ぎんたま
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
人ひとりが暮らすには丁度いい、質素で慎ましげなアパートの一角。先日の真選組にまつわる動乱にて兄と"夫"を喪った祈莉の、新たな住居である。
一軒家だった旧宅は兄である一識の資産であり、残った借金を彼女が引き継ぐことも困難なこと、また広すぎる家にたった独りで居ることの苦痛から、彼女は家具家電のいくつかのみを持ってこのアパートへと移ったのだった。
「うわぁ…コレも壊れてる…たまさん達が来る前に気付いて良かった」
引越し作業のほとんどを真選組の面々に手伝ってもらったが故か、持ち込んだ家電製品の多くが故障してしまっていた。
祈莉は新たに破壊されている代物を発見し独り愚痴を零しながら、これらを修理するために呼び寄せていた強力な助っ人が到着するのを待つ。
「おーい。祈莉ちゃーん、居るんだろー?」
「銀時様、ここに呼び鈴がありますからそのような不躾な大声は不要です」
家の外から聞こえる気の抜けた呼び声と、それを咎める無機質ながら心のこもった音声。
彼らを駆け足で出迎えて、祈莉は来訪に感謝すべく二人へ深々と頭を下げた。
「銀さん、たまさん、今日は遠路はるばるありがとうございます」
「良いって良いって。遠いったってここもかぶき町だろ、万事屋の営業範囲にちゃーんと入ってっから安心してくれや」
白とも銀ともつかぬくせ毛の男こと坂田銀時が気負った様子の祈莉を笑い飛ばして、それから隣で背筋を伸ばして立っていた機械の少女たまが祈莉に一瞥して問う。
「私もからくりですから、友の助けを求める声があるなら何処へでも来ます。それで祈莉様、壊れた機械というのはどの子のことでしょう」
たまの告げる"友"とは、果たして機械のことを指すのか、あるいは。だが少なくとも、スナックお登勢へ仕事で訪れることの多い祈莉に重くのしかかる暗雲を、かつての彼女が見せた屈託のない明るい笑みをよく知るたまが憂いでいることだけは確かだった。
「ついさっき見つけたのも含めて、三…じゃなくて四つ? かな。とりあえず立ち話もなんですし、二人とも上がってください」
悲愴などなかったと言わんばかりに空元気を押し通しながら、たまと銀時を部屋へ案内する祈莉。
それから間もなくたまは不調を訴える仲間のケアに向かい、祈莉もまたそれに付き添う。
こと今回の依頼に関してはたまの独壇場であり、銀時は彼女の送迎のためだけに来たようなもので、どこか呆然と二人の様子を窺っていた。
「…」
ふと銀時の目に付いたのは、一人暮らしには少し大きめの冷蔵庫。兄妹で使っていたのだろう、所々に傷跡や汚れが残っていた。
女性陣に勘づかれぬよう慎重に開いてみると、銀時にとってその中は天国に程近い極上の空間で、思わず彼の口から感嘆の声が漏れる。
「冷蔵庫は無事なんだな、どれどれ…ケーキが出るかプリンが出るかっと…」
「ええ、それは救いでしたね。糖分摂取出来なくなるところでしたから…って銀さん、勝手に私の甘い物盗らないでくださいよ」
「チッ。バレちまったか」
独り言をきっちり聞いていた祈莉から盗み食いを制止され手持ち無沙汰のまま、銀時は再び彼女の動向へ目を向ける。
一見気丈に振る舞いこそしているものの、時折見せる翳りの表情には、自身が引き起こした悲劇を悔やんでも悔やみきれぬ苦しみが垣間見えていた。
そしてそれは銀時にとっても忘れ難いよく知った感情であり、だからこそ、たまの引率という理由をとってつけてまで万事屋として祈莉の元を訪ねたのだった。
「そういや祈莉ちゃんよォ、おたくの玄関に表札ついてないけど…ありゃ引越ししたてで用意できてないだけかい」
何気ない素振りで、銀時は問う。深い意図を悟らせない気楽な口調の彼に油断したのか、それとも最初から隠すつもりもないのか、彼女はすんなりと事情を語った。
「あぁ…意図的に外してるんですよ、アレ。お兄のこと、鬼兵隊…でしたっけ、その攘夷浪士の人達には知られてて。新見という名のせいで危険な目に逢う可能性を少しでも減らせるようにと、真選組の皆が」
「なるほどね。あのバカどもにしちゃマトモなこと考えたもんだ。越してきたのが屯所とも元の家とも離れたこの場所なのも、奴らの案か?」
国家転覆を目論む過激派組織である鬼兵隊、その一派に名が知られているという不安。それは、鬼兵隊の恐ろしさを知る銀時には察するに余りあるもので。
あのまま元の家で暮らし続けることを選んでいれば、動乱の共犯者ではなく真選組隊士として死んだ一識の妹である彼女が、鬼兵隊の末端に狙われるのも時間の問題だっただろう。
その危険を少しでも減らした上で、更に真選組 から彼女を遠ざけることで彼らが友の遺した絆を守ろうとしたのかと問うが、その指摘はどうやら的外れのようで。
「…残念ながらそれは単に私が住めそうな安いとこがここしかなかっただけです…」
重労働に身を削っているとはいえ、物価の高いかぶき町で生きるためには、女一人の稼ぎでは心許なかったという祈莉。
それが本心かはわからなかったが、幾度となく万事屋の家賃を滞納し、その世知辛さをよく知る銀時には、恥ずかしげに耳を赤らめる彼女を笑う資格はなかった。
「祈莉様。この子はもう大丈夫です、他はどの子の様子を見れば良いでしょうか」
「あぁ、ありがとうたまさん。えっと次はね…」
機械の故障を直し終えたたまが、銀時のほうを向いて話していた祈莉に声をかける。
彼女はすぐにたまへ向き直り、忘れずに感謝の言葉を述べてから次に直して欲しいらしいものを探す。
無造作に段ボールに詰め込まれた荷物の山から取り出したのは、祈莉と一識の幼い頃の写真だった。
「っとと…ごめん、これじゃなくて」
「いえ、せっかくですから先にそちらを見せてください。今日は…からくりの仲間たちを直すだけじゃなく、あなたの心も癒したくて私は来たのですから」
慌ててその写真立てを片付けようとする祈莉の手をそっと掴み、たまが淋しげに笑む。
機械だとにわかには信じられないその僅かな表情の揺らぎに、祈莉は思わず銀時の方を向いて何か言いたげに口を動かすが、彼の反応は彼女の望むものとは異なっていた。
「張り詰めっぱなしじゃいつか糸が切れちまうぞ。今日くらいは貯め込んだ想いを吐き出してもいいんじゃないか?」
「銀さんまで…」
心の奥底に無理矢理に隠したはずの深い哀しみを見透かされ、祈莉は親しいはずの真選組の面々にさえ言えなかった想いを吐露する。
「…悔しいんです。みんなのそばに居ながら何も出来なかった自分が、また…まだ、守られてるのが」
涙を堪え、動悸の激しくなる胸元に手を当てる祈莉。此度の騒動の被害を一身に受けてなお、彼女は自らの弱さを悔いるのだった。
「そりゃ奴らは民間人守んのが仕事だからな」
「銀時様」
至極当然と言わんばかりの銀時の返答に、違和感を抱いたたまが声を上げる。だが彼は、俯き何も言い返さない祈莉を静かに見据え更に言葉を続ける。
「兄貴も"旦那"も居なくなっちまったら、他に誰がお前のことを守る? あいつらの気持ちもわかってやれ」
「でも…」
「一識 を失い、伊東 を失い…奴らももう何も失いたかねェんだ、だからお前も大人しく守られてやんな」
すかさず反論しようとするも、答えがまとまらず声が萎んでいく祈莉。両手を組んで親指をぐるぐると巻いて、不貞腐れたような仕草を見せながら黙り込む。
彼女にとってはその優しさこそが苦しみに通じているのだと知りながらも、銀時は彼らの想いを受け入れることを強要する。
「…守られるばかりで、全部失ってから泣くだけなんて、もう…嫌なんです」
ぽつりと零した悲愴。震える声音から吐き出された彼女の本心を聞き、どう言葉をかけるべきか困惑気味に銀時を見るたま。
対して、銀時は相も変わらず緊張感の足りない表情で、淡々と納得したように相槌を打つのみで。
「そうかい」
機械の少女が冷酷だと咎めようと立ち上がろうとした矢先、銀髪の男は懐からくしゃくしゃになった紙切れを取り出し祈莉へ見せる。
そこに書かれていたのは、とある鍛冶屋の住所と、その店の主の名。彼の真意を確かめるべく、半ば放心気味の祈莉に代わりたまが問いかけた。
「銀時様、これは?」
「全部失う前に、まだ取り返せるモンならあるってだけさ。ま…行くか行くまいかはお前さんの自由だが」
そう言いながら手渡されたくしゃくしゃの紙を更に強く握り締め、祈莉は静かに涙を流す。
「ありがとう…明日、必ず行きます」
手にした希望から繋がる未来を夢見て、彼女はまっすぐに銀時を見つめそう告げる。その横で、たまがそっと微かに震えているその手を取り、祈莉に囁く。
「…ですが祈莉様、無茶だけはなさらないでくださいね。あなたを失いたくないと思う者 は、ここにも二人いますから」
その言葉は、真選組と深い関係であると自認していた祈莉にとっては思ってもみなかったことだった。
公私共に友好を持つたまはともかく、真選組とは犬猿の仲であるはずの銀時が自分へ悪しからぬ想いを抱いていることを知り、彼女の中で何かが変化していくのを感じていた。
「おいコラたま、ナニ勝手に俺まで勘定に入れてんだよ」
「失礼しました。ではデータを書き換えておきます、銀時様はツンデレだと」
じゃれ合う銀時とたまを見る傍らで、祈莉は皺だらけの紙切れの下に隠されていた、もう一通の手紙を見て小さく呟く。
兄一識と"夫"鴨太郎、二人がそれぞれ妹のために、"妻"のために遺した絆 。その切れ端を紡ぐために、彼女は胸に炎を絶やさないことを密かに誓うのだった。
「…こうやって、繋がっていくんだね」
一軒家だった旧宅は兄である一識の資産であり、残った借金を彼女が引き継ぐことも困難なこと、また広すぎる家にたった独りで居ることの苦痛から、彼女は家具家電のいくつかのみを持ってこのアパートへと移ったのだった。
「うわぁ…コレも壊れてる…たまさん達が来る前に気付いて良かった」
引越し作業のほとんどを真選組の面々に手伝ってもらったが故か、持ち込んだ家電製品の多くが故障してしまっていた。
祈莉は新たに破壊されている代物を発見し独り愚痴を零しながら、これらを修理するために呼び寄せていた強力な助っ人が到着するのを待つ。
「おーい。祈莉ちゃーん、居るんだろー?」
「銀時様、ここに呼び鈴がありますからそのような不躾な大声は不要です」
家の外から聞こえる気の抜けた呼び声と、それを咎める無機質ながら心のこもった音声。
彼らを駆け足で出迎えて、祈莉は来訪に感謝すべく二人へ深々と頭を下げた。
「銀さん、たまさん、今日は遠路はるばるありがとうございます」
「良いって良いって。遠いったってここもかぶき町だろ、万事屋の営業範囲にちゃーんと入ってっから安心してくれや」
白とも銀ともつかぬくせ毛の男こと坂田銀時が気負った様子の祈莉を笑い飛ばして、それから隣で背筋を伸ばして立っていた機械の少女たまが祈莉に一瞥して問う。
「私もからくりですから、友の助けを求める声があるなら何処へでも来ます。それで祈莉様、壊れた機械というのはどの子のことでしょう」
たまの告げる"友"とは、果たして機械のことを指すのか、あるいは。だが少なくとも、スナックお登勢へ仕事で訪れることの多い祈莉に重くのしかかる暗雲を、かつての彼女が見せた屈託のない明るい笑みをよく知るたまが憂いでいることだけは確かだった。
「ついさっき見つけたのも含めて、三…じゃなくて四つ? かな。とりあえず立ち話もなんですし、二人とも上がってください」
悲愴などなかったと言わんばかりに空元気を押し通しながら、たまと銀時を部屋へ案内する祈莉。
それから間もなくたまは不調を訴える仲間のケアに向かい、祈莉もまたそれに付き添う。
こと今回の依頼に関してはたまの独壇場であり、銀時は彼女の送迎のためだけに来たようなもので、どこか呆然と二人の様子を窺っていた。
「…」
ふと銀時の目に付いたのは、一人暮らしには少し大きめの冷蔵庫。兄妹で使っていたのだろう、所々に傷跡や汚れが残っていた。
女性陣に勘づかれぬよう慎重に開いてみると、銀時にとってその中は天国に程近い極上の空間で、思わず彼の口から感嘆の声が漏れる。
「冷蔵庫は無事なんだな、どれどれ…ケーキが出るかプリンが出るかっと…」
「ええ、それは救いでしたね。糖分摂取出来なくなるところでしたから…って銀さん、勝手に私の甘い物盗らないでくださいよ」
「チッ。バレちまったか」
独り言をきっちり聞いていた祈莉から盗み食いを制止され手持ち無沙汰のまま、銀時は再び彼女の動向へ目を向ける。
一見気丈に振る舞いこそしているものの、時折見せる翳りの表情には、自身が引き起こした悲劇を悔やんでも悔やみきれぬ苦しみが垣間見えていた。
そしてそれは銀時にとっても忘れ難いよく知った感情であり、だからこそ、たまの引率という理由をとってつけてまで万事屋として祈莉の元を訪ねたのだった。
「そういや祈莉ちゃんよォ、おたくの玄関に表札ついてないけど…ありゃ引越ししたてで用意できてないだけかい」
何気ない素振りで、銀時は問う。深い意図を悟らせない気楽な口調の彼に油断したのか、それとも最初から隠すつもりもないのか、彼女はすんなりと事情を語った。
「あぁ…意図的に外してるんですよ、アレ。お兄のこと、鬼兵隊…でしたっけ、その攘夷浪士の人達には知られてて。新見という名のせいで危険な目に逢う可能性を少しでも減らせるようにと、真選組の皆が」
「なるほどね。あのバカどもにしちゃマトモなこと考えたもんだ。越してきたのが屯所とも元の家とも離れたこの場所なのも、奴らの案か?」
国家転覆を目論む過激派組織である鬼兵隊、その一派に名が知られているという不安。それは、鬼兵隊の恐ろしさを知る銀時には察するに余りあるもので。
あのまま元の家で暮らし続けることを選んでいれば、動乱の共犯者ではなく真選組隊士として死んだ一識の妹である彼女が、鬼兵隊の末端に狙われるのも時間の問題だっただろう。
その危険を少しでも減らした上で、更に
「…残念ながらそれは単に私が住めそうな安いとこがここしかなかっただけです…」
重労働に身を削っているとはいえ、物価の高いかぶき町で生きるためには、女一人の稼ぎでは心許なかったという祈莉。
それが本心かはわからなかったが、幾度となく万事屋の家賃を滞納し、その世知辛さをよく知る銀時には、恥ずかしげに耳を赤らめる彼女を笑う資格はなかった。
「祈莉様。この子はもう大丈夫です、他はどの子の様子を見れば良いでしょうか」
「あぁ、ありがとうたまさん。えっと次はね…」
機械の故障を直し終えたたまが、銀時のほうを向いて話していた祈莉に声をかける。
彼女はすぐにたまへ向き直り、忘れずに感謝の言葉を述べてから次に直して欲しいらしいものを探す。
無造作に段ボールに詰め込まれた荷物の山から取り出したのは、祈莉と一識の幼い頃の写真だった。
「っとと…ごめん、これじゃなくて」
「いえ、せっかくですから先にそちらを見せてください。今日は…からくりの仲間たちを直すだけじゃなく、あなたの心も癒したくて私は来たのですから」
慌ててその写真立てを片付けようとする祈莉の手をそっと掴み、たまが淋しげに笑む。
機械だとにわかには信じられないその僅かな表情の揺らぎに、祈莉は思わず銀時の方を向いて何か言いたげに口を動かすが、彼の反応は彼女の望むものとは異なっていた。
「張り詰めっぱなしじゃいつか糸が切れちまうぞ。今日くらいは貯め込んだ想いを吐き出してもいいんじゃないか?」
「銀さんまで…」
心の奥底に無理矢理に隠したはずの深い哀しみを見透かされ、祈莉は親しいはずの真選組の面々にさえ言えなかった想いを吐露する。
「…悔しいんです。みんなのそばに居ながら何も出来なかった自分が、また…まだ、守られてるのが」
涙を堪え、動悸の激しくなる胸元に手を当てる祈莉。此度の騒動の被害を一身に受けてなお、彼女は自らの弱さを悔いるのだった。
「そりゃ奴らは民間人守んのが仕事だからな」
「銀時様」
至極当然と言わんばかりの銀時の返答に、違和感を抱いたたまが声を上げる。だが彼は、俯き何も言い返さない祈莉を静かに見据え更に言葉を続ける。
「兄貴も"旦那"も居なくなっちまったら、他に誰がお前のことを守る? あいつらの気持ちもわかってやれ」
「でも…」
「
すかさず反論しようとするも、答えがまとまらず声が萎んでいく祈莉。両手を組んで親指をぐるぐると巻いて、不貞腐れたような仕草を見せながら黙り込む。
彼女にとってはその優しさこそが苦しみに通じているのだと知りながらも、銀時は彼らの想いを受け入れることを強要する。
「…守られるばかりで、全部失ってから泣くだけなんて、もう…嫌なんです」
ぽつりと零した悲愴。震える声音から吐き出された彼女の本心を聞き、どう言葉をかけるべきか困惑気味に銀時を見るたま。
対して、銀時は相も変わらず緊張感の足りない表情で、淡々と納得したように相槌を打つのみで。
「そうかい」
機械の少女が冷酷だと咎めようと立ち上がろうとした矢先、銀髪の男は懐からくしゃくしゃになった紙切れを取り出し祈莉へ見せる。
そこに書かれていたのは、とある鍛冶屋の住所と、その店の主の名。彼の真意を確かめるべく、半ば放心気味の祈莉に代わりたまが問いかけた。
「銀時様、これは?」
「全部失う前に、まだ取り返せるモンならあるってだけさ。ま…行くか行くまいかはお前さんの自由だが」
そう言いながら手渡されたくしゃくしゃの紙を更に強く握り締め、祈莉は静かに涙を流す。
「ありがとう…明日、必ず行きます」
手にした希望から繋がる未来を夢見て、彼女はまっすぐに銀時を見つめそう告げる。その横で、たまがそっと微かに震えているその手を取り、祈莉に囁く。
「…ですが祈莉様、無茶だけはなさらないでくださいね。あなたを失いたくないと思う
その言葉は、真選組と深い関係であると自認していた祈莉にとっては思ってもみなかったことだった。
公私共に友好を持つたまはともかく、真選組とは犬猿の仲であるはずの銀時が自分へ悪しからぬ想いを抱いていることを知り、彼女の中で何かが変化していくのを感じていた。
「おいコラたま、ナニ勝手に俺まで勘定に入れてんだよ」
「失礼しました。ではデータを書き換えておきます、銀時様はツンデレだと」
じゃれ合う銀時とたまを見る傍らで、祈莉は皺だらけの紙切れの下に隠されていた、もう一通の手紙を見て小さく呟く。
兄一識と"夫"鴨太郎、二人がそれぞれ妹のために、"妻"のために遺した
「…こうやって、繋がっていくんだね」
14/36ページ