ぎんたま
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
いつもの道場の帰り道、今日は珍しくみんなの都合が合い馴染みの食事処でご飯を食べに行くことになった。
メンバーは、私とお兄、総悟くんとミツバ姉、近藤さん、それから一番の新入りの土方さんの六人。
特に土方さんとは、まだ私はあまり話したことがないから新鮮な気持ちでの食事になりそうで、少しワクワクしていた。
「ちィース」
「こんにちは」
先頭を歩いていた土方さんが食事処の戸を開く。横にいたミツバ姉がそれに続くのを、総悟くんが不服そうな目で見ていた。
「何食べようか、総悟くん」
「…なんでも」
露骨に不機嫌な口調で返されてしまい、思わず言葉がでなくなる。それに気付いた近藤さんが、ちょうど同じ高さぐらいの私たちの頭をわしゃわしゃと撫でてくる。
「二人とも今日は俺のおごりだから安心して好きなもん食え、いつもミツバ殿や一識に気ィ遣ってるの知ってんだぞ?」
「ありがとうございます! じゃあ、お言葉に甘えて大盛りにしちゃおうかな」
不貞腐れたままの総悟くんを私と近藤さんが一瞥する。さすがに近藤さんにそう言われて黙り続けるのは気が引けたようで、渋々ながらもちゃんとお礼の言葉を口にする。
あのままではとても仲良くみんなでご飯どころではなかっただろうから、一応は丸く収まってくれて助かった。
「…あざっす」
いつも空いている店だけあってすんなりと入れた私たちは、六人並んでカウンター席に座る。
土方さんを気遣ってかよく話しかけているウチのお兄とミツバ姉が彼を挟んで座り、そのミツバ姉の隣に総悟くんが滑り込む。
余り物とまではいかないが、なし崩し的に私が総悟くんと近藤さんの間に座ることになり、なんだか不思議な並びとなってしまった。
「土方さん、モテモテですね」
「アイツ顔も剣の腕も良いからなぁ。良くも悪くも注目の的だな」
近藤さんとそんな話をしながら、話題の中心人物である土方さんの方を見る。
かく言う私も、その土方さんと打ち解けたいと思っていたので、声が通りにくい席順になってしまったことに残念な気持ちがないと言えば嘘になる。
まあ、いつになく沢山話しかけているお兄があとで色々教えてくれるだろうから、直接話すのはまたの機会にとっておこうと思うけど。
「で、総悟はどうする? いつものやつの大盛りでいいか?」
メニューに目もくれないで土方さんを睨む総悟くんを呼び戻すべく、近藤さんが声をかける。
私はと言うと、いつも字面を眺めるだけで憧れていながら頼むことが出来ずにいた代物に心を奪われていた。
「近藤さん、俺のぶん特盛りプラス天ぷらも追加でお願いしやす」
「わ…私はそば大盛りとデザートにパフェがいいなぁ」
「おう、なんでも任せろ…って、本当に遠慮しないんだなお前ら…」
近藤さんの嘆きは聞かなかったことにして、私たちは店主のおじさんにそれぞれの注文を済ませる。
反対側の三人もいつの間にか頼み終えていたようで、再び談笑に花を咲かせているのが見えた。
…見えるだけで、この距離からでは会話を全部聞き取ることは出来ず、蚊帳の外の気分になる。
「そうだ祈莉、お前ら兄妹はトシと一緒に飯食うの初めてだったな」
落胆する私を見かねたのか、それとも端の席で話す相手がいないからか。近藤さんが私の肩を叩き、こそこそと耳打ちしてきた。
「そうなんですよ。だからお兄もあんなに前のめりなんでしょうけど」
「飯が運ばれてきたらよく観察すると良い、すげぇモン見られるから」
期待させる口ぶりで、近藤さんは土方さんを指す。一体どういう方向でのすごいものなのか全く予想がつかなかったが、総悟くんが八つ当たりのように横から口を挟んでくる。
「アイツ、そばにマヨネーズ入れるんすよ。意味わかんなくないすか」
「マヨネーズ?」
マヨネーズがサラダや唐揚げなど、多岐にわたる使用方法が存在する調味料なのは知っているけれど、和食の、それも汁物と言える部類であるそばに入れるというのは初めて聞く食べ合わせだった。
というか、貧乏人なウチにとっては馴染みのないものすぎて、マヨネーズ自体の味があまりわからない。マヨそば、美味しいのかな。
「そうそう、自前のマヨネーズ入れるんだよアイツ。焼きそばならまだわかるんだがなぁ…」
「…なるほど?」
「祈莉ちゃん、アイツ入れる量も半端ねーんです。納得しちゃダメでさァ」
そんな話をしている間に、土方さんたちの前にそばが運ばれる。運ばれてきた段階では、三人とも同じそばだった。
何もかけないお兄と、汁が赤くなるほど唐辛子たっぷりのミツバ姉に挟まれながら、確かに土方さんは懐から例のものを取り出してはそれを注ぐ。
瞬く間に真っ白になったそばを前に、それを初めて見る私とお兄は言葉を失っていた。
「な?総悟の言った意味がわかったろ」
たしかに驚愕するしかないその光景は、けれど私にとってある意味求めていたものに近い何かを感じたのもまた事実で。
いやまあ、ミツバ姉の唐辛子も相当おかしいはずなんだけど、それはもう既に見慣れていたせいで真新しいと思っていなかった、というのもある。
「…すごい」
「え、まさかの肯定派? 最近の若者の流行りは怖いわァ」
「近藤さん、あんなのと一緒にしないでくだせェ」
少し誤解されつつ、私はそれでも否定をすることはせず憧憬の眼差しでマヨネーズの彩りが施されたそばを見つめる。
あの形こそ私の理想。そう思いながら、どんぶりの中にパフェを流し込む。
「ちょっちょっ祈莉ちゃんたら何やってんのォ!?」
近藤さんの悲痛な叫びが聞こえた気がするけれど、そんなことはもうどうでもよくなっていた。ユートピアを間近に、私の表情はきっと輝いているだろう。
「おっ。なんだ、お前も中々やるじゃねェか」
「ありがとう土方さん、土方さんのおかげで私も更にそばが美味しく食べられるようになりました!」
私が笑ってみせると、土方さんは照れくさそうな顔を背けてしまった。人見知りなのかもしれない。
そしてその後ろに見えるお兄が何か言いたげに見えなくもなかったが、遠くからではそこまでわからなかったので無視する。
「うーん、美味しい」
マヨネーズとも、唐辛子とも違うけれど。私の大好きな甘いものと、みんなと食べる美味しいそば。
最高にも近い組み合わせによる掛け算は、よく知っていたはずの二つの味を更に良いものへと作り替えていくのだった。
そして、そこから先のことは実はあまり覚えてなかったりする。覚えてるのは、今まで食べたことのない新鮮な味わいと、みんなで笑いあった記憶だけ。
「最悪だ…姉上だけじゃなくて祈莉ちゃんまでこんな馬鹿な真似するなんて」
「そーちゃん、何か言った?」
「いえ! 何も言ってません! 好物は足した方が美味しいですよね近藤さん!」
「お、おい総悟! そこで俺に振るか普通!?」
「近藤さん、近藤さんのそばも美味しくしますよ」
「ギャーーッ!!」
ちなみにこの一件以降、パフェを頼むのは禁じられ、近藤さんも二度と私に奢ってくれなかった。
そしてお兄にもこっぴどく叱られ、人前でこの味覚を公言することさえ許されなくなってしまった。
でもマヨネーズと唐辛子は相変わらず流されているし、なんなら土方さんは私にもマヨを推奨してくる。
…なんだかすごく理不尽だ。
メンバーは、私とお兄、総悟くんとミツバ姉、近藤さん、それから一番の新入りの土方さんの六人。
特に土方さんとは、まだ私はあまり話したことがないから新鮮な気持ちでの食事になりそうで、少しワクワクしていた。
「ちィース」
「こんにちは」
先頭を歩いていた土方さんが食事処の戸を開く。横にいたミツバ姉がそれに続くのを、総悟くんが不服そうな目で見ていた。
「何食べようか、総悟くん」
「…なんでも」
露骨に不機嫌な口調で返されてしまい、思わず言葉がでなくなる。それに気付いた近藤さんが、ちょうど同じ高さぐらいの私たちの頭をわしゃわしゃと撫でてくる。
「二人とも今日は俺のおごりだから安心して好きなもん食え、いつもミツバ殿や一識に気ィ遣ってるの知ってんだぞ?」
「ありがとうございます! じゃあ、お言葉に甘えて大盛りにしちゃおうかな」
不貞腐れたままの総悟くんを私と近藤さんが一瞥する。さすがに近藤さんにそう言われて黙り続けるのは気が引けたようで、渋々ながらもちゃんとお礼の言葉を口にする。
あのままではとても仲良くみんなでご飯どころではなかっただろうから、一応は丸く収まってくれて助かった。
「…あざっす」
いつも空いている店だけあってすんなりと入れた私たちは、六人並んでカウンター席に座る。
土方さんを気遣ってかよく話しかけているウチのお兄とミツバ姉が彼を挟んで座り、そのミツバ姉の隣に総悟くんが滑り込む。
余り物とまではいかないが、なし崩し的に私が総悟くんと近藤さんの間に座ることになり、なんだか不思議な並びとなってしまった。
「土方さん、モテモテですね」
「アイツ顔も剣の腕も良いからなぁ。良くも悪くも注目の的だな」
近藤さんとそんな話をしながら、話題の中心人物である土方さんの方を見る。
かく言う私も、その土方さんと打ち解けたいと思っていたので、声が通りにくい席順になってしまったことに残念な気持ちがないと言えば嘘になる。
まあ、いつになく沢山話しかけているお兄があとで色々教えてくれるだろうから、直接話すのはまたの機会にとっておこうと思うけど。
「で、総悟はどうする? いつものやつの大盛りでいいか?」
メニューに目もくれないで土方さんを睨む総悟くんを呼び戻すべく、近藤さんが声をかける。
私はと言うと、いつも字面を眺めるだけで憧れていながら頼むことが出来ずにいた代物に心を奪われていた。
「近藤さん、俺のぶん特盛りプラス天ぷらも追加でお願いしやす」
「わ…私はそば大盛りとデザートにパフェがいいなぁ」
「おう、なんでも任せろ…って、本当に遠慮しないんだなお前ら…」
近藤さんの嘆きは聞かなかったことにして、私たちは店主のおじさんにそれぞれの注文を済ませる。
反対側の三人もいつの間にか頼み終えていたようで、再び談笑に花を咲かせているのが見えた。
…見えるだけで、この距離からでは会話を全部聞き取ることは出来ず、蚊帳の外の気分になる。
「そうだ祈莉、お前ら兄妹はトシと一緒に飯食うの初めてだったな」
落胆する私を見かねたのか、それとも端の席で話す相手がいないからか。近藤さんが私の肩を叩き、こそこそと耳打ちしてきた。
「そうなんですよ。だからお兄もあんなに前のめりなんでしょうけど」
「飯が運ばれてきたらよく観察すると良い、すげぇモン見られるから」
期待させる口ぶりで、近藤さんは土方さんを指す。一体どういう方向でのすごいものなのか全く予想がつかなかったが、総悟くんが八つ当たりのように横から口を挟んでくる。
「アイツ、そばにマヨネーズ入れるんすよ。意味わかんなくないすか」
「マヨネーズ?」
マヨネーズがサラダや唐揚げなど、多岐にわたる使用方法が存在する調味料なのは知っているけれど、和食の、それも汁物と言える部類であるそばに入れるというのは初めて聞く食べ合わせだった。
というか、貧乏人なウチにとっては馴染みのないものすぎて、マヨネーズ自体の味があまりわからない。マヨそば、美味しいのかな。
「そうそう、自前のマヨネーズ入れるんだよアイツ。焼きそばならまだわかるんだがなぁ…」
「…なるほど?」
「祈莉ちゃん、アイツ入れる量も半端ねーんです。納得しちゃダメでさァ」
そんな話をしている間に、土方さんたちの前にそばが運ばれる。運ばれてきた段階では、三人とも同じそばだった。
何もかけないお兄と、汁が赤くなるほど唐辛子たっぷりのミツバ姉に挟まれながら、確かに土方さんは懐から例のものを取り出してはそれを注ぐ。
瞬く間に真っ白になったそばを前に、それを初めて見る私とお兄は言葉を失っていた。
「な?総悟の言った意味がわかったろ」
たしかに驚愕するしかないその光景は、けれど私にとってある意味求めていたものに近い何かを感じたのもまた事実で。
いやまあ、ミツバ姉の唐辛子も相当おかしいはずなんだけど、それはもう既に見慣れていたせいで真新しいと思っていなかった、というのもある。
「…すごい」
「え、まさかの肯定派? 最近の若者の流行りは怖いわァ」
「近藤さん、あんなのと一緒にしないでくだせェ」
少し誤解されつつ、私はそれでも否定をすることはせず憧憬の眼差しでマヨネーズの彩りが施されたそばを見つめる。
あの形こそ私の理想。そう思いながら、どんぶりの中にパフェを流し込む。
「ちょっちょっ祈莉ちゃんたら何やってんのォ!?」
近藤さんの悲痛な叫びが聞こえた気がするけれど、そんなことはもうどうでもよくなっていた。ユートピアを間近に、私の表情はきっと輝いているだろう。
「おっ。なんだ、お前も中々やるじゃねェか」
「ありがとう土方さん、土方さんのおかげで私も更にそばが美味しく食べられるようになりました!」
私が笑ってみせると、土方さんは照れくさそうな顔を背けてしまった。人見知りなのかもしれない。
そしてその後ろに見えるお兄が何か言いたげに見えなくもなかったが、遠くからではそこまでわからなかったので無視する。
「うーん、美味しい」
マヨネーズとも、唐辛子とも違うけれど。私の大好きな甘いものと、みんなと食べる美味しいそば。
最高にも近い組み合わせによる掛け算は、よく知っていたはずの二つの味を更に良いものへと作り替えていくのだった。
そして、そこから先のことは実はあまり覚えてなかったりする。覚えてるのは、今まで食べたことのない新鮮な味わいと、みんなで笑いあった記憶だけ。
「最悪だ…姉上だけじゃなくて祈莉ちゃんまでこんな馬鹿な真似するなんて」
「そーちゃん、何か言った?」
「いえ! 何も言ってません! 好物は足した方が美味しいですよね近藤さん!」
「お、おい総悟! そこで俺に振るか普通!?」
「近藤さん、近藤さんのそばも美味しくしますよ」
「ギャーーッ!!」
ちなみにこの一件以降、パフェを頼むのは禁じられ、近藤さんも二度と私に奢ってくれなかった。
そしてお兄にもこっぴどく叱られ、人前でこの味覚を公言することさえ許されなくなってしまった。
でもマヨネーズと唐辛子は相変わらず流されているし、なんなら土方さんは私にもマヨを推奨してくる。
…なんだかすごく理不尽だ。
10/36ページ