羽休めは君の隣で
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
5月に入ると、色鮮やかで豪華な春のバラが咲き誇る季節らしい。それを見据えて、丁度この植物園では『ローズフェスティバル』という催物をしていた。
特別にその期間のみ、白や赤、ピンクや黄色などの何色ものバラの庭園が広がっていた。平日だからか人は少なく、ほぼ貸切状態だった。片手に携帯を構えては、何枚もその美しい光景を写真に収めた。
薔薇という花は、生まれてから絵や写真で何度も見ているが、こうして実物をこの目で間近に見るとまた違う味が感じられるものだ。それに、色とりどりの美しい薔薇にこうして囲まれるなんて、なかなか出来ない経験である。
「あ、見てや🌸ちゃん!」
隣を歩いていた簓がいきなり叫んで指を差した方を見ると、少し先にバラの花で埋め尽くされたハート型のゲートがあった。頭上の中心にはベルがぶら下がっており、近くの看板に『愛の鐘』と書かれていた。
「これめっちゃええなぁ〜!ここで写真撮ろうや!」
恋人に観光客剥き出しのリアクションをされ、なんだか小っ恥ずかしい気分に駆られた。まぁ人も少ないし…と開き直って彼の方へ歩み寄ると、撮影用のスタンドに携帯を置いた簓に手を引かれ、少々浮かんだ照れ臭さを押し殺してカメラに向かって笑いかけた。
何パターンか撮ったが、ハートの半分を作った手を振り払われてブレまくってる簓のショットが個人的に1番気に入ってる。
美しいバラ園を抜けると、レンガが敷かれた広い通路にキッチンカーや出店が並んでいた。少し小腹が空いていたのか、"手作りパン"というショップフラッグを置いていたカーに1番に惹かれてしまった。
繋いでいた簓の手を引いてそこに近付くと、店主らしき女性が愛想良く会釈した。簡易的なショーケースには、美味しそうなパンや焼き菓子が香ばしい香りを漂わせていた。
1番右端にあった大きめのチョコクロワッサンを見た途端、クロワッサン好きの血が騒いでしまい、すぐに店員にそれを注文した。
「簓は何にする?」
「せやなぁ、俺はこのメロンパンにしよかな」
簓が自分の分のパンを決めた後、各々のドリンクも並べて注文した。自分の分くらい自分で払う、という私の私見をドウドウと穏やかに押し退け、簓は「俺優男やからな〜」なんて言いながら全額払ってくれた。少々腹は立つが優男であることは事実であるため、なんだか上手く丸め込まれたような気がした。
おやつを買った後、道に沿って構えられた出店を見ながら歩いていると、その内のアクセサリーショップに目が留まった。シンプルなシルバーリング、ピアスやネックレスが陳列しており、簓も「おしゃれでかわえぇなあ」と足を止めた。
「なな、これ色違いの買ってお揃いにしようや」
簓はその中でも、何色ものバリエーションがある木製のリングを指差して私の方を見た。彼はオレンジ色のリングを手に取り、私もそれに乗って紫色を選択した。
2人分のリングを購入した簓は、私の手を引いて近くのベンチに腰を下ろした。おやつタイムにするのかと思いきや、まず最初に取り出したのはつい先程買ったオレンジ色の木製リングだった。
もう着けるのかと思った矢先、ふと簓に手を掬われた。
「🌸ちゃん、これ着けといてくれへん?」
簓は取った私の左手の薬指に、そのリングをそっとはめた。
「先約や、ちゃんと俺のために空けといてな」
そう言って、今度は両手で私の左手を包み込む簓。
咄嗟に降り注いだ恋人の予想外な言動に、不覚にも言葉が出なかった。浅い怒り、焦り、羞恥、感謝、愛情…色々な感情が喉元でごちゃ混ぜになり、ぎゅうぎゅうと詰まってまるで外に出てこなかった。
「…ばーか」
結局出てきたのは、素直じゃない刺々しいセリフだけ
嗚呼ほんと、情けないわ
「なっ、バカってなんやねん!俺は本気で言ったんやで!」
今こいつが口に出す言葉全てが、敏感にも私の癪に触る。私は振り切ったように彼の荷物を奪い取り、中から紫色のリングを取り出せば、ぶんどった彼の左手の薬指に押し込んだ。
「本気なのはお互い様だよ…一人でいい顔すんな」
真っ直ぐに目なんて見られなかった。簓の首元の辺りを見ながらそう絞り出すように言うと、彼は分かりやすくパァッと顔を明るくし、いきなり強く抱き着いた。
「🌸ちゃんほんまえぇ子やわ、愛してるで!」
「ちょっ、分かったから引っ付くな!」
外だというのに家と同じテンションで接着してくる恋人に、頭をぐいぐいと押して剥がそうとした。何を言ってもベタついて離れない簓の頭に1発喝を入れると、なんとか大人しくなった。