ぎんたま
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「迷い猫?」
「はい。今朝方、家の近くで見つけたんですけど…銀さんたち、何か知ってますか?」
そう言って、祈莉は自身の膝に抱えていたダンボール箱をテーブルに載せる。
整った薄茶色の毛並みをした、つぶらな瞳の子猫がダンボールの隙間から銀時たち万事屋の面々を見つめていた。
首には鈴がつけられており、少なくとも野良猫ではないらしいことはすぐに察せられた。
「飼い主が見つかるまで私の家で世話をしようにも、お兄がアレルギー持ちだったんで…くしゃみの度にこの子もビックリしちゃって」
「だからってウチに持ってこられても困るんだがねェ、動物なんざこのどデカいバカ犬だけで手一杯なんだよこっちも」
そのどデカいバカ犬こと定春が、非道な言葉を吐き捨てる銀時を食むのも構わず、横で目を輝かせながら猫の挙動を見ていた少女が意気揚々と声を上げた。
「まぁまぁ銀ちゃん、大丈夫アルよ。この猫の世話は私に任せるネ! ねー定春18号」
「神楽ちゃん勝手に名前つけちゃダメだよ。飼い猫みたいなんだから、きっとちゃんとした名前があるはずでしょ」
まるでオカンのごとく子猫を神楽から取り返して抱き上げ、首輪に名前や住所が書かれていまいかを探る少年。
だが彼の予想に反して、どれだけ探してもこの猫についての情報は書かれていなかった。
「アレ…ないな。おかしいなぁ…普通こういうのに連絡先とかがあるはずなんだけど」
猫ごと身体をひっくり返してくまなく探す少年をよそに、どこか気乗りしない様子の万事屋の主は耳を掻きながら深々と溜息をこぼす。
「新八ィ、首輪してるからって飼い猫とは限んねーぞ? もしかしたら迷い猫じゃなくて捨て猫かもしれねェ。アンタもその可能性があると思ったから保健所じゃなくて真っ先にウチに来たんだろ?」
「その通りです。助けられるかもしれない命を、黙って見捨てるなんて…私には出来ない」
銀時の問い掛けに、自らの胸を締め付けるような振り絞った声で吐露する祈莉。どこか鬼気迫る表情の裏には、死に対する不安と恐怖が渦巻く。
彼女と銀時が出会ったのは、彼女の親友であり真選組の沖田総悟の姉でもある一人の女性こと沖田ミツバを巡る一件での成り行きだったが、その際に彼女から感じた危うさを銀時は再び垣間見た気がした。
「銀さん」
祈莉とは初対面ながらも、長年培われてきた察しの良さから何かを感じ取った新八が、どうするのが最適なのかと銀時に視線を送る。
「神楽ァ、俺と新八で猫探してるヤツがいねーか聞き込みに行ってくる。その間このねーちゃん…えーと、祈莉ちゃんだっけ? ソイツと二人で猫の面倒見ててくれや」
「アイアイサー! もう帰って来なくてもいいゾ! あでっ」
サラリととんでもない発言をかます神楽の後頭部をすかさず叩きながら外出の支度を済ませ万事屋を後にする銀時と、それに追従する新八。
一方で、女子二人水入らずで子猫を挟むことになった祈莉と神楽は面食らった顔を互いに見合わせる。
「…ええと」
祈莉にとって、かねてより噂だけは聞いていた存在である神楽。祈莉が神楽をこの目にするのは今日が初めてだったが、噂の出自たる沖田総悟から聞き及んでいた印象とは全く異なる爛漫なこの少女に、彼女は思わず二の句を次ぐことが出来なかった。
「祈莉ちゃん言うアルか、そんな緊張しないでもっと楽にした方がいいネ。この子が怯えてるヨ」
「う、うん。でも怯えてるのは私よりそのワンちゃんに対してじゃないかなー…」
猫と定春とを同時に撫でながら告げる神楽の言葉に、祈莉は戸惑いつつも頷く。だがすぐに、脅威はもっと他のところにあるのだと気付き身を震わせる。
定春と呼ばれたその大型犬と称することさえ憚られる巨躯の白い犬が、何かを言いたげに彼女を見つめていた。
彼から放たれる威圧感は相当なもので、祈莉自身も怖いと思ってしまうというのが正直なところだった。
「大丈夫ネ。定春はお客さんには噛み付かないアル。それに、動物好きに悪い人はいないって銀ちゃんも言ってた」
「ありがとう、信じてくれて」
自分が真選組と通じていることから、多感な年頃であるこの少女に拒絶される可能性が高いと思っていた祈莉は、神楽の反応が柔らかなものであることに安堵の息を吐く。
「正直ちょっと怖かったの。神楽ちゃんは…特に総悟くんとは仲が良くないと聞いてたから、私のことも嫌いかなって不安だった」
「べつに祈莉ちゃんがあのクソガキと仲良かろうが恋人同士だろうが私には関係ないアル。横取りしたりなんてしないから安心するネ」
「ふふ、それもそうだね。っていやあのちょっと待って、私と総悟くんは恋人同士とかでは全然ないし取り合うつもりもないんだけど」
誤解されぬよう慌てて弁明して、祈莉はそれまでの会話を誤魔化すように神楽と共に子猫の様子を窺うべくダンボール箱の中を覗き込む。
定春に気圧されていた先刻までが嘘のようにすやすやと寝息を立てている姿に、自然と少女たちから笑みが零れた。
「…銀ちゃんたち遅いアルな」
猫が眠っている隙にと酢昆布を取り出して食べ始める神楽が、ふと出払って本当に戻ってこない男子二人に言及する。
軽はずみな発言を後悔するまではいかずとも、少女の中でにわかに不安が湧き出してくる。
「まさか、江戸全域を探してるとかないよね…神楽ちゃん、銀さんの携帯の電話番号は?」
「ケータイ?何アルかソレ、電話はそこネ」
未知の単語を聞いた少女が、僅かに知る言葉を元に銀時の席に備え付けられているダイヤル式の黒電話を指す。
その指摘はまさに、彼らは移動時に連絡手段を持たぬまま動いているのだということを示していた。
「あちゃ…そもそも持ってなかったかー…どうしよう、いざ連絡つかないとなると不安になってきたなぁ」
一人狼狽する祈莉を余所に、微かな物音を敏感に聞き分ける定春の反応を見た神楽は、片手に持っていた酢昆布を放り出して彼女を入り口の方に向かせる。
「祈莉ちゃん、猫が!」
「えっ、うそ、待って!」
ダンボール箱から飛び出して逃げていく子猫を慌てて追いかける二人と一匹。だが猫は小柄ながら素早い身のこなしで、僅かに開いていた居間の扉の隙間を滑るように駆け抜けていく。
それと同時に、玄関口からも戸が開かれる音が聞こえる。最悪のタイミングで帰宅した銀時たちが、小さな影に翻弄される声がした。
万事屋たちの奮闘空しく子猫の逃避行は成功してしまい、祈莉は去り行く小さな背を途方に暮れ見つめるしかなかった。
「神楽、ちゃんと面倒見てろっつったろーが」
「私のせいじゃないネ! オマエらが一番間の悪いタイミングで帰ってきたせい痛ッ」
責任のなすりつけあいを始め口論の火花を咲かせる銀時と神楽を完全に無視して、新八が祈莉に非礼を詫びる。
「あの…すいません、結局僕ら何の役にも立てなくて」
先んじて受け取っていた報酬の入った封筒を返そうとするが、彼女は少年の申し出を断って。
「ううん、きっとあの子にとってはこれで良かったんだと思う。だから…お代の方はそのまま受け取って欲しいなって」
「良いのかい、本当に」
新八が握り締めたままの封筒をかっさらいながら、神楽との掴み合いの騒動から逃れて来た銀時が祈莉に改めて問う。だがその決意は堅く、断固として首を横には振らなかった。
「だって…銀さんたちの時間を使ってもらったんだもの、その対価くらいは払わせてください」
「別に気にしねーよ、いつもここでゴロゴロしてるばっかりだから久々にいい運動になったしな」
「いや、僕はちゃんと毎日訓練してるんで。飲んだくれのプー太郎と一緒にしないでくれませんか」
同族と思われまいと全力で拒絶の意を示す新八。心に酷くダメージを負った男が哀しみの表情を浮かべるがそれには一切触れることなく、新八は再び祈莉に向き直る。
「今回はこんなことになっちゃいましたけど…また困ったことがあったら遠慮なく頼って下さいね」
「ちょっと新八くん、なんでテメーが美味しいところ持ってってんの、なんでさも自分は頑張ったしィみたいな誇らしげな顔なの!?」
再びギャーギャーと騒ぎ始める銀時と、その挑発にまんまと乗せられてしまった新八を見ながら、祈莉は思わず笑みを浮かべる。
「…ふふっ」
自身と比べれば子供と呼ぶに相応しいはずの新八や神楽とも本気で向き合い、全力でぶつかっていく少年の心を忘れない銀時の姿に、彼女はどこか惹かれるものを感じていた。
それが恋であるなどとは今は到底思えなかったが、確かに彼女の中で、小さな想いが芽吹き始めていた。
「はい。今朝方、家の近くで見つけたんですけど…銀さんたち、何か知ってますか?」
そう言って、祈莉は自身の膝に抱えていたダンボール箱をテーブルに載せる。
整った薄茶色の毛並みをした、つぶらな瞳の子猫がダンボールの隙間から銀時たち万事屋の面々を見つめていた。
首には鈴がつけられており、少なくとも野良猫ではないらしいことはすぐに察せられた。
「飼い主が見つかるまで私の家で世話をしようにも、お兄がアレルギー持ちだったんで…くしゃみの度にこの子もビックリしちゃって」
「だからってウチに持ってこられても困るんだがねェ、動物なんざこのどデカいバカ犬だけで手一杯なんだよこっちも」
そのどデカいバカ犬こと定春が、非道な言葉を吐き捨てる銀時を食むのも構わず、横で目を輝かせながら猫の挙動を見ていた少女が意気揚々と声を上げた。
「まぁまぁ銀ちゃん、大丈夫アルよ。この猫の世話は私に任せるネ! ねー定春18号」
「神楽ちゃん勝手に名前つけちゃダメだよ。飼い猫みたいなんだから、きっとちゃんとした名前があるはずでしょ」
まるでオカンのごとく子猫を神楽から取り返して抱き上げ、首輪に名前や住所が書かれていまいかを探る少年。
だが彼の予想に反して、どれだけ探してもこの猫についての情報は書かれていなかった。
「アレ…ないな。おかしいなぁ…普通こういうのに連絡先とかがあるはずなんだけど」
猫ごと身体をひっくり返してくまなく探す少年をよそに、どこか気乗りしない様子の万事屋の主は耳を掻きながら深々と溜息をこぼす。
「新八ィ、首輪してるからって飼い猫とは限んねーぞ? もしかしたら迷い猫じゃなくて捨て猫かもしれねェ。アンタもその可能性があると思ったから保健所じゃなくて真っ先にウチに来たんだろ?」
「その通りです。助けられるかもしれない命を、黙って見捨てるなんて…私には出来ない」
銀時の問い掛けに、自らの胸を締め付けるような振り絞った声で吐露する祈莉。どこか鬼気迫る表情の裏には、死に対する不安と恐怖が渦巻く。
彼女と銀時が出会ったのは、彼女の親友であり真選組の沖田総悟の姉でもある一人の女性こと沖田ミツバを巡る一件での成り行きだったが、その際に彼女から感じた危うさを銀時は再び垣間見た気がした。
「銀さん」
祈莉とは初対面ながらも、長年培われてきた察しの良さから何かを感じ取った新八が、どうするのが最適なのかと銀時に視線を送る。
「神楽ァ、俺と新八で猫探してるヤツがいねーか聞き込みに行ってくる。その間このねーちゃん…えーと、祈莉ちゃんだっけ? ソイツと二人で猫の面倒見ててくれや」
「アイアイサー! もう帰って来なくてもいいゾ! あでっ」
サラリととんでもない発言をかます神楽の後頭部をすかさず叩きながら外出の支度を済ませ万事屋を後にする銀時と、それに追従する新八。
一方で、女子二人水入らずで子猫を挟むことになった祈莉と神楽は面食らった顔を互いに見合わせる。
「…ええと」
祈莉にとって、かねてより噂だけは聞いていた存在である神楽。祈莉が神楽をこの目にするのは今日が初めてだったが、噂の出自たる沖田総悟から聞き及んでいた印象とは全く異なる爛漫なこの少女に、彼女は思わず二の句を次ぐことが出来なかった。
「祈莉ちゃん言うアルか、そんな緊張しないでもっと楽にした方がいいネ。この子が怯えてるヨ」
「う、うん。でも怯えてるのは私よりそのワンちゃんに対してじゃないかなー…」
猫と定春とを同時に撫でながら告げる神楽の言葉に、祈莉は戸惑いつつも頷く。だがすぐに、脅威はもっと他のところにあるのだと気付き身を震わせる。
定春と呼ばれたその大型犬と称することさえ憚られる巨躯の白い犬が、何かを言いたげに彼女を見つめていた。
彼から放たれる威圧感は相当なもので、祈莉自身も怖いと思ってしまうというのが正直なところだった。
「大丈夫ネ。定春はお客さんには噛み付かないアル。それに、動物好きに悪い人はいないって銀ちゃんも言ってた」
「ありがとう、信じてくれて」
自分が真選組と通じていることから、多感な年頃であるこの少女に拒絶される可能性が高いと思っていた祈莉は、神楽の反応が柔らかなものであることに安堵の息を吐く。
「正直ちょっと怖かったの。神楽ちゃんは…特に総悟くんとは仲が良くないと聞いてたから、私のことも嫌いかなって不安だった」
「べつに祈莉ちゃんがあのクソガキと仲良かろうが恋人同士だろうが私には関係ないアル。横取りしたりなんてしないから安心するネ」
「ふふ、それもそうだね。っていやあのちょっと待って、私と総悟くんは恋人同士とかでは全然ないし取り合うつもりもないんだけど」
誤解されぬよう慌てて弁明して、祈莉はそれまでの会話を誤魔化すように神楽と共に子猫の様子を窺うべくダンボール箱の中を覗き込む。
定春に気圧されていた先刻までが嘘のようにすやすやと寝息を立てている姿に、自然と少女たちから笑みが零れた。
「…銀ちゃんたち遅いアルな」
猫が眠っている隙にと酢昆布を取り出して食べ始める神楽が、ふと出払って本当に戻ってこない男子二人に言及する。
軽はずみな発言を後悔するまではいかずとも、少女の中でにわかに不安が湧き出してくる。
「まさか、江戸全域を探してるとかないよね…神楽ちゃん、銀さんの携帯の電話番号は?」
「ケータイ?何アルかソレ、電話はそこネ」
未知の単語を聞いた少女が、僅かに知る言葉を元に銀時の席に備え付けられているダイヤル式の黒電話を指す。
その指摘はまさに、彼らは移動時に連絡手段を持たぬまま動いているのだということを示していた。
「あちゃ…そもそも持ってなかったかー…どうしよう、いざ連絡つかないとなると不安になってきたなぁ」
一人狼狽する祈莉を余所に、微かな物音を敏感に聞き分ける定春の反応を見た神楽は、片手に持っていた酢昆布を放り出して彼女を入り口の方に向かせる。
「祈莉ちゃん、猫が!」
「えっ、うそ、待って!」
ダンボール箱から飛び出して逃げていく子猫を慌てて追いかける二人と一匹。だが猫は小柄ながら素早い身のこなしで、僅かに開いていた居間の扉の隙間を滑るように駆け抜けていく。
それと同時に、玄関口からも戸が開かれる音が聞こえる。最悪のタイミングで帰宅した銀時たちが、小さな影に翻弄される声がした。
万事屋たちの奮闘空しく子猫の逃避行は成功してしまい、祈莉は去り行く小さな背を途方に暮れ見つめるしかなかった。
「神楽、ちゃんと面倒見てろっつったろーが」
「私のせいじゃないネ! オマエらが一番間の悪いタイミングで帰ってきたせい痛ッ」
責任のなすりつけあいを始め口論の火花を咲かせる銀時と神楽を完全に無視して、新八が祈莉に非礼を詫びる。
「あの…すいません、結局僕ら何の役にも立てなくて」
先んじて受け取っていた報酬の入った封筒を返そうとするが、彼女は少年の申し出を断って。
「ううん、きっとあの子にとってはこれで良かったんだと思う。だから…お代の方はそのまま受け取って欲しいなって」
「良いのかい、本当に」
新八が握り締めたままの封筒をかっさらいながら、神楽との掴み合いの騒動から逃れて来た銀時が祈莉に改めて問う。だがその決意は堅く、断固として首を横には振らなかった。
「だって…銀さんたちの時間を使ってもらったんだもの、その対価くらいは払わせてください」
「別に気にしねーよ、いつもここでゴロゴロしてるばっかりだから久々にいい運動になったしな」
「いや、僕はちゃんと毎日訓練してるんで。飲んだくれのプー太郎と一緒にしないでくれませんか」
同族と思われまいと全力で拒絶の意を示す新八。心に酷くダメージを負った男が哀しみの表情を浮かべるがそれには一切触れることなく、新八は再び祈莉に向き直る。
「今回はこんなことになっちゃいましたけど…また困ったことがあったら遠慮なく頼って下さいね」
「ちょっと新八くん、なんでテメーが美味しいところ持ってってんの、なんでさも自分は頑張ったしィみたいな誇らしげな顔なの!?」
再びギャーギャーと騒ぎ始める銀時と、その挑発にまんまと乗せられてしまった新八を見ながら、祈莉は思わず笑みを浮かべる。
「…ふふっ」
自身と比べれば子供と呼ぶに相応しいはずの新八や神楽とも本気で向き合い、全力でぶつかっていく少年の心を忘れない銀時の姿に、彼女はどこか惹かれるものを感じていた。
それが恋であるなどとは今は到底思えなかったが、確かに彼女の中で、小さな想いが芽吹き始めていた。
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