有名人になれるほどだ。
尤も、人気を得る為には相応に勝ち上がる必要があるが、ジブさんは既に歴戦の勇士として名を馳せている。彼を模したアイテムはオークションで高値がつくし、参加する試合の観戦チケットも即売り切れだ。
そんな彼のグッズを喜ばない子供というのは、余程ジブさんに恨みを持っているか、争いごと自体が嫌いな反戦主義かのどちらかだろう。
「スペクターとマーヴィン、どっちがいいかな。あ、待てよ…女の子だとしたらロボットの模型じゃ喜ばないか?」
「ああ…大丈夫、ヤンチャ盛りの男の子だ。マーヴィンの人形ならきっと喜んでくれるだろう」
余っていたジャンクパーツを持ち出して、自作の模型を用意しようかと提案してみるが、言っている途中であまりいい案とは思えなくなり不安を零す。
だがジブさんは男の子だと告げ僕の案を喜んでくれて、その上でマーヴィンならと択を絞ってくれた。それならすんなり作れそうで一安心だ。
「なら良かった。可愛いドレスの少女人形 のオーダーだったら、服飾担当にでも頼まなきゃと思ってたから」
機械絡みなら僕一人でどうとでもなるが、それ以外の分野は誰かに力を借りるしかない。だが、そうはならずに済みそうで助かった。
「普通のマーヴィンでいいのかな。最終的に全面塗装するから色合いはいくらでも自由効くけど」
「そうだな…金ピカのイカしたデザインにしたいところだが」
そこまで言いかけて、けれど思慮に耽り口篭る。恐らくは少年にマーヴィン模型を渡した際のシミュレートをしているのだろう。
受け取ったらどんな反応を見せるのか、件の少年について殆ど何も知らぬ僕では想像のしようもないが、少なくとも哀しまれたり落胆されたりするのだけは何としても避けたいところだ。
「…いや。変に奇を衒 うと、却って文句を言われそうだ」
「了解。じゃあ、一般的なマーヴィンのミニチュアを再現して作ってみよう。急ぎなら今からでも完成させるよ」
「無理はしないでいい、仕事の合間に少しずつで大丈夫だ。次にいつ会うかもわからないんだ」
意気揚揚と作業を始めると、ジブさんは慌てた様子で僕の手を止めさせるが、彼の言い分が本当なら寧ろ今すぐにでも作り上げなければならないと思うのだが。
「だったら尚更急がないと。会える機会に持っていけないのは哀しいよね」
ジブさんの言い分は半ば無視して完成を急ぐべく、パーツの一つを手に取り、後々塗装しやすくする為に錆を削る。
だが作業に全ての神経を注ぐことはせず、矛盾するジブさんの心の内を探る。彼の全てを知るわけがない僕には、推測で補わなければならない部分が多すぎるが。
「それとも、出来る限り長引いた方がいいのかな。その子と向き合う勇気が生まれるまでの時間稼ぎに」
「…いつの間にか随分口が上手くなったな、マキナ」
力なく項垂れるジブさん。流石に少し図星を突きすぎてしまったか。だが、この問答は彼が逃げていいところでないのは確かだ。もう少し焚き付けてみよう。
「そうでもないよ。僕から見てもわかるほどに、今のジブさんはわかりやすかっただけ。それで、どうする? 僕がいつ完成させるか決めた方がいいのかな」
「三日後…試合が終わった後、真っ先に取りに来る。だからそれまでに頼む。そこからは…自力でどうにかする」
「わかった。少し早めに…そうだな、30時間以内には完成させておくから、ちゃんと取りに来てね」
手を出して握手を交わす。仕事上の契約ではない、友としての約束の証だ。僕と比べると二倍近くは大きく感じるジブさんの手には、少し汗が滲んでいた。
それが僕が威圧したせいか、意を決するまでの緊張からかはわからない。でも、踏み出す勇気をちゃんと持てたのなら心配はないだろう。
「ああ。恩に着る」
感謝の言葉を最後に帰り行くジブさんを外まで見送って、自分の作業デスクに戻ろうとして、気が乗らずベッドへと身を預ける。
「…僕の助けで、本当に上手くいくといいけど」
嗾 けてしまった責任は取るつもりではいるが、正直なところあまり自信がない。
せめてジブさんが胸を張って渡せる逸品を作り出せるよう、気を引き締めなければとは思っている。思うだけで、今日は緊張の糸が切れてしまった。
時間はまだ余裕がある。ゆっくり寝て起きてから、心機一転すればいい。急な仕事が入らないことを願いながら、僕は目を閉じた。
広大な土地であるストームポイントを初めとしたいくつかの場所に住処を持つ、野生生物の方のプラウラーと混合し、チーム間の伝達に混乱を招く恐れがある故だろう。
これ以外にも、ショットガンボルトとボルトSMGの両方を同じ"ボルト"と呼び、区別しない者もいるようだ。イントネーションを分けることでどちらを指すか変えているらしいが、聞く側がわからないとどうしようもない。
「…で、ジブさんのアームシールド装置についたこの傷はどっちのプラウラーにやられたもの?」
僕の前で巨躯を縮こまらせて萎縮しているのは、レジェンドの一人、マコア・ジブラルタル。レジェンドとしてのリングネームもそのまま"ジブラルタル"で、その名を誇りに思っている。
ゲームに参加して命を落とす者を少しでも減らす為に戦っているという僕から見ると稀有な存在だが、防衛に強い意識を持つそんな彼でもやはり負傷する機会はある。
今日は彼の腕に取り付けられた盾"アームシールド"の不調を直すべく、僕は聴取を行っていた。その過程でプラウラーが銃と獣のどちらのことかわからず、思わず語気を強めてしまった。
「悪かったマキナ、説明不足だったのは認める。野生生物の方のプラウラーだ」
「了解、じゃあこのベッタリ着いた血は彼らの返り血って事か。ジブさんや他の誰かの血じゃないなら良かった」
エイミングする際に視界を遮らないよう透過されている筈のアームシールドを真っ黒に染めている血痕を見て、これがヒトのものでないことに安堵する。
僕は機械の修理は得意分野だが、人体の負傷やそれによる流血などは何度見ても気が滅入ってしまう。レジェンド達はそうした危険とは常に隣り合わせだと言うのに。
「ああ、心配してくれてありがとよ。ジブラルタル様はそんなにヤワじゃねえさ」
「そのようで。というかもし怪我をしていたなら、僕の所なんかより先に行くべき場所があるし」
軽口を言いながら、こびり付いた血を拭き取る。固まった状態ではわからなかったが、汚れが落ちるにつれてその返り血が特有の異臭を放ち始め、油断していた僕は顔を顰める。
「うわ、だいぶ臭いな…ジブさん大丈夫?」
防護マスクに手を伸ばしそのまま装着して、ジブさんにも予備を貸し出そうか問う。しかし彼は平気そうな顔のままどころか、寧ろ嬉しそうに笑ってみせる。
「俺は問題ない。ちょいとばかし腹が減ってくる匂いだな」
「え…ああ、プラウラーの肉の匂いってことか。食べられるものなんだ、アレ…」
あの獰猛な獣が食用の肉になり、しかもちゃんと美味しいだなんて想像もつかない。
缶詰の挽肉は個人的に馴染み深いが、もしかしたらそれにプラウラー肉も含まれていたりするのだろうか。あとで成分表を確認してみるか。
「今度プラウラーのステーキを目の前で焼いて貰える店に一緒に行くか? 中々壮観だぞ」
「いや、遠慮しとく…高そうだし」
「そうか。だがお前さんも別に金には困ってないだろう?」
遠慮する理由に金額を挙げたせいか、金銭難なのかと心配されてしまった。単に興味が恐怖を上回らなかっただけなのだが。
「…まあ、お陰様で一応は」
技師としての評価が認められ、好きに食べていけるようになったのは彼を始めとしたレジェンドの皆の依頼によるものだ。
感謝の意を込めつつそう告げて、丁度全ての修理工程を終えたアームシールド装置をジブさんに渡す。アームシールドを受け取りながら彼は、僕の語る言葉に静々と耳を傾けていた。
「でも、儲けているからと言って贅沢な暮らしをしたいとも特に思わないかな。今の生活が性に合ってるというか。高級ブランド品も、高価な珍味も僕には価値がよくわからないし」
「ハハッ、そいつはいい。大事なのはハートだぜ。俺の一族の教えだ」
「うん…僕は親を知らないから一族の血がっていう感覚はわからないけど、教えについてはその通りだと思う」
そう頷くと、ジブさんはその前に零した言葉を気にして俯いてしまった。曇らせる意図は決してなかったのだが、申し訳ないことをした。
「…そういやお前さんは元孤児だったな。すまない」
「気にしないで。親やその他の家族のことなんて、興味を持ったこともないから」
戦禍の中で独りだった淋しさも、幼いが故の弱さも、アッシュやブリスクおじさんを始めとしたAPEXプレデターの人達が埋めてくれていた。
そしてそれとは別に僕は自力でこの技師としての技術を使って生き抜いてアウトランズにやってきて、APEXゲームのサポートエンジニアになった。
そうしてレジェンドの皆という、顔も知らない血の繋がった家族よりも大切だと思える人々に出会えた。少なくとも僕はそうだった。
「誇れる家族が居る人は素敵だなとは思うけどね」
「おうとも、ありがとよ」
ジブさんのご両親はどちらもSARAS所属という、奉仕精神に満ちた家庭だ。それだけでなく、祖父のアレキ氏はパスの出生にも関わるあのプロジェクト・アイリスの構成員の一人に数えられている偉大な研究者でもあるという。
血の繋がりがそうした偉業を連鎖させているのだとしたら、それはとても素晴らしいことだと思う。
「…よし。大丈夫そうだな」
長々と話していた所為で忘れかけていたのか、ようやくアームシールドを装着したジブさんが性能チェックする。
まあ、僕自身は忘れかけるどころか完全に忘れていたので、人のことを言う資格はこれっぽちもないのだが。
「いつも通り、いやいつも以上に良い仕上がりだ」
「そう? 特別なことはしてない筈だけど」
どうやら本人にしか分からない何かがあるらしい。御満悦の様子で、アームシールドを何度も出し入れしている。
「お前さんがいい仕事をしてくれてる証拠さ。他のエンジニアが悪いとは言わないが、な」
「褒めても何も出ないし依頼料は据え置きだよ」
「おいおい、俺様がそんな下心をもって人を褒める奴だと思ってるのか? そりゃないぜマキナ」
冗談めかして笑うと、ジブさんは大きな肩を竦める。何度も依頼のやり取りを繰り返した仲なので、僕が依頼以外にサービスで何かをすることも出来ないのを既に周知だからこそ出来る会話だ。
タブレットを使いアームシールド改修完了の手続きを行って、仕事を介した関係は一旦終了する。ここからは、一人の友との会話が始まる。
「あんまりわざとらしく褒めてくるから、友人としての僕に何か頼みでもあるのかなと思って」
「あー…なんだ、頼みと言うほど大したことじゃないんだが」
ジブさんが俯きがちにこちらを見て、何かを言いたがっては目線を逸らす。焦れったさを感じながら彼が口を開くのを待って話を聞くが、勿体ぶるような話ではなく拍子抜けした。
「…今時の子供が喜ぶような玩具ってのは、どんなものだろうな」
「ジブさんのファングッズなんて、いくらでも出てた筈だけど」
「いや…それじゃダメなんだ」
自分が憧れの眼差しを向けられるヒーローの一人であることを忘れているのだろうか。
そう考えてそのままそれを告げるが、どうやら求める答えはもっと複雑なものらしい。
「俺のを渡すんじゃあ、あいつは喜ばないだろうよ」
「へえ、今の時代に珍しいね。いや…案外そうでもないか」
エーペックスゲームの参加権は相応に狭き門で、レジェンドとして認められた者はそれだけでも有名人になれるほどだ。
尤も、人気を得る為には相応に勝ち上がる必要があるが、ジブさんは既に歴戦の勇士として名を馳せている。彼を模したアイテムはオークションで高値がつくし、参加する試合の観戦チケットも即売り切れだ。
そんな彼のグッズを喜ばない子供というのは、余程ジブさんに恨みを持っているか、争いごと自体が嫌いな反戦主義かのどちらかだろう。
「スペクターとマーヴィン、どっちがいいかな。あ、待てよ…女の子だとしたらロボットの模型じゃ喜ばないか?」
「ああ…大丈夫、ヤンチャ盛りの男の子だ。マーヴィンの人形ならきっと喜んでくれるだろう」
余っていたジャンクパーツを持ち出して、自作の模型を用意しようかと提案してみるが、言っている途中であまりいい案とは思えなくなり不安を零す。
だがジブさんは男の子だと告げ僕の案を喜んでくれて、その上でマーヴィンならと択を絞ってくれた。それならすんなり作れそうで一安心だ。
「なら良かった。可愛いドレスの
機械絡みなら僕一人でどうとでもなるが、それ以外の分野は誰かに力を借りるしかない。だが、そうはならずに済みそうで助かった。
「普通のマーヴィンでいいのかな。最終的に全面塗装するから色合いはいくらでも自由効くけど」
「そうだな…金ピカのイカしたデザインにしたいところだが」
そこまで言いかけて、けれど思慮に耽り口篭る。恐らくは少年にマーヴィン模型を渡した際のシミュレートをしているのだろう。
受け取ったらどんな反応を見せるのか、件の少年について殆ど何も知らぬ僕では想像のしようもないが、少なくとも哀しまれたり落胆されたりするのだけは何としても避けたいところだ。
「…いや。変に奇を
「了解。じゃあ、一般的なマーヴィンのミニチュアを再現して作ってみよう。急ぎなら今からでも完成させるよ」
「無理はしないでいい、仕事の合間に少しずつで大丈夫だ。次にいつ会うかもわからないんだ」
意気揚揚と作業を始めると、ジブさんは慌てた様子で僕の手を止めさせるが、彼の言い分が本当なら寧ろ今すぐにでも作り上げなければならないと思うのだが。
「だったら尚更急がないと。会える機会に持っていけないのは哀しいよね」
ジブさんの言い分は半ば無視して完成を急ぐべく、パーツの一つを手に取り、後々塗装しやすくする為に錆を削る。
だが作業に全ての神経を注ぐことはせず、矛盾するジブさんの心の内を探る。彼の全てを知るわけがない僕には、推測で補わなければならない部分が多すぎるが。
「それとも、出来る限り長引いた方がいいのかな。その子と向き合う勇気が生まれるまでの時間稼ぎに」
「…いつの間にか随分口が上手くなったな、マキナ」
力なく項垂れるジブさん。流石に少し図星を突きすぎてしまったか。だが、この問答は彼が逃げていいところでないのは確かだ。もう少し焚き付けてみよう。
「そうでもないよ。僕から見てもわかるほどに、今のジブさんはわかりやすかっただけ。それで、どうする? 僕がいつ完成させるか決めた方がいいのかな」
「三日後…試合が終わった後、真っ先に取りに来る。だからそれまでに頼む。そこからは…自力でどうにかする」
「わかった。少し早めに…そうだな、30時間以内には完成させておくから、ちゃんと取りに来てね」
手を出して握手を交わす。仕事上の契約ではない、友としての約束の証だ。僕と比べると二倍近くは大きく感じるジブさんの手には、少し汗が滲んでいた。
それが僕が威圧したせいか、意を決するまでの緊張からかはわからない。でも、踏み出す勇気をちゃんと持てたのなら心配はないだろう。
「ああ。恩に着る」
感謝の言葉を最後に帰り行くジブさんを外まで見送って、自分の作業デスクに戻ろうとして、気が乗らずベッドへと身を預ける。
「…僕の助けで、本当に上手くいくといいけど」
せめてジブさんが胸を張って渡せる逸品を作り出せるよう、気を引き締めなければとは思っている。思うだけで、今日は緊張の糸が切れてしまった。
時間はまだ余裕がある。ゆっくり寝て起きてから、心機一転すればいい。急な仕事が入らないことを願いながら、僕は目を閉じた。
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